名前
誓断輪廻 転生した異世界で課せられたルール。最後の一人が決まるまでにしていけないこと。『人殺し、死、自殺』
カニス 正式名称 カニス・アミークス この世界での犬の獣人種の名称
玩狗 転生者、転移者たちの総称
もう何度目だろう。
不意打ちで頭を殴られたような感覚を味わうのは。
「シアンもアンナちゃんと同じ転生者ってやつなんでしょ?」
アンナの懺悔に対し、全然口を挟まなかったのは…もしかしたら俺という存在を疑い続けていたからだろうか?
過去に俺は何度か年不相応な発言をしてきた。
だから、気づかれていてもしょうがない。
……いや、それなら疑っているというのは正確ではない。
気づいていたが見ないふりをしてくれていた。そんな感じがする。
「一体いつから…そうだと…思っていたの…?」
もうここで変な誤魔化しをしても効果がないだろう。
それに俺はこの村を出ていくつもりでいる。
俺は元々この世界の住人ではないし、また前の世界と同様に、孤独に戻るだけ。
ここで全てを告白して楽になった方がいいかもしれない。
アンナがしっかりと懺悔したように…俺もここで…。
「生まれてからすぐに気づいたよ。この子は他の子供と違うって…けど確信に変わったのはプリムス村が襲われたあの夜のこと」
とカーネは答えた。
やはり口を挟んだあの夜か…いや、生まれた時からおかしいことには気づいていたのなら、なぜ小さい頃から愛情を注いでくれたのだろうか?
他の世界から来た不気味な子供に、愛情を注ぐなんて…そんなの不可解すぎる…。
「違うってわかってて…どうして今まで他の子と同じように育ててくれたの…?」
こんなこと聞いていいかわからない。
俺の頭の中はもうぐちゃぐちゃだ。
多分どんな答えが返ってきても、納得できる気がしない。
「だって初めてお腹を痛めて産んだ子だもん」
それがさも当然だと、声のトーンを一切変えずに答えてくる。
それは男の俺には心の底からは理解できないもの。
「たとえ、不可解な部分が多くても、私とあの人が愛して、生まれたのがシアンなんだよ。それを愛することにどうして?なんて答えはないよ」
愛する人と初めて育んだ、愛情の結晶。
それが俺なんだろう。
それがただ愛おしくて、大切に育てる…そこに理屈なんて存在しない。
俺は今まで両親であるマットとカーネを尊敬していた。
だがそれは他人としての評価。
一緒に住んで、育ててくれたが、俺の人格を形成させたのは前の世界での経験からだ。
この皮肉れていて、自己肯定感の低い性格も、前の世界で誰にも信用されなかったから出来上がった癖のようなものだ。
だが、二人は違った。
別の世界から魂が来ていようが、いまいが…自分たちが産んだ子供であること。
それだけで愛する対象として十分だった。
父と母は、俺を本当の家族だと思っていてくれたのに、俺は別の世界での家族のようなものだと決めつけていた。
マットが死んだ時、悲しかった気持ちに嘘なんてない。
本当に心が壊れてしまうんじゃないかと思うほど悲しかった。
だが、それは母と妹たちから本当の家族を失わせてしまった罪悪感と恐怖も混ざっていたのかもしれない。
俺はどうなってもいい。
父と母と妹たちが幸せに暮らせるならそれでいいという考えは、ある意味、心の底から本当の家族だと、思っていなかったのかもしれない。
「黙っていて…ごめんなさい。話したところで信用されるとも思えなかったし、気味が悪いと思われるんじゃないかと…黙っていま「他人行儀な喋り方やめよ?」」
俺が最後まで言う前に、カーネに遮られてしまった。
「10年という長い年月…色んな困難を共に乗り越えてきたのに、今更他人行儀なんて…寂しいよ?」
もう…何を言っても敵わない気がする。
この人は俺の想像を遥かに超えるほど、しっかりとした母だ。
今更説明し、他人ぶっても多分一生俺を息子として接してくれるはずだ。
その気持ちはとても嬉しい。
だが、その気持ちに甘え…この村に滞在し続けることは…
俺の宿命的に許されない。
だから…
「正体が分かっても俺を息子として接してくれる気持ちはとても嬉しい。だけど俺もこの村から出て行こうと思う。いや、出て行かなくちゃいけない…ので…」
なんて言えばいいかわからない。
だけど誓断輪廻という、枷がある俺がこの村で平和を享受し隠れていたら、きっとまた探し出され村は焼かれる。
もうこれ以上、愛する人たちが悲しい目に遭うのを見たくはない。
だが、それを悟らせずに、説明する手立ても俺の頭の中にはなかった。
「それで納得すると思う?」
当然納得なんてしてくれないだろう。
だけど話せない。
今、誓断輪廻の話までしたら、カーネは俺だけじゃなくおそらくアンナのことも止める。
そしたらあの苦しみながらも決断したアンナの覚悟はどうなる…?
