↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/120

間抜けな騎士

未熟なりに書き続けて遂に2万PVを達成出来ました、読んでくれてる皆さん有り難うございます!



「っし!」


森から襲ってきた五体のオークを迎え撃つ、十分に逃げ切れる距離ではあったが空間把握にはオーク以外の魔物の反応は無い、フェリックと過ごした五日間の食料の消費が凄まじく、そろそろ俺達の食料も心許なくなっていたのとミリエメ達の食料の確保も済ませようと思ったのだ。


オークは単独で行動する事が少なく人を襲ってくる時は必ずといっていいほど複数でくる、横に列をなして向かってくるオークを冷静に待ち、十分に引き付けてから呪文を唱える。


『拍車』


瞬時に列の左側に飛び込み目の前の個体に向けて呪文を唱えながら蹴りを繰り出す。


『豪脚』『豪腕』


強引に足を振り抜きオークの両足をへし折り、体勢の崩れたオークの首に左の手刀を叩きつける、直ぐに隣の個体の膝を右足の裏で砕き喉を右の貫手で貫く。


『ブオォ』『ブガァ』


残った三体が鼻息荒く、手を振り降ろし横に薙ぎ払うが冷静に動きを見極め最小限の動きでそれを躱すと真ん中の個体の心臓を左の貫手で貫き、その隣の個体の膝を右足で砕き体勢を崩してから左の手刀で首をへし折る、そのまま一番奥の個体へと一歩踏み込むと最後は飛び上がって左足を振り抜き首をへし折った。


「う〜ん」


フェリックに言われ、相手の種族、形、特性を見極め相手の弱い所を意識するようにしているがしっくり来ないな。


「オーク五体を息も切らさず…、凄いですね」


「でも、ここら辺の魔物は弱いからね。それよりさっさと解体しようか、リズは右の二体をお願いね」


「えっ?」


「あっ、すいません」


考え事をしていたせいで普段通りに返してしまったが今はミリエメと一緒だったな。


「すいません、つい仲間に話し掛けているつもりでした。オークを解体するので少し待っててもらえますか?」


「私もお手伝いします」


そう言って止める間もなく剣を振りかぶりオークの死体を本当に解体していくミリエメ、いや、その無駄に装飾された剣じゃ無理だからね、俺の言う解体って腕や足を切り離す事じゃないからね。


「ミリエメさん、気持ちは有り難いですが」


オークの両手、両足を切り離し、頭に取り掛かろうとしているミリエメを止める。


「私も誇りある騎士として助けられてばかりというのも心苦しいのだ、任せてくれ」


「いや、ミリエメさん明らかにオークの解体をした事ないですよね?解体って持ち運びしやすいように小さくする事じゃなくて…、あ〜、俺が解体するのでミリエメさんはその間辺りの警戒を任せてもいいですか?もう暗くなってますし」


空間把握があるので警戒は必要ないが何か仕事をさせないと五体のバラバラ死体が出来そうなのでミリエメに警戒をお願いする、そして手持ち無沙汰にしている案内役に気付いた。


「解体出来る?」


「はぁ、そりゃ毎日ってほどやらされてたんで」


案内役の男、ダリは盗賊団でも下っ端のようで雑用ばかりやらされていたようだ、俺は予備の解体用ナイフを渡し二体をお願いする。


「なっ!トっトーマ殿、このような者に武器を渡すなど」


それを見てミリエメが喚くがダリには散々俺達との実力の違いを見せつけている、ダリに目を向けると両手を胸の前で、顔は首の骨が折れるんじゃないかと思うほどの勢いで左右に降っていた。


「大丈夫ですよ、何かしそうなら俺が対処出来ます。それより皆も待っていると思うので早めに済ませましょう」


俺の言葉に、だが、しかし、とまだ納得していないミリエメだがそれを無視してダリを促し、二人で解体を進める。


「手際いいね」


「はぁ、団でも要領が悪くてずっと雑用ばかりさせられていたんで」


俺も旅の間、リズにナイフの使い方を徹底的に叩き込まれたので解体は慣れたものだ、それについさっきまで生きていた物を無言で捌いていくのは少し気が滅入る、なのでダリと話をしながら解体を進めて行く。


