山頂と青の巨石
滝を過ぎると――。
岩場が、目立ち始めた。
ゴツゴツとした、岩。
高低差が、ある。
「うわ......」
紅菜が、岩場を見上げる。
「大変そう」
「頑張ろう」
姫心が、励ますように言った。
途中、ちょっとした鎖場もあった。
「え? ここ登るの?」
紅菜が急な斜面を見上げて言った。
鎖場見た私も思わず。
(ここ登るの? こわい…)
岩に撃ち込まれた鎖。
滑らないように、しっかり握る。
慎重に足を運んで。
一つ一つ、登っていく。
「はあ......はあ......」
息が、上がる。
きつい。
でも――。
止まれない。
みんな、必死で登る。
* * *
途中――。
麗が、ふと言った。
「そういえば――」
「蒼戸先生の太鼓、見に行こうよ」
「太鼓?」
私が聞くと。
「うん」
麗が頷く。
「この前、動画で撮ったじゃん」
「みんなで見たやつ」
ああ、そうだった。
蒼戸先生が――。
この山の、どこかで。
太鼓を叩いてる動画。
麗が撮って――。
みんなで見た。
すごく、かっこよかった。
「でも――」
紅菜が言った。
「道、分かる?」
麗が辺りを見回しながら。
「多分......この辺の脇に入った道だった気がする」
みんなで、それらしい道が無いか探してみるが――
「見つからないね〜」
紅菜の言葉に、みんな頷く。
「今回は諦めて、先に進もう」
みんな、紅菜の言葉に同意した。
また、岩場を登る。
* * *
どのくらい登っただろう。
足が、パンパン。
息も、苦しい。
でも――。
「見えた!」
麗が叫んだ。
「山頂!」
前方に――。
開けた場所が見える。
あと少し。
「頑張ろう!」
紅菜が声を出す。
最後の力を振り絞って――。
登る。
そして――。
ついに。
山頂に、到着した。
* * *
「やっと、着いた~!」
紅菜が――。
木のベンチに、倒れ込んだ。
「もう無理......」
私も、ベンチに座る。
足が、もう動かない。
「お疲れ様」
姫心が、涼しい顔で言う。
「姫心は、余裕だね......」
麗が、ぐったりしながら言った。
ベンチから――。
景色が、一望できる。
天嶽町。
清杜町。
潮崎町と港。
そして、海。
すべてが、見渡せる。
秋の山々が――。
赤や黄色に、色づき始めている。
遠くの山は、まだ緑が濃い。
でも、近くの木々は――。
少しずつ、秋色に染まっている。
秋の天嶽山。
これから、紅葉の季節。
「綺麗......」
思わず、呟いた。
風が、心地よい。
秋の、爽やかな風。
疲れも、吹き飛ぶような。
「登って、良かったね」
紅菜が笑う。
「うん」
私も笑顔になる。
* * *
しばらく休んで――。
お昼ごはんの時間。
今日は――。
それぞれ、お弁当を持参した。
「いただきます」
四人で、お弁当を開く。
山の上で食べるお弁当は――。
格別に美味しい。
「おにぎり、美味しい~」
紅菜が嬉しそうに言う。
「うん」
私も頷く。
空気が、美味しいからかな。
それとも――。
みんなで一緒だから、かな。
* * *
お弁当を食べながら――。
麗が、ふと言った。
「そういえば――」
「山頂の近くに、『青の巨石』っていうのがあるらしいんだけど」
「青の巨石?」
姫心が聞く。
「うん」
麗が頷く。
「誰も、場所知らないんだよね」
「そこ、隠れパワースポットなんだよね」
「行ってみたいんだけど」
「地元の人に聞いても、分からないって言われるの」
「不思議だね」
姫心が言った。
「巨石っていうくらいだから――」
「目立つと思うけど」
「見つからないって」
「あ――」
紅菜が、何かを思い出したように言う。
「そういえば」
「お父さんが言ってた」
「青の巨石は――」
「呼ばれた人しか、行けないって」
「呼ばれた人?」
麗が、興味深そうに聞く。
「うん」
紅菜が頷く。
「神様に、呼ばれた人だけが」
「辿り着けるんだって」
