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 キョンの言う通り、セーフティエリアから歩いて十数分の場所に、上段へ続く上り坂があった。

 坂を上がった先は、相変わらず木々が生い茂っているが、天に続く更なる崖は見当たらず、このフロアの最上段である事には間違い無い様だ。

 プレイヤーの数は、中段や下段と比べて少ない。

 理由は単純。下が無い下段や、落ちた所で骨折程度で済む中段とは違い、上段は崖から転落した際、場所によっては死亡が確定するからだ。

 道中、崖沿いに進んでいたにも関わらず、中段の道は途切れ途切れになっており、その途切れた部分は下段への下り坂になっていた。つまりは、場所によっては上段から下段まで一気に転落する。という事だ。

 それに加え、視界の悪い森の中。一歩でも道を外れてしまうと、草や低木を掻き分けた先が崖。なんて事もあり得る。

 どおりでプレイヤーが見えない訳だ。なんて考えながら歩き続けていると、呆気なく次フロアのポータルを発見する。どうやら、上段はそこまで広い訳では無い様で、加えてポータルの数も複数ある為、上段にさえ上がりさえすれば、ポータル探しに時間は取られない仕様らしい。


 念の為、フロア移動前に軽くアイテム整理を済ませる。既に大量のモンスターの素材で、コゴローのリュックは溢れかえっており、私のリュックの容量も限界に近付いている。

「そろそろ私のリュックの容量も限界だから、次フロアからはミスミーにアイテム渡していくね」

「了解お頭」

 ミスミーの頷きを見ながら、ポータルに触れる為に足を踏み出すと、キョンが私を呼び止める。

「お頭。次のフロア、6階層が実質の最終フロアです!下段からの強制スタートで、中段、上段と分かれているのは、このフロアと変わりませんが、上段が最終フロアの7階層になってます!ただ……問題が1つあります」