軽く聞いただけだがダリはステルビアの端、ロトーネとの国境近くの村の出身らしく、そこで農民として暮らしていたが二年前に魔物の群れに襲われ小さな村は呆気なく壊滅、着の身着のままで逃げ出した所をランゼ盗賊団に見つかり、何もないダリはランゼ盗賊団に雑用係として拾われ、そしてランゼ盗賊団は場所を転々としながら旅人を襲いリストルの噂を聞き付けてここに来たようだ。


ダリは村を無くし縋る物が盗賊団しかなかったんだろうな、そしてこんな話は特に珍しい事でもない、ダリが盗賊団にいたのは生きる為、殺人者の表示も無い、だが殺された相手からはそんな事関係無いしな、現にミリエメは仲間を殺した盗賊団のダリをまるで睨み殺すという程に厳しい目で見ている。


俺ももし仲間が殺されたらそれに関わった物全てが許せないだろう、その相手が国でもなんでも自分の命が無くなるまで復讐すると思う、だけど今はミリエメよりダリの方が話しやすいし感情移入出来るんだよな。


苛立っている時に八つ当たり気味に話したので少し負い目もあるのかな、でもミリエメにはあまり負い目を感じないしな、そんな答えの出ない思考をしている内に解体が終ったので飲水で血を洗い流し乾燥で乾かし清浄までかける、ダリからナイフを受け取り同じ様に綺麗にしてやる、ダリが目を丸くしていたが強引に清浄まで終わらせるとそれを渋い顔で見ていたミリエメに断りをいれ、オークの肉を馬車に乗せる。


そして再び三人で皆の所に向かう。


「あの、トーマ殿は、その、どういう御仁なのだ?」


また曖昧な質問を、それに自分の感情もよくわからない俺にどういう人ですかって聞かれても自分はこういう人ですよって正確に答える事が出来るわけないじゃないか。


「えっと、少し世間知らずのただの銀上級冒険者です」


リストルで自分の立場を理解しようとは思ったが今は肩書き通りにしよう、なんとなくミリエメ達の事情は面倒そうだし。


「トーマ殿の行動はただの銀上級には…、いやそうか」


俺の気持ちを汲んでくれたのかそこで会話は終わる、ミリエメ達も素性を知られたくないようだしな、自分の事は話さず人の事を聞くのは、誇りある騎士、として駄目だよな。


……う〜ん、なんかリストルを出てから思考がおかしいなぁ。


セッタを見て、適当に生きて人に迷惑をかける害虫はこの場で殺した方がマシだと思ったし、ミリエメと価値観が違うってわかって態度が刺々しくなってしまうし。


その後は魔物の反応を感知すると足を早めたりして襲われないままに皆の所に辿り着いた。




「遅くなってごめん、もしかして待っててくれた?」


もう完全に日も暮れているのに皆は食事をせずに待っていてくれてようだ。


「昼から食べてなかったから簡単な物は食べたよ、リーヴァさんもお腹が空いていたようだからね」


折角ミリエメが隠していたのにリーヴァは自己紹介をしたようだ、そしてリズが手を握ってきた。


『ちょっとトーマ、リーヴァさんに何したの?トーマの事をすっごい聞いてきたんだけど』


『いや、アジトに捕まっている所を助けただけで特に何もしてないよ、話もしてないし』


リズは本当に?と言いながら横目でリーヴァを見る、リーヴァは俺とリズの繋いだ手を凝視している。


「お嬢様、名を名乗られたのですか?」


「食事まで戴いておいて名も名乗らないなど失礼だと思いませんか?それにこの人達は悪い人ではありません」


心配そうに聞くミリエメをリーヴァがたしなめる、初めて声を聞いたが顔に似合わずしっかりした声だな、それになんだか、なんとなくだが嘘臭い?感じだな。


「ミリエメさん、向こうに馬車を停めて下さい、男性の方もそちらに移しますので」


レオンの方はまだ目を覚ましていない、レイナはかなり酷い怪我だったので明日の朝まで目を覚ます事は無いと言っていた、それはこちらにも都合がいい、ロトーネの貴族なら早く目を覚ましても良いことはないだろう、ここまで痛め付けられたのも野盗に対して貴族然とした態度で接したのだろうしな。


