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謁見

「お前達から見て彼はどう映った?」


ハンプニー家当主のダスティンがトーマの出ていった入り口を見ながら息子達に声をかける。


「俺はアイツと敵対したくないな、父さん奴隷を買うって話は半分本気だっただろ」


長男であるライズの言葉に次男のジルが顔を顰める。


「兄さんその言葉遣いは直せって何度も言われてるでしょう。父さん私も彼とは仲良くした方が良いと思います、奴隷の話が出てからの彼の目は父さんを敵として見るような目でした、それに私には詳しく把握出来ませんが実力も相当高そうですね」


二人の言葉に当主のダスティンも頷く。


「エレミーが獣人の子を本気で気に入っていたから金で片がつくならと思ったんだが彼は金では動かない人間のようだな。冒険者は本来わかりやすいものだが極希に彼の様に周りとは違う価値観で動く人間もいる、彼のように金や名声に囚われない人間は扱いにくいものだ」


ダスティンはそう言って息子達を見ると楽しそうに笑う。


「どうだ?それを承知でエレミーの為に彼と敵対してみるか?」


ダスティンの言葉をライズは手をひらひらと振って否定する。


「勘弁してくれ、たかが獣人の奴隷一人手に入れる為にあんな恐ろしい奴と敵対するのはごめんだ、奴が父さんを冷めた目で見据えた時に部屋の温度が下がった気がしたぜ、さっきも言ったがあんな目をする奴とは敵対したくないって」


冗談は辞めてくれと言わんばかりのライズの言葉にジルも同意する。


「父さん、公爵家の力を使えば無理矢理にでもその奴隷を取り上げる事は出来ると思いますがエーヴェンから聞いた彼等の力を信じるならその為にどれだけの犠牲を払うか、私も反対です」


奴隷という言葉を使う兄達にエーヴェンが横から補足をする。


「兄さん達もトーマ君と敵対したくないなら奴隷なんて彼の前では言わないでくれよ、ジーヴルでは当たり前だけど余所では普通に暮らしている獣人もいるんだ。エレミーが気に入っている獣人の子をトーマ君は妹だと言っているしね、一度クリスがその事でトーマ君を怒らせてしまってね、クリスからトーマ君に謝って何とか許してもらえたけど彼は自分の事よりも仲間の事を言われる方が許せないみたいだからね」


エーヴェンの言葉にジルが驚きライズが面白そうな顔をする。


「へぇ…、あのクリスが冒険者、しかも年下に謝ったのか、獣人の子を奴隷って言っただけで?あの貴族至上主義のクリスが当たり前の事を言っただけで冒険者に謝るとは信じられないな」


ジーヴルは獣人界から一番離れている国なのでジーヴルに住む獣人は奴隷として売られて来た場合が殆どだ、なのでジーヴルでは獣人は奴隷というのが一般的な考えだ、首輪をしていなくても奴隷か開放奴隷かの違いという認識にしかならない。


「まぁ何にせよ彼と揉めるのは辞めた方がいいでしょう、特に今は時期が悪いと思いますよ父さん」


クリスがトーマに謝ったと聞いた驚きから立ち直ったジルがダスティンに向かって話す。


「エスターヴ家か、確かにあの家は許せねぇな。エレミーを始末しようなんて手を本気で打つとは思わなかったぜ」


横からライズも真面目な顔でジルに続く、二人の言葉にダスティンは深く頷く。


「森人の里への弔問に向かう時に仕掛けてくるとは流石に私も無いと思ったんだがな、どうやら向こうは本気でエレミーを始末しようとしているようだな」


森人はこの世界では始まりの民として知られ、特に里に近いジーヴルでは崇められている、その森人の里への弔問を邪魔した事が知られたらいくら公爵といえど糾弾されるのは間違いない程の大事だ、その為にエーヴェン達も油断していたので最初の襲撃で里に行くのに必要な感知スキル持ちを失った所もある、ジーヴルの貴族、しかも公爵であるエスターヴ家が邪魔をするとは同じ公爵のダスティンには考えられなかったのだ。


「そうだ、城に報告に行く時にはトーマも連れていくんだろ?ならトーマとエスターヴ家を敵対させちまえばいいんじゃないか?」


まるで名案を思い付いたかの様に話すライズにエーヴェンが苦笑いをする。


「それは辞めた方がいい、トーマ君が怒ったらエスターヴ家の当主を本当に殺してしまいそうだ、向こうから仕掛けてくるならいいけどトーマ君から仕掛けたら滞在させているハンプニー家もマズイ事になるでしょう?」


