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小川せせらぐ草原の山、5階層。そこは、1フロアであるにも関わらず高低差があり、急勾配の多いマップだった。
木々が一層生い茂り、足元の視界が悪い状態での崖。道なき道を無闇に進めば、足を滑らせ崖下に落ちてダメージを喰らう事になるだろう。
崖の高さは高くても3メートル程だが、それでも足を骨折するには十分な高さ。坂を利用して上手く降る事は可能だが、下手に落ちればその場での復帰はまず不可能。ここからは、マップを頼りに道から外れず、崖上や木陰からの不意打ちに一段と注意して進まねばならない。
「遭遇戦は危険だけど、待ち伏せるには良い地形だね。崖上と崖下に分かれて、風弾で道を歩くプレイヤーやモンスターを落として、身動きが取れない所を一方的に……」
「アリですね、それ。ただ、このフロアのモンスターは蛇に蜂、梟に鼬ですから、モンスター相手には不向きですね」
「聞く限り、物語によくある山賊の奇襲方法では無いか……。もう正々堂々とは言わない。だがせめて、私のいない時にしてくれ……」
ぶぶ漬けの補足に頷いていると、ポロネーゼが肩を落として諦めの言葉を吐いた。まさか、彼女からそんな言葉が飛び出てくるとは思っても見なかった為、私は思わず彼女を見る。
「な、なんだその目は!……ちぃについていくにあたり、考え方を少し変えただけだ。何かを変えなければ、負け続けるからな」
思い詰める様に俯き、背を向ける彼女に「そう」としか言えなかった。
昨日、私に負けた事をかなり気にしているのか?と、一瞬頭を過ったが、どうやら騎士達との戦闘に何か思う所がある様子。そう言えば、ゲンキと共にルナなんとかの配信を見ていたと、再開した時に言っていたが……。もしかして、ゲンキが彼女の騎士として参加しているのだろうか。気にはなるが、ポロネーゼの反応を考えると今は聞かない方が良いだろう。
「いや……そっか。でも、無理に考えを変える必要は無いと思うけどね。ポロネーゼは十分強いし。初見の騙し討ちに弱いのは、私含めて普通の事なんだから」
「戦闘は数を熟してナンボ!ですもんね!レオと手合わせとかしないんですか?あいつ、結構強いですけど」
「今日は都合が付かないと断られているんだ。それ以前で言えば、そもそも私は対人にあまり興味が無くてね……。昨日、火を付けられたのさ」
「でも、剣道とか、何かしらの武術は学んでるんでしょ?」
「学んでいる。……と言うよりかは、日常的に見ている。と言った方が正しいな。身内に剣道場の師範が居るんだ。護身術の稽古がてら、時折剣術指南を受けているの」
それは、学んでいるのとは違うのか?そう思うが、彼女が違うと言うのであれば違うのだろう。だとしても、彼女の剣の腕は素人とは比べ物にならない程、綺麗で鋭い。もし、彼女がゲームの対人戦に慣れでもすれば、私など歯牙にかけない程強くなるだろう。
「私も、誰かに対人戦闘のアレコレを教えてもらおうかな。一番はこがまるに教えてもらいたいけど……」
「PvP専用掲示板で募集もありですけど、お頭は配信者なんですから、視聴者と組み手をしたら良いと思いますよ!俺も含めて、お頭と手合わせしたい人は沢山いるので!」
「あ、俺もお頭と手合わせしてみたいです。AGI特化短剣のプレイヤーって中々居ませんから」
「なら、来週辺りに参加型で枠立てても良いかもね。様子を見てからだけど」
雑談を交えながら道に姿を現すモンスター達を倒していく。モンスターとの戦闘は、ポロネーゼとコゴロー、そしてぶぶ漬けを加えた3人に完全に任せている。未だ連携に慣れていないポロネーゼとコゴローに、立ち回りや優先順位を学ばせる為だ。とは言っても、ポロネーゼの方はゲンキやレンと普段から組んでいるので、近接系であるぶぶ漬けとは問題無く連携が組めている。
寧ろ、ポロネーゼと比べると私の方が圧倒的に近接系との連携は不得意だ。だが、私の型は連携を組むのでは無く、単独での遊撃。真面に正面からぶつかり合う、数と力任せの立ち回りとは違う。故に、混戦での連携の練習は必要無い。
ただ、挟撃や不意打ち、支援などの立ち回りは考えておいた方が良いだろう。それに、自分が力負けする相手を前にした時に、どう味方と入れ替わるのか。練習などやりようも無いが、彼らの動きを見ながら間を窺い、頭の中でモンスターに追撃を入れる。
「難しいなぁ……」
「え、もしかして自分、ダメダメですか……?」
無意識に漏れ出た独り言が、近くにいたコゴローの耳に届いたらしく、矢を番える手を止めるとコチラを振り向き、眉を下げる。
「……あ。違う違う!私ならどうするかなって考えてて、それが難しいって思ってたの!ほら、リロースネイクもウィーゼットも小さくて地を這ってるでしょ?ラウルは飛んでるし……。ヘイトを自分に移したり、味方に受け持ってもらう時に、どう立ち回るのが良いのかな〜って」