俺はボロボロの騎士服のままのレオンを抱き上げ、ドゥニエル家の馬車まで連れていく。


「じゃあここに寝かせます、オークの肉は半分持っていきますね。向こうで料理をして持ってきますので待ってて下さい」


ミリエメに断りを入れ、レオンを馬車に寝かせてオークの肉を持って皆の所に戻る。


「重ね重ねの言葉になるが本当に感謝する、お礼はもう少し待っていてほしい」


丁寧に頭を下げるミリエメに気にしないでと伝えて皆の元に戻る、後ろからミリエメが何を、どこまでとリーヴァを問い詰める声が聞こえるが多分ミリエメの心配事は魔眼絡みなんだろうな。


「じゃあ夕食にしようか、俺も昼から食べてないからお腹が空いて空いて」


「兄ちゃんを待つって皆我慢したんだぞ、俺も腹ペコだよ」


テオが両手でお腹をポンポンと叩く。


「テオはさっき沢山食べたじゃない、少しだけって言ったのに」


セオがテオの言葉を咎める、セオは野盗の命を奪った影響は無いな、大丈夫そうだ。


「皆お腹が空いてるみたいなので直ぐに出来る物にしますね」


レイナがそう言って肉を焼き始める、俺はレイナの隣に行き、もう一つ竈を作り料理を始める。


「トーマさん?」


「いや、向こうの料理をね。レイナとセオに任せたら面倒な事になるかもしれないし」


ハンプニー家も獅子の鬣もフェリックも、レイナとセオの料理をべた褒めだった、それは良い方向にいったが今回もそうとは限らないしな、念には念を入れないとな。


レイナに先に食べるように言って俺は簡単なオーク肉のステーキにパンとサラダを添えてミリエメ達に持っていく、直ぐ出来る物なのでスープは無しだ。ミリエメは恐縮していたがリーヴァは作る所を見ていたのか俺が作った事に不満そうだ、さっきレイナが作った簡単な物を食べたと言っていたしな。


ミリエメ達に食事を渡した後で自分達の馬車に行く、荷台にはロープで縛られたダリとセッタがいる。


「ダリさんちょっと来て」


「おっ、おい!俺も何か役立つぞ、俺もつれてけ」


それを聞いてセッタが叫ぶように言うが無視だ、大方ダリから俺に何をさせられていたか聞いて、ロープを外してからするような仕事なら逃げられるとでも思ったのだろう。


荷台からダリを降ろし馬車と少し離れた所でロープを外して座らせて待たせると、ミリエメ達に渡した食事と同じ食事を持ってきて、ダリの目の前に土魔法で簡単な台を作り料理を置く。


「え?こ、これは?」


「アジトに案内させたり襲撃場所に案内させたり、それに解体も手伝ってもらったからね」


戸惑うダリに食べて良いと促す、ダリは馬車の方を見るがセッタにはさっきパンをあげたとリズが言っていたので気にするなと伝えると恐る恐る食べ始めた。


ダリを逃がしたい気持ちはあっても逃がすつもりは無い、けどこれくらいはいいよなと自分に言い聞かせて俺も食事をしに行く。


「どうしたの?」


食卓に戻るとリズに声をかけられた、だが自分でも自分の感情がわからないので今日はあちこち連れ回して扱き使ったからねとだけ返し、オークの肉を頬張る、うん、美味い!