「あぁ、確かにさっきのやり取りを見てるとそれもありえるな」


良い案だと思ったんだけどなと言いながらライズは頭の上で手を組んで椅子にもたれる。


それにしても、と息子達の話を聞いていたダスティンはエーヴェンに問い掛ける。


「彼はラザで冒険者になった事までは調べる事が出来たんだがそれ以前の情報が全く入らない、お前は何か知っているか?」


ダスティンの問いにエーヴェンも首を横に振る。


「俺も詳しくは知りません、ただトーマ君は最近まで父親と二人で住んでいて、ずっと外に出ずに幼い頃から父親に鍛えられていたみたいですよ。父親が他界したのをきっかけに家を出た様です。森人の里へ行った後はヒズールに行く予定だったらしいのでヒズールの近くに住んでいたのかもしれません」


「成る程、ヒズールか。彼は黒髪だしそうかもしれんな、ヒズールの方はなかなか情報が出てこないのであまり情報が無いのもおかしくはないか」


ダスティンはエーヴェンの言葉に頷く。


「エーヴェン、彼の様な人間は金などで動かない分、一度味方にすると信用出来るはずだ。それに彼はまだ若さ故に力や感情に振り回されているが成長すると大物になるぞ、今の内になるべく関係を深めておけ、何かの時には彼は使えるかもしれん」


エーヴェンはダスティンの言葉に言われなくてもそのつもりですよと返す、そしてトーマや仲間の力、性格等を詳しく話し、更に四人はエスターヴ家への対応等を話し合った。








「おっ、美味い」


部屋に戻った俺は早速ロルドに頼んで食事を取っていた、量を多めにと言ったのが良かったのか今度は満足出来る程に食べられたし味もちゃんと感じる事が出来る、より美味しくなる様に順番を考えて出す先程の様な食べ方もいいのかもしれないが今回は纏めて最初に出してもらった、庶民の俺は自分のペースで色々と食べる事が出来た方が気楽でいいな。


食事を終えると側にある鈴を鳴らす、音が鳴って直ぐにロルドが部屋に来た、俺はロルドに食事を終えた事を伝え、食器の片付けをお願いして準備を整え眠る事にした。


リズ達はずっと公女の部屋で過ごしている様だ、家の警備もしっかりしている様だしと俺は空間把握を切り、大きなベッドの上で久し振りにゆっくりと眠りについた。




それから四日間は何事も無く獅子の鬣のメンバーと修行をする日が続き、そしてエーヴェンの予想より少し遅いが明日の朝、城に行くことが決まった。


「はぁ〜遂にこの日が来たよ」


修行の休憩中に溜め息を吐きながらつい口から不安が出る。


「兄ちゃんあのでっかいお家に行くんだろ?凄ぇよなあの家、この家にもビックリしたけど人が住む為にあんな大きい家を造るなんて人間界は面白いよな」


テオが獣人らしい意見を顔を弾ませながら元気に言うと周りの子供達も一緒に騒ぎだす。


「トーマ兄ちゃん王様に会うんだろ」「リックは会った事無いって言ってたぞ」「さすがテオ兄ちゃんの兄ちゃんだな」「将来王様になるのか?」「違うトーマ兄ちゃんは英雄だから呼ばれたんだぞ」


俺とテオは兄ちゃんでリックが呼び捨てなのは付き合いの長さかリックの性格か、この四日間で子供達も大分なついてきた、テオは同年代を纏める力があるのかどこに行っても兄ちゃんと慕われるな。


「俺は王様にもならないし英雄でもないよ、エーヴェンさんのお供で行くだけだからな?英雄なんて他の人に言っちゃ駄目だぞ」


リックが教えたんだと思うが子供は話を誇張する事があるからな、釘をさしておかないと。


俺が子供達と遊んでいると夫人達とお茶を楽しんでいたリズがこちらに歩いてきた、修行二日目から夫人達も見学がてら庭に出ているのだ、修行の動きが面白いらしい。


「トーマ明日城に行く事が決まったんだってね、城ではトーマは喋っちゃ駄目だよ?それと一人だから無いと思うけど私達が馬鹿にされても怒らない事、夫人から聞いたけどトーマは当主にも不満気な顔を見せたんでしょ?不愉快に思う事があっても相手の立場を考えてね」


リズに心配されてしまった。そうだよな、立場がある人は自分の立場によって引く事が出来なくなるし、俺が城で何かするとハンプニー家にも迷惑がかかるしな。


「大丈夫、石になってやり過ごすよ」


リズに力強く頷き、そろそろ食休みも終わりなので修行を再開する事にした。


その日も普通に修行で一日を終え、明日の準備をして横になる、なかなか寝付けず夜中まで広いベッドの上でゴロゴロしていたが気付いたらいつの間にか寝てしまったらしく朝になっていた。



