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アカネとの話し合い

 

「母上、お久しぶりで御座います」


 庭で待っていたアカネに、キキョウが少し緊張した面持ちで頭を下げる。言われたアカネは抑揚に頷く。


「うむ、久しぶりじゃな。心配はしておらんかったが、噂は色々と聞いていた。早速その話をしたいところではあるが、まずは客人を紹介してもらえるか?」


 そう言ってアカネが俺達を見る。俺達はキキョウに促され、馬車を停めてアカネの前に並ぶ。

 俺達が馬車を停めて降りている間にケジローもアカネと話をしていた。


「母上、この方達はステルビアから来た金下級冒険者のトーマ殿、同じく金下級冒険者のリズ殿、レイナ殿。それと銀下級冒険者のテオ殿、セオ殿です」


 キキョウに紹介された俺達は一斉に頭を下げ、そして顔を上げる。


「うむ、この若さで金下級になるだけあって、みな才ある若者のようじゃな」


 切れ長な目の中にある、吸い込まれそうな黒い瞳で俺達を見回し、頷くアカネ。

 長く艶のある黒髪を後ろで束ね、均整の取れた眉と鼻筋、若々しさを感じる張りのある白い肌、更に同じ裃姿で並ぶアカネとキキョウを見ると、親娘と言うよりは姉妹と言う方がしっくりくる。

 やはり魔力強度と比例して年齢も若く見えるようだ。


 俺がアカネの容姿に見惚れていると、隣にいたリズが弾かれたように口を開いた。


「あっ、あのっ!白銀級冒険者の、一閃のアカネさんですよね?よ、よろしくお願いしますっ!」


 目をキラキラさせ、勢い良く頭を下げるリズに、アカネはふっと笑みを見せる。


「一閃とは少し大げさじゃが、白銀級冒険者のアカネ・ホナミじゃ。よろしく頼む。して、今回はどのような用件でここに?」


「あ、それはこちらを読んでもらえますか?」


 アカネの問いに、俺はミチナガから貰った紹介状を手渡す。


 紹介状を読み終わったアカネが一つ頷いた。


「あいわかった。では、このまま立ち話をするのもなんなので屋敷の中で話をしようか。キョウはお客人の案内を、ケジローは厩舎への案内を任せる」


 そう言って屋敷に向かって歩き出すアカネ、案内しろと言われたキキョウがリズ達を案内し、俺とケジローは馬車を停める為に厩舎に向かう。


「ケジローさんはこの屋敷内の案内を任せられる程、仲が良いんですね」


「まぁお嬢もアカネ殿も小さい頃から知っているし、大きくなってからはこの庭で沢山扱かれたからなぁ」


 俺が尋ねると遠い目をしながら答えるケジロー。どうやらこの庭には色々な思い出があるようだ。


 ケジローの思い出話を聞きながら、馬車を片付けニィルを厩舎に繋ぐ。敷地が広いだけあってそこらの宿よりも立派な厩舎だ、広々とした空間にニィルも満足そうに嘶く。


 ニィルにまた後で来るからなと声をかけ、頭を撫でてからケジローと一緒に屋敷に向かう。


「馬場もあるので後で走らせる事も出来るぞ」


「へぇ、庭も立派だったけど馬場まであるんですね」


「アカネ殿は歴代でも類を見ない程に国に貢献した侍だからな、この屋敷も国主から賜れたんだ。それにさっき俺達が入ってきたのは裏門だからな、だからトーマが見た庭は裏庭だぞ」


 裏庭?そう思いながら屋敷の外廊下を曲がると目の前にとても大きな空間が現われた。


 外廊下から庭に続く道には砂利が敷き詰められ、道の側に沿って芝生が植えてあり、所々に立派な木も生えている。そして小山があり、大きな池がある。その池の中には浮島もあるというのがその庭の広さを表している。テレビの時代劇でも見た事がない様な広大な庭だ。


