海中もくずは今日も冷たい㊾
席に座りいつも通り本を読む。怒ってるとはいえ話しかけてくれるだろう。
だがいくらたっても話しかけられることは無く、朝ホームの時間になり先生がやってきた
休みなのかな。思っているより美緒は怒っているらしい
「皆さんに悲しいお知らせがあります。佐藤美緒ちゃんがご家族の都合で転校することになりました」
先生の声が耳に入ると無意識に変な声が出た
「引っ越しの作業が忙しいとのことで美緒ちゃんは昨日が最後の登校となりました。他の学校でも寂しくないようみんなでお別れのカードを描きましょう」
先生は一枚の大き目なカードを美緒の席に置く。それからはいつも通りの授業が始まった
美緒が転校?そんなこと一つも聞いてなかった。いや話したがりな美緒のことだし知っていたら絶対に話しただろう。ということは美緒も昨日家族から知らされたばかりなのだろう。
なら姉に怒られてでも金沢へ行くべきだったかもしれない、罪悪感が冷たい体の中でどんどん増幅され授業がほとんど耳に入ってこない。授業が終わり美緒の机に置かれたカードを見てみるが、二、三人から定番のお別れメッセージが書かれているだけで、大部分が白紙のままである。
左手で書いたりわざと机をずらしたりして筆跡を変え5人分メッセージを増やしすぐに学校を出る。美緒の家には一度だけ言ったことがあるので道は覚えている。行ってしまうなら最後に謝って少しの時間だけでもいつもみたいな話がしたかった。
そんな幼稚な希望は呼び鈴で現れた美緒のお母さんを見て砕けた。お母さんは喪服を着ていた
「どなたでしょうか?」
「海中もくずです。その⋯美緒ちゃんいますか?」
沈黙が流れる。お母さんただもくずを家に招いた
前来た時より家はいくらか質素になっており、その分か、美緒の机にまとめて置かれている
理解したくないそれが、否定できないものになっていく。
もくずにお茶を出し椅子に座る。お母さんは口を開いた
「美緒は、昨日車で轢かれてしまって⋯そのまま」
もくずが家事を済ませ課題をしていた集合時間1時間前、美緒はすでに駅についていた。さすがに早すぎるかとも思ったが遅刻して、もくずちゃんを一人にするよりはましだろうと前日からアラームをかけておいたおかげだ。けど異様に寒い。天気予報では昨日と同じほどだと言っていたのに、見事に外れそこまで厚着をしてこなかった美緒は風が吹くたび体を震わす。駅内の待合室は暖房が付いているので、先に入ってしまおうかとも考えたが、もし先に私が駅の前にいなかったらもくずちゃんはきっと心配になってしまうだろうと考え、掌を擦り何とか少しでも団を取る。だが集合時間にもくずは来なかった。
寝坊したのかとそこから2時間寒さに耐えながら待てどもくずは全く現れない。
寒さに体が限界に達したためただ待つのをやめ、きっとどこかで迷子になっているんだろうと辺りを探すことにした。ただ歩くだけでは向かい風が顔を痛く冷たくするので、暖めながらすぐに探せるよう一石二鳥に走る。⋯⋯⋯全力で走っていた美緒は突如現れたトラックに対応できず、轢かれその場で即死した
防犯カメラの映像や音声で分かった大体のことをお母さんは教えてくれた
「あの子ね、もともと臓器が弱くて去年までずっと入院してたの、ようやくドナーの方が見つかって、みんなみたいに登校することができたんだけど、今まで家族以外の人とまともに喋ったことなかったから、同い年の人との距離感が分からなかったみたいで、友達がなかなかできずにいつも家で泣いてたの。けど、ある日突然「お友達出来た!!」って笑いながらあなたの名前を言ってくれたわ。それから毎日楽しそうに「今日もくずちゃんと一緒に読書した」とか「ぼーっとしてたから私も隣でぼーっとしたんだ」とかいっつももくずちゃんとのこと言ってくれたわ。昨日ももくずちゃんへの誕生日プレゼント買いたくて金沢に行きたかったらしいの。本当に娘を今までありがとうね。絶対に幸せだったと思うわ」
⋯⋯⋯間違えた⋯間違えた⋯⋯
おかあさんは涙を流しもくずの手を握る。もくずの瞳から涙はこぼれない。そんなことより自分のしてしまったことを⋯自分が犯した罪を深く鋭く自覚させられていた




