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「乾杯」
もくずさんが缶を力哉に近づけ「カン」と重い音が鳴る。寒い中のむ冷たいコーラがここ数日の疲労に深くしみる。缶をベンチに置くともくずさんが
「初めての文化祭だったけど力哉のおかげすごい楽しかったよ」
「俺ももくずさんと回れて楽しかったです」
もくずさんのいろんな顔がいっぱいみられて、力哉が経験した文化祭の中で群を抜いて楽しかった。
おいしいものを食べたら無自覚で可愛い顔をしているところ見たた時は鼓動が早くなるのを感じたし、一緒に写真を撮った時は自分が自然と笑顔になっているのが分かった。
「今度は球技大会ですね」
「力哉運動できるの?」
「下の上くらいですかね」
「全然じゃん。剣道してるのに」
「もくずさんはすごいうまいですよね。4月のバレーボールの時だってずば抜けてうまかったですよ」
「あれは調子よかっただけだよ。球技大会はスポーツのコースの人とも戦うから多分すぐ負けるかも」
「もくずさんなら1位行けますって」
もくずさんは男と混じってやったとしても、だいぶ上位の方になるだろう。
「じゃあさ、何かで一位取ったらご褒美欲しいな」
「なんですか?」
「またみんなでご飯食べに行こう」
もくずさんがご褒美なんて言葉を使ったので少し驚いたが、だいぶ可愛い願いだった。多分瞳ならゲームカセットくらいねだってくるというのに。
「じゃあ誰かが優勝したらみんなで行きましょうね」
もくずさんは小さく頷く。出会って長い力哉には小さく上がった頬にすぐ気づいた。
「もう行こうか、バスくるみたいだし」
すぐ近くからこちらを向かってくるバスを見ながらもくずさんは言う。
「ならバスが止まったら行きましょうか」
バスの運転手さんやお客さんに迷惑にならないようにしつつも、明日からの学校の休みで次に会うが月曜日になるので少しでも長くいたいと思ってしまう。もしバスが道を間違えてこのバス停に止まらなければ。自分でも笑ってしまうような子供っぽい考えをしている。
残念なことにバスはしっかりバス停に止まった。そしてうれしいことに降りてきた乗客に見覚えがあった
「え、お姉ちゃん」
「おー純愛青春は疲れた体を癒すねー」
もくずさんの顔を見た途端、姉の疲弊しきった死んだ顔がすぐさま人間らしく生き変える。
化粧をほどこし、甘い香りを漂わせながらもくずさんと瓜二つの顔のお姉ちゃんが降りてきた
「文化祭帰りかな?このあとクラスの人と打ち上げてみたいな感じ?」
もくずさんと力哉は立ち上がり、姉を加えて歩き出す
「いや打ち上げ行かないことにしたから二人だけで打ち上げしてたの」
「あーね。なら寒かったでしょ。家で二次会しようよ。力ちゃんこの後ケツあるの?」
「特にないです」
「じゃあそうしよ」ともくずさんが言う。そっからの帰り道はいつもより速く感じた。
一度家に帰って鞄を置き服を着替える。準備が整ったらラインすると言われたので力哉は先にシャワーを済ませることにした。シャワーを終え体をふきながらも今か今かとラインをなんども確認してしまう。
気持ちを落ち着かせようと、本を読みだしたときちょうど通知が鳴った
「準備できた」
シンプルな五文字の後には続けてペンギンが昼寝をしているスタンプが送られる。
「今行きます」
そう送った後力哉も同じように二足歩行で歩いている猫のスタンプを送った
「お待たせ」
呼び鈴を鳴らすとすぐに扉が開く。いつも散乱している焼酎の瓶などがまとめて、布団を挟み疑似こたつになったちゃぶだいのそばに置かれ、ちゃぶだいに置かれた鍋からは湯気が上がっている。
「お邪魔します」
台床に腰掛けながら煙草を吸った姉が手を振り「さっきぶりだねー」と煙を吹かす。
ちゃぶ台に座ったもくずさんは、とんとんと隣の座布団に手招きした。
「ここ座っていいよ」
言う通り座ると姉が煙草を灰皿に擦り付け、ちゃぶ台にやってくる。片手に持った湯たんぽをこたつに入れ
「ごめんねぇ暖房器具ないからだいぶ原始的な方法になっちゃうけど」
「いえいえ全然大丈夫です」
「お酒飲んだら体あったかくなるよ。力ちゃんなんか飲む?」
「お願いします」
姉はコップを力哉の前に置き「とくとくとくー」とセルフ効果音と共に日本酒を注ぐ。たぷたぷに注いだ後にもくずさんの前のコップをなみなみに注いだ
「力哉日本酒大丈夫なの?これ度数高いよ」
「飲んだことわかんないんで飲んでみて大丈夫そうか見てみます」
「さっすが力ちゃんー。挑戦心はいいぞー。じゃはーい皆さんグラスを上げて」
「「「乾杯」」」
風鈴のような「ちりん」と可憐な音が寒い部屋の真ん中で笑った