そして、ここに俺がいたら…?
アンナが決死の覚悟で戦い、勝ち、ようやく帰ってきた場所に、何もしてない生き残りの転生者がいたら…?
そんなの理不尽だ。
だからとりあえずこの村を出ることにする…。
今はその選択をするしかないんだ…。
「色々…悩んで苦しんでる顔してる。多分アンナちゃんと同じで、話せない部分が多いのはわかる。全部話してほしいなんて言わない。ただこれからどうするのかだけ、道筋をはっきりしてくれないなら、出ていくことに納得はできない」
「道筋をはっきりするって言われても…わからない。アンナが戦うなら…俺も村を出て戦うしかないって…そう思うから。じゃなきゃ俺は隠れたままの卑怯者…それは嫌だ…」
「アンナちゃんについていくのはダメなの?」
その考えは俺も一瞬よぎった。
だけど、多分それは無理だ。
「多分それはアンナがかけられた呪いのことを考えたら、邪魔にしかならない。それにいきなり俺があのエリートたちに参加しても、邪魔だと突っ返されるだけだと思う。迷惑なんてかけたくない」
どこの世界に、何の力もない男を従軍させてくれる国がある?
ここから王国まで帰るのにもコストはかかるだろう。
気持ちだけでついてこられても、無駄にしかならない。
それはアンナの足を引っ張る行為。
ただ自分の決断に満足したいだけの自己陶酔な男だろう。
「もうどうすればいいかわからない…けどこの村にいるという選択は俺にはない。そう思ってます…」
村から出て考える。それしかもうない…。
「はぁ…。本当は…この話したくなかったんだけど…もうあなたが言う通り、話すしかなくなっちゃったよ…」
何の話をしているんだろう…?
だが、話を聞いたところで、この決断は変わらない。
「シアン…。この名前をつけたのはお父さんだってずっと昔にしたの覚えてる?」
それは、俺が少し喋ることができるくらい小さい時の話。
『シアン。シアン…。う〜ん本当はゴンザレスにしようって言ってたのにな〜?急に名前変えちゃうんだもん。…ねえ?シアンは今の名前の方が好き?』
(流石にゴンザレスの名前は名前負けする自信しかない…ならシアンの方が覚えやすいしこっちの方がいいな…)
『うん』
と言う会話があったのは覚えてる。
だが、それは本当にたわいもない親子の会話。
そこに意味なんてないだろう。
「生まれた時は、本当はゴンザレスにしようって決めてたの。だけどあの人がね。シアンを抱き上げて、初めて目が合った時、急に名前を変えたの…」
それは俺が初めてこの世界に転生したことを視覚で認識できた時のことだろう。
忘れもしない。
嬉しそうに俺を抱き上げるマットの姿。後ろにはカーネとグランじいちゃん。
頭の犬耳と、尻尾で俺は獣人の子供に生まれたこと理解した。
「あの人は赤子と目が合った時、こう言ったの…『この子すごいよ。もうすでに周りを観察して何か考えてるような顔してる…何考えてるんだろう…?………ごめん。カーネこの子の名前変えていい?なんかゴンザレスっていうよりも…』……シアンの方がしっくりくるって…」
すでにつけていた名前を変えるほど、その名前を俺につけたかった理由がマットの中にはあったのだろう。
「この子はおそらく、色々考えて行動する子供なのかもしれないからって、そっちの名前の方がいいってあの人の考え。だけどね、同時にこうも言っていたの…
『この子は色々考えて、解決してくれる未来が見える。だけどそれは俺が勝手に期待しているだけ。俺のコンプレックスをこの子に引き継いで欲しくないからかもしれない。子供に期待しすぎて、重荷になり、潰してしまってはどうしようもない。だからこの名前に込めた願いは伏せていてほしいんだけど…。だけど、きっと困難ぶち当たって、途方に暮れてしまう日があるかもしれない。そんな時に名前をつけた理由を言ってあげてほしいんだ。
冷静になってよく考えれば、解決できるって。君なら俺にできなかったことをやってくれるって…俺はそう期待している…』って…重いよね…?私もそう思った。
だけど、あの人はシアンの本質を見抜いていた…。
だから聞くね?今、シアンがしようとしていることは…」
ちゃんと考えた結果なのか。
思案したのかどうか。
訊ねられた。
Xでもポストしましたが、3章完結後、作品全体のブラッシュアップも兼ねて改稿を行う予定です。
物語の大筋や結末を変える予定はありませんが、一部名称の変更や、序盤〜3章までのテンポ調整、描写整理などを予定しています。
そのため、現在読める内容と細かな流れや会話などが変わる可能性があります。
「より面白くできる部分は、今のうちにしっかり整えたい」という気持ちで進める改稿になりますので、気長に見守っていただけたら嬉しいです。




