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 拠点に戻る前。暗闇の中に、いつもは表示されない画面が現れる。内容は“ポータル広場が混み合っている為、付近の空き地に転移します”。という物。この時間帯にポータル広場が混む事に首を傾げながらも、視線操作で確認ボタンを押す。すると、暫くして視界が開け、ポータル広場付近の開けた場所に降り立つ。

「えっと……あ、ここか。広場の隣ね。他の人も転移してきてるって事は、相当広場が混んでるのか。って、配信してないんだった」

 配信している体で話していたが、画面に配信画面が表示されていない事に気付き、配信を切っていた事を思い出す。これではただの独り言では無いかと頬を赤くさせるが、周囲のプレイヤーは特に気にしていない様子。癖で独り言を言わない様に気を付けながら、私は一度組合テントに向かう。

 が、その前に、運搬が面倒なので近くの武具屋で斧を売る。フライと呼ばれるハエのモンスターの外殻を使った、斧というより鈍器に近い斧は、大したお金にはならなかった。解体してモンスターの素材を回収しても良かったかと考えるが、後の祭りだ。

 身軽になると、改めて組合テントに足を運ぶ。だが、武具屋テントから離れて直ぐ、プレイヤーに声を掛けられ足を止める。

「良かった、早く見つかって。あ、あの、自分視聴者です。ちぃちゃんにお伝えする事があって声を掛けました」

 振り返ると、竜人の男と亜人の女が立っていた。声を掛けてきたのは男の方なので、男に向き直ると私は首を傾げる。

「お、視聴者ぁ。どうしたの?伝えたい事って何?」

「えっとですね……ルナさんの配信って見てます?」

 男は何処か言い辛そうに質問をする。

「今の話?見てないけど……」

 答えると、彼は「そうですか」と声を漏らしてから本題に入る。

「ちぃちゃんが配信切ってから、ルナさんの配信で行末を確認してたんですけど、終わった後にですね……その……コメント欄の視聴者達がかなり荒立ってですね。あ、ルナさんの視聴者ですよ?自分が見た限り、ちぃちゃん側の視聴者がルナさん側の配信にコメントしてないです」

「それは良かった。あとでみんなにお礼を言わないとだね」

「……それでですね、ルナさんが休憩を挟むと言って配信を一度閉じた後、残ったコメ欄にいた視聴者達が、“ちぃちゃんを襲う”という話を始めてですね。今、ポータル広場に暴徒化した視聴者達が群がってるんです」

「あぁ〜。だから広場に転移出来なかったんだ」

 ポータル広場ではなく付近の空き地に転移させられた理由に納得がいった。それに、偶然とはいえポータル広場に顔を出さなくて良かった。下手に興味を持って顔を出していたら、今頃その暴徒達に囲まれていただろう。

「い、意外と冷静ですね」

 私の鈍い反応に、男は意表を突かれた様に右肩だけを落とす。

「別に驚く事でも無いからね〜。ほら、昨日も絡まれたじゃん?それに、盗人プレイしてるから絡まれるのは仕方ない事かなって。まさか、大物配信者の視聴者に狙われるとは思っても見なかったけど」

 大物であればあるほど、視聴者の管理を怠らずにしているものだが、彼女の場合は数が多過ぎて管理が行き届いていないらしい。それに加え、低年齢層が多いという事も挙げられるだろうが、意外と低年齢層の方が荒らしが少なかったりもする。

「伝えたい事ってのは、広場にいる暴徒達の事ね。教えてくれてありがとね。私も今から、少し飲み物休憩取るつもりだから、その時に配信とかSNSとか確認してみるよ。配信も後でするつもりだから、その時は宜しくね」

「いえいえ、お役に立てたなら幸いです。一応、配信する時にコメント制限を掛けた方が良いですよ。って、言われなくてもですよね」

「いんや、あんまり気にしてなかったよ。言われたら、確かにそうだね。ありがと。じゃあ、また後で配信でね。そっちの竜人の人もまたね〜」

 彼らに手を振り、手を振りかえす彼らに笑顔を向けると、組合テントには寄らずにその場でゲームからログアウトした。


「──ふぅ、ベッドに寝転がってると背中が熱いなぁ。取り敢えず、飲み物取りに行こ」

 ギアチョーカーを頭から外し、机に置いてある空のタンブラーを手に取ると、自室から出て1階のキッチンへ向かう。

 パパもママも時間的に暇している様で、キッチンに向かうと2人ともケーキを食べながら雑談していた。

「あら千歳。貴女もケーキ食べる?」

「んや、飲み物取りに来ただけ。当分ゲームしてるから、何かあったら連絡して」

「はいはい。あんまり寝転がってると身体に悪いから、たまに起き上がってストレッチするのよ?」

「分かってるって。だからこうして起きてきてる訳だし」

 冷蔵庫からお茶を取り出し、タンブラーに注ぐと一口含んでから冷蔵庫に仕舞う。

「じゃあ部屋に戻るね」

 そうして部屋に戻ると、私はADを手に取り耳に嵌める。配信画面を開き、コメント欄を覗くと、案の定荒らしによって荒らされている。内容はどれも似通った物で、意味の無いものばかり。本当、こんなコメントを残して何になるのか。