少し寝不足気味の頭のまま冷たい水で顔を洗い、頭をスッキリさせてから俺はエーヴェンの用意してくれた服に着替える、用意してくれたのは学校の音楽室に飾られていた偉人の絵に描かれている様なゴテゴテした服だ、黒を基調としているのがまだ救いか。


着心地はあまり良くない、ジーヴルでは王様に会うのにそれほど厳格に作法がある訳では無いが最低限の決まりと服装があるらしいので仕方ないか。


「トーマ君なかなか似合ってるじゃないか」


屋敷を出て門に向かうと既に外に出ていたエーヴェンが褒めてくれたが多分お世辞だろう、部屋にあった姿見で自分を映してみたが服に着られているといった感じだったしな、見送りに来ていたリズ達も何も言わないし…。


ちなみにこの世界では安価な鏡は無く、銀を特殊な研磨剤で磨きあげて作るので姿見程の大きさだと金貨三百枚はするそうだ、流石公爵家。


レイナが服装の事に触れず、城では頑張って来て下さいねとしか言わなかった事に若干ショックを受けながら夫人を待つ。


暫くして小さめだが豪華な装飾のされた馬車が出てきた。


「じゃあ行こうか、リズさん留守番よろしくね」


エーヴェンが馬車に乗り込み、俺も皆に言ってくると声をかけて乗り込む。


馬車の中は二人ずつ向かい合って座れる様になっていて真ん中には小さなテーブルが置かれていた、夫人とエーヴェンが並んで座っていたので俺は向かいに座る。


夫人手ずから紅茶を入れてくれたので有り難うございますと言って口に含む、緊張しているせいで口の中が乾いているからな。


馬車がゆっくりと進み、空間把握からリズ達の反応が消える。


三十メートル以内に何か反応が入ればエーヴェンに教える手筈になっているが特に問題はなく、遂に城に着いた。


御者と門番が何かやり取りをして馬車が門の中に進み、城の側に馬車が停まり俺が先に降りる。


目視でも空間把握でも怪しい反応は無いのでエーヴェンに大丈夫ですと声をかけ、エーヴェンが先に馬車を降り夫人をエスコートして降ろす。


目の前を遮っていた馬車が所定の位置に向かうと城を間近で見る事になる、レンガを大量に使った建築物は身体強化があるとはいえ重機の無い世界でこれ程大きな物を建てるのはかなりの手間だろうなと想像させられる。


「じゃあ行こうか」


エーヴェンの声に我にかえる、もう少し見たかったが今回は見学に来たわけじゃないしな、俺は空間把握を最大限に使いエーヴェン達と一緒に城に入る。


城の中は通路が全体的に大きく作られていて広い空間になっていた、三人の足音がコツコツと音を鳴らす、この音好きなんだよな。


エーヴェンと夫人が迷わず進みその後をついていく、そして兵が二人側に控える大きな扉の前に来た。


兵とエーヴェンがやり取りをし、二人の兵が扉を押し開けたので中に入る、謁見の間というのか、中には両脇に沢山の人がいる、右の列の一番奥にはダスティンが立っている、そして左の列の一番奥には少し太った男が立っていた、整えた金髪に立派な口髭を蓄え、蔑むような目で俺達を見ている、あれがエスターヴの当主か。


エーヴェンから謁見の間でのエスターヴ家の立ち位置を聞いていたので赤い絨毯の上を二人について歩きながら鑑定をかける。



ドラク:エスターヴ:61


人間:公爵家当主


魔力強度:17


スキル:[交渉] [話術]



魔力強度は町の人より少し高い程度でスキルも無い、あまり戦うのが得意では無いのかそれとも小さい頃に真面目にやらなかったのか他の貴族に比べたら物足りないステータスだな。


俺達は部屋の中央まで歩き片膝をついて頭を下げる、謁見の間の奥にある別室から反応が一つ入ってきて玉座のあった場所の側に控える、そしてもう一つ別室から反応が入ってきた。


その反応が玉座のあった場所に座ると最初に部屋に入ってきた反応から声がかかる。


「面を上げよ」


俺達は顔を上げて正面を見る、玉座には王冠を頭に乗せた優しそうな男の人が座って俺達を見ていた。



リチャード :ジーヴル:46


人間:ジーヴル国王


魔力強度:31


スキル:[剣術] [身体強化] [気品] [威風]



王様なのでもっとしわくちゃなお爺ちゃんを想像したけど結構若いな、それに王様といえども体を鍛えるのか身体強化を持っていた、威風のスキルが示す通り優しそうな顔だが何となく威圧感があるな。


「では夫人、里での話を聞かせて欲しい」


王様の声に俺達は立ち上がり夫人が一度頭を下げてから里での出来事を話し出した。


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