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呪文は簡単

 春休みのある日、何故か俺は異世界トリップをした。そして現在も元の世界に帰れずにいる。

 あの日は、出かけようとしたら気を失って、目を覚ましたら浜辺だった。その時の俺は、それはもう驚いた。なにせ海なんか片手で数えられる程しか直接見たことのない山国暮らしだから。

 家からかなり遠い所にいることはわかったが、どこの海なのかはさっぱりわからなかった。携帯電話は圏外で何の役にも立たなかった。どうしようもないから海を眺めて現実逃避なんてことをした。

 その後、俺は六人の男女に発見されたのだが、その時の俺からすれば変な人たちだった。妙な所でコスプレなんぞしている謎の集団に思えた。杖とか剣とか持っていたし、全員ではないが髪と目の色が普通はない色をしていたからだ。

 俺も彼らも互いに何を言っているのか全然わからなかった。おかげで俺が日本にいない可能性が高いことはわかった。

 会話を諦めた彼らに、ついてくるようジェスチャーで指示されたので俺はそれに従った。しばし歩いて着いたのは小さな村で、ヨーロッパのどこかの田舎という印象を受けた。自動車やアスファルトが見当たらなくて、昔の世界を見ているように思えた。

 その村には翼の生えた白い馬がいた。どう見たってペガサスだった。驚いていたら茶色いのも連れられてきた。この時、俺を見つけた人たちの色は偽物でないことと、別にコスプレなんてしていないことをなんとなく悟った。

 まさかのペガサスによる初めての空の旅の後、突如現れた女神様によって俺はこの世界の言葉がわかるようになった。恐らくあの女神様が俺に異世界トリップなんてことをさせたと思うのだが、女神様は「頑張れ」と言い残すと、何も教えてくれずに姿を消した。

 この世界の人たちと話せるようになったことで俺は、ここで自分がやるべきことを知った。

 俺の役割は、勇者と呼ばれる人の手伝い。

 勇者は、詳細がわからない謎の道具集め兼、魔物という変な存在を倒してあちこち回る旅に出る。それについていって補助をするのが俺。そうさせなさいと女神様が言ったらしい。

 話を聞いた俺は戸惑った。女神様が何を考えているか知らないが俺はただの高校生だ。進学校に通ってはいるが優秀というわけではないし、運動が苦手なわけではないが何かの記録が特別いいわけでもない。だから、役立たず通り越して足手まといの可能性があることをこの世界の人に伝えた。そうしたら「魔法を教えて差し上げます」と言われた。

 そんなわけで異世界生活二日目に、俺は魔法を教わったのだが……魔法の呪文は、どう聞いても日本語だった。ついでに、俺の魔力というものがかなり強いということも判明して、俺はそこそこ役に立てそうだった。

 その日の午後、俺は勇者と引き合わされた。

 勇者は、十八歳の少女だった。

 名前はエレアノール。彼女は深い青色の髪と、それと同色の目をしている。爽やかな雰囲気をまとい、親しみやすさを感じさせる。それと、かなり美人。もっと遅い時代に生まれていたらモデルとか女優とかやっているのではないかと思う。

 挨拶の場には、美少女がもう一人いた。真っ赤な髪と目の彼女は名前をシーナといって、俺と同じ十六歳。シーナも旅の仲間だ。女神様がどうこう言う前は、エレアノールさんとシーナの二人旅の予定だったらしい。

 シーナは無表情な上に喋ることが少なく、口を開いたかと思えば感情のこもっていないような声を出す。今ではそんな彼女に慣れたし、嬉しそうだとか楽しそうだとか少しわかるようになった俺だが、あの頃はどう接していいかわからず、用事があって話しかける時はかなり勇気が必要だった。

 初めて会ってから約二週間後、俺たちは旅に出た。女子二人は剣を、俺は魔法使いらしく杖を持って。

 そして現在。

 旅を始めてからすでに四ヶ月が過ぎた。

 俺たちが今いる場所は、とある国の国境近くの林道だ。辺りには大人が二、三人は余裕で隠れられるくらい太い木が多く生えている。ときどき心地よい風が吹いてくる。ここを抜けると湖に出るそうだ。

「さて、どうしようか」

 エレアノールさんが普通に歩きながら小さい声で突然そう言った。

「何のことですか」

 質問したのは俺。エレアノールさんに合わせて小声で聞いた。

「狙われてる」

 誰が何に?……“誰が”は俺たちだろうが、何に?

