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 先程と同じ様に、白蛇の幼体は私に向かって頭を射る。だが、先程とは違い速度は遅く、変則的な蛇行を見せる。

 左右に揺れる頭部。軸を常にずらす胴体。巨体とはいえ、正面から相対した時の的は小さい。道幅的にも、奴はかなり自由に動き回る事が出来る。私と違って。

 そう。どれだけ奴が変則的な動きをしようと、的である私はこの道幅で大した身動きは出来ない。つまり、狙える場所は限られているのだ。

 先と同じ体勢を取る私に、先と違う動きを取る奴は何処を狙うだろうか。そんなの、分かりきっていた。


(──駄目だ。これじゃあ、なんの練習にもならない)


 左右に頭を振る白蛇の幼体は、牙を剥いて飛び掛かる。右でも、左でも無く、私の頭上から。


「〈風弾〉」


 翼や翅が生えた生き物で無ければ、宙で身動きを取る事は出来ない。幾ら地面に尻尾が接しているとしても、飛び掛かった勢いと軌道を変える事は出来ない様で、風弾を頭部にモロに喰らった白蛇の幼体は、そのまま天井に頭を叩き付ける。

 遅れて浮かぶ長い胴体も天井に張り付けられる。その一瞬の硬直を、私は見逃さない。

 飛び上がり、頭部を左手で掴んで天井に押し当てると、順手に持ち直した短剣の柄頭を右膝に押し当てなが、飛び膝蹴りを入れる様に白蛇の幼体の胴体に刃先を突き刺した。その胴体の向こう側には、お誂え向きの亀裂が入っている。

 だが、奴の胴体を貫通する程の力は無い。では、風弾を撃ち込むか?万が一の事を考えたら最悪な手だ。ならどうする。

 私は両手で白蛇を押すと空中で半回転し、逆さ向きに地面に落下した。そして、地面に手を突き首を当てがうと両膝を曲げる。


「んやぁ!」


 胴を伸ばし、首を立て、地面を思い切り押し出し、逆さ向きのまま飛び跳ねる。そして、宙で弾く様に伸ばされた両足が白蛇の幼体の胴を……腹に刺さった短剣を蹴り付けた。

 胴を貫通して奴に固定された短剣の柄を蹴り、再び宙で半回転する。地面に着地し、衝撃によって未だに天井に張り付けにされた奴の胴に刺さる短剣の柄を握った。


「〈風弾〉!」


 再び奴の頭部に風弾を叩き込む。そして、亀裂の隙間に腕を突っ込む様に、短剣を腹の中で横に滑らせて斬り裂いた。

 僅かな繋ぎ目を残して斬り裂かれた胴体に、手首を返して追撃を入れる。先程よりも薄い肉と皮は抵抗虚しく刃を通し、頭と尻尾を分離させた。

 水飛沫の様に飛び散る赤いエフェクトを両断面から吹き出しながら、2つの体は音をずらして地面に落下し、皿を落とした様に散って消滅した。


「お腹側からなら攻撃が通りやすいのかな。背中の鱗が剥がれてたから、良い感じに貫通出来たって可能性もあるけど……」


 想像以上に早く仕留める事が出来た。だがそれは、十数分間この場で戦い続けたからこそ。慣れない足場で奇襲を仕掛けられていたら、結果は真逆だっただろう。


「なんにしても、あんまり練習にならなそうだなぁ。動きが単調だし、道も狭いし、想像以上に小物の横槍も無いし」


 戦闘中、ラチマやクリケフィードの横槍は1度だけ。それも結局、白蛇の幼体にクリケフィードを押し付けて時間を稼ぐ道具に出来た為、私だけが一方的に手を煩わせる事にはならなかった。もし仮に、あの時クリケフィードが天井の亀裂から姿を現さなかったら、それでも戦況は大きく変わっていただろう。

 最終的な結果だけで見れば圧勝ではあった。が、過程を見ると、運の要素が強かったと自覚している。

 運によって大敗か圧勝か決まる。そんな状況、どちらにしても練習には向いていない。


「練習はやっぱり対人戦かな……。今レベルのモンスターAIだと、やっぱり物足りないし」


 同格相手なら運要素も大事だ。だが、今回の戦闘は明らかに相手が格上。それに加え戦闘自体も、この場から離れれば再現性皆無の粗末な物。本当に、運要素が強過ぎた。


「今度さ、対人戦練習枠とか取りたいかも。視聴者参加型の。参加する人が多そうなら、だけどね。一応後でアンケート取ろっかな」


 リュックに入っている虫の肉やラチマの毛皮を、亀裂がある場所に向かって捨てながら道を進む。道中に出てくるクリケフィードやラチマ達は、あの十数分の戦闘で動きや弱点を把握してしまったので、サクサクと討伐している。文字通り、首をサクサクと。


