4:人生の選択
顔を見るなり派手な悲鳴を上げた少女は、椅子ごと後ろに飛び退いた。
その目にもとまらぬ速さに感心し、アルドリックは目配せする。
なるほど、これなら大丈夫そうだと皆も安心した様子。グンター以外は。
「初めまして、アルドリックと申します。昨日仮章を頂いたばかりの新人です」
「は、はい、ハジメマシテ、リリデス」
蚊の鳴くような声で返事をしたリリは、がくりと頭を下げる奇妙な動作をした。
泣き笑いのような顔で依頼主ことアルドリックに向き直り、直後目線を泳がせる。
「あ、アルドリック様はどうして……いえ、本日はどのようなご用件で?」
「ダンジョンガイドをお願いしたくてね」
「そ、そうですよね! ガイドと言ったらダンジョンですよねあはは私何言ってるんだろ」
カタカタと震えだしたリリは、目鼻立ちのぱっちりとした美しい少女だった。
金髪に澄んだ空色の目。ほっそりした体を冒険者らしい軽装に包み、銀色に輝くフード付きマントを羽織っている。
おそらく雪山に住むアイスウルフの毛皮。
その美しさと希少さから、ドレス飾りや襟巻きは貴族女性の憧れの的。
また炎への耐久性と丈夫さを併せ持ち、騎士の身代を傾けたという伝説の品である。
それを惜しげも無く使ったマントは間違いなく強者の印。腕前は評判通りという事だろう。先ほどから微妙に顔が引きつっているが。
「ではあの、えー、打ち合わせを、させていただきます」
「皆さん夕食が出来ましたよー」
ダンジョンに入って四日目、明日はいよいよ最終日。
現在九層でキャンプしているアルドリック達は、鍛錬を止めテントに戻ってきた。
リリは大容量のアイテム袋持ち、それも時間停止の機能付き。
食事も茶も既に調理したものを大量に入れ、必要に応じて取り出してくれる。
美味な肉を落とすモンスターを狩る時はその場で調理する事もあるようだが、今回は機会がなさそうだ。
それでも地上と遜色ないどころか、どんな高級店よりも美味しい料理を出来たてで食べられるので、食事は何よりの楽しみとなっている。
「なんというか……言葉にならないくらい美味しいよ」
「あはは、ありがとうございます」
「この白いシチューはゼクラスの名物?」
「そういう訳ではないですけど、うちのお店で出してますね」
道具、装備、衣料品に飲食と随分と手広い商売だ。
最強ガイドは道具や服にとどまらず、料理のレシピまで開発するらしい。
温度調節可能な結界付きテントに折りたたみ式ベッド、『仮設トイレ』なる持ち運び可能なトイレ、起動するだけで体を清潔にする魔道具。
リリが提供する設備は、信じられないくらい便利で快適だった。
本人曰く『欲しいものを作ったらこうなった』だそうで。
しかし発想そのものが桁外れである。人が生活する上で何が不快で、何か快適かを理解し、更にそれを突き詰めたかの如く洗練された品ばかり。
新たな道具を目にする度、アルドリックの心は好奇心に満たされる。
一体彼女の頭の中はどうなっているのだろう?