食事を終え、片付けも終え、食後の話も終えて皆が眠った後に、夜番の俺は少し寒いので焚き火に薪を多目に入れながら星を眺めているとミリエメがやってきた。


「トーマ殿、その、助けられたお礼なのだが、これでどうだろうか、素材も良いので売ればそれなりの値段になるはずだ。それに今はこれだけだが無事に帰る事が出来たら他にも出来るだけの謝礼は約束する」


そう言ってミリエメは自分の着けていた甲冑一式を手に持ってきた、今のミリエメの格好は騎士服だけだ。


「いや、その甲冑が無いとミリエメさんの帰りが困るんじゃないですか?他の仲間の方もいないし帰りはミリエメさん一人で馬車を守らないといけませんよね?」


俺の言葉にミリエメは悔しそうな顔をする。


「だが私には他にトーマ殿にお礼として渡せる物が無いのだ、盗賊供から助けられ、高価なポーションを譲ってもらい、剣も馬も返してもらい、馬車も無事に戻ってきた、さらに食事の世話までしてもらい何も無いと言うのでは私の気がすまない」


レイナの手作りなのでタダなのに高価なポーションだと思ったようだ、効果が高いからだろうな、ミリエメの気持ちはわかるがお礼なんて俺達には不要な物だ、野盗に襲われた時にはアジトまで確実に潰す事、捕まっている人がいたら助ける事を決めていたので助けただけで見返りなんて考えて無かったしな、それよりも護衛をしてくれなんて言い出さなければそれでいい。


それにしてもミリエメ達が盗賊に奪われた他の荷物、それを明日の朝、ここを起つ時に返すつもりなんだけどこの様子だと素直に受け取ってくれるか心配になってくるな。


「ミリエメさんの気持ちはわかりますが俺達には必要ありません、そうですね、俺は物はいらないので、俺のお願いを聞いてくれるならそれでいいです」


俺達とはこれ以上関わらない事、それと自分達の荷物を素直に受け取るという事を明日の朝お願いしようと思っているとミリエメの体が震えているのに気付いた、寒いのかな?


「そ、そうか、それも考えないでも無かったがトーマ殿はまだ若いので経験がないのだと、だがトーマ殿が望むのであれば、しかし本当に私のような者でも…」


ぶつぶつと呟くミリエメ、どうしたんた?


「か、覚悟はしてきたつもりだが、トーマ殿、じ、実は私は経験が無いのだ、それで粗相をしてしまうかもしれないがそれでも良いのだろうか?」


「はい?ミリエメさん何か勘違いをしていませんか?」


ちょっと、何だかおかしな方向に話が進んでるぞ。


「トーマ殿は幼い顔をしているが経験があるのだろう?あの実力を見ればそれも頷ける、重ね重ね申し訳無いがその、未熟な私に色々と教えてくれると助かる」


教えるって何をだよ、体を重ね重ねする方法?俺だって未熟だし経験が無いんだよ、とゆうかこの人オークの時もそうだけど早とちりしすぎというか、先走り過ぎだろう、俺まで頭が混乱してくる。


「ちっ、違います。ミリエメさん落ち着いて、わかりました、ちゃんと落ち着いて話をしましょう」


日に焼けた褐色の肌でも赤くなっているとわかるほどに顔を赤らめているミリエメを目の前に座らせ、お茶を入れる。


「どうです?落ち着きましたか?」


「あ、ああ、なんとか」


木のコップを両手で持ちながら暫く空を見上げていたミリエメに声を掛ける、温かいお茶と綺麗な星空を見て落ち着いたようなのでゆっくりと話をしていく。


「俺達は、まぁ変な話あまりお金には困っていません。それにミリエメさん達を助けたのも盗賊のアジトを潰すついでなので気にしなくてもいいです。それと馬車や食料の方も折角助けたのにそのまま助けて放置するのが嫌だったからやっただけでミリエメさん達が恩に着る必要はありません」


