表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三國志の天才軍師、賈詡は寿命をまっとうしたい! ~終わらない死に戻りループ~  作者: ころにゃん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/29

第24章:沈黙の献策

三度目の人生。もはや彼に残された道は、ただ一つしかなかった。

誰にも加担しない。完全に中立を保つ。いや、中立であることさえも悟られてはならない。この問題が存在しないかのように、ただ嵐が過ぎ去るのを待つ。


曹丕が助けを求めに来た時、彼は病を理由に固く門を閉ざし、会うことさえしなかった。

曹植派の者たちが接触してきても、丁重に、しかし曖昧な言葉でかわし続けた。


だが、運命は、彼に沈黙を許さなかった。

ついに、曹操自らが、賈詡を呼び出したのだ。後継者問題に悩み抜いた覇王は、この最も信頼する謀臣の意見を、どうしても聞きたかったのである。


「賈詡よ。そなたも知っての通り、我が家臣団はしょくの件で二つに割れておる。このままでは、我が死後、魏は必ずや内乱となろう。そなたは、どう思う。正直な気持ちを聞かせよ」


絶体絶命の問いだった。

曹丕を推せば、曹操の寵愛する曹植の派閥から恨みを買う。曹植を推せば、嫡男である曹丕の派閥を敵に回す。そして、どちらを選んでも、選ばれなかった君主が帝位についた時、自分は必ず粛清されることを、賈詡は死の経験から知っていた。

かといって、「分かりませぬ」と答えれば、主君の悩みに真摯に向き合わぬ不忠者として、その場で斬られてもおかしくない。


全ての道が、死に通じている。

賈詡の額から、冷たい汗が流れ落ちた。彼の人生において、これほどの危機はなかった。


彼は、脳内で全ての選択肢をシミュレートした。そして、数えきれないほどの死のパターンの果てに、ついに究極の処世術とでも言うべき、ただ一つの活路に辿り着く。

それは、答えないことによって、答えを教えるという、神業のような一言であった。


賈詡は、深く、深く頭を垂れたまま、長い沈黙を守った。

痺れを切らした曹操が、苛立たしげに重ねて問う。

「どうした、賈詡!なぜ黙っておる!」


その時、賈詡はゆっくりと顔を上げた。しかし、その視線は曹操ではなく、虚空を見つめていた。そして、まるで独り言のように、こう呟いた。


「―――ただ、袁紹と劉表父子のことを、考えておりました」


その一言が発せられた瞬間、幕舎の空気が変わった。

曹操の顔から、苛立ちが消えた。彼は一瞬、虚を突かれたような顔をしたが、やがてその言葉の意味を理解し、腹の底から湧き上がるような大笑いを始めた。


「ハッハッハッハ!そうか!そうであったな!袁紹も、劉表も……!」


袁紹も劉表も、優秀な長男がいたにもかかわらず、若い三男を溺愛した結果、家を内乱で滅ぼしていた。

賈詡は、直接的な答えを何一つ言っていない。どちらかの名前を出すことも、どちらかを批判することも、一切していない。ただ、歴史的な前例を提示しただけだ。

だが、その間接的な一言こそが、曹操に最も分かりやすく、そして誰の恨みも買わない形で、「正解」を指し示していた。曹操自身に、結論を導き出させたのだ。


「見事だ、賈詡!そなたの答え、確かに受け取ったぞ!」


この日を境に、曹操の心は定まった。ほどなくして、曹丕は正式に魏王太子に冊立された。

賈詡は、人生最大の危機を、沈黙の献策によって乗り越えた。彼は曹丕を助け、同時に曹植派の恨みを買うこともなかった。最小限の個人的リスクで、国家の安定という最大限の効果を上げる。

これこそが、彼が生涯をかけてたどり着いた、生存戦略の極致であった。


数日後、太子となった曹丕が、賈詡の屋敷を訪れた。

「此度のこと、礼を言う」

曹丕は、深々と頭を下げた。だが、その顔を上げた時、賈詡は彼の目の奥に、感謝とは違う、冷たい光が宿っているのを見逃さなかった。

「貴殿の知恵が、魏の未来を救った。その功は決して忘れぬ。……だが、」

曹丕の声が、わずかに低くなった。

「宛城の夜のことも、私は忘れぬ」


その言葉は、賈詡の心に氷の楔を打ち込んだ。

彼は、生き残った。しかし、それは決して安泰を意味するものではなかった。自らが生きるために王座へと押し上げた男は、その胸の内に、決して消えることのない怨恨の炎を宿している。

彼の「静かなる航海」は、まだ終わらない。これから先は、穏やかな凪の海ではない。氷山が潜む、極北の海を進まねばならないのだ。


曹丕の信頼を得つつも、曹丕の恨みは消えていない、という。


本作を楽しんでいただけましたら、ぜひ評価で応援をお願いいたします。

よい評価をいただけると執筆のモチベーションがあがります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