「明日はいよいよ十層まで下りて、一回でも多くボスを狩りましょう。『聖なるメダル』はレアなので回数をこなさないと」
ダンジョンでは倒した獲物がそのまま手に入るのではなく、モンスターに由来する品が勝手に『落ちる』。
十層のボス『ダークアコライト』は、闇属性の呪文を使う呪われた侍祭。
通常は『闇のストラ』という呪われたアイテムを落とすのだが、極稀に『聖なるメダル』が出る。
リリは必要でなくともとりあえずアイテムをため込むたちらしく、過去に『闇のストラ』を規定数狩りに来た際、偶然メダルを手に入れた。
「レア品だけあって解呪レベルが40もあるので、大抵の呪いは一発です!」
驚くべき事に、目当ての解呪アイテムはリリが手に入れたものだった。
イクスの王に請われて売却し、店の資金になりましたと明るく笑う彼女に、全員が絶句した。
いち早く立ち直ったアルドリックが『どうしても手に入れたい』と告げると、リリは『変なものを欲しがりますねえ』と首を傾げていたが、自分が隣国の王子であること、王都に巣くう呪いを解かねばならない事情を話すと、驚愕に目を瞠り立ち尽くした。
「すまない、身分を隠していた事は謝る」
「ええまあそっちはその……それよりの、のろい? 王都で? ええ……?」
「情けない事に未だ原因が分からず、被害が広がるばかりで」
「すみません、どういう状況か詳しく聞いても?」
これまでの被害を伝えると、リリの顔がどんどん青ざめていく。
『あー……』『それってつまり』『呪い、ですねえ……』と相づちをうちつつ、苦い顔をする。
「そういうのって教会で解呪できません?」
「やったけど、駄目だったんだ」
「それは……大変でしたね。ええと、多分、おそらくですけど」
リリ曰く単独の呪いの対象は人一人、またはせいぜい一家族。
また被害のあった場所が必ずしも呪われている訳ではないという。
「つまり解呪した場所が間違っていると?」
「そこまで広範囲に影響があるのは、複数箇所に媒体が埋まっているか、増幅する魔術的装置があるのではと」
「そう、なのか? 私は呪いに詳しくなくてね。考えたこともなかったよ」
「あ、あくまで予想ですけど! 被害の出た地域の中心に、古い建物なんかあったりしません? えー、高い塔やら地下室があるとか」
「建物……学園か?」
脳内の地図に照らし合わせると、中心にあるのはつい最近まで通っていた学び舎。
アルドリックの発言に、リリは笑顔でパチパチと手を叩く。
「そうそう! きっと、いえわかりませんけど、その学園ってのが怪しいと思います。これはただの想像なんですけど、人気の無い裏庭に意味ありげに建つ石碑とか、特定の人物しか入れない、普段は鍵のかかった地下室とか──」
「学園に通っていた事があるのかい? 正に君の言う通りのものが裏庭にあるよ!」
「そうなんですか! いやあ偶然ですね!」
リリは丁寧に解呪の方法を教えてくれた。
メダルを持ち、その場で祈りを捧げ、出てきた不審者を捕らえてぶちのめす。
ちょっと物騒だ。
「呪いをかけた者を捕まえないと繰り返してしまうので。その場で逃がすと呪いに乗っ取られたりもしてあれは本当めんど……大変だと聞いたことがあります!」
「へえ、詳しいんだね。それは司祭に頼めばいいのかな?」
「魔力があるならどなたでも構いません。呪いに影響されにくい、できるだけ冷静で公平な人物が良いと思います。王子様とか」
ごく自然に立場を受け入れられた。
それでいて変に怯えたり畏まったり、過剰にへりくだる事なく普通に接してくれる。
十八年間生きてきて、彼女が初めてだった。
びっくりして見つめていると、空色の目がくるりと回り、こほん、と小さな咳払いが聞こえた。
「安心してください、呪いはそう強いものではないと思います。なんなら私の作った聖水もつけます。頭から浴びて行ってください」
「……ふふ」
必死な自分を見て同情してくれたのか。
リリは非常に協力的だった。
当初三日の予定を五日に延ばすと自ら宣言、『ここから十層までモンスター狩りながら一気に下ります、覚悟してください』と初日からパーティーを全力で駆けさせた。
リリの補助魔法で各種加護と身体能力を上げ、モンスターを出会い頭にぶちのめす地獄の特訓コース。
休憩場所に着いた途端『軍の訓練よりキツい』とグンターは倒れ込み、アルドリックも半刻は動けなかった。