しかし、というミリエメを手で制し話を続ける。


「俺のお願いというのは明日、ここを発った後はお互い関わらないという事、それと他にも盗賊達に奪われたミリエメさん達の持ち物を素直に受け取ってほしいという事です」


それを聞いてミリエメが顔を伏せて申し訳なさそうに話す。


「それは…、お互い関わらないというのは私のせいなのでは無いですか?」


そう聞かれて答えに詰まる、ミリエメもセオの事で俺の態度が変わった事に気付いているのだろう、だがミリエメの事が無くても遅かれ早かれそうなっていたはずだ、もしかしたらもっと酷い事になっていたかもしれない。


「それは、否定はしませんがミリエメさんの件が無くてもそうなっていたと思いますよ、そちらの男性の方、貴族ですよね?その人が目を覚まして獣人を好意的に受け入れますか?」


今度はミリエメが言葉に詰まる、仕えるミリエメがそうなんだ、主人がそうじゃないとは思えない。


「だが、私はトーマ殿に多大な恩を受けておきながら嫌な思いをさせるという騎士としてあるまじき失態をしてしまっている。それで受けた恩まで要らないと言われてしまっては私の立場が」


私の立場が、ね。そうだよな、結局ミリエメは自己満足したいんだよな、俺に受けた恩を返し、自分の中で納得して満足したい、だから恩返しをさせろ、と。


だけど恩返しは要らないし、それでミリエメが危険になるとわかれば逆に迷惑だ、俺も護衛をしてまで送り届けるのは嫌だがなるべく無事に帰ってほしいとは思ってるからな、俺の後味が悪くならないように。


これ以上会話を続けたらミリエメに感情移入してしまいそうだ、ミリエメとは価値観が違うのでそれは面倒な事になる、なので強引に会話を切り上げよう。


「ミリエメさん、俺は獣人のテオとセオを本当の家族だと思ってます。でもミリエメさん達が獣人を受け入れられないという立場なのを少しは理解しているつもりです。要するにお互い価値観が違うんです、なのでこれ以上一緒にいてもお互いに良い事は無いと思います、だからミリエメさん達が変に恩を感じずに素直に奪われた物を受け取って、それで明日別れてくれたら、その方が俺達は助かるんです」


う、そ、そうか、その方が助かるのか、了解した。とミリエメが頷いて話は終わり。となって欲しかったがそう上手くは行かず、俺の言葉を大人しく聞いていたミリエメは弱々しい声でポツリポツリと話し出した。


「私は、騎士の家系に生まれ、騎士として育てられた。そしてレオン様やリーヴァ様に仕え、今回の任務で初めて国を出る事になったのだ」


話を切り上げるつもりが突然身の上話をし始めてるし、しかもレオンって言っちゃってるし。


「リーヴァ様はある事情があってドゥニエル家でもとても大事にされている方で、それにレオン様はドゥニエル家の当主になる身で、そんなお二方の護衛として任務に就ける事はとても誇らしかった」


もうこの人完全に駄目だろ、世間知らずの俺でも素性の知らない冒険者にそれを言っちゃ駄目だってわかる事を喋ってるんだけど。


「私はこれでもドゥニエル家に仕える騎士の中では腕の立つ方だった、だが蓋を開けてみれば野盗に不覚を取り、守るべきはずのリーヴァ様や当主のレオン様を守れずそれを助けたのはトーマ殿、挙げ句の果てに私はそのトーマ殿に失礼を働いてしまった」


ミリエメの魔力強度は高い、高い割りには魔力の流れがあまり安定していないようだがそれでもここら辺の魔物ならミリエメの他に二人の護衛、それとレオンの魔力強度なら大丈夫だっただろう、だが他の盗賊団はしらないがランゼ盗賊団は結構大きい盗賊団だと思う、しかも全員魔力強度30超えの集団に囲まれたのだ、仕方ないのではと思うが真面目なミリエメは自分を許せないようだ。