「山賊か何かですか」

「ここは山じゃないから、盗賊って言えばいいかな。もしかしたら別の集団かもしれないけど。とにかく、私たちは狙われてる。だからどうしようかってこと」

「魔法使いましょうか」

「それが手っ取り早くていいけど……誰かが危なくなったらにしてほしいかな。いいよね、シーナ」

「うん」

 シーナが答えたその時、

「金、ぐあっ」

 前方の木の陰から人が叫びながら飛び出してきて、即座にエレアノールさんにのされた。

「おらおら! んな!?」

「金目のも、この野郎!」

「金目のもん出しな! え? ト、トム!?」

「早っ! がっ」

「ヒャッハー、ぐえ」

 少し遅れてザ・盗賊がわらわらと出てきて、すでに仲間がのされたことに気付いて驚いてお決まりの文句を言えなかったり、全部言ってから気付いて間抜けな顔をしたり、ノリノリで出てきてすぐにエレアノールさんにのされたりした。

 さて俺はどうしたらいいんだ。エレアノールさんが数人倒したが、盗賊たちの数はとても多く、俺たち三人は囲まれてしまった。とりあえず木を背にしておくか?

「やってくれるじゃねーか、嬢ちゃんよぅ。でもよぅ、これだけの相手はさすがに無理だろぉ」

「だからとっとと金目のもん出しな」

「さもないとどうなるかはわかってるだろー?」

 ニヤニヤと嫌な感じの笑みを浮かべて盗賊たちが脅してきた。脅しに対してエレアノールさんは、

「黙れ。ついでに死ね。暑苦しい。せっかく来た秋が逃げる」

 出た! 物騒モード!

 普段は爽やかでにこにこなエレアノールさんは、敵を前にすると物騒になることがある。低くて暗い声で「死ね」と言う時の彼女がどんな顔をしているのか俺は知らない。基本的に彼女の後ろにいるからだ。

「んだとゴラア!」

「喧嘩売ってんのかあ!?」

「野郎共、やっちまえ!」

 盗賊たちは怒り、俺たちに襲いかかってきたが、

「ぐはっ……」

「ぐう……」

「あの青いの……」

「なんつーやつだ……」

「あの赤いのたぶん勇者の子孫だよな……」

「勝てるわけねえ……」

「もうどうでもいい……」

 あっという間に立っているのが半分くらいになった。七割くらいがエレアノールさんの仕業で残りはシーナの仕業だ。俺は見ているだけだった。本当にこの二人は強くて頼もしい。俺は残念ながらこういう時は役に立たない。

「まだやる?」

 エレアノールさんが一旦動きを止めて、不機嫌そうな声で盗賊たちに聞くと、

「調子に乗んなよ! おい野郎共! なに弱気になってんだ! オルバ、やっちまえ!」

 盗賊のリーダーらしき人がオルバとやらに指示を出した。すると、俺の後ろの方からエレアノールさんに向かって火が飛んでいき、エレアノールさんが避けたので火は木に当たって消えた。少しだけ木が焦げた。

 飛んできた火は球体に見えた。いいなあ。火の玉を飛ばす魔法ってちょっと憧れる。残念ながら俺が持っている魔法の教科書には今のような魔法は載っていないので、どうしたらできるのかわからない。墓場で出そうな火の玉を出せる魔法なら書いてある。 