「凄いだろ?でもアカネ殿はこういうのをあまり好きじゃないらしくてな、だからいつも裏庭で汗を流しているんだ」


「凄いですね。なんと言って良いか、言葉がみつかりません」


「ははっ、この広さは個人の住む屋敷じゃないよな。おっと、外履きはここで脱いでくれ」


 庭に目を取られながら歩いていると靴を脱ぐように言われたので素直に靴を脱ぐ。そして外廊下から中廊下に上がる階段を登り少し歩くと皆の反応がある場所についた。


 ケジローが襖を開けると、二十畳ほどの部屋の中に皆が正座をしていた。


「失礼します」


 一言断りを入れて、ケジローと一緒に中に入る。部屋の中は畳張りで、真ん中に囲炉裏があってそれを皆で囲んでいる形だ。

 上座――囲炉裏の場合は横座って言うんだったか――にキキョウとアカネが座り、そこから時計周りにリズとレイナ、セオとテオが座っているので空いている場所に俺とケジローが座ると丁度八人で囲炉裏を囲む形になった。


「では、みな揃ったようなので話を始めようか」


 キキョウが俺とケジローのお茶を淹れてくれるのを待ち、アカネが口を開いた。


「まず、うちの未熟な娘が迷惑を掛けた事を詫びたい」


 そう言って、頭を下げるアカネとキキョウ。


「それで、お主達を鍛えて欲しいという話なのだが……そうじゃなぁ」


 アカネはそこで一度言葉を切り、俺達を見回す。


「ある程度の実力はあるようじゃし良かろう」


「本当ですかっ!」


「うむ、四年振りに帰ってきたキョウも鍛え直すつもりだったので問題は無い」


 興奮するリズに笑顔で答えるアカネ。


「ミチナガ殿の文に性根もしっかりしていると書かれておるし、こうして相対して見ても実力の程も大丈夫そうじゃ。少々厳しくしてもついてこれるであろう」


 アカネの言葉に、やった!と嬉しそうに喜ぶリズとは対照的に、厳しくしても大丈夫という部分でケジローの顔色が悪くなったのだが気のせいだろう。


「それで、鍛冶師を紹介して欲しいという事じゃが、これはお主の刀を鍛え直すという事で良いのか?」


 言ってリズの持つ刀に目を向けるアカネ。


「いっ、いえ。私の刀ではなくて、妹のレイナの杖に使いたいんです。え〜っと、トーマ、説明お願い」


 リズに話を振られたのでレイナから杖を借り、それをアカネに見せながら説明する。


「この杖なんですけど、こう、先端の部分を少し改良して刃を付けて、薙刀にしたいんです」


 これは、俺の知識話の中で長い柄と刀の刃を持つ薙刀の存在を聞いたスゥニィが、レイナの杖を作る時に魔力の制御もでき、武器にもなりえる薙刀を完成形として思い付いたのが始まりだ。

 強力な魔法を持っていても、それを使う前に接近されては意味が無い、なので魔法だけに頼らず接近戦でも戦えるようにというスゥニィの考えに合った武器が杖としても使え、武器としても使える薙刀なのだ。


 俺の説明を聞いていたアカネが薙刀という言葉に反応を示す。


「名はトーマ、だったな。刀とは違い薙刀の存在を知る者は国外にもそう居ないはずなのじゃが、その存在を知っているという事はトーマはヒズールの出か?」


「あっ、いえ。そういう訳ではないです。薙刀の事は、俺達が教えを受けていた森人のスゥニィから聞かされました」


 黒髪黒目、顔立ちのせいか何かあると直ぐにヒズールとの繋がりを聞かれるな。スゥニィには悪いがこういう時はスゥニィ頼みだ。長年生きる森人で元白銀級冒険者のスゥニィなら色々と知っていても不思議では無いだろう。


