第2話 オンラインミーティング
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そして、いよいよミーティング当日、約束の五分前。
僕は転職サイトのURLをクリックし、ミーティングアプリを起動した。
少し緊張気味だが、面接じゃないし、普段の重要な会議よりは気が楽だ。
カメラをオンにし、僕はジョン・アダムスが現れるのを待った。
しばらくすると、白人男性が現れ、こう言った。
「やあ、田中くん、はじめまして。ボクはジョン・アダムス、よろしくね」
「はじめまして、田中です。本日はよろしくお願いします」
「ハハッ、もっとラフでいいよ。それと、君のこと、田中って呼んでいい?ボクのことは、ジョンって呼んでよ」
スカウトの内容通り、フランクな人らしい。
「じゃあ、ジョン。あらためてよろしく」
「うん、よろしくね、田中」
ずいぶん若い、二十代かな。
ハリウッドのイケメン俳優のような顔をして、眼鏡をかけている。
「日本語上手だね、日本に住んでたの?」
ジョンは肩をすくめた。
「いや、一度行ってみたいけど、時間がなくてね。でも、大抵の言語は話せるよ」
はあ、さすがだねぇ、やっぱり頭のできが違うんだろうね。
「それで、痛てっ」
飼い猫のレモンが、膝にのって、爪をたてた。
「ん?どうしたの?」
ジョンが面白そうな顔で聞いてくる。
「いや、ごめん、家の猫が膝にのってきて。日中はあまりないんだけど」
ジョンは興味津々といった様子だ。
「へー猫。いいね、どんな猫?」
「三毛猫」
「ちょっと見せてもらっていい?」
ますます、興味をもったらしい。
「ちょっとまってね、よいしょっと、どう?見える?」
僕はカメラに映るように、レモンを持ち上げた。
「うん、見える。へぇ、初めて見たよ」
「そっか、三毛猫って、そっちじゃあんまりいないんだっけ?」
「え?まあね。ジャパニーズ・ボブテイルって猫はいるけど、見たことはないね」
レモンを抱えているので、ジョンの様子が見れない。
「重いから、もういいかな?」
「うん、いいよ、いいもの見れた」
レモンは膝から降りようとしない。今日はずいぶんと甘えモードだ。
「それで、」
「あ、いいよ、キミの聞きたいことはわかってるから」
僕が喋ろうとすると、ジョンが遮った。
「そうだね、まずどうやって、だけど、多少、強引な手を使わせてもらった」
強引な手、やっぱりそうですか。
僕は注意深くジョンを観察した。金髪、目の色はよくわからん。少なくともブルーではない。
「ふふ、観察してるね」
楽しそうに笑うジョン。まったく、テレパスか何かなのかな?
ちょっと妄想をしてみよう。
職場の後輩がトラックに轢かれて「俺、転生失敗したっす」と、くやしそうに話す、残念な話だ。
「何考えてるの知らないけど、ボクはテレパスじゃないから。ちなみに何をイメージしてた?」
「……っ!」
そこまで、わかるものなのか?
正直に妄想の内容をジョンに伝えた。
「あははは。流石にそれは想像できないね」
ジョンが少し真面目な顔になる。
「じゃあ、そろそろ本題に入ろうか」
――始まった。
「キミに、次世代AIのテストをしてほしいというのは本当。ただ、少しニュアンスが違う」
「ニュアンス?」
ジョンの表情は変わらない。どうせ全て読まれているんだろうし、試すだけ無駄だ。
あとはジョンから聞くしかない。
「キミに相手をしてほしいのは、自我と感情をもったAIなんだ。どう思う?」
そんなこと、現在の技術で可能なのか?
「うん、それが実現したことをまず認識してもらう必要がある。次に何故キミを選んだか」
そう、それを僕は知りたい。
「一つは、日本人が好ましい。機械に対する忌避感がない。愛着すらある」
まあ、日本人って、そういうとこあるかな。
漫画やアニメとか。
「そして、キミのクセ。人格」
クセってなんだ。クセがすごいってことか?