「何で盗賊に魔法使えるやつがいるの」

 エレアノールさんが苦々しげに言うと、リーダーらしき人は得意そうに笑った。

「がはははは! 驚いたか! 盗賊だからって舐めんな!」

「うるさい。――ケーイチくん、隠れてるのをなんとかできる?」

 俺の出番が来た。

「はい、やってみます」

「させるかあああああ!」

 盗賊の一人が俺にナイフを投げてきたが、シーナが剣でナイフを叩き落としてくれた。

 シーナにお礼を言おうと思ったのに、戦闘が再開されてしまったので、エレアノールさんに頼まれたことをすることにした。背にしていた木の陰から火が飛んできた方をそっと見ると、木々の間に少しずつ描かれていく魔法陣と、いかにも悪人という外見の人が見えた。悪人は、魔法使いというよりは魔法を少し使える盗賊という感じで、本をしきりに見ながら楕円形の魔法陣を描いている。この国の魔法の魔法陣は楕円形のものが多いそうなので、彼が持っている本はこの国の魔法の教科書かもしれない。……あの本、欲しい。

 取り上げるついでに、貰ってしまおう。

 この世界の魔法は、二種類ある。一つは魔法陣を描いて呪文を唱えなければならないもので、もう一つは呪文だけで済むもの。

 呪文だけのものは何かを出すことはできないが、とても便利だ。そして恐ろしい。簡単に言うと、日本語で指示を出せば相手はそのとおりにする。しかもなんと、日本語なら何でもいい。本に載っているとおりに呪文を唱える必要はない。このことは旅に出てからわかった。

【そこの盗賊、動くな!】

 悪人が魔法陣と本に集中している隙にそっと近づいて魔法を使うと、彼はビクッとし、

「だ、誰だ! 何しやがった!?」

 目だけこちらに向けてきた。

「お、おいこら何か言え!」

 お望みのとおり喋ってあげよう。日本語で。

【その本を、こっちに投げてくれ】

 悪人は本を投げて寄越すと驚愕の表情を浮かべた。

「ななな、何だ!? 何がどうなってんだ!? 魔法陣は?」

 彼は魔法陣がいらない魔法の存在を知らないのだろうか。

 頼まれたことはこれでよし……いいや、駄目だ。まだ魔法を使える人がいるかもしれない。油断は禁物。

「てめえ、何しやがった!? オレのもん返しやがれ!!」

 ああもう、うるさいな。そんなに怒鳴らなくてもいいのに。

 ガサッと後ろで音がした。振り向いてみれば、ナイフを持った盗賊がいたあああああ!

「ぐっ」

 俺はびっくりして、気が付けば杖で盗賊を殴っていた。今のは盗賊の声だ。盗賊は左腕を右手でおさえており、ナイフは握っていない。殴られて落としたのだろう。おっと、観察している場合ではなかった。

【動くな】

 とりあえず動けなくした。これで少しは安心だ。魔法を使ってきた盗賊が騒いでいなかったらもう少し早く気が付けたかもしれない。今からでも黙らせておこう。

 盗賊二人を動けなくして、そのうち一人を黙らせて、あとは……

【あなたとこの人以外に、何人隠れてる人がいるか教えてください】

 ナイフを落とした盗賊に聞いてみた。……丁寧な言い方になったのは、ナイフの盗賊の顔つきが凶悪で怖くて、その上エレアノールさんとシーナがそばにいないから。情けないことだが俺は基本的にビビリだ。相手がこちらの言葉を理解できないとはいえ、怖い人間に長文を命令形で言うのは少し勇気がいる。

「三人」

 そう口にした後に、盗賊は目を見開いた。勝手に口が動いて驚いたようだ。

 魔法が効いて良かった。ある程度魔法に強い人には命令形で強く言わないと魔法が効かないので、やや不安だった。

「お前、何しやがった?」

 そんなこと聞かなくてもわかってくれ。

【その三人がどこにいるかも教えてください】

「……?」

 あれ、答えが返ってこない。盗賊は不思議そうに俺を見るだけだ。丁寧語でも先程の魔法は効いたのだから、力が弱くて効かなかったということはないだろう。つまり、この盗賊は仲間の居場所を知らないということだ。

