11) マリアは一時預かり
NPOの事務所に着くとリコとレモン、ボランティアスタッフの岡元が待っていた。
「また、あったねマリア」
「はじめまして、マリアちゃん」
「リコ、て言うのよろしく。」
いきなりのフレンドリーな出迎えにマリアは車の物陰に後退し、引っ込んだ。どうやら、臆したようだ。少しの沈黙の後マリアは顔を上げ、様子を伺う。
「マリアー。大丈夫だよ。」
女マスターの呼び掛けにマリアはよろよろと女マスターの元に行こうとするが何もないところで蹴つまづき、マリアに近づいていた女マスターに、よろけたついでに体当たりを食らわす。
「ゴメンなさい、ゴメンなさい×Ω」マリアは必死に何度も謝った。
レモンとリコは心の中で『『ポンコツ!!!!』』と叫んでしまった。
「これがAIと機体の連動が悪いことによる動作不良なのデースネェ。マリア、ドントマインドデース。」
「そうね、こういうこともあるから、リハビリが必要なのよ、マスター。」と、支部長が言った。
「体をもって知りました。」マリアの一撃が急所に当たり、声を震わせながら女マスターは言った。
「マスター、私がマリアちゃんをエスコートしてあげようか?」リコが女マスターに手助けしようとした。
「そう言ってくれてありがとう。でも、私がする!」声を落ち着かせてしかし嬉しそうに女マスターは応えた。
「マリア、抱っこする?」
「いえ、自分で動きたいです。ただ、体は動くんですがバランスがとれないんです。」
「そう言うのを無理しちゃうと二次被害で回りに迷惑かけちゃうからね。」リコが毅然と言った。
「はい。わかります。さっきマスターに体当たりしてしまいましたし。」顔を赤くしてマリアが言った。
「わかっているならマスターの言うことを聞こうね。」
「はい。」
マリアは女マスターにお姫さま抱っこをして貰い、事務所に入っていった。
今日は土曜日なので、女マスターは夜番である。
夜番は午後10時から翌日の午前6時の8時間を担当する。業務はシェルターにいるサポーターのスリープ確認とサポーターの緊急電話の受け継ぎや相談受け付けである。サポーター管理者法ができてから、だいぶに緊急の電話が減少しているが何時なんどき連絡が入るとわからないので、気を抜けないのである。
女マスターはマリアをシェルターの保護サポーター用の部屋に連れていき、事務所に声をかけてから仮眠室で眠りについた。
マスターが仮眠中にリコはマリアにリハビリを施した。簡単な体操と手遊びである。
「マリアちゃん、マスターのためにも頑張ろうね!」
「あのぅ、ちゃん付けを止めてほしいのですが。・・・。」
「そうなの?」
「はい。」
「分かった。リコはマリア、て呼ぶね」
「はい。ありがとうございます!体操がんばります。」
マリアは必死に体操を頑張ったが、まだ、よろけることが何回かあった。だが、マスターのために、とリコから励まされ、一通りして何度か同じ体操を繰り返した。
「体が何だか熱いです。」マリアが言った。
「動きが固いところに体操をしたから体に熱がこもったんだね。今日はこれくらいにしようか。」
「はい。うわっと」マリアは気を抜いた瞬間、体の平衡を失いその場で体を崩した。熱暴走のこともあり、これ以上は機体を痛める可能性がある。
「マリア、今日はこれでスリープに入ろうか?」
「今何時ですか?」
「午後の7時半になったところ。」
「少し早いですが、スリープしますね。」マリアはリコの言うことを素直に聞いて、スリープの準備をした。スリープは充電も兼ねているのでマリアの場合は首の後ろに充電アダプターのプラグコードをさして電源スイッチをスリープにした。マリアの目が一度見開き、それから閉じる。スリープの完了である。スリープ用にベッドがあったがベッドを背もたれにマリアは寝た。
リコはマリアのスリープを確認してから、事務所に戻った。
「支部長、マリアは体操してからスリープしたよ。」
「変わったことあった。」
「気を抜いたら平衡感覚がなくなってバランス崩したよ。後、ベッドがあるのに寝転ばなかった。」
「業務用でいた時の癖かしら。後でマスターに話すわ。」
「レモンは・・・、ここでスリープに入っているんだ。」
「女性に配慮したのよ。」