「お主らスゥニィ殿に教えを受けていたのか。成る程、その年で金下級というのも頷けるの」


 流石スゥニィ、案の定その名前を聞いてアカネも納得してくれた。


「アカネさんはスゥニィと知り合いなんですか?」


「ん?いや、儂は滅多にヒズールから離れる事は無いし、スゥニィ殿がヒズールに来たという話も聞いた事は無いぞ。ただ、スゥニィ殿の噂は外と交流の少ないヒズールに居ても何度も聴こえて来たものじゃ。お主らを見ると噂は正しかったようじゃな」


 そう言って笑顔でスゥニィの事を話すアカネ、その様子を見ると悪い噂ではなかったようだ。


「すまぬ、話が逸れたな。魔力との親和性の高い金属か、儂の知り合いの鍛冶師に聞いておこう」


「お願いします」


 薙刀の件を引き受けてくれたアカネに全員で頭を下げる。


「儂の指導、薙刀に使う金属、鍛冶師の紹介の話はこれで良いの。最後はヒズールでの食材か」


「あの、アカネさんの指導なのですが、休日とかはありますか?もしあるのならその日に自分達で探してみます」


「あぁ、休みは勿論あるぞ。トーマ達に希望があるのなら今で決めておいた方が良いな」


「では日の光でお願い出来ますか?」


「ん?一日で良いのか?」


 そう言われ頷く、隣でケジローが激しく首を振っているが週休二日にした方が良かったのだろうか?まぁ俺達は強くなりたいので修行の日数は多い方が為になるしこれで良いだろう。


「あいわかった。キョウが迷惑を掛けた分、儂も真剣に鍛える事で応えよう。よろしく頼む」


 アカネの言葉に俺達が頭を下げて話が纏まった。俺の隣で激しく首を振っていたケジローが諦めた様な顔をしているのが不安になるが、修行で死ぬ事は無いだろうし大丈夫だろう、きっと。


「よし!では早速始めよう、と言いたい所じゃがそろそろ昼食じゃな。そこの、レイナとセオはヒズールの調理法に興味があるようじゃがキョウの手伝いをお願いしても良いか?」


「はい」「お願いします」


 レイナとセオが揃って答え、キキョウと一緒に部屋を出て行った。

 ちなみにレイナとキキョウの関係はまだ少しぎこちないが、野営の時にリズが間を取り持ちながらキキョウと一緒に料理をした事で大分マシになっている。


「では料理が出来るまでの間、お主らの話を聞かせてもらっても良いかの」


 アカネに聞かれ、俺達の事を話す。

 レイナが治癒魔法を使えると聞いたアカネの目がギラリと光った気がしたが気のせいだろう、ケジローが青ざめた表情になったのも気のせいだ。




 それから暫くして、レイナ達が料理を膳に乗せて運んで来た。

 運ばれてきた料理を見てテンションが上がる。


 白米、焼き魚、煮物、味噌汁の完璧なメニューだ!この世界に来て初めての白米は甘くてそれだけでも三杯は食べられる程に美味しかった。

 俺達に気を利かせたのか膳には箸とスプーン、フォークが準備されていたが、俺は迷わず箸を取る。そして箸をアッサリと使い熟す俺にアカネ達が不思議そうにしていたが、父親から習ったと言って誤魔化した。


 大満足の食事を終え、少しの食休みを取る。アカネはキキョウやケジローが侍になってからの話を聞いているようだ。

 俺達はテンションの高いリズを中心に話をする。


 その時にヤムシロの食堂でリズとレイナが魔力会話で何を話していたかを聞いてみる。


 どうやらリズは、ミチナガがアカネの名前を出した時、直ぐにそれが白銀級のアカネだと気付いたようで、どうしてもアカネの指導が受けたくてレイナを説得していたらしい。

 そのリズの押しもあって、あの時レイナはキキョウに同行するように進んでお願いしたようだ。


 俺はジーヴルで白銀級冒険者としてアカネの名前を聞いていたのに鑑定するまで全く気付かなかった。

 その事を話すとリズに信じられないと言われたのだが、俺ももう少し仲間や知り合い以外の人にも興味を持つべきだろうか。そんな事を考えながら食休みが終わるまで会話を楽しんだ。

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