「何で仲間の居場所を知らないんですか」

「……」

 盗賊は何故か目をそらした。

【言ってください】

「忘れた……ってお前何なんだよ! 無理やり喋らせてんじゃねえよ! どんな魔法だよ!」

 なるほど、忘れたことが恥ずかしくて言わなかった上に目をそらしたのか。

 さて、どこかに隠れている盗賊たちを探しにいこう。俺一人なのは少々不安だが何とかしてみせる。ここにいる盗賊二人は、エレアノールさんやシーナなら殴って上手に気絶させるのだが、俺にはそんなことはできないので、放置だ。

 とりあえず付近を探してみようと思い、一歩踏み出してふと気が付いた。別に自分が動かなくてもいいんだ。

【隠れてる盗賊、出てこい!】

 思いっきり叫んでみた。結構遠くまで声が届いたと思う。ああ、こんなに大声を出したのはいつ以来だろう。

 すぐには何も起こらなかった。少ししてから短剣を両手に持った盗賊が一人、混乱した様子で歩いてきた。

「体が勝手にーっ」

 勝手に動く体に抵抗しようとしているのか、両腕を振り回していてとても危ない。止めておこう。

【動くな】

 盗賊の動きがぴたりと止まった。これで良し。

 「何をした」とか「ぶっ殺すぞ」とか叫ぶ盗賊たちを黙らせて、残り二人を待ってみたが全然姿を現さない。俺の魔法の届かない範囲にいるのかもしれないし、道の向こう側の林に隠れていて、魔法にかかって姿を現したところをエレアノールさんとシーナに倒されたのかもしれない。

 気が付けば辺りはすっかり静かになっていた。俺の近くにいる盗賊たちは魔法で動けない上に話せないし、他の盗賊たちも殴られたり蹴られたり少し斬られたりして静かにさせられたのだろう。

 林道に戻ってみると盗賊たちは地面に倒れていたり、なんと木の枝に引っかかっていたりしていた。

 いつだったか遭遇した山賊の時と同じで、エレアノールさんが、見惚れてしまいそうになる笑顔でリーダーらしき人を踏んでいる。……エレアノールさんは、人を踏むのが好きなのだろうか……。

「お、ケーイチくんお帰り。体が勝手に動くって騒いでるやつがいたけどケーイチくんの仕業だね? 大声だったね。その本は?」

「これはその……奪ってきました」

「魔法関係の本?」

「はい」

「あはは、本当にケーイチくんは魔法が好きだね」

 にこにこしているエレアノールさんの足の下で、リーダーらしき人が疲れ切った声と顔で、

「坊主……俺、らの……もんを……奪う、なん、ざ……なかなかの、悪党、だな……」

「う……」

 ちょっと思っていたことをズバリ言ってくれる。

「気にすることはないよ、ケーイチくん」

 と、エレアノールさんは優しい声と顔で言いながら、

「ひいっ……」

 リーダーらしき人の顔のすぐそばに剣を突き立てた。あ、リーダーらしき人の目に涙が。

「……これ、やるから……勘弁して、くれ……」

 リーダーらしき人がのろのろとポケットから何かを取り出して、そばに静かに立っていたシーナに渡した。シーナはその何かを観察して少し首を傾げて、それをエレアノールさんに渡した。

