第12話:王宮参内! 聖女の力を見くびるな
ついにやってきた王宮参内の日。
国の中心にそびえ立つ白亜の王宮は、前世のどんな高層ビルよりも威厳に満ちていた。
周囲の貴族たちは、黒髪に黒い瞳の私を見て「あれが噂の……」「アラカルト公爵家の新しい娘か」とヒソヒソと囁き合っている。でも、今の私には怖気づく理由なんてどこにもない。
右側には「ユキ、何かあればすぐに私が神殿ごと叩き潰すからね」と物騒なことを笑顔で言うお父様。
左側には「俺の傍を離れるな」と、私の手を骨が軋むほど強く握りしめて周囲を威圧するギルバート殿下。
そして私の足元には、いつでも巨大化できる準備を整えた子犬サイズのランが控えている。
(前世ではクレーマー相手に一人で謝り倒していた私が、今ではこんなに心強い味方に囲まれているなんてね)
胸の中でクスッと笑いながら、私たちは最高神官たちが待ち構える、神聖な謁見の間へと足を踏み入れた。
◇◇◇
「――よく参られた、アラカルト公爵令嬢ユキ。私がこの神殿を統べる最高神官、バルフレアである」
部屋の奥、一段高い玉座のような椅子に腰掛けた老人が、傲慢な笑みを浮かべて私を見下ろした。その周囲には、これ見よがしに武装した神殿騎士たちがズラリと並んでいる。
「本日は、その身に宿るという『魔力』が本物かどうか、神殿の聖なる水晶にて洗礼を行わせてもらう。もし偽りであれば……第一王子殿下をたぶらかした大罪人として、その身を拘束せねばならんのでな」
バルフレアが合図を送ると、部屋の中央に置かれた巨大な魔力測定の水晶が怪しく光り始めた。
なるほど、最初から私を「詐欺師」に仕立て上げて、神殿の地下にでも閉じ込める気満々というわけだ。お父様とギルバート殿下の身体から、今にも部屋が吹き飛びそうなほどの凄まじい殺気が立ち上る。
「おい、バルフレア。誰の婚約者を罪人扱いしている」
「我が娘に不当な疑いをかけるとは、神殿はアラカルト公爵家を敵に回す覚悟があると見て良いのだな?」
二人の圧倒的な覇気に神殿騎士たちがガタガタと震え出す中、私はすっと前に出た。
「お父様、殿下、大丈夫です。……最高神官様、その水晶に魔力を込めれば良いのですね?」
「フン、殊勝な心がけだ。せいぜい、己の無力さを知るが良い!」
私はゆっくりと歩み寄り、冷たい水晶に両手を重ねた。
思い描くのは、ギルバート殿下を苦しめていたあの禍々しい呪いの霧。そして、それを一瞬で消し去った、私の中にある溢れんばかりの黄金の光。
(大好きな人たちの邪魔をする悪党なんて――私の全力で、木っ端微塵にしてあげる!)
ドォォォォン!!!
「な、なんだ!? この光は……!」
私が魔力を解放した瞬間、謁見の間が、昼間の太陽すら霞むほどの凄まじい黄金の濁流に飲み込まれた。
まばゆい聖なる光が部屋を埋め尽くし、バルフレアたちが仕込んでいたであろう神殿の防壁や、騎士たちの結界がガラスのようにパリンパリンと次々に割れていく。
パキィィィン!!!
そして、神殿が誇る最高級の魔力測定水晶が、私の魔力に耐えきれず、粉々に爆発して四散した。
「ば、馬鹿な……! 神殿の至宝が……粉々に……っ!? お前、一体どれほどの魔力を……!」
腰を抜かして床にへたり込むバルフレア。
それだけでは終わらない。私の聖なる光の余波が、バルフレアの衣服の奥に隠されていた「黒い呪符」をジュウウウと焼き焦がしたのだ。
『ほう。やはりギルバートに悪魔の呪いをかけていたのは、その薄汚い老人だったようだな』
ランが本来の美しい白銀の姿へと一瞬で巨大化し、バルフレアの目の前に鋭い爪を突き立てた。聖獣王の圧倒的な神威に、最高神官も神殿騎士たちも、恐怖のあまり白目を剥いてガタガタと震えている。
「悪魔の申し子は俺ではなく……最高神官、お前の方だったか」
ギルバート殿下が冷酷な笑みを浮かべ、剣を抜いてバルフレアの首筋に突きつけた。
「我が婚約者ユキの聖なる力によって、お前の悪行の証拠はすべて白日の下に晒された。神殿の権力を利用し、俺を陥れようとした罪、国家反逆罪としてその首で償ってもらうぞ」
「ひぃ、ひぃぃぃ! 助けてくれぇ!」
かつての威厳など微塵もなく、涙と鼻水で顔を汚しながら引きずられていくバルフレア。神殿の悪意を、文字通り一瞬で「ざまぁ」してしまった瞬間だった。
◇◇◇
騒ぎが収まり、再び静かになった謁見の間で、ギルバート殿下が私の肩をそっと抱き寄せた。
「見事だったぞ、ユキ。まさか、神殿の最高戦力を一瞬で無力化するだけでなく、俺の呪いの元凶まで暴いてみせるとはな」
「えへへ、大切な人を傷つける人は、許せませんから」
私が胸を張って微笑むと、殿下はもう辛抱たまらないといった様子で、国中の貴族や騎士たちが見ている目の前で、私の額に深く、愛おしそうなキスを落とした。
「あーー! 殿下! 人目のあるところで我が娘に何をするのですか!」
お父様の絶叫が響き渡る中、私は殿下の腕の中で、今度こそ本当に、この世界に私の確かな「居場所」があることを実感していたのだった。