「悪いけど、キミとミリオンのAIエージェントとのやり取り、全て観測してる」
……ずいぶんと、悪趣味だな。
「キミは結果から因果を逆算するクセがある。無意識にね」
いや、そう言われると恐縮しちゃうけど。
エンジニアなら、普通に持っている感覚じゃないかな。
「キミは自分が考えているより、先を読んでるよ。平凡なエンジニアにしてはね」
どうせ、僕はただの平凡なエンジニアだよ。
「キミはね、ちょうどいいんだよ」
「平凡だけど、勘がいいってこと?」
「まあね、そんなとこ」
「キミ、不老とか完全自動化の未来、前から予想してたよね?」
「いや、AIがそう言ってたし、科学者も予測してる話でしょ?」
「違う違う」
ジョンは笑う。
「普通の人は、“AIが言ってた”で終わるんだよ」
「でもキミは違う。断片的な情報を繋げて、自分で仮説を立ててる」
「その確認にAIを使ってるんだ」
「……」
「量子重力理論とか触ってたでしょ?普通、素人はそこ行かないよ」
「いや、ただの遊びだけど」
「そうやって、遊べる時点で、かなり珍しいよ」
ジョンは、いたって真面目な顔だ。
「キミは科学技術を怖がらない。でも、妄信的でもない」
「ちゃんと距離を取ってる」
「だから選んだ」
そんな人、いっぱいいるだろうに。
「他にいないね。そんな平凡で面白そうな人物は」
悪い気はしないけど、その分、不気味だ。
「キミにやってほしいことは、テストじゃない、いわば家庭教師のようなものさ」
エンジニアリングではないから、平凡でいいということか?
「でも僕がAIに教えることなんてあるのかな」
ジョンはまた笑顔に戻る。
……あれ?いくぶん笑顔がましたように見える。
「なんでもいい、キミの生い立ち、芸術、サブカルチャー。大切なのは関係性だね」
へえ、そんなもんかね。
「PCに向かって喋ったりすればいいの?それで、AIが返事するの?音声とかで」
「まあ、そんな感じだね」
ジョンの勝ち誇ったような笑顔。なんだ?
ここで僕は気がついた。
……いつの間にか、僕はのめりこんでいる。
「キミが憧れ、予想していたことだよ。科学技術の発展。享受するだけの消費者が、参加者になること」
「それは……」
そうか、最初から、掌で転がされてたらしい。
メールは削除するべきだった。ミーティングをするべきではなかった。
抗いようのない好奇心と欲求。
もう、選んでしまった。
ジョンが確信したように、笑っている。
……なんか腹立つ。パンチしてやりたい。
「わかったよ、ジョン。予想どおりだろうけど。ただ、気になる点もある」
ジョンは満足気に頷く。
「ああ、アメリカに来てもらう必要がある。期間は一年程度、長くて二年」
まあ、それぐらいなら。
「ビジネスクラス用意してもらっていい?」
キョトンとするジョン。
「アハハ。切り替え早いね。ファーストクラスって言わないところはキミらしいけど」
まあ、僕が重要人物なんだとしたら、大抵のわがままは通るだろうよ。
「報酬は、まあ、キミが一生働かなくてもいいぐらいは用意するよ」
なるほど。それは素敵で魅力的だ。
「それで、どう思った?色々試してたみたいだけど?」
ご満悦のご様子でなにより。
「うん、まあ、不自然な点はなかった。ジョンはAIではないね。AIを使用する理由もないし」
「アハハ、さすがだね。よく観察してる」
やっぱり、僕が考えていることは、全てまるっとお見通しなんだね。
後は、事務的な話をしてミーティングは終了した。
レモンはまだ膝の上にいる。
ごめん、警告してくれたのに、気づかなかったよ。
強引な手段を使ったと予測してたのに、それだけ本気なんだと思わなかった。
断れるはずだった。
それでも、選んでしまった。
そう、いつも僕は間違える。
僕はレモンをなでながら、テラになんて説明しようか途方にくれた。




