第10話:煌めく生誕祭と、月下の誓いのキス
アラカルト公爵邸の巨大な大広間は、これまでにないほどの熱気に包まれていた。
壁一面に飾られた最高級の魔導具のライトが七色に煌めき、天井からは光の粒子が雪のように美しく舞い散っている。国王陛下をはじめ、他国の王族や名だたる大貴族たちがズラリと顔を揃える中、会場の視線はただ一人に注がれていた。
「……わぁ」
姿見に映る自分の姿を見て、私は思わず息を呑んだ。
お母様が王都中の生地を買い占め、一流の仕立て屋が徹夜で作り上げたドレスは、夜空の星屑を散りばめたような深い純白のシルク。三つ子のメイドたちが総出で整えてくれた黒髪には、お父様が用意した国宝級のダイヤのティアラが輝いている。
前世ではヨレヨレのスーツを着て終電に追われていた私が、今、世界で一番幸せなお姫様としてここに立っている。
「ユキ、本当に、本当に綺麗だ……! 我が娘ながら、女神様が舞い降りたかと思ったよ!」
「まぁダリオスったら泣かないの。ユキ、今日から貴方は大人の仲間入りね。世界一幸せになってちょうだい」
涙ぐむお父様と、優しく微笑むお母様に両手を引かれ、私は大歓声が響き渡るパーティー会場へと一歩を踏み出した。
◇◇◇
贅を尽くした宴は大盛況のまま更けていき、夜も更けた頃。
私は殿下との「特別な約束」を果たすため、賑やかな会場をそっと抜け出し、月の光が降り注ぐ静かな空中庭園へと足を運んだ。
冷たい夜風が火照った肌に心地いい。
手すりに寄りかかり、星空を見上げていると――背後から、懐かしい温もりと、衣擦れの音が近づいてきた。
「待たせたな、ユキ。……あの大広間で、他の男たちの視線を一心に浴びるお前を見ていて、本当に気が狂いそうだった」
「ギルバート殿下……!」
振り返ると、そこには息を呑むほど美しい正装に身を包んだ殿下が立っていた。
いつもより少し焦燥を孕んだ力強い腕で、殿下は私の細い腰を引き寄せ、壊れ物を扱うようにきつく抱きしめる。
「で、殿下……お洋服がシワになっちゃいます……っ」
「構わない。……それよりもユキ、二十歳の誕生日、本当におめでとう。こちらの世界に、俺の目の前に現れてくれて、本当にありがとう」
殿下の手が私の頬を優しく包み込み、その綺麗な右目が真っ直ぐに私を射抜く。その瞳の奥にあるのは、狂おしいほどの独占欲と、溢れんばかりの深い愛情。
「俺からお前への、成人のお祝いだ。受け取ってくれるか?」
殿下がそっと差し出したのは、妖しくも美しい黄金の輝きを放つ、一対のペアリングだった。
「これは……『誓約の指輪』。俺の魔力とお前の魔力を結びつけ、生涯の愛を誓うものだ。ユキ、俺の王妃になってほしい。お前のこれからの人生、一分一秒、すべての愛を俺に捧げてくれ」
「殿下……っ」
あまりにも情熱的なプロポーズに、胸の奥が甘く疼き、目からポロポロと涙が溢れ出す。
前世では誰からも必要とされず、孤独の中で死んでいった私が、今、こんなにも求められ、愛されている。
「はい……! 喜んで、あなたの隣にいます……!」
私がそう答えた瞬間、殿下は愛おしさが爆発したように私の涙を指で拭い、そのままゆっくりと顔を近づけてきた。
そっと重なる、温かくて、少し震える唇。
それは、お互いの孤独を埋め尽くすような、深く、情熱的な誓いのキスだった。
月の光に照らされながら、私たちは何度も、何度も唇を重ね合う。
トクトクと速くなるお互いの鼓動を感じながら、私はこの世界で、殿下と共に永遠の幸せを歩んでいくことを、強く心に誓ったのだった。




