修行初日
少し短めです。
「ぐっ」
倒れ込んだ俺は、脇腹を抑えながら仰向けになる。
「大丈夫か?」
ポーションを片手に足を引き摺りながら歩いて来たケジローに、痛む脇腹を手で抑えながら何とか頷く。
上体を起こし、ケジローから受け取ったポーションを飲み干すとやんわりと痛みが引いていく。
「まだまだ大丈夫であろう。今日はどのくらい動けるかを見るだけじゃからな、手加減はしてある」
アカネの言葉にケジローが苦笑いを向けながらも俺に手を差し出してきたので、その手を握るとグイと引き起こされた。
立ち上がった俺は皆の方に目を向ける。皆も肩や腕、何処かしら身体の一部が痛むのか手で抑えたり摩ったりしている。
キキョウやケジローも加え、この場にいるアカネ以外の皆は息も絶え絶えといった感じだ。俺達が何故こうなっているのかと言うと――。
「よし、では最初は「はい!俺!」」
アカネが言い終わる前にテオが手を挙げる。
「元気なのは良いが年長者の話は最後まで聞かんか」
手を挙げるテオに苦笑いをしながら、まぁ良いと言ってアカネが構える。
「来い」
アカネが言葉を発すると同時にテオが飛び上がる。
『拍――』
「悪手じゃ」
テオは恐らく拍車を使おうとしたのだろうが、いつの間にか間合いを詰めていたアカネに叩き落とされる。
「いつつ」
「積極性は買うが何も考えずに飛び上がる奴があるか」
アカネは、頭を打たれ地面に叩きつけられて痛そうに声を出すテオにそう言って、俺達の方を向き、構えを取る。
「次」
「お願いします」
言われてリズが一歩、前に出る。
リズはテオと違い、ゆっくりと近づく……と見せかけて縮地を使い飛び込む。
『縮地』
緩から急に、そのいきなりの動きに俺とテオはいつもタイミングを外されて打たれるのだが――。
「甘い」
「痛っ」
ただ半歩、身体を横にズラし木刀を軽く振ったようにしか見えないのだが、そこに丁度リズが飛び込み、上手い具合に脚を払われた。
「動きの速さは中々のものじゃが、真っ直ぐすぎる」
「つつ、は、はい」
脚を払われたリズは勢い良く転んでしまったが、直ぐに立ち上がり頭を下げる。
アカネはリズのその態度に笑みを浮かべながら頷き、再び俺達の方を向いて構える。
「次」
「お願いします」
俺はレイナとセオを手で制し、一歩踏み出す。
『疾風迅雷』
風の魔力を纏い、飛び出す。が、アカネの間合いの直ぐ手前で立ち止まる。
テオとリズのやられ方を見ていたので、どこから攻撃しても通用する気がしない、どうやって攻めるか……っ!
「っと」
木刀の間合いの外にいたはずのアカネが突然目の前にいて、袈裟斬りに振り下ろしてきた。俺は考える暇も無く、上体を逸らして何とか木刀を躱す、だが――。
「うおっ」
俺の左側に振り下ろされた木刀が間髪入れずに返ってくる。ヤムシロでは同じ手でキキョウに脇腹を打たれた。だから俺はそれに反応し、なんとか左手の籠手で受け止め――。
「うぐっ」
「良い動きじゃ、最初から三手が必要になるとは思うてなかった」
アカネは木刀の柄を俺の鳩尾に打ち込みながら、ニヤリと笑みを浮かべる。
「下がっておれ」
「は、はい」
痛む鳩尾を抑えながら何とか立ち上がり、リズとテオの側に行く。
「次」
アカネの言葉にレイナが前に出る。レイナは組手が始まる前に、薙刀の代わりだと言って長い棒、いわゆる棍を渡されていて、それを中段に構えながらゆっくりと間合いを詰める。
「やあっ」
声を出しながら、棍のリーチを生かしてアカネの間合いの外から突きを放つが、アカネはレイナの突きを木刀で絡め、そのまま棍を跳ね上げる。
そして棍を手放したレイナの首に木刀を添える。
「武器を簡単に手放すな、と言いたい所じゃがお主はまだ武器の扱いに慣れておらぬな」
「ありがとうございます」
レイナはアカネの言葉に頭を下げ、それから落ちている棍を拾い、側で待っている俺達の所に歩いてくる。
最後はセオだ。
「来い」
「はい」
セオはアカネの言葉に一度頭を下げてから、低く構える。その体勢のまま少し前に進み、そして左足で踏み込み右側に跳ね、更に右脚を使い左側に跳ね、ジグザグに動きながら近付いていく。左右に大きく、的を絞らせない動きから一気に飛び込みアカネの顔を目掛けて左の拳を突き出す。
「良い動きじゃ」
言いながら半歩後ろに退がりセオの拳を躱すと、右手を軽く振るいセオの背中を打ち付けた。
「つっ」
「大きな動きは相手を惑わすには有効じゃ。加えて動く前や動きの最中に目くらましでも出来れば尚更じゃな」
言ってセオが頭を下げるのを見てから、アカネは俺達の方に向き直る。
「よし、では最初からじゃ」
アカネの攻撃は随分と手加減をされていたので、待っている間に痛みは殆ど治った。俺達は頷きを返し、元いた位置に歩き出す。
そこにアカネが声を掛けてきた。
「それとな、トーマとリズ、テオは文言を使うのは無しじゃ」
その言葉に首を傾げると、アカネが言い直す。
「あぁ、すまん。中央では呪文と言うんじゃったな。今では使う者は滅多にいないと聞いていたのでお主らが使えるとは思わんかった。これには儂もいささか驚いたのじゃが……今日は呪文無しでの動きが見たい。だから呪文の使用は無しじゃ」
そう言われて驚く、確かにミチナガやキキョウ、アカネの持つ文言というスキルは気になっていたが、まさか呪文の事だとは。
ラザで出会ったスーヤも呪文の事を知っていたし、昔より廃れたとは言え呪文の存在は確かにまだ残っているようだ。
戸惑う皆を促し、再びアカネの向かい側に並ぶ。
「ではこれからはキキョウとケジローも入れ。それから、横で待っている者もただ見ているだけではなく考えながら見るように」
アカネがそう言うと、少し離れて立っていたキキョウとケジローが歩いて来る。
「あぁ、それとな、儂の攻撃は徐々に強くなっていくのでそこも意識して向かって来るのじゃ」
その言葉を聞いたケジローが肩を落とす。
それから俺達は、徐々に強くなるアカネの攻撃をポーションで何とか癒しながら、日が暮れるまでアカネとの組手を繰り返していった。