「そんな私は何のための護衛なのか、騎士なのか、わからなくなったのだ。任務も果たせない騎士、その上恩人にも恩を返せない、私は一体どうしたらいいのだ!」


知るか!自分語りや自分探しは他所でやれ!そう言いたいが静かな口調から感情的になり、涙を流しているミリエメを見るとそうも言えない。


この人を見ていると昔、俺がまだクラスで直接的な暴力を振るわれていた時にクラスの委員長が俺を庇っていた事を思い出す、イジメは駄目だ、私は委員長だから止める責任があるとか言ってたっけ、けど結局数の力には敵わずいつも悔しそうに泣いてたな、その後はイジメにも加担せず見て見ぬふりをするようになったけどどんな心境だったんだろうな。


あの委員長も自分は委員長だ、委員長だからって言ってたっけ、ミリエメも自分が騎士だって事に拘ってる、違う縛られているな、ってこう考えている時点でミリエメに感情移入してしまっているなぁ。


ミリエメは獣人蔑視の考えだ、それを受け入れる事は絶対に無い、だけど多少なりとも行動を供にして、話を聞いて、そしてこの涙を見たら…。


ダリは人を襲う盗賊団にいた、だけど逃がしたい、セッタは…、どうでもいいか、とにかくもう俺の感情はグチャグチャだ、どうしたらいいかわからなくなる。


セッタを殺してダリを逃がして、ミリエメ達を放り出して今すぐラザに行きたい、でもそうも行かない、リズに相談したくても寝てるしな、と言うかまともな人付き合いをして半年足らずの俺に人生相談なんて持ち込まないでくれ。


「はぁ…」


思考が纏まらず思わず大きな溜め息が出た。


「す、すまない。トーマ殿を困らせるつもりでは無かったんだ」


慌てて謝るミリエメ。


「いや、別に謝らなくても…くっ、はっははっ。ミリ、エメさん、顔っ、がぐしゃぐしゃ、ですっ、よ」


謝らなくてもいいと言おうとしたが、涙と鼻水でぐしゃぐしゃな顔で真面目に謝るミリエメを見て思わず、真面目な空気の中での突然の間抜けな顔に不意を突かれツボに入ってしまった、我慢出来ずに笑ってしまう。


夜なので大声を出さないように我慢はしたが完全には我慢出来ずに声が出る、声を出して笑うと気が楽になる、そしてなんであんなに悩んでいたのかが馬鹿らしくなってきた、ミリエメに、この間抜けな騎士に気を遣っていたのが馬鹿らしくなってきた。


笑うとなんだか体から力が抜けて、悩んでいた事にすんなりと答えが出た、なので恥ずかしそうに服の袖で顔を拭っているミリエメに話す。


「ミリエメさん、ハッキリと言います。俺達には恩返しは要りません、そしてミリエメさんの自己満足に付き合う気もありません」


自己満足、そう言われ少し険しい顔になるミリエメに話を続ける。


「偉そうになりますがミリエメさんが今回する事は自分の自己満足ではなく騎士の誇りを貫けるように力をつける事だと思います、だからもっと強くなって、そして今回の様にならないようにしたらいいんじゃないですか?今回は命が助かったんです、運が良かったと思い、今回の事を教訓にしてね」


続く俺の言葉に押し黙ったミリエメに更に言葉を続ける。


「ミリエメさん、だから力をつけて下さい、俺も未熟なので俺が言えるのはそれだけです。今回は俺の方がミリエメさんより力も立場も上です、だから恩返しは要らない、ドゥニエル家の持ち物は全て返却する、その上で明日の朝でお別れです、この条件は受け入れてもらいます」


そう、そうなんだよな、今回は俺の立場が上なんだから俺の考えをミリエメに押し付ける事が出来る、相手の気持ちを、気に入らない相手の気持ちを考える必要は無いしミリエメの悩みを解決する必要もない。


なんで俺はあんなに悩んでいたんだろうな、さっきも考えたけどセッタを殺し、ダリを逃がしてミリエメ達を放り出す、別にそれでもいいんだよな。


だけど今の俺じゃ駄目だ、ジーヴルの公爵に気に入られ王様とも会い、世界に五人しかいない白銀級に教えを受け、リストルでは英雄として歓迎されて、どこか自分は特別だと勘違いしている今の俺じゃ駄目だ。