なのに途中から気絶した魔術師ギランを担いで完走したリリは、けろりとした顔で『夕食の準備しますねー』とテキパキキャンプを整えていて。
「……本当に人間か?」
リリを人外認定したグンターは、一切男だ女だという話をしなくなった。
否定しようにも目の前で見せつけられる強さは本物、基礎体力からして違う。
大の男が瀕死になる道のりを平然と走破、途中行き詰まった時は『特別講習』だとモンスター相手の実演もしてくれた。
アルドリックらが傷一つつけられなかった鎧トカゲを、『ここが急所だから覚えてねっ!』と拳の一撃で仕留めるリリの前では、性別など些細な事。
一行は自然に彼女の指示に従い、言われた通りモンスターを倒し続けた。
「明日はいよいよボス戦です。厳しい戦いになるでしょうが、今の皆さんなら十分勝機はあります」
「おう!」
「一戦で終わりではありません。私が幾らでも回復させますから、力の限りダークアコライトを倒し続けてください」
「わかった。メダルが出るまで何体でも、だね?」
「出せば出るという精神でいきましょう!」
目が据わっている。
流石歴戦の冒険者は違う。
この場にいる誰より強いのに、決して甘やかすことなく鍛えてくれたリリには感謝しかない。
安易に人を頼ってしまったら、自分達は弱いままだった。
至らずとも己の力で成し遂げる事の大切さ。一歩一歩確実に強くなっていく実感と喜び。
彼女こそ真のガイドだ。
「おめでとうございます」
「リリ」
ダンジョンから無事帰還した一行は、銅冒険者として登録された。
歴代最速に並ぶ記録にギルドは湧いたが、アルドリック達は冷静だった。
目的を果たした今、この場にとどまる理由はない。
その手には『聖なるメダル』があった。
「何もかも君のおかげだ」
「それは違います。あなた達がやりきったんです。私はほんのちょっと手を貸しただけ」
同行したガイドのリリについても、更に名声が高まった。
しかし彼女は『私はいつも通りに仕事をしただけ』とアルドリック達に花を持たせた。
「彼らは強かった。高い志を持ち、困難にもくじけず、十層まで走り通した」
その言葉が何よりも嬉しかった。
僅かなりとも彼女に認められたのだと、普段冷静なアルドリックも思わず目頭が熱くなる。
ギランは多数の呪文を使いこなすリリに心酔しもはや信者の域。グンターに至っては感極まって泣いていた。子供の頃以来だ、彼のこんな素直な顔を見たのは。
だが喜びに浸る時間はない。目的の物を手に入れた以上、一刻も早く国に帰らなければ。
一晩だけ宿に泊まってダンジョンの疲れを癒やし、ゼクラスを離れる準備をする。
ギルドに手続きに訪れると、リリが現れて物陰からちょいちょいと手招く。
「おはようリリ。見送りに来てくれたのかい?」
「おはようございますアルドリック様。はいこれ、お土産です」
「これは?」
「私の作った聖水なんですけど、大抵の呪いには効きます。万が一メダルで解呪出来なかったらぶっかけてもらえば」
「……まさか」
『聖なるメダル』より効果の高いアイテムを作り出せるという事か。
衝撃で頭が働かない。あまりにも大きすぎる力。彼女一人で王国の教会に匹敵するほどの……
「君は一体──」
彼女と共に過ごした五日間。
自分なりに精一杯やりきった。少しでも近づけた気がしていた。
我々はまだリリの本当の力を知らない。
目の前にいるのにどこまでも遠い。
「ありがとう」
ちょっと気まずそうにしているリリに、礼を言って懐にしまう。
彼女に出会い、知る度に、『彼女が我が国の民であれば』と思う。
「何もかも世話になって、本当に……どう礼をしたものか」
「しっかり依頼料に色を付けていただきましたよ」
「あの程度で返せるとは思ってないさ」
それは王族としての欲だった。
リリの存在がゼクラスを、ダンジョン都市を変えた。
ならば王国に迎え入れたら、どれほどの価値を産むだろう。
美しい容姿、優秀な頭脳。可憐な外見を裏切りその拳は誰よりも強い。
貴族女性にはない言葉の率直さ、感情豊かでコロコロと変わる表情、親切で朗らかな性格も好ましい。側に居るだけで心が安らぐ。
「リリ」
リリが欲しい。
彼女がいれば王国はもっと豊かになる。
身分のない女性を妃に望むのは、想像以上に困難な道となるだろう。
しかし功績を積み上げ、アルドリック自身が望めば──
「私と共に王国へ来ないか?」
「あ、結構です」
目の前で鉄の扉が閉まるかのような、明確な拒絶。
