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始まりの事件、送り主不明の依頼書

「あー、また不発に終わったー」


 漁港の街ピオスに構える便利屋『ハート・ユナイティス』の事務所内で私ノエル・イルセリアはある手がかりを探すも成果はなく、今日も同僚兼親友の前で机越しに突っ伏していた。


「ほーら切り替えて、実体のないものを探してるんだから簡単じゃないことは百も承知でしょ?」


「でもさエイミー、さすがに5年は焦るよぉ」


「そうねぇ、本当に覚えてないの? 生贄に出された日のこと」


 エイミーの言葉でもう一度頭の隅々まで調べる様に記憶を辿る。

 いつものように友達と遊んでてその後父さんと母さんそろって夕飯食べてそれから……。


「まったく、気がついた時には塔の外にいたし」


「確かめるために階段登っても入り口に戻っちゃうんでしょ? そりゃ確かに呪いね」


「それに近寄ると父さんと母さん衰弱しちゃうし……」


「それを解決するためにここを食いぶちに選んだんでしょ?」


 故郷のオブリヴからこの街に移住してきたけど普通の仕事では望みは叶わない。

 諦めたくない、あの日の記憶を取り戻して家族のとこに帰ることを。

 エイミーの言葉に私はニカって笑いながらいつものノリで返した。


「まぁねっ」


「それだけ元気あるんなら、次行けるわよね?」


 キョトンとする私を余所に聞こえる距離にいる店長にエイミーが大声で呼びかける。


「てーんちょー、ギルバート店長聞こえるー?」


「あのだねエイミー君、剣の訓練場より狭いこの事務所で聞こえないと思うかい?

 いったい今度はどうした?」


「今度はって、毎回あたしが変な言動してるみたいじゃないの。

 次の依頼ある? 手掛かりなくてノエルがね」


 あ、ありがとエイミー、持つべきはやっぱりマブダチだよ。

 親友の背に隠れて潤んだ眼を拭っていると「そうだなぁ」と店長が引き出しを漁る。


「今ある依頼だと……どれも街のお手伝いに留まるか」


「マジかぁ……って店長いつも思うけどすごいデスクの散らかり様ね」


「店長としての忙しさという奴さ」


「忙しいのは尻拭いしてるルーシーでしょうっが」


 おぉエイミーいつもながらキレッキレなツッコみ……なんて呆気に取られてると事務所外から強めのノックが響いた。


「うわ、ビックリした。 なんだってのよ」


「いや、私にも……とにかく見に行こ」


 外に出て周りを見渡したけど特に変わった様子はない。 イタズラだったのかな?

 踵を返し事務所に戻ろうとするとなにかに気付いたのか、エイミーから声がかかり思わず振り向く


「待って」


「どしたの、というよりその包みなに?」


「そこに落ちてた。 手紙かな……見てもらいましょ」


 事務所に戻り封書を開くなり店長はいつになく真剣な顔つきで首を傾げていた。

 どうしたのか尋ねると私達の前で手にした紙面を広げた。


「結論から言うがこれは依頼書だ。 それも結構厄介な」


「えっと、ロカム村衰弱……店長これどういうことですか?」


 依頼書にはただ箇条書きで『ロカム村、村民と畑共に謎の衰弱 解決を求む』とだけ記されていた。

 どういうことかと頭を巡らそうとするも新たな問題が見つかる。


「依頼内容もだけどこれも見てよ。 これ、誰が出したの?」


 差出人の項目を見ると無記載、やっぱりイタズラ?

 その懸念は店長も持ってたのか依頼書をたたもうとする。


「受けていいものなのだろうか、明らかに怪しいぞ」


「愉快犯の可能性もあるけど、ここ数日ロカム産の作物が入ってないのも事実よね」


 依頼の詳細が書かれてなくて名前も無記載、他の便利屋だったら取り合おうとしないだろうけど私達はハート・ユナイティス、困ってる人や苦しんでる人がいる可能性がわずかでもあるのなら確かめに行きたい。 そしてその手助けになりたい。


「店長、行かせてください。 もしこれが事実だとしたら、助けられなかったらきっと後悔すると思うんです」


「ノエル君……そうだな。 俺もそう思う

 2人も、この件頼んでもいいか? 何があるかもしれない、一応ルーシー君にも連絡は入れておく」


「了解。 ノエル、いつものあれ頼むわね」


「任せてっ」


 呼びかけに応え、意識を集中するとペンダントから霊素がエイミーに流れ込む。

 店長はその横で不思議と言わんばかりの表情を浮かべていた。


「しかし不思議だな、霊素は他人に分配できないものだろう?」


「えぇ、そんなことしたら身体が拒絶反応起こして大変なことになるわ。

 ノエルがそれをできるのは、ペンダントのおかげ?」


「どうなんだろ、息をするようにやってる感じだからよくわかんないや」


 霊素を分け準備を終えると急いで街の門を出る。

 ロカムまで馬車で6時間、村の人達が本当に衰弱してしまってるのなら日没までには辿り着きたい。


 間に合うかどうかの焦燥を抱え走っていると分かれ道付近でエイミーがなにかに気づいたかのように「あっ」と声を上げた。


「そこ、フォレジアの森林通って行きましょ。 

 急げば3時間で着くわよ」


「魔物が徘徊してるんじゃ、それに私達になにかあったら元も子も……」


「例えそうだとしても、こっちの方が可能性はある」


 確かに、馬車でさえ6時間な道をそれより遅い私達が急いだところで日が落ちる。

 そしたら村のみんなが、本当になにかあったら取り返しのつかないことになるかもしれない。


「わかった。 エイミーの選択に賭けてみるよ」


 こうして私達は危険を承知で立ち入りの禁じられた森林へと進んだ。

 この時私達は知らなかった。 人の往来がある街道付近の森にあんな怪物が潜んでいることに……。

はてさて、怪物とはなんのことやら……もしかしたら、あれかも?



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