ハンスが只者じゃなかった件
(待って、ここさっきも通らなかった?!)
「知らない!ミナ知ってるんじゃないのか?!」
(なんで?!)
「え?」
(私も知らないよ。)
「…。」
(このままじゃ、ゼファード見失うって!)
「うわあああ! 助けて、誰か!」
◇◇◇
やあみんな。
出会って早々に悪いんだけど、何が起こってると思う?
…。
そうなんだ。
迷ったのだ。完全に。
どこでかって?
――庁舎でだ。
なんでだって?
――俺たち二人が方向音痴すぎたのだ。
待って、どういうこと?、だって?
――俺たちもわかんねえよ!!
俺は叫んだ。
「終わってるって!」
ミナも頭の上で叫んだ。
(ここまた同じとこだよ!?)
だが、すぐに何かを見つけたように指を差した。
(ん…待って、あれ?!こここっちにいけばいいんじゃない?!)
「おお、確かにそうかも!」
しかし。
しばらくすると、俺たちの目に再び同じ景色がうつった。
(ぬおおお、くうぅぅっ!能力さえ戻ってれば!)
ミナが悔しがった。
◇◇◇
何が起きてるのか説明しよう。
現在俺はハンスになっている。
さっき、ハンスに変身したあと、中年の兵士と出会って、その人について行った。
ちなみに、この俺たちを案内してくれたおじさんの警備兵は、ジギルという名前らしい。話してたら教えてもらえた。
ジギルさんと話していたら、ほかのこともわかった。
この身体、つまりハンス君は、今日が警備員としての仕事の初日だったらしい。
それを聞いたとき、俺とミナは思わず顔を見合わせた。
(あ。)「あ。」
…ごめんな、ハンス君。俺が君の分まで頑張るから…。
ということで、30分ぐらい、建物の前でハンスが残してた警備の仕事をしたあと、交代の時間になったので、建物のなかに入れた。
中にはいったからには、ゼファードを探そうということで、庁舎の中を探検してた。
墓地で、ゼファードが「会議がある」と言ってたことを思い出した。
だから、きっとそこにいるだろうと思って、二人でそれっぽい会議室みたいなのを探していたはずなのに…気がつくと迷っていた。
ミナいわく、俺に知識転送をしたせいで、案内人の能力がしばらく使えなくなってるのだそう。
だから「できるだけ使いたくなかったけど…!」って言ったのか…。
街の庁舎ぐらいだったら案内人の能力なんかなくてもわかるだろ!?と言いたいところだが、この建物、本当に複雑なのだ。
ミナと俺はすっかり迷ってしまい、途方に暮れて壁にもたれた。
「どうしたらいいんだろうな…。」
(…ね。)
その時だった。
「おや?あなたは…!」
横から声がした。
誰かと思って横を向くと、廊下の奥から一人の老人が俺を見ていた。
俺は小声でミナに聞いた。
(なあ、あいつ何者?)
(え、わからない。)
そうか。
なら…誰か分からないけど一応知ったふりをしておくか。
俺は言った。
「あ、こんにちは!」
すると、老人は驚いた様子を見せてから、なるほど、と理解したように頷いて言った。
「はは、なかなか役になりきってますな。さすがです。」
うん?役になりきる?どういうこと?
俺たちは、道を聞きたかったし、なんで老人が俺に話しかけてきたのかも、「役になりきってる」の意味もわかんなくて、頭の中が疑問でいっぱいだったので、ちょうどいいという事で、この老人から色々聞き出すために、しばらく話すことにした。
「えーっと、何がですか?」
「さすが、徹底していらっしゃるな。」
老人は笑って言った。
いや、普通に知りたいんだけど…!!
何の話してんの?!
(…えぇ?)
ミナも言った。
俺たちが戸惑っていると、老人が言った。
「それで…話は移りますが、どうしてここに?」
「な…?」
いや、どうしてここにって言われても…、迷ってるだけなんだが?!
(悠馬、私も何が起きてんのかよくわからないけど、なんか喋りなよ…?)
(そうだな。)
俺は正直に言うことにした。
「少し、迷ってしまいまして…。」
「な…?」
老人は不思議そうな顔をしたが、再び何か納得したかのような様子を見せて、言った。
「なるほど、そういうことですか。任せてください。」
「はい?何を――」
「ハァッ!」
老人は右手を胸の前に持ってくると、何かを握り潰すような動作をした。
その瞬間。
ピリッ
な、何だこれ…!?空気が、圧縮してる?!いや、違う――空間の密度が変わってるんだ!
(悠馬、気をつけて!何かおかしい!)
(ああ!)
俺は身構えたが何も起こらなかった。
「ふう…これで、落ち着いて話すことができますな。」
老人は額の汗を拭いた。
「外に音が漏れないので、これで安心して話せますぞ、ルシアン様。」
音が漏れない?それに、ルシアンだって?誰だよそれ。
「あ、ああ?」
「さあ、なんでここにいるのかお話ください。」
「は?」
だから、何が起こってるんだってば?!
(どうしよう、ミナ?!)
(わ、わからない!悠馬のことを、ルシアン様、ってこのおじいさんが言ったってことしか…!)
くそっ、ミナにわかるわけ無いか!
もういい、とりあえず誤魔化すか!
ルシアン様って高級そうな名前だから、なんか貴族っぽく喋ればいいのか?!!
「私がここにいる理由?――」
「ええ。」
俺は少し上から目線に言った。
「はっ、貴様、そんな事も分からないのか?」
俺もわかんねえけど!!