 白蛇の幼体に関しては、倒せそうな時以外は基本的に無視している。奴のいる亀裂に向かって、火生成で燃やしたクリケフィードや素材を飛ばせば当分は出てこなくなるので、対処自体は楽だ。討伐自体も、燃えた物体を近付けたり頭部を燃やすと、コチラの動きに鈍感になるので、その間に短剣を突き立てるだけで済む。

 攻略法が分かってしまうと、白蛇の幼体も格下に成り下がる。やはり、練習相手には不向きだ。


「火生成と風弾が無かったら、このダンジョンの攻略は絶対無理だったかな。……まだ攻略してないけど。でも、火属性魔法が有効なのは確かだね。b1のミミズもそうだし、このフロアの蛇も火が苦手っぽいし。b3付近の敵には必要無さそうだけど」


 火属性魔法を持ち、且つ間合いが短く俊敏な武器で無ければいけない。本当に、このダンジョンは意地が悪い。それに加えて、採取系アイテムが殆どないのだから、誰も攻略したいとは思わない。モンスターの素材も、別にこのダンジョンで無くても手に入るだろう。白蛇の幼体だけは別かも知れないが。


 セーフティエリアを見つけ、一度腰を下ろして休憩する。リュック中の整理に関しては、道中で燃やして捨てているので不必要だ。それに、燃やす為の道具としても幾つか確保しておきたい。


「トカゲとミミズとモグラは他のダンジョンにも居るんだ。白蛇とスケルワームがこのダンジョン固有っぽいのね。素材としてどうなんだろう、この鱗達」


 スケルワームから手に入った偽蛇の鱗。そして、白蛇の幼体から手に入った白蛇の小鱗。どちらも特別な効果は無いただの鱗だ。ラチマの毛皮よりは強度があるのは確かだが、態々このダンジョンに潜ってまで手に入れる必要があるのかどうか。

 鱗であれば、ソイザードからも手に入る。斬った手応えで言えば、強度に大した差は無い筈だ。


「どうしよっかなぁ。正直、攻略後にまたb1と2を通るの面倒なんだよね。b3で狩りしようと思ってたけど、ここまで人が居ないと……う〜ん。まぁ、一回行くかなぁ。人居なかったら、近くのダンジョン潜ってそこで狩ろっかな」


 蛇道の洞窟の攻略も潮時。セーフティエリアから出てb6に向かい、そこから更に数十分が経過した今。最終フロアに続く坂道を見て、私は首を傾げる。


「それにしても、ダンジョンの構造に違和感が……。なんかb5とb6って、本来と違う道な感じがするんだよね……。だってさ、最初は蛇行した道でしょ?で、次は少しクネクネした広い道。なのに、なんでいきなり細い洞窟の道に変わったんだろう。今いる場所が隠し通路だとは思えないし……どっかに隠し通路があるとか?」


 思考を巡らせるが、何も出てこない。そもそも、情報も何も無いのだ。考えるだけ時間の無駄だ。

 そう思い、私は人がすれ違える程度の広さの坂道を下り、最終フロアであるb7に到達した。


 その場所は、他のフロア同様闇に包まれており、壁が見当たらない。マップを頼りに真っ直ぐ進んでみるが、かなり広い空間の様で壁に中々辿り着けない。それどころか天井もかなり高い様で、上を見上げても闇しか広がっていなかった。

 前後左右全てが闇。ランタンがあるにも関わらず、闇しか見えない位闇に包まれている。人によっては、恐怖で強制ログアウトしてもおかしくない空間だ。かく言う私も、得体の知れない恐怖に肌鳥肌を立てていた。


「長居してたら暗所恐怖症なりそう……。早いとこ帰ろ。転移石、転移石……」


 組合証を確認して、b7に到達している事を確認すると、私は転移石を取り出した。


「──ん?物音……?気のせいか」


 転移石を起動して無意識に瞳を閉じる。その時、一瞬だけ視界の端に白い影が映り込んだ。気がした。


「ほい帰還。……ねぇ、さっきなんか居た?配信に何か映ってたりしない?」


 聞いてみるが、誰も何も見ていないと答える。配信を巻き戻して見てみるが、皆の言うとおり何も映っていない。さっきのはどうやら気のせいだった様だ。


「なんか、白い影が見えた気がしてさ。気のせいっぽいからいっか」


 あのダンジョンにいる白い影と言えば白蛇の幼体だ。だが、私が見た白い影が奴で無い事は確かだ。何故なら私が見た影は──


 壁面と見間違える位大きかったのだから。

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