幽導孤児院
厳重なセキュリティゲートをくぐり、ユウメのナビで目的地へと向かう途中で縁は気になる事を聞いてみた。
「ユウメさん、結局四箱も服着るもんなんですか?だいぶ多いような……」
「ああ、あれはショー出演者への贈り物でございます。私が着る予定はこれだけです〜」
ユウメが手に持つ服は二〜三着程だ。
「多いなと思いましたが贈り物なら納得です、ファッションショーってそんなに人多いんですね」
「ん〜そうですね〜皆が主役なのですが、皆可愛いですわよ?」
まあショーに出るぐらいなのだから綺麗だったり可愛かったりするのだろう、しかし縁から見ればユウメはその中で更に目立つのだろうと思っていた。
しばらく車を走らせユウメが「会場はあそこでございます」と指した。
「ん?ここって……ここに入るんですか?」
「お間違いございませんよ〜本日のショーはここですので」
中の駐車場に車を停め、建物を見る。程良く年季の入った建物があり庭には少しだけ遊具が置いてある。
「……ここって」
縁は入り口にあった大きな建物名が彫られた柱を読んだ。
幽導孤児院
「ユウメさん、ここは……」
「そうです、孤児院なんですよ。定期的に皆でファッションショーを楽しむ会をしております」
「ユウメ姉ちゃんー!」
「あ!来た!来たよ!院長来たよー!」
庭の遊具で遊んでいた子達がユウメに気付いて走り寄る、何人かは人を呼びに行ったようだ。
「あらあら、皆様元気にしてますか?」
「ユウメ姉ちゃん今日も凄い綺麗だなぁ!」
「私にメイク教えてー!」
「すぐショーやるの!?」
ユウメがあっという間に囲まれてワイワイとしている、凄い人気だ。
ガシッと足に重みが掛かる、見れば小学生低学年くらいの小さな男の子が縁にしがみつき見上げている。
「……おまえ誰?」
「おまえ……俺は縁、今日はよろしくな」
「ふーん、おまえもヒラヒラ履くのか?」
「ひ、ヒラヒラは履かないかなぁ……」
おそらくスカートだろう、幽荘でヘビメのセミヌードモデルはやったがスカートは履かない。さすがに大衆の前で履けない。
縁が少し困っていた時だった、ゴチンと男の子の頭が小突かれた。
「コラ!トラメ!お客さんにおまえって言うなと言ってるでしょう!」
トラメと呼ばれた男の子は頭を押さえて走り去ってしまった。
「ごめんなさいねお客さん!ユウメちゃんのお連れさんでしょう?アタシはこの幽導孤児院の院長、リュウメと言います」
リュウメと名乗る院長、五十代くらいだろか、優しくも厳しく真っ直ぐな皆のお母さんって感じがする。
「紬 縁と申します、ユウメさんの住む幽荘って所で管理人やらせて貰ってます」
リュウメは一瞬目を見開き笑みを浮かべた。
「紬……そうか貴方が管理人になったか、アタシも歳取るわね!アハハ!」
「幽荘を知ってるんですか?」
「アタシもあそこ住んでたの、貴方の両親の隆二と里子と子供の頃遊んでたさ」
縁は驚きを隠せなかった、両親の子供時代の友達なのかと。
「院長〜助けて下さいまし〜」
情けない助けを求める声の方を見ると、ユウメが沢山の子供達に呑み込まれている。
リュウメは笑いつつ塊に歩いていきながら、縁に言う。
「まあ昔話はいずれ、アタシの事は院長って呼んでくださいな!」
縁も笑いながら「ハイ」と返事をしてユウメを助けに行った。
「いや〜皆元気でなによりですね、ね?院長」
「ユウメちゃんはスターだからね、荷物は集会所で良いかい?」
「はい〜先に着替えてから準備しますね」
「あ、じゃあ僕も荷物持ちます」
「助かるね〜それじゃあ半分こで、こっちにおいで」
院長の案内で孤児院の中にお邪魔する、集団生活が基盤なんだろう。様々な所が広く多人数に配慮した造りになっている。
「皆〜服と道具が届いたよーよろしくね!」
集会所と書かれた札の部屋には数十席のパイプ椅子が並び、職員さんが六人程準備に取り掛かっているのが見えた。
それぞれに挨拶を済ませて院長から説明を受けた。
「ユウメちゃんが用意してくれた服を子供達に着せていくんだけど、まあ一番大変なのよコレが。皆テンション上がって暴れるから!」
「おおぅ、皆元気ですもんね……僕も着替え手伝いますか?」
「ありがたい申し出なんだけどね、今のご時世男が女の子の着替えも許されない時代でねぇ……」
「あ、そうですよね……」
孤児院にもコンプライアンスの波が届いているのだなと、配慮に配慮する世の中なんだなと縁は実感した。
「だから悪いんだけど子供達の相手を引き受けてくれないかい?集団引きつけてる内に、アタシらが一人ずつ剥がして仕上げていくから」
子供の相手、縁は子供が嫌いではないが集団を相手にした事は無い。果たして務まるのかが心配であった。
「なーに心配要らないよ!若い男ってだけでウチの子らは新鮮だから、すぐに馴染むよ!」
院長が笑いながら「ついておいで」と縁を連れて来たのは、広さのあるプレイルームのような場所だった。子供二〜三十人くらいなら余裕で収容できそうだ。
「しかし、院長。孤児院広いですね……」
縁の中の孤児院と言う場所が失礼ながら少し寂れていたり、設備が古かったり狭かったりのイメージがあった。
だが、この幽導孤児院は古さはそこそこあれど清潔で広い印象である。下手すれば新しい小学校くらいのポテンシャルが見える。
「そうだね、実はここ狐音ちゃんとユウメちゃんが手厚い支援してくれてるのよ」
「え?二人が?」
「あ、やっぱり言ってなかったか〜アタシが口滑らしたのは内緒よ?あの二人には本当に感謝しきれない程、助けられているの」
初耳だったし、更に狐音とユウメは何者なんだと思ってしまう。なぜなら幽荘では大体酔っ払いなのだから。
「ありがた過ぎるね……さあさあ、お喋りの時間は無いよ!紬君、頼むわよ!」
「え?あ、は、はい?」
「皆ー今日はショーの日です!準備の間、こちらのお兄さんが遊んでくれますよ!」
何人か集まっていた子供達が「ほんとに!?」と目を輝かせ押し寄せてくる。
想像以上に激しいし、人数が凄まじい。
「わ、わ、ちょっ、皆激しい……!」
あっという間に、囲まれ呑まれもみくちゃにされていく……
遠くで院内放送が流れた。
(現在プレイルームにてお兄さんが皆と遊んでくれます、皆プレイルームに集まりましょう)
更に遠くから「わー!」と声が聞こえてくる。
縁は人生で一番子供に潰された日になると確信した。