俺が睨むと、老人は怯えた様子で言った。
「ああっ!私としたことが!、大変失礼しました!!、任務中なのですか?!」
え?任務?任務って何?!
「そ、そうだ。」
「本部から動けとの命令があったのですね…。もうそろそろなのですね…。」
とりあえず上から目線に行っておく。
「ああ。やっと理解したのか。」
老人が少し笑ったのを見て、ミナが言った。
(ナイス、悠馬。じゃあ、この老人からもっと情報を引き出して!頑張って〜。)
ミナ、なんでお前まで上から目線なんだよ。
俺は老人に悟られないよう、苦笑いした。
でもミナが言う通り、俺ももう少し情報が欲しかったので聞いてみることにした。
「なら、自分の役割を果たせ。」
「役割…と申しますと?」
「情報だ。今、どんな状況か、言え。」
「は、はい。失礼しました。」
老人はまた汗を拭った。
「まずは、ゼファードを監視する件についてなのですが、
今のところ、特に何も問題は起こしていないです。
はは、あんな善人を監視させるなんて、本部は本当に何も信用していないようですな。
ルシアン様もそうお思いでしょう?」
本部?
いや、そもそもなんで俺以外もゼファードを監視しようとしてるんだ?!
脳の処理が追いつかない!!
俺は助けを求めるようにミナを見たが、だめだった。
ミナも訳がわからないようだ。目が渦巻きみたいになってる。
老人は俺たちに同意を求めたのに、俺たちが混乱して黙っていたので、咳払いをして話を続けた。
「ゴホン…次に、例の件についてです。」
(例の件ってなんだろう?)
(ね、何だろ…。)
何のことかわからないままだけど、頷いた。
「ああ。」
「現在、彼らとの交渉が進んでいます。この調子なら数ヶ月以内には完了するかと。」
「なるほど。…?」
彼ら…?交渉…?
(何のことかな…。 ミナ、何か知ってるか?)
(全く…。)
(そっか。)
まあいいや、それはあとで考えるとして、とりあえず今は、こいつにゼファードの位置を聞かないと。
とりあえず早くしないと。時間がないからね。細かいとこで時間を取られるわけにはいかない。
まず、この建物の中の道がわかんないからそれを聞かないとな。
という事で、俺は言った。
「報告ご苦労だ。」
「いえ!ありがとうございます…!」
老人が嬉しそうに言った。
よし。一瞬空気が和んだぞ。
この雰囲気だったら道案内を頼んでもいけるかもしれない。
そう思って続ける。
「ところで、ゼファードがどこにいるかわかるか?」
「はい…?ゼファード様ですか?」
「ああ。」
「彼なら…これから私と会議する予定ですぞ。」
「ほう…どこで、だ?」
「会議室ですが。」
「それは?」
「はい?」
「…。」
無言で見つめた。
老人は、察してほしそうに俺をみていたが、俺がずっと黙ってみてるので、恐れた様子で言った。
「あ、はい…案内します。」
「助かる。」
(ナイス、悠馬。)
(はは。俺すげえだろ。)
(うん…すごいね。完全になりきってるよ。)
俺たちが小声で話をしていると、
老人が「それでは。」と言い、右手の人差し指と中指の二本で、静かに自分の両目を覆った。
え?何?何してんの?急に。
俺がぼーっと見つめていたので、ミナが焦ったように言った。
(ねえねえ、悠馬、あなたも真似したほうがいいんじゃない?)
(なんで?)
(このジェスチャー、多分、何かの合言葉的なやつじゃん!)
(…そういうことか。)
「世界に欺瞞を――」
老人が低い声のまま、覆っていた二本の指をスッと正面へ突き出す。
そのまま言う。
「――我らにプラヴダを」
俺も、老人の真似をして言った。
「世界に欺瞞を。」
右手で目を隠す。
それから、その手を正面に突きだした。
「我らにプラヴダを。」
老人は俺が終えたのを見ると、頷いた。
それから、右手を軽く振った。
スッ。
その瞬間、密度が縮まってた空間が、もとに戻った。
「ついてきてください。」
老人は俺に背を向けて言った。
俺たちは老人に続いて歩いた。
少し歩いた時、ミナが言った。
(今さ、プラヴダって言ったよね。)
(そうだな。俺、多分秘密結社何じゃないかと思う。)
(そう、大体合ってる。プラヴダは諜報機関だよ。)
(え?)
(私がさっき言ったやつ。)
(…この国全体を見張ってるってやつか?)
(そう。)
(なっ!?)
まじか?!
あれ…?
(ってことはあの老人と俺の体――つまりハンスは、実はプラヴダのメンバーってことか?!)
(そうなるね。)
(あ、おお…。俺たち、運がいいのか…悪いのか…)
そこまで言ったとこで、俺は重大な事に気がついた。
(待てよ…しかもさ、このおじいさんの話からすると、俺の体のハンスってやつは、その中でもかなり身分が高そうなんだけど?!)
(だね。)
俺、そんな凄そうな奴を、変質者の事故で倒しちゃったんだけど…?!
ミナは手で顔を押さえて言った。
(ハンス…。)
(は、はは。)
俺も顔を押さえて言った。
おい…ハンス弱すぎだろ…。変質者にやられるって…終わり方、しょぼすぎるんだけど…。
ハンス君…君、只者じゃないな(色んな意味で)…。




