第9話:加速する独占欲と、特別な夜の約束
ギルバート殿下が毎日のように公爵邸へお忍びで通うようになってから、数ヶ月が経った。
殿下の不器用ながらも真っ直ぐな愛情表現に、私のガードもすっかり緩んでしまい、今では殿下が隣に座って手を握ってくるのが、すっかり日常の光景になってしまっている。
元OLの悲しい習性なのか、これほど綺麗な顔で見つめられると未だに心臓がバックバクだけれど、殿下と過ごす時間は、前世の孤独をすべてかき消してくれるほど温かかった。
◇◇◇
そんなある日、お屋敷のテラスで殿下と並んでお茶を飲んでいる時のこと。
「そういえば、ユキ。もうすぐ二十歳になるそうだな」
殿下が、紅茶のカップを置いて私をじっと見つめた。
「えっ、あ、はい。アラカルト公爵家の子として籍を入れていただいてから、ちょうど初めての誕生日を迎えることになるんです」
前世では19歳で死んでしまった私にとって、「20歳」というのは特別な響きがあった。大人の仲間入りであり、あちらの世界ではもう迎えるはずのなかった、奇跡のような年齢。
私の言葉を聞いた瞬間、ギルバート殿下の目が、ゾクッとするほど深い光を帯びた。
「そうか……。二十歳、この国では成人の儀を迎える、最も特別な節目だ。……ユキ、その日は俺に、お前のすべてを独占させてほしい」
「ど、独占、ですか……っ?」
あまりの熱量に、思わず顔がカッと熱くなる。
「あぁ。アラカルト公爵が国中の貴族を集めてド派手なパーティーを画策しているようだが、俺の狙いはそこではない。パーティーの夜、二人きりになれる時間を必ず作ってくれ。俺から、お前にどうしても贈りたい特別なものがあるんだ」
殿下は私の細い指先を絡めるようにして手を握り、そのままグイッと自分の近くへと引き寄せた。至近距離で見つめ合う形になり、殿下の綺麗な右目が、強い独占欲で揺れているのが分かる。
「お前を誰にも渡したくない。他の男たちにお前を注視されると思うだけで、狂いそうだ。……ユキ、約束してくれるか?」
「……っ、はい。分かりました、殿下」
殿下の真剣な眼差しに圧されてコクリと頷くと、殿下は満足そうに口元を緩め、私の髪を優しく愛おしそうに撫でたのだった。
◇◇◇
その頃、お屋敷の廊下では――。
「ダリオス、聞いてちょうだい! ユキの二十歳の誕生日パーティーのドレスだけど、王都中の最高級の生地を全部買い占めて、一番の仕立て屋に徹夜で作らせることにしたわ!」
「素晴らしいよ、フェリア! 我が家の大切な愛娘の、一生に一度の二十歳の誕生日だからね! 国王陛下や他国の王族も招待して、この世で一番豪華な宴にしよう!」
お父様とお母様は、鼻息を荒くしながらパーティーの準備に没頭していた。
「ユキ様、すっごく綺麗なドレスになりそうですよ!」
「私たちが世界一可愛いお姫様に仕上げてみせます!」
三つ子のメイド、マリエル、ミリエル、ムリエルも拳を握りしめて大張り切りだ。
足元では、お菓子をモグモグと食べていたランが、フッと鼻を鳴らす。
『主よ、何やらお屋敷がひっくり返るほどの騒ぎになりそうだな。だが、お前が主役の宴だ。私も特等席でお前の美しい姿を拝ませてもらうとしよう』
周囲の溺愛と、王子の独占欲が完全にMAXへと向かう中。
私の二十歳を祝う、人生で一番ド派手な夜へのカウントダウンが始まっていた。




