森人の弟子
仕事が立て込んでいるのもありますが頭の中にある流れを文に具現化するのに苦戦していて更新も遅い上に短めになってしまいました…。
夫人から語られた里での話は特に珍しい事も無く普通に挨拶をしてお悔やみをしてきたらしい、強いて言えば森人の反応が淡泊な感じを受けるくらいだ。
俺達は里を訪れた時はスゥニィに言われて里には入らなかった、スゥニィ曰く特に用もない俺達が中に入っても誰も気にせず集落の中で適当に夜営をするだけだと、そうなると逆にお前らは相手にされない事を気にするだろうし周りには森人が居るので落ち着かないだろうと言われたのだ。
夫人の話す里の様子を聞いても森人の対応は淡々としているようにしか思えず、それを聞いている他の貴族達も満足そうな顔をしているので特におかしな所も無いようだ、エスターヴ家の当主だけは話を忌々しげに聞いていたが。
そして夫人の報告が終わり王が声をかける。
「無事に森人への弔問を済ませてくれた事ご苦労だった、ハンプニー家に任せた判断に間違いは無かったようだ」
王はそう言って夫人の事を労う、居並ぶ貴族達も同様にご苦労様という雰囲気だ、エスターヴの当主ただ一人を除いて。
そして報告も終わりかと言う所で王が再び声を出す。
「それともう一つ、ハンプニー家の息子が森人の弟子と誼を通じる事が出来たと聞いたんだが」
王様が夫人の横に立つエーヴェンを見る、すると貴族達の目も一斉にエーヴェンに集まる。
エーヴェンは胸の辺りに手を添え軽くお辞儀をし、話を切り出す。
「はっ、私がたまたまポルダにいた冒険者を里への護衛に雇った所、その者も森人の護衛として里へ行く所だったので森人のスゥニィ・フゥド様と同行する事になりました」
エーヴェンの声に貴族達から驚きの声が上がる。
「なんと!」「そのような者が」「人とあまり関わらない森人の弟子など聞いた事がないぞ」
騒然とする貴族達、これってもしかして俺が紹介される流れじゃないのか?
そう思う間もなくエーヴェンが俺を王様に紹介する。
「後ろに控える彼がその森人の弟子、銀上級冒険者のトーマです、彼はまだ銀上級ですが既に金下級の私よりも強く、ゴーレムさえ軽く倒す程です。また彼の仲間はオートマタ、魔物の群を物ともしない強さを持ち、リストルの悪夢を生き残った実績がある実力者達です」
エーヴェンの紹介に貴族達から驚きの声と視線が俺に集まる、その中でエスターヴ家の当主は今日一番の怒りと憎しみを込めた目で俺を睨み付けていた。
「あんな若者が」「ゴーレムを軽くとは」「魔物の群を物ともしないなどとは流石に」「リストルの悪夢は凄腕の金上級がいたから凌げたと聞いたぞ」「だが金下級の彼が自分より強いと」
半信半疑の部屋に王の声が響く。
「静まれ」
その穏やかだがよく通る声を王が一声発しただけで部屋が静まりかえる、鶴の一声ってこういうときに使うんだろうな。
そして王様が俺を見て口を開く。
「ハンプニー家の息子がその方を森人の弟子と言っておるのだが本当なのだろうか?」
俺は異邦人の事や森人の祖の事を言わなければ特に問題は無いだろうとエーヴェンを見る、エーヴェンが俺に頷いたので王に対してエーヴェンと同じ様に胸に手を添えてお辞儀をし、言葉に気を付けながら口を開く。
「たまたま私の滞在していた町の冒険者ギルド、その長をしていたスゥニィ様と縁があり森人の里への護衛を依頼され、その時に報酬として少し教えをうけました」
俺の言葉に一同がざわつく。
「その方が森人の教えを受けた経緯は理解した、だが弟子以上に親密な関係だとも聞いておる、依頼の報酬として森人の装具を贈られたと聞いたのだが?」
そんな事まで知っているのか、でもこの場の反応を見ると森人の事はかなり気にしているようだ、少しでも情報が抜けていると王に対して何か隠し事をしていると思われる可能性もあるなと考え、俺は話せる範囲で話す。
「私と私の仲間はスゥニィ様と大変仲良くさせてもらい別れの際にそれぞれの特徴に合わせた物を戴いたのは事実です」
貴族達からおおっ、という驚きの声が上がる。
「なるほど、今回その方らは森人の里へは入らなかったと聞いたのだがそこまで気に入られているのであれば以前から森人の里ともある程度の交流はあったのであろうか?」
