表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三國志の天才軍師、賈詡は寿命をまっとうしたい! ~終わらない死に戻りループ~  作者: ころにゃん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/29

第20章:静かなる航海

張繡の死は、公式には「病死」として処理された 。だが、軍の誰もがその真相を、口には出さずとも理解していた。次期君主である曹丕の消えぬ遺恨が、一人の将軍を死に追いやったのだ、と。その冷徹な現実は、賈詡の生き方を決定的に変えた。


旧主の葬儀が終わり、軍が再び前進を始めた日から、賈詡はまるで影になったかのように、その存在感を消した。


軍議の席では、もはや決して自ら発言することはなかった。曹操に直接意見を求められた時だけ、当たり障りのない、誰の意見にも反対しないような言葉を数語だけ口にした。その目は常に伏せられ、誰とも視線を合わせようとはしなかった。


彼は、一切の私的な交際を断った 。将軍たちが開く酒宴の誘いも、丁重に、しかし断固として断り続けた。屋敷に戻れば門を固く閉ざし、訪ねてくる客も追い返した。自分の子供たちが年頃になっても、有力な一族と婚姻を結ばせるようなことは決してしなかった 。


それは、乱世を生き抜くための、彼の新たな生存戦略だった。

彼は悟ったのだ。この宮廷という名の海では、才能は嫉妬を呼び、功績は敵意を招く。味方を作れば、それはすなわち敵対派閥を生むことと同義だ。目立つこと、それ自体が最大のリスクなのだと。

ならば、徹底的に目立たぬことだ。波風を立てず、誰の記憶にも残らぬ、ただ息を潜めるだけの幽霊となる。嵐が来れば帆を畳み、凪を待つ。それが、彼が選んだ「静かなる航海」であった。


歳月が流れた。

曹操は赤壁で手痛い敗北を喫することもあったが、その覇業は揺るがず、中原の支配者として君臨し続けていた。その間、賈詡は常に曹操の傍らにいたが、彼の名は歴史の表舞台にほとんど現れることはなかった。彼は、ただ静かに、息を殺して、時が過ぎるのを待っていた。


そして建安十六年(211年)。新たな嵐が、西から吹き荒れた。

関中を支配する馬超と韓遂が、十万の兵を率いて曹操に反旗を翻したのだ 。潼関どうかんで対峙した両軍の戦いは熾烈を極め、曹操はかつてないほどの苦戦を強いられていた 。馬超の武勇は呂布にも匹敵すると言われ、彼が率いる西涼の騎馬隊はあまりに精強だった。


焦りの色が、曹操の顔にも浮かび始めていた。軍議は連日紛糾し、有効な打開策は何一つ見いだせないまま、時間だけが過ぎていく。

追い詰められた曹操は、幕僚たち一人一人の顔を、まるで助けを求めるように見回した。

そして、その視線は、ついに隅の席で石像のように座っている男――賈詡の上で、ぴたりと止まった。


「……賈詡」


曹操の声が、静まり返った幕舎に響く。

「そなたは、この数年、まるで抜け殻のようだ。だが、その頭脳まで眠らせていたわけではあるまい。この状況、どう見る」


全ての視線が、賈詡に突き刺さる。

彼は、久しぶりに浴びるその視線の重みに耐えながら、ゆっくりと顔を上げた。

彼の「静かなる航海」は、ここで終わりを告げた。嵐の海に、再び漕ぎ出す時が来たのだ。


また空気になっていきていたのに、また出番が来てしまいました。


本作を楽しんでいただけましたら、ぜひ評価で応援をお願いいたします。

よい評価をいただけると執筆のモチベーションがあがります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