「問題って?」

「この階層の下段は、他と同じで果てまで進んでもマップの反対側に出る仕組みになってるんですけど、次フロアのマップ端は崖になってるんです」

「……一応聞くけど、マップ端の崖から落ちたらどうなるの?」

「このフロアに強制転送アンド、大ダメージです。要するに、死にます」

「想像通りかぁ。マップ端には近付かない様にしないとだね」

「一応、意図的に近付かなければ、マップ端には辿り着かない構造になってます。そういう意味でも、かなり広大なマップですね」

 キョンの説明を受け終わると、私達は周囲に他のプレイヤーが居ない事を再度確認してからポータルに触れ、フロアを移動する。

 移動先は、5階層とは違い見通しの悪い森の中。見える範囲には崖は無く、空は緑雲で覆い塞がれており、星明りは降り注ぐ事なく八方に逃げている。

 前フロアのスポーン位置がどれだけ恵まれていたのか、今になって理解出来た。

 光が殆ど無い深く暗い森。草木の影が死角である事は、昼も夜も変わらない。だが、草木の影と隣り合わせに並ぶ暗闇が、昼には無い死角を増やしていた。

 頼りの綱である腰にぶら下げたランタンも、草木の壁に遮られ、大きな影を闇に落としている。これでは、周囲の索敵は実質的に不可能だ。

 閉鎖空間で光が逃げない洞窟と、枝葉の天井が広がった森の中。似てはいるが、全くの別物だ。単純に、死角となる物体の数が桁違いだ。

 狩人視点で見れば、絶好の狩場だ。洞窟など比では無い程に。

 だが、獲物の視点で見た場合、これ程までに危険な場所は無い。

 目の前に真っ直ぐ伸びる道だけは、かなり先まで灯りを届けている。

「さっきの道、本当に運が良かったんだね。こんなんじゃ、道以外の場所を進むのは無理だよ」

「道もそうですけど、周囲の木々も少なかったですからね!本当に、運が良かったと思いますよ!配信者力ってやつですかね?」

「かもね。私、運だけは良いから!」

「くはぁ〜!流石は初日でレアモンスからレアアイテムゲットした配信者!風格が違いますね!」

 両腕を腰に当てながら胸を張る私に、キョンは大袈裟に拍手をする。そのノリに、ぶぶ漬け達も合わせて拍手をするが、ポロネーゼはそんな私を呆れた目で見ていた。

 そんな、おふざけ混じりの雑談を交わしながら進んでいると、道から逸れた森の奥から悍ましい羽音が聞こえてきた。

「この音は……!」

「後衛を中心に陣形!荷物も下ろしちゃって!ミスミーとポロネーゼは火球で視界の確保!目標に直接当てない様にね!」

 名前を聞かなくても分かる羽音の正体。敵対するべきでは無い事は分かっているが、段々と近付く者達の姿を確認しない訳にもいかない。

「「〈火球〉!」」

 ミスミーとポロネーゼの声が重なり、Vの字の光の残像を空に描きながら、火球が森の奥へと放たれる。

 森の中を照らしながら進む火球は、時間差で木に被弾し、若干の炎をその場に残して消滅する。そして、羽音の正体であるモンスターの姿を照らし出した。

「あれがリロービー……。なんか大きくない?」

「人の胴位の大きさです。その分針もかなり太いんで、刺される場所によっては何も出来ずに死にますよ」

 リロービーは火種を残した木を大きく避け、大群で移動を続けている。ぱっと見、10体前後といった所だ。

 体が大きい分、現実の蜂と比べて動きがかなり遅い。とはいえ、プレイヤーとは比べ物にならない程速く、武器によっては攻撃すら真面に当てる事すら出来ないだろう。

 弓、魔法、大斧は、リロービーとの戦闘において使い物にならない。短剣や拳であればカウンター狙いで倒せるだろうが、それにはプレイヤー自身の技術が必要になる。私達のパーティでは、リロービーと正面切って戦えるプレイヤーは、キョンとポロネーゼだけだ。

「ぶぶ漬けに攻撃を防いでもらって、側面から私が叩く。キョンとポロネーゼは後衛を守りながら各個撃破。ミスミーは周囲の視界の確保、コゴローは遠くの──」

「お頭、待ってください。戦わなくて済む方法があります。ミスミー」

「了解」

 皆に指示を出し、隊形を整えていると、ぶぶ漬けがこちらに来てミスミーがリュックから何かを取り出す。

「それは?」

「松明です。灯す為の物ではなく、強い炎を生み出す為の。ですが」

 ぶぶ漬けはミスミーに頷いて合図を送ると、ミスミーは火生成を使用して松明に火を灯す。

 瞬間。松明の先端は勢い良く火を上げ、周囲を明るく照らし出す。

 灯す為の物ではないとぶぶ漬けは言ったが、今この場で一番の灯りは、ミスミーが持つ松明だ。現に、先程まで見えなかった場所まで明るく照らし出されている。

「うおぉ、凄い勢いだね。それで、どうするの?」

「単純に、この炎で追い払いながら逃げます。奴等の敵対範囲から逃れさえすれば、それ以上は追って来ませんから」

 真偽を確かめる為にキョンに視線を送ると、彼は静かに頷いてリロービーの方に向き直った。

「……分かった。動きはぶぶ漬けに任せる。キョンは魁を頼むね!」

「了解です!お頭!」

 キョンは羽音のする北側から視線を逸らさずに、進行方向である道の西側へと移動する。それを見て、ぶぶ漬けは他の皆に指示を送る。

「出来るだけ密集しながら移動する!俺とミスミーは殿を務め、ポロネーゼさんはミスミーと一緒に火球で牽制。お頭とコゴローさんは周囲の警戒をお願いします」

 そう言うと、ぶぶ漬けはミスミーから松明を受け取った。

「了解!みんな、移動するよ!」

 ぶぶ漬けの指示に頷くと、私達はキョンを先頭に走り始める。

 リロービーの羽音は逃げているのにも関わらず段々と近付いて来ており、暫くすると道に姿を現した。その数は5匹。木陰から出ず、森の中から追尾する個体も合わせると、10匹近い数が居る可能性がある。

「〈火球〉!」

 ポロネーゼが森の奥の羽音に向けて火球を放つ。一瞬だけ照らし出されたリロービーは、火球が目の前を通り過ぎたにも関わらず怯えた様子を見せず、再び暗闇に包まれた空間で羽音を鳴らしている。

 ただ、道に出て来たリロービー達は私達には近付こうとはせず、一定の距離を保ちながら追尾を続けている。

 リロービーは本当に炎が苦手なのだろうか。奴らの動きに若干の違和感を感じるが、実際に襲って来ない所を見るに、炎が苦手なのだろう。ただ、それであれば普通の松明でも問題無い筈。態々強い炎を作り出す松明で無くても良いのでは無いか?