「何これ?」

 エレアノールさんはシーナから渡された手の中の物を不思議そうに見た。

「ケーイチくん、これ何かわかる? 麦っぽい絵が描いてあるんだけど……」

 エレアノールさんに渡された物は、

「お金です。……日本の」

 五円玉だった。昭和四十九年に造られたもののようだ。

 ……あちらの世界のものがこちらの世界で見つかることに慣れてきたな……。

 理由はわからないが、この世界には俺の世界から来たと思われる物があちこちで見つかる。そしてそれらは勇者が集めて回るものの対象となっている。

「ケーイチくんの国の? そんな穴があいてるのが?」

「はい。同じもの持ってます」

 財布から五円玉を取り出して、俺のものとリーダーらしき人が持っていたものの両方をエレアノールさんに渡した。

「違うところがあるよ?」

「それは造られた年が書かれているからです。俺の方がちょっと新しいですね」

「へえ。――ねえあんた、これをどこで手に入れたの?」

 エレアノールさんの質問にリーダーらしき人は震えながら答えた。

「こ、ここ、この辺り、で、拾った……」

「いつ?」

「せ、先月……。も、もう足どかしてくれよ……」

 涙目のリーダーらしき人にエレアノールさんは冷たく言った。

「あんた、今の話聞いてた? この少年が簡単に出せるようなもので勘弁してもらおうって言うの?」

「い、いいじゃねえか。ぼ、坊ちゃんこれで、何が買える?」

 うわ……盗賊に期待されているような目で見られる日が来るなんてな。

 えーっと、五円で買えるものは……ああそういえば、いつだったかスーパーでもやし一袋が五円だった。

「もやし一袋なら」

「どれくらいの大きさの袋なの?」

 エレアノールさんがそう聞いてきたが、彼女は俺の答えがわかっているようで、意地悪そうな笑みを浮かべている。

「これくらいです」

 俺が空中にもやしが入っている袋のつもりで四角を描くと、リーダーらしき人から力が抜けたのがよくわかった。

「あんたはこれだけのもやしで勘弁してもらえると思ってるの?」

 エレアノールさんがさらに冷たく言うと、

「うう……もうやだ……」

 リーダーらしき人は顔を伏せて何事かをぶつぶつ呟きだした。いつかの山賊もこんな感じになっていた。

 そんなリーダーらしき人をエレアノールさんは面白くなさそうに見て言った。

「ケーイチくん、こいつらを自首させてくれる?」

 その言葉にリーダーらしき人が顔をガバッと上げた。

「な、何するつもりか知らねえが、お、俺らは、じ、自首、自首なんてしねぞっ」

「それならここで動けなくして警察呼んであげようか? 警察の前に魔物が来るかもしれないけど」

「ど、どど、どうやってう、動けなくするつもりだ!? なな、縄なんかねえだろ!?」

「さっきから思ってたけどあんた馬鹿だね」

 エレアノールさんはやや呆れたように言って、突き立てたままだった剣を引き抜いた。

「馬鹿って言う方が馬鹿なんだ! いてっ、いでででっ」

 叫ぶリーダーらしき人をエレアノールさんは強く踏んだ。

「自首か放置かはケーイチくんに任せるよ」

「じゃあ……自首にします」

 リーダーらしき人に日本語で仲間と一緒に自首するように言うと、彼は自身が魔法をかけられたことを理解したらしく、

「この、        !」

 たぶん罵声を浴びせてきた。何を言われたかはわからなかった。

 この世界には、どういうわけか俺には聞こえない言葉がある。そういうのは、エレアノールさんやシーナが言うにはとても下品な言葉だそうだ。恐らく女神様によってシャットアウトされているのではないかと俺は思っている。あの女神様は変なところで親切だから。

 エレアノールさんが少し怒った様子でリーダーらしき人の首に剣を近付けながら言った。

「ケーイチくん、殴っていいんだよ」

「何を言われたかわかりませんでした」

「そう。それは良かった」

 ようやくエレアノールさんはリーダーらしき人の背中から足をどけた。



 とぼとぼと歩いていく盗賊たちを見送ってから、エレアノールさんが五円玉を二枚差し出してきた。

「はい、これ返すよ」

「これは俺のじゃないですよ」

 昭和四十九年と書かれている方を返そうとしたがエレアノールさんは受け取らなかった。

「隠れてるやつらに対処してくれた報酬ってことで。ごめんね、少なくて」

「じゃあ、もらっておきます。――少なくありません。この本がありますから」

 盗賊から奪ってきてしまったこの本、『魔法基礎一(クオ皇国魔法研究所著)』にはどのようなことが書かれているのだろう。後で読むのが楽しみだ。

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