少し前の俺ならセッタを殺そうとか、害虫だとか思わなかったはずだ、他人だと思って気にせずに町につきだすだけでいいんだからな、だけど勘違いしていた俺は、自分は特別だ、セッタは害虫だ、特別な俺なら殺してもいいって気持ちになっていた、だからレイナはそれを止めた、そんな醜い感情を持った顔をテオとセオには見せるなと。


そうだよな、復讐で殺すのもいい、身を守る為に殺すのもいい、ただ敵を殺すのでもいい、だけど、傲慢に、相手を害虫だと蔑んで殺すのは駄目だ、少なくともそれじゃ仲間に嫌われるだろうからな。


そしてダリ、行動を共にして、身の上を聞いて、俺はダリを悪い人じゃないと思った、だけど盗賊団にいたダリは罪を償うべきだと、それが常識だと、英雄と言われる者は皆に敬われるように綺麗に生きるべきだと勘違いしていた、じゃあ常識ってなんだ?それは俺がこの世界に来る前に植え付けられた常識だ、倫理観だ、だけど今俺はここで生きている、俺の最優先すべき事は自分と仲間だ、だから俺の考えを常識や倫理観に縛られる事はない、迷ったら仲間に相談するだけでいい。


そしてミリエメ、ミリエメの事は折角俺が、特別な俺が助けたんだから死ぬのは許せないって気持ちがあった、最後までちゃんと助かれと、ミリエメ達は俺がいないと途中で死ぬだろうと思っていた、俺に助けられたミリエメ達には特別な俺の庇護がないと駄目だと思ってたんだ。


そのくせ特別な俺と考えが違うからと獣人蔑視の考えを持つミリエメを見下し蔑んでもいた、だから一緒にいたくない、けど死なれると後味が悪くなるなんてどっち付かずの中途半端な考えになるんだ、難しく考えないでいい、獣人蔑視の考えは受けれいられない、だけど見下す事でもない、ただの価値観の違いなんだ、だから俺達とは合わないから共に行動出来ない、最低限の世話と少しの手助けをして別れるだけでその後の事は別に俺が心配する事じゃない、無事に帰れるかどうかはミリエメ達次第だ


だけど、そうだな、俺はミリエメという人に少し感情移入してしまったからな、もう少しだけ手助けをしよう。


考えが纏まった俺は、条件を受け入れろと言われて俯いているミリエメに声を掛ける。


「ミリエメさん、俺はまだ未熟なのでミリエメさんの悩みを解決する事は出来ません。だけど強さ、強くなるという事なら少しだけ手助けが出来ると思います。だから、ミリエメさんも一度馬車に戻って気持ちを落ち着けて、そして強くなりたいと思うなら日の出前にもう一度ここに来て下さい」


「日の出前だな、了解した」


ミリエメも色々と納得してないようだがそれでも頷いた。


「ここでミリエメさんから聞いた話は忘れますから心配しないで下さい」


ミリエメからコップを受け取りながらそう言うとミリエメは再び顔を真っ赤にする。


「あっ、あれはっ、そのっ、トーマ殿は人が悪いな。いや、でもあれは私の早とちりか、そうだな、忘れてもらえると助かる」


俺はリーヴァやレオンの情報を話してしまった事を言ったつもりだけどミリエメは別の事だと思ったようだ、まぁ騎士だなんだと言っても人間だからな、確かにあれは恥ずかしい勘違いだ。


「それと甲冑もちゃんと持っていって下さいね」


俺に言われて置いていた甲冑を持ってミリエメはドゥニエル家の馬車に戻っていった、本当はこのままミリエメの魔力の流れを見て、型を教えてもよかったが次の客が待ってるからな。


そして馬車からずっとこちらの様子を伺っていたリーヴァが出てきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。