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組合テントでアイテムの清算と格納を終えると、転移石を補充して私は再び蛇道の洞窟へと向かった。理由は勿論“狩り”の為だ。
腰にぶら下げたランタンはまだ外さない。b1とb2を走り抜け、b3に辿り着いて漸く、ランタンを外してリュックに仕舞う。
b1とb2はマップ固定。それは、地形だけで無く出入り口も固定という事だ。つまり、b3へ続くフロア通路も固定化されている訳で。マップに記された私の位置は、前回b3に辿り着いた時と同じ開始位置だ。故に、明かりに頼らずともダンジョン内を進めるのだ。
配信としては最悪な画面だ。真っ暗で何も見えなく、配信者の声は一切聞こえない。今見に来た初見の人は意味も分からず配信から去るだろう。
聞き耳を立てて索敵し、マップを頼りに足を進める。近くにはプレイヤーもマッドスナイルも居ないが、遠くから戦闘音だけは聞こえてくる。マップ的に、一度明かりを付けて周囲を確認しても良さそうだ。
「〈火生成〉」
攻撃カーソルに触れてから魔法を唱え、周囲を照らす。今いる道にはマッドスナイルは湧いておらず、勿論他のモンスターも居ない。
分岐路は少し離れた場所にある為、コチラの明かりは分岐路の先には届いていない。もし他プレイヤーが居たとしても、私の存在を気付かれてはいない筈だ。セーフティエリアはかなり先。近くまで行ってその付近で“狩り”をしても良いのだが、マナー違反に当たるらしいので辞めておく。因みに、セーフティエリア内で他プレイヤーに攻撃を仕掛けるのもマナー違反だ。だが、規約違反では無い。他プレイヤーに嫌われるというだけで、運営が禁止しているわけでは無い。
火生成を解除して再び足を進める。この道に隠れる場所が無いから早めに移動を。というのもあるが、b2から来るプレイヤーは当分居ないという事が分かっており、戦闘音のする方に行かなければ狩りが出来ないからだ。
こんなダンジョンで戦闘する人の気が知れないが、戦闘出来ているという事は、攻略法を知っているプレイヤーか、火力のあるプレイヤー。もしくはその両方。手強い相手である事は想像に難く無い。今考えると、リュックの代わりに巾着を持ってくるべきだったと考える。そもそも、ランタンの持ち込みすら必要無かっただろう。
今更考えても仕方の無い事だ。リュックは、死んでも装備していればロストはしない。ランタンは、死ねば恐らく確定でロストするだろう。それしかリュックに入っていないのだから。
歩き続け、何度か道を曲がると、マッピングを済ましている方向から戦闘音が聞こえてくる。音を殺して曲がり角に近付くと、先に明かりが見えた。
音を聞いて慎重に角の向こうを覗く。そこでは、3人のプレイヤーがマッドスナイルを叩いていた。
(何やってるんだろう……?)
剣と大剣と拳。変わった組み合わせのパーティだ。剣の女と拳の男が音に釣られてやって来たモグラの相手に回り、大剣のドワーフがマッドスナイルの殻を叩き続ける。相当火力が高いのだろう。一撃入れる度に、マッドスナイルの殻は変形し、ヒビを刻んでいる。
攻略法に気付いていないのか。いや、態々マッドスナイルにモグラを当てる必要が無いのだろう。火力があれば、動きの遅い奴を一方的に叩くだけなのだから。
だが、私から見ると大剣のドワーフもかなり動きが遅い。無駄に大振りで、一撃一撃に時間を掛けている。秒間ダメージで見たら、私の方が火力が出せそうだ。
剣の女は少し早い。strとagiにパラを振っている可能性がある。拳の男は完全にagi特化だろう。仕掛けるなら、先ずはあの男を対策しないといけない。
装備は皆初期装備を加工した物。私と違い、武器もモンスターの素材で加工してある。大剣に関しては石や鱗が施されており、火力に特化した加工がされている。
剣と拳の人はリュックを、大剣の人は動き易い様にか巾着を持っている。リュックに関しては、私の物と比べて性能的には劣る汎用型だが、キャビィの毛皮で出来ている分見た目がいい。
皆、バッグは地面に置かずに背負った状態。アレを盗むのは相当骨が折れそうだ。盗み出すなら、大剣のドワーフか。
剣の女は隙が無い。あの人に近付くのは危険だと、私の直感が囁いている。多分、現実で何か武術を習っている。
剣なら剣道か……。その道に詳しく無いので分からないが、何にしても近付くべきでは無い。
私はどう動くべきか。そんなの決まっている。
ただ待つのだ。相手がコチラに向かってくるのを。相手が隙を見せるのを。ただ、黙って待つのだ。
背を壁に当て、光と影の揺れを眺めて聞き耳を立てる。明かりの発生源は剣の女が持つ松明ただ1つ。大剣の影が大きく道を塞ぎ、拳の影が舞う姿をただじっと眺めては、揺らぐ光と音で位置を探る。
モグラとの戦闘は終わり、耕された地面から這い出るスケルワームとの戦闘に入った様だ。踊り狂う2匹の影が、炎の揺らぎを強める。
マッドスナイルの殻が割れる音が響く。踊り狂う影は、剣と拳の前に伏して数を減らしていた。そして、次の影絵に差し代わった時には、マッドスナイルもスケルワームも消滅していた。