「だから、地図にも載ってないし」
「誰も、場所を知らないんだって」
「すごい......」
私は、思わず呟いた。
神様に呼ばれた人――。
(いつか、行けるのかな)
そんなことを思った。
青の巨石――。
どんな石なんだろう。
いつか、見てみたいな。
* * *
お昼を食べ終わって――。
しばらく景色を楽しんでから。
下山を開始した。
「気をつけてね」
紅菜が言う。
「うん」
下りは――。
登りより、危ない。
足を滑らせやすい。
慎重に、下りていく。
* * *
岩場を下りて――。
少し平らな道になった時。
ズサーーッ。
「きゃっ!」
姫心の声。
振り向くと――。
姫心が、転んでいた。
「姫心!」
紅菜が、駆け寄った。
「大丈夫――」
その時――。
ズサーッ。
「わっ!」
紅菜も、足を滑らせて。
姫心の隣に、転んだ。
「え......」
私と麗は、顔を見合わせた。
それから――。
「あはは!」
二人同時に、笑ってしまった。
しっかり者の姫心と――。
いつも元気な紅菜が。
二人並んで、転んでいる。
パシャッ。
「最高の写真!」
麗が、すかさずカメラを向けた。
「ちょっと、やめてよ~」
姫心が、頬を赤らめる。
「もう......」
紅菜も、恥ずかしそうに笑う。
私は――。
二人に、手を差し伸べる。
「ほら」
「ありがとう、琉々」
姫心と紅菜が、私の手を取って立ち上がる。
二人とも、怪我は、なさそう。
良かった。
* * *
また、歩き出す。
「それにしても――」
紅菜が言った。
「琉々が聞いた声、気になるね」
「うん」
私も頷く。
「役目って、なんだろう?」
「帰りに――」
紅菜が提案した。
「もう一回、滝に寄って聞いてみる?」
「うん」
私は賛成した。
もう一度――。
神様に、聞いてみたい。
* * *
天嶽の滝に――。
再び、到着した。
ザアアアア......
相変わらず、美しい滝。
私は――。
滝に向かって、話しかけてみた。
(神様――)
(役目って、なんですか?)
心の中で、問いかける。
でも――。
何も、聞こえない。
静寂。
水の音だけ。
「ダメみたい......」
「やっぱり、ダメか~」
紅菜が、残念そうに言った。
「でも――」
「天嶽神社を盛り上げるのに、関係ある気がするな~」
「たぶんだけど」
麗と姫心も――。
頷いた。
「そうだね」
「きっと、そうかも」
私も――。
そんな気がする。
役目――。
いつか、分かる日が来るのかな。
* * *
滝を後にして――。
また、下山を続ける。
やがて――。
御神木が、見えてきた。
「着いた」
姫心が言う。
四人で――。
御神木に向かって、手を合わせた。
(神様――)
(無事に、下山できました)
(ありがとうございます)
心の中で、感謝する。
「足が、もうパンパン」
紅菜が、足を揉みながら言った。
「明日、絶対筋肉痛だ~」
「私も」
麗が頷く。
「私も、多分」
私も同意する。
姫心だけは――。
涼しい顔。
「姫心は、平気そうだね」
紅菜が、少し羨ましそうに言った。
「毎年、富士山登ってるからね」
姫心が笑う。
* * *
そして――。
ついに。
天嶽神社に、無事到着した。
「やっと、着いた~」
紅菜が、境内のベンチに座り込む。
「お疲れ様」
私も、隣に座る。
「疲れたけど――」
麗が言った。
「楽しかったね」
「うん」
姫心も頷く。
私も――。
心から、そう思った。
天嶽山。
滝。
神様の声。
役目。
たくさんの、思い出。
そして――。
仲間と一緒に、登った山。
忘れられない、一日になった。
「また、来ようね」
紅菜が笑う。
「うん!」
私たちは、声を揃えた。
夕日が――。
天嶽神社を、オレンジ色に染めている。
美しい。
温かい。
そして――。
神秘的な、場所。
私は――。
この神社が。
この仲間が。
ますます、特別になった。
そんな気がした。