「……理由を聞いても?」
「この国を出るつもりはないので」
「そ、そうか。私が何か失礼な事をしてしまったかと」
「いえいえ、アルドリック様やグンター様、ギラン様に思うところはありませんよ? お若いのに国の使命を背負って、それを遣り遂げるんですから皆さん立派だと思います。でも」
リリは大人びた表情で笑う。
空色の瞳はアルドリックを見つめながら、此処ではない何処かを見ているよう。
あまり年は変わらない筈なのに、一回り年上の女性を相手にしているような、不思議な感覚だった。
「私にはダンジョンがあるゼクラスがぴったりだと思いません? 探索も商売も、思いついたことを好き勝手やれますし!」
そうかもしれない。
この町には自由がある。
強固な身分制に縛られ、王侯貴族が幅をきかせる王国では、彼女の才は生かし切れないだろう。
リリが名声を高めれば、必ず妬み足を引きずろうとする者が出る。
身分を嵩に言うことを聞かせようとする者も。
無論このゼクラスの民全てが彼女を肯定している訳ではなく──中には悪意を抱く者もいる。
だが少なくとも依頼を『請けない』という選択肢があり。
彼女が嫌だと思えば、誰であろうとその意志を曲げる事はできない。
「またゼクラスに来て下さい。一度きりなんてもったいない、皆さん溢れんばかりの才能が……特にアルドリック様はまだまだ強くなりますから! 次は目指せ三十層、です!」
「フッ……」
振られたというのに、思わず笑ってしまった。
心の底から冒険者である彼女の人生を、歪める真似はすまい。
それが国の恩人であるリリへの、最低限の礼儀だ。
「そうだね。またいつか此処に来るよ。もっと強くなって、ね」
「……はあ」
最後の最後になんてもんぶちかますのよ王子様。
「なんとかフラグは折れたか……」
王子様直々のお言葉に背筋が凍り付いた。
ギルドでの衝撃の出会い、やむを得ずダンジョンへ同行する事になり、丁寧に丁寧にフラグを折って潰して埋めてまわった末のあの言葉。
口から心臓飛び出るかと思った。もう少しで『いやだあああああ』と絶叫しながら逃げる所だったわ。私よく堪えたよ頑張った。
元のシナリオでは『王都に呪いが広がる』なんて話はなかったし、好感度と聖女の素質を上げるサブイベントだったから、そこまで大きな事件になっているなんて……完全に寝耳に水。
学園で自分のかけた呪いに呑まれる間抜けな校長のイベントは、あまり被害が出なかった事もあって内々に処理された。
呪いが原因で王と教会の関係に亀裂が……とかナニソレって感じ。聖女の扱いに疑問を抱いた攻略対象が助けに来るイベントはあったような? 流れ的には相違なく、イベントが早まった感じなのかも?
「何が影響するかわからないのこわいよぉ……」
あの村を脱出して三年。
シュロス王国には極力関わらないように生きてきた。
でもまあゼクラスならいいかと、やりたい放題やってきたのは確か。あれやっぱ私のせい!?
念願のリアルダンジョンにテンションが爆上がり、着いた直後に冒険者登録、即行ダンジョンに行きレベリング。
ゲーム知識をフル活用し片っ端からアイテム回収、金の心配はなくなったが商売する為には確かな身元が必要。
どうせなら銅取っとくか、なんて軽い気持ちで報告したのが運の尽き。
最年少銅冒険者として都市中に名が知れてしまった。
この時点でゲームとの差異が生じた。
ゲームでは王都組とパーティーを組んでいたので、回復役かつ十七歳のリリアーシュはそこまで目立たなかった。
しかし『十四歳の少女が単独でダンジョン十層を走破』はよくよく考えたら頭おかしい。
騒ぎをやり過ごそうと商品開発に力を入れた。
話がトントン拍子に転がって、商人ギルドからお声がかかり。
値をつり上げる前提の他店に任せておけず、自力で商会を立ち上げたらめちゃくちゃ売れた。
すると今度は売上を妬んだ競合店がしょうもない嫌がらせを始め、黙らせるためにダンジョンに潜って冒険者ランクを上げた。
いささかやり過ぎたのか──路地裏で強面のおじさんに声をかけられ、ゼクラス中央にある市営舎でゴブレット片手に『君が望むならゼクラスの議会に席を用意しよう』などと言われ断るなんて事もあったが、概ね平和と言っていいだろう。
会長業と冒険者、二足のわらじ。
ある意味予定通りではあるけれど、ここまで大事になるのは計算外。あと忙しすぎ。こんなの前世と変わらないって!