「ルナ・マグナ・ローズねぇ……今はまだ配信休憩してるのか。どれどれ……」

 私の視聴者が迷惑を掛けていないか、念の為にアーカイブのコメント欄を確認する。彼女を労う物や同情するコメントが多い中、私に対して怒りを露わにするコメントが散見される。だが、私の視聴者らしき存在のコメントは見当たらず、自分の視聴者達のマナーの良さにホッと胸を撫で下ろす。

「みんな大人で助かったぁ……。でも、マナー違反って意見が多いなぁ。無抵抗の人を殺すのはあり得ない。とか、配信中に襲うのは無い。とか。……全然マナー関係なくない?別に良いけど」

 他にも、その場にいた騎士達の批判コメントも見受けられる。これに関しては、正直コメントに同意だ。特に、斧とロッドの騎士は色々と残念だった。ロッドの男に関しては、配信に映してはいけない存在だろう。

 自分の配信のアーカイブコメントを確認しようとページを移した所、ADに着信が入る。見ると、みさからの着信だった。

「おはよ〜。どしたん」

『どしたん。じゃないよ!は、い、し、ん!大丈夫なの?結構荒れてたけど……』

 みさは心配そうに声を上げる。

「あ〜、そうっぽいね。今からちょっと確認しようと思っててさ。その後に、配信を再開しようかなって」

『今日は配信休んだ方が良いと思うけど……一応、私も少ししたらフリーになるから、何かあったら言って』

「助かるよ。じゃあ、困ったら連絡するね。……今ってバイト?」

『……ううん、ちょっと野暮用。色々あってね、そっちに時間取ってるの』

 僅かな間を置いて帰ってきたみさの返事は、先程より声色が落ちていた。

「大丈夫?何かあったら手伝うよ」

『ちぃには無理だよ。言っても断るだろうし』

 普段とは違う強めの口調。短い間柄でも分かる。対人関係で悩んでいる時、その話題に触れるとみさの口調は荒くなるのだ。

 私には無理、言っても断る。確かにその通りだ。たった3ヶ月程度の付き合いでは、そこまで踏み込んだ相談や助言は出来ない。そもそも、ただでさえ私は対人関係の付き合いが下手なのだ。そういった類の物は、健常者に頼れば良い。だが──

「頼られる気は無いけどさ、最後の逃げ場所くらいにはなれるよ。本当に嫌で、どうしようも無くなったら、絶対助けるから」

友人を見捨てる様な人でなしにはなりたく無い。彼女の為ではなく、自分の自尊心の為に。

『……え〜、なになに?カッコつけちゃって!もしかして配信中?言ってよ〜!』

 普段のおちゃらけた口調に戻り、私の発言を取り立てて煽り始める。

「はい戦争。次会った時ぶっ潰してやんよ」

『お〜怖!潰されない内に逃げよーっと!じゃあまた明日、学校でね!』

「ばーか」

『あほー』

 そう言うと、みさの方からチャットが切断された。

「……ふぅ」

 軽く息を吐くと、チャット画面を閉じて自分のアーカイブ動画のコメント欄を開く。案の定、ルナ・マグナ・ローズ関連でコメント欄が荒れている。

 その中にある、彼女に関連した名前やプロフ画像を使用した者を幾つか取り上げ、スクリーンショットを撮影する。更に、その者達のプロフィールからコメント履歴を遡り、ルナ・マグナ・ローズの配信のコメントを拾い上げると、それも写真に収める。

 それらを貼り合わせて数枚の画像に纏めると、今度は配信用のSNSアカウントを開く。こちらの方にも、私宛の個人メッセージやコメントが数多く送られており、その殆どがルナ関連の物。その中から再び、ルナを応援している活動の多いアカウントを拾い上げると、私に送られてきたコメントやメッセージ、その人のプロフ画面を写真に収め、画像を纏める。

「うんうん、良い感じ。後はこれを文字付きで投稿するだけ……」

 投稿ボタンをタッチすると、私はそこに画像を載せ、文字を打ち込む。

“気に入らないプレイに腹を立てるのは仕方ない。だけど、規約もマナーも破ってない。荒らし行為をしたり、それを見過ごす事の方が、規約やマナー的にどうなのかな”

 あえて、詳しい事は書かない。だが、画像を見れば、誰の視聴者が何をして、その大元がどんな対応をしているか一目で分かる。後は、彼女からの反応を待つだけだ。

 そして、もう1つ投稿する。内容は、数分後に配信を再開するという物。その投稿には、早くも普段見掛ける視聴者達からコメントやリアクションが届く。

「地味にキョンもいるの草なんだが。どうせだからダンジョン攻略に連れてこっかな」

“一緒にダンジョン攻略する人いる〜?”

 同行者。基、騎士対策。薄々気付いた者達は、私のコメントに対して血の気の多いコメントを残す。

「へへ……!騎士団VS盗賊団……良いじゃん!“それ採用”……っと」

 配信タイトルも決まり、新たに枠を作り直すと、私はADを外してベッドに横になり、ギアチョーカーを頭に嵌めてゲームにログインした。

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