「キョン、リロービーが火が苦手って話だけど、攻略班の情報的にはどうなの?」

「ダメージの話であれば、奴らの弱点は火で間違い無いです!ただ、生態的な話になると、2つの意見があります!」

「その2つって?」

「1つは、火属性が弱点だから火を避けている説。もう1つは、アイテムが燃えた時に発せられる“煙”を避けている説です。どっちにしても、火の近くには寄ってきません!」

 火属性が苦手。それは、虫型のモンスターだから納得がいく。煙を避けているという説に関しては、正直何も分からない。何故なら、煙がある所には必ず火があるからだ。

 どちらにしても、火の近くには寄って来ない事には変わりないのだろう。だが、やはり何かが引っ掛かる。

「火が苦手……。それなのに、なんで追いかけて来るんだ?私だったら、一目散で逃げるのに……」

「確かに、普段の個体よりしつこい様な……。偶々湧き場が近かったとか……ですかね?」

「分かりませんけど、逃げ切れそうですよね。戦闘になると、自分は使い物にならないので、良かったです」

 追いかけては来るが、ただそれだけ。送り狼ならぬ送り蜂だ。……古人の勘違いと同じ結果にならない事を祈る。

「いつかは倒したいけどね。1人じゃ無理そうだし、配信外で募集するかも」

「その時は攻略班を頼ってください!まだリロービーの討伐数が目標に達して無いんですよ。まぁ、ベータのデータがあるんで、ある程度の素材割合は分かるんですけど──」

「お頭、リロービー達が下がっていきます。上手く逃げ切れた様です」

 ぶぶ漬けの声に振り向くと、道にいたリロービー達の姿は既に無く、森の奥から聞こえていた羽音も小さくなり、次第に聞こえなくなっていた。

 見ると、ぶぶ漬けが持っている松明の炎の勢いがかなり弱まっていた。どうやら、灯りとしての為では無いというのは、その耐久値にある様だ。

 ぶぶ漬けは松明を地面に投げ捨てると、耐久値が限界に近付いていたのか、松明は煙だけを残して消滅する。

「相変わらず脆い松明だ」

「普通の松明じゃ駄目なの?」

「駄目ではありませんが、確実に追い払うなら、火力の強い松明が必要です。一応、予備は後1本あります」

 ぶぶ漬けは自分のリュックを叩くとミスミーに左手を挙げて労う。

「それにしても、しつこかったね」

「ですね。自分、リロービーがあんなモンスターだとは知りませんでしたよ」

「私もだ。あの素早さに凶暴性、捌くのは骨が折れるだろうな」

 もし、私1人で遭遇していたら、間違いなく死んでいただろう。初心者向けとはいえ、流石は難易度2のダンジョン。準備や前情報無しの攻略は1人ではかなり無理がある。そう考えると、蛇道の洞窟は相性的にも難易度は低かった様だ。

「このダンジョン、動きが速いモンスターが多いよね。1、2階層の猫もそうだけど。盾持ちや、複数人の連携での攻略が鍵……なのかな」

「とはいえ、厄介な敵はリロービーとキャッシュだけ。その2体の敵対範囲内に入らない様気を付ければ、攻略難易度自体は低いですよ!」

 キョンの言う通り、その2体を除けば他は弱いモンスターばかり。今までの道も、ただの散歩道に過ぎなかったのだ。

「やしがに。リロービーを倒すのに戦力がいるだけだね。キャッシュ……?の方は、1人でも問題なく倒せたし」

 ともあれ、一番警戒していたリロービーの対処法を知れ、以降の戦闘も避けられる事に安堵する。

 回復手段が無いに等しい今、下手にモンスターからダメージを受けたく無い。慎重は、過ぎる位が丁度良いのだ。


 それから数十分。あれ以降リロービーと接敵する事なく、坂道を何度も上り下りして漸く、最終目的地である7階層。ダンジョンの頂上に辿り着いた。

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