レモンはリビングのソファーでスリープ状態になっていた。
「ジェイさんは帰ったんだ。」
「うん、リコの作ったパウンドケーキをひと切れ食べて帰ったわ。」
「ひと切れだけですんだの?」
「そうよ、その代わり藤村教授と仲間達の活躍談話を大いに聞かせて貰ったわ。」
「ママ、お疲れ様です。」
「ありがとう。それで私もパウンドケーキ食べていいかしら?」
「喜んで!!!」
疑似親子の和やかな団らんはパウンドケーキから始まった。
団らんの会話は大半は今日のマリアのことで、ファーストコンタクトでマリアが臆した時には動画のために痛め付けられた後遺症だと思ったこと、マリアがこけて女マスターに体当たりした時は、動作の調節ができないことを知らず、ポンコツ属性だと失礼ながら思い、レモンもそう思っていたことをリコは話した。支部長はママの顔をして、娘のリコの話に耳を傾けた。
「マリアちゃんのこと気になるの。」
「初日だし、動作とAIの連動がまだ習得できていないから気になるのかも。私のほうが背が低くて、製造の年数が浅いけど、何だかお姉ちゃんみたいに接しちゃうね。あ、それと、ママ、マリアはちゃん付け嫌がっていたから確認が必要だよ。」
「わかったわ。マスターに言っておくわ。」時間を見ながら支部長はいった。時計は午後9時を過ぎていた。
「もう9時になってたんだ。もうそろそろマスターが起きてくる時間だね。」
「そうね、ケーキとコーヒー、ごちそうさま。帰る用意しておくわ。今日は家に戻るの?」
「うん、家に帰ってスリープする。後はレモンにまかせて、明日、ここにくることにする。」
支部長はNPOが使用する一軒家の近くに家を持っている。リコやレモンは通常はNPOに居宅スタッフとして、事務所に住みこんでいるが、休みになると支部長の自宅に帰るのである。
「そうね今日は休みだったのにバイトで働いていたし、マリアのこともあって、ここにきてくれたし、頑張るわね。」
「ママの役にたちたいし、マスターにもそう思っているから。」
「でも、無理はしないでね。」
「だから、家にかえるの!!」にっこりと満面の笑みでリコは言った。
支部長とリコが帰る用意をしている間に女マスターが起きてきた。
「おはようございます。もう10時なんですか?」女マスターは支部長とリコがコートを身に付けているのを見て言った。
「10時になったらダッシュで帰るからだよ。」
「それにしても、せわしいね。」
「今、9時45分だからね。」
「支部長も、」
「えぇ、娘に感化されたのよ。」
「かわいいですね、支部長。」
「そうでしょ!それで申し送りだけど、今いいかしら?マスター。」と、支部長。
「頭も寝覚めているのでいいですよ。」
「マリアは朝の6時に起こす」
「それまでにスリープは終わりそうですがダメなんですか?」
「マスター自ら起こさないことね!」リコが釘をさす。
「そうね、サポーターが自然な状態で、どう動くかを見ることが大事だから、起こしにいかないように。」
「う、はい。」
「それと、マリアはちゃん付けを嫌がっていたからストレートにマリア、て呼ぶように。」
「そうだったんだ。これも申し送り必要?」
「そうだよ。機体とAIの連動が悪いことも絶対申し送ってね。」
「了解。」
「マスターが管理者だから残念なことだけど、スリープは自分でやっちゃう。」
「それ、本当!??!」
「うん、本当。」
「うゎ、スリープするの楽しみにしてたのに、切ないわ。」
「マリアに嫌われないようにしないとね。」
「マリアの意見を尊重します。」
「以上、申し送り終わり。」
「ちょうど10時だね!じゃ、わたし達帰ります!」リコは嬉しそうに言った。
「ダッシュで帰るわね」支部長もニコリと笑顔だった。
「気を着けて帰ってくださいね。」
「「さようなら!!」」
女マスターは見送りをしようかと迷ったが二人は本当にダッシュで家から出ていった。
「仲良きことはいいことだ」女マスターはひとりごちた。
マリアとあんな風に仲良くなりたい。だからこそ、色々話したい!!だが、今はスタッフとしての時間で、なおかつ、スリープが終ったら起こさない。スタッフだから仕方がないが何だかわびしい気持ちで見悶えながら時間が過ぎていった。




