第44話 二日目の朝
朝。
亜里沙は、ふかふかの大きなベッドの上で、ゆっくりと、目を覚ました。
カーテンの隙間から、爽やかな朝の光が、差し込んでいる。窓の外には、青く澄んだ空が、広がっていた。
「……ん……」
んっ、と伸びをして、亜里沙は、ぼんやりと天井を見上げた。
身体が、軽い。心も、晴れやかだった。こんなに、ぐっすりと眠れたのは、久しぶりだった。
(……遊園地で、こんなにゆっくりできたの、初めてだなあ)
ベッドから起き出すと、小夜は、まだ、すやすやと、可愛らしい寝息を立てていた。千夏は、もう、身支度を済ませている。
「おはようございます、亜里沙さん」
「おはよう、千夏さん。……ふわぁ、よく寝た。あれ、舞さんは?」
「お嬢様は、先に、朝食の会場へ。廊下の奥に、お食事の用意がされているそうですよ」
「へえ、そうなんだ」
身支度を整えて、亜里沙は、ひとまず、会場へと向かうことにした。
部屋を出て、廊下を、奥へと進んでいく。すると、突き当たりに、広々とした空間が、開けていた。
そこには、いくつものテーブルが並び、朝食が、美しく、準備されていた。隅には、ウェイトレスが控え、シェフの姿も見える。どうやら、欲しいものを言えば、その場で、作ってもらえるらしい