息抜きにダンジョンへ行けば、目の前で結成したての素人パーティーが死にかけてるし。
成り行きで新人の面倒を見てみると、名ばかりガイドとかいう害悪が目に付き気付いたらギルドの上役連中を脅して新部門を立ち上げさせていた。
口頭説明じゃいまいち伝わりきらず、制度の大枠とプレゼン資料まで作ったよ。なんで転生したのにこんな仕事してるんだろ……。
ギルドの公式ガイド制が整い、ようやく少しはまともになってきたかなと、完全に油断していた。
まさか国境を越えて王子が出張してくるとはね!
後ろを見てアルドリックが立っていた時は目玉が飛び出るかと思った。めんどくせー男代表のグンターに、サイコマッドのギランまで。流石にインテリ眼鏡と暗殺者はいなかった良かった。
無難に仕事してバイバイが理想と分かっていても、事情を聞いてしまうと放ってはおけない。
リリアーシュの不在が理由である事は明らかだ。王都に辿り着かず、学園にもいないせいで小さな呪いが大きく育ってしまったのだろう。
私のせいじゃないけど、このまま見過ごすには腹の据わりが悪い──そんなような心持ち。
幸いアルドリックはこっちの正体に気付いていない。
そもそも聖女として出会っていないので当然と言えば当然。そう、今の私はしがないガイド。そして皆をビシバシ鍛え上げる鬼コーチだオラオラ。
メダルだけならストックの中から譲っても良かった。
でも何があろうと私は王都には行きたくない。つまり聖女なんて必要ないくらい王子の魔力を上げる必要がある訳で……それは厳しくなりますよね。これもあなた方の為ですガンバッテー。
無事メダルをゲット、おまけに聖水も付けてやり、私の仕事は終わった。勝ったな風呂入ってくる。
しかし最後九回表でアルドリックが満塁ホームランをぶちかました。いくらイケメンでも許されない事はあるよねええ?
もう一度打席に立たされた私は罪なき青年にトドメを刺さねばならなかった。
アルドリック自身に恨みはないし、現実でも爽やか好青年であったので悪印象はないのだが……彼が王子である限りフラグは叩き折るしかない。
「シナリオの強制力ってやつ? 恐すぎなんだけど。ああでも惜しかった……! アルドリックやっぱチートだよねパーティーに欲しいよぉぉ」
そんな訳で恐れ多くも王子様を振ってしまった──おそらく色っぽい話ではなく雇用の方──私だが、懲りずにまたゼクラスに来て欲しい。
聖女なしルートが過酷だったのか、ゲームより成長率が良い。
伸び代があるというか、あれは強くなるぞ。
グンターやギランも素直に指示に従ってくれたので、覚えたスキルはゲームの二割増し。苦労した甲斐あって理想の[騎士]と[魔術師]の下地が出来た。
アルドリックももうすぐ[君主]の才が花開く。シナリオが大筋から外れなければ、王は彼を後継者に指名する。
「レア職はロマンだね、うんうん」
ダンジョンは効率が良く、キャラ育成が捗る。
もちろんこのリリさんだってまだまだ成長途中。最強目指して頑張ってるよ!
「たまにこっち来て、私とパーティー組んでくれないかな。しっかり育ててあげるのになぁ……」
『冒険者』で『ガイド』で『商会長』でもある私の人生は、これからも続いていく。