「よし、次」
男の声。どちらの声か分からないが、どうやらその場から移動する様だ。その足音は有難い事に、コチラに近付いて来た。
近付く影、強まる明かり。魁は恐らく大剣の男。中央は剣の女で、殿が拳の男だろう。
一歩、音が近付く。攻撃カーソルに触れ、左手を自身の背に当てる。
一歩、音が近付く。短剣を握り直し、体勢を構える。
一歩、音が近付く。息は疾うに死に、気配は疾うに死に、音は疾うに死んでいる。
一歩、音が近付く。光が濃さを増し、影は変わらず揺らいでいる。
納剣しているのは影の形で分かる。動く足も、揺れる体も、大剣の男の物で間違いない。それ以外の影は無いが、声だけは聞こえる。もう、すぐそこに居る。
一歩、音が近付いた。手が、足が、壁から覗き。遅れて胴が、顔が。最後に大きく丸い全身と背中に背負う大剣が、壁から姿を現した。光に慣れた瞳は、未だ松明の明かりが届かない暗闇は覗けない。
「〈風弾〉」
出来るだけ小声で、且つ早口で魔法を唱える。そして、私は思い切り吹き飛んだ。大剣を背負ったドワーフに向かって。
男は声に反応してコチラに振り向くが、それよりも先に巾着の紐を短剣で切り、ドワーフの肩から奪い取る。
上手くいった。そう思った瞬間、一筋の鋒が私の顔に吸い込まれる様に弧を描いていた。
咄嗟に短剣で顔を覆うが、私の吹き飛ばされる速度の方が鋒よりも速かったらしく、剣は私の尻尾の先を掠めるだけで済んだ。
ごく僅かに削られた体力を見て尻尾が問題ない事を確認すると、巾着を抱えたまま空中で一回転してから地面に着地する。そして、相手に振り向く事なくその場から全力で駆け出した。
「ポロネーゼ!構えろ!」
「はい!」
後ろから追いかけて来る足音に続く男の声。それに応える女の声に振り向くと、女は走りながら飛び跳ねて宙で屈む様に丸まっていた。
「──まさか!」
「〈風弾〉!」
女の背後を走る男が、女の靴底に向けて風弾を放つ。そして、風弾を蹴る様に足を伸ばした女が、剣を振りかぶりながら口を開いた。
「〈火球〉!」
私は振り向きながら後方に飛び退き、短剣を構えると自身の腹に左手を当てて魔法を唱える。
「〈風弾〉!」
飛来する火球と同じ速度で後方に吹き飛び、突き当たりの壁に着地するとそのまま左に向かって壁を走る。そして、視界から女が外れる寸前に魔法を撃ち込んだ。
「〈風弾〉!」
「〈火球〉!」
背後では火の粉が飛び散り、その中から女が飛び出して来た。その背後には、ピッタリと拳の男が張り付いている。
「「〈風弾〉!」」
私の声と男の声が洞窟内に共鳴する。2つの風弾は、間にいる女に向かって飛来した。
「〈火球〉!」
だが、私の風弾は女の火球によって掻き消され、火の粉を飛び散らせる。そして、再びその間から女が飛び出して剣を振り上げた。
その瞬間、私は踵を返して地面に這う様に体を倒すと、再び体を半回転させて天井に体の正面を向ける。
陰陽の如く、上下に洞窟内をすれ違う私達。無理矢理振った女の剣は空を切り裂き、私の手のひらから放たれた風弾は女に直撃し、女を天井に磔にする。
「くぅ──」
呻き声を上げる女の下を通り過ぎ、後転する様に地面に後頭部と両手をつける。そして、天井に向かって飛び上がると、地面に足を着けて走り出す。
「〈風弾〉!」
そして、自分の背中に手を回して速度を加速させると、拳の男の頭上を走り抜け、地面に着地した。
「くっそ!」
「〈風弾〉!」
悪態を吐きながら踵を返した男に対して風弾を放つ。だが、男はそれを軽々と避けた。
──避けてしまった。
「きゃぁ!」
死角から飛来する風弾に視線を合わせる事が出来ず、落下中の女は不自然な格好で吹き飛ばされる。その声に、やらかした。と、目を見開く男は、コチラに走りながら後ろを振り返った。
男の左側が完全に死角になる。そこに私は飛び込むと、順手に持った短剣を男の首に突き刺した。
モンスターとは違い柔らかく、筋っぽい感触。声を上げる事が出来ない男と目が合うと、そのまま短剣を右側に薙ぎ払い喉を深く切り裂いた。
傾く頭。困惑と怒りが宿る瞳孔が光を失うと、男は静かに消滅して赤いクリスタルをその場に残した。
「何してるんですかあの人は……!」
立ち上がる女はクリスタルと化した男に悪態を吐く。
本当はクリスタル内のアイテムも回収したいが、彼女と戦う事だけは避けたい。そう考えて一歩後ろに下がる。が──
「だが、そのお陰で追い付けた。欲を掻いたな、狐」
背後からドワーフの男に声を掛けられ、その足を止めた。
「……別に、全員殺せば良いだけだし」
私は短剣を逆手に持ち直し、身を屈めて剣の女と向き合う。
「この状況。私から仕掛けておいて、一騎討ちなんて言うつもりはないけど……。いざ、尋常に勝負」
「……ゲンキ、手を出さないで」
すると、女は後ろのドワーフに武器を下ろさせると、リュックを下ろして剣を構えた。
「ポロネーゼ」
一瞬何を言っているのかと片眉を上げるが、拳の男とのやり取りを思い出して、彼女が名乗りをあげたのだと理解した。
「ありがとう。なら、その前に──」
私は彼女に背を向けると、ドワーフの男に向かって彼から奪った巾着を投げ渡した。