「まぁ……無理矢理割り込んで、攻撃を叩き込む以外無いですね。一般的なMMOはスキルでヘイト管理出来ますが、ヘキグラは気合いでどうにかするしか無いんで」
弁明がてら、モンスターのヘイト管理についてコゴローに相談していると、モンスターの掃討を終えたぶぶ漬けが側に寄り、対処法を口にする。
無理矢理割り込み、味方に構えない程攻撃を叩き込む。かなり脳筋な考え方ではあるが、ヘイト……攻撃の標的を移すには最も確実な手段だ。
ただ、それをするには息のあった連携が必要だ。対人以外にも、戦闘面での集団行動を学んだ方が良いかもしれない。
「要練習……だね。今はイメトレに留めておくけど、いつかは集団戦の立ち回りの練習もしたいな」
それよりも今は、目前に迫った騎士団との戦闘だ。残りフロアは後1階層。そこを踏破すれば、目的の最終フロアに辿り着く。有利に立ち回る為にも、ルナなんとか率いる騎士団よりも早く辿り着かねばならない。
今いる場所は、フロアを上中下の3段に分けた所の中段。話によると、恐らく中心部であろう上段に次フロアのポータルが出現するとの事。一応、風弾や身体操作技術を用いれば、簡単に上段へ上がる事も出来るのだが、身体操作技術……つまり、空中で体勢を制御し、残りの崖を登る事自体が難しい。身軽且つ身体操作が得意なキョンなら兎も角、大斧を携えたぶぶ漬けや、ロッド持ちのミスミーには難しい。
ある程度探索を続け、セーフティエリアで一度休憩を取ると、私はマップを開いて今までの道のりを確認する。
今いる段は相変わらず中段。マップの表示は、今いる段の道が明るく表示され、それ以外の段は灰色に透過している。道中、上り坂や下り坂があり、何度も道が分岐していた為、マップでは道が途切れ途切れに表示されていた。
道は緩やかな円を描いており、私達は時計回りに移動して来た。道中では他プレイヤーと殆どすれ違わず、唯一すれ違ったパーティに道を尋ねはしたが、取り合っては貰えなかった。この階層にいるプレイヤー達はどうやら、ダンジョン踏破を目的としている訳ではなく、狩りを目的としているらしく、大体が道から逸れた森の中で蜂や蛇退治をしていた。
「こればかしは運ですからね〜。初手中段でスタートしただけマシですよ?下段スタートの時は馬鹿時間掛かりましたから」
「今度上り坂を見つけたら、風弾を使って壁を走って登るとかどう?高さ的にも、角度を合わせればパパッと行けそうじゃない?」
「ごめんだけど、私が無理」
「俺もです、お頭。下手したら足の骨を折って、続行不可になりかねませんから」
試しに風弾での崖登りを提案してみたが、案の定ぶぶ漬けとミスミーの二人に却下される。私とポロネーゼ、キョンの3人であれば簡単に登れるのだが、たった3人で登った所で意味は無く、後の事を考えると寧ろ危険だ。
「上段への道を探すしかないかぁ〜。あ、キョンを上段に飛ばして、上から道を見てもらうのはどう?」
「そんな事する必要は無いですよ!俺達は今、運良く崖沿いに沿って進めているんです。つまり、このまま歩けばすぐに、上段への上り坂が見つかるんですよ!」
確かに、キョンの言う通りだ。崖上に登るには、当たり前だが、その上へ続く坂道を通らなければいけない。そしてその上り坂は、またも当たり前だが、崖に面している。態々戦力を削らずとも、ただ崖に沿って進むだけで、上段への上り坂は見つかるのだ。
「言われてみたらやしがにね。じゃあ、このまま進めばいっか」
各々がアイテム整理に休憩、現実の体の管理を終えると、皆が揃った事を確認してセーフティエリアから離脱する。
すると丁度、入れ替わりでセーフティエリアに足を踏み入れたプレイヤー集団が居たので、挨拶を交えながらマップ交換を申し出るが、やはり断られてしまう。
と、いうより……。
「なんか私達、避けられてる?」
「……っぽいですね。全員が、って訳じゃ無さそうですけど」
ルナなんとかの影響か。それとも単に、私達から発せられる好戦的な雰囲気を感じ取ってか。将又、私のこれまでの悪行が広まっているのか。理由は分からないが、コチラが話し掛けても取り合ってくれる様子を一切見せない。以前は……少なくとも、みさと共にいた時は、皆気軽に答えてくれたのだが……。
「まぁ良いさ。私には視聴者が居るからね」
だが、今はコメント欄を真面に観れない。居ないとは思うが、ルナなんとかの配信状況が書かれているかも知れないからだ。
所謂、“伝書鳩行為”。他者の配信の進捗や状況をコメントに残し、配信者や視聴者に迷惑を掛けるマナー違反行為だ。善意でやってしまう者も中には居るが、そのコメントを見て行動してしまえば、立派なゴースティング行為……規約違反に当たってしまう。
コメントを見て反応出来ないのは少し寂しいが、後でその分、コメント返しの時間を設ければ良い。
私はコメント欄を開こうとした手を止めると前に向き直り、皆に声を掛けて歩き始めた。