もしかして俺達を通じて森人の里と繋がりを持とうということか?俺は慌てて否定する。
「いえ、おっしゃる通り今回里には入らず、里の外で待機していただけです。スゥニィ様は長くラザの町で暮らしていたようで私達とは個人的なつきあいです、私達は森人の里とは関係がありません」
その説明を聞いて貴族達は残念そうな顔になる。
「むぅ」「個人的にか」「ラザとはどこだ」「確かステルビアでも東の方だったと」「どこかのギルドで森人が長をしていると聞いた事があるがステルビアの町か」
色々と言い合う貴族達を再び王が静め、そしてこの場での話を締める。
「森人との関係を少しでも良くしたいと思ったのだが個人的な付き合いにまで口を出すのは問題であるな、その方が里とは関係ないという事はわかった」
王はそう言って頷く、この王の言葉で森人の弟子と聞いてギラついていた貴族達の俺に対する目が少し和らいだ。
そして王がこの場を締める。
「ハンプニー家夫人、今回の弔問ご苦労であった」
そのまま王は立ち上がり、兵に両側を守らせながら玉座の側にいた人と一緒に別室に戻っていった。側にいた人に鑑定をかけてみたら案の定ステータスに大臣と出ていた。
さて、報告も無事に終わり王も戻ったのでどうするのかと思っていると他の貴族達が俺達の元に集まってくる、夫人に労いの言葉をかけた後に俺にも質問攻めをしてくる貴族達、王の個人的な付き合いに口を出すのは問題という言葉が無かったら連れて帰りそうな勢いだ。
俺は群がる貴族に適当に返事をし、色々と聞かれた後で漸く解放され部屋を出た。
「トーマ君、王様に対する受け答えも堂々として完璧だったし礼儀も大丈夫だったよ」
「そうですか、それなら良かったです」
エーヴェンに教えてもらった挨拶の仕方などはどうやら大丈夫だったようだ、これで屋敷に戻れると思いながら歩いていると緩やかに曲がる通路の先の方に反応が二つ出る、一つはエスターヴ家の当主だ。
エーヴェンにその事を話し、少し警戒しながら歩いているとエスターヴ家の当主ともう一人が見えてきた、そしてエスターヴの当主が歩いて来る。
「アンネ夫人、この度は森人の里への弔問という大役を無事に済ませる事が出来たようで何よりです」
笑顔を浮かべ胸に手を添えながらお辞儀をするエスターヴの当主。
「いえ、それほどでもありませんでしたわ」
夫人の方も同じく胸に手を添えながら軽く頭を下げる。
「ご謙遜を、かなり危険な旅で途中何度か危ない目にあったとか、無事に済んで何よりです」
顔に笑みを張り付けたまま表面上は和やかに話す二人、そして当主はエーヴェンに目を向ける。
「息子のエーヴェン君も立派な冒険者になったようだ、それに森人の弟子とも知り合うことが出来たようで羨ましいですな」
そして俺を見る、顔は笑っているが目は笑っていない顔って初めて見たな。
そのまま社交辞令的なやり取りをして俺達は別れた、別れ際にエスターヴ家の当主の側にずっと立っていた男に鑑定をかける。
アルヴァ:53
人間:公爵家執事
魔力強度:76
スキル:[隠密] [剣術] [体術] [身体強化] [交渉] [礼儀作法]
公爵家の執事なのに物騒なスキルを持っている、俺は男の魔力を覚えながらエーヴェン達と馬車で屋敷に戻った。
エスターヴ家の屋敷に戻った当主は書斎に入るとアルヴァに話し掛ける。
「あの小僧が例の冒険者らしいがどうだ?」
当主に聞かれたアルヴァは静かに口を開く。
「幼い見た目とは違いかなりの使い手に見えました、通路の先にいた我々にも気付いていたようなので彼が感知スキルも持っているのでしょう。彼が居る間に事を起こすのは得策では無いかと思います」
たんたんと話すアルヴァに当主は腕を組み少し考える素振りを見せる。
「お前がそこまで言う程か、だが今回の件でハンプニー家は更に王の株を上げた。このままでは先に王太子とハンプニーの娘との婚約を正式に発表しそうな勢いだ。アルヴァ、なるべく早くハンプニー家の信頼を落とすか娘を始末する方法を考えろ」
当主の言葉に執事は表情を変えずに頷き、書斎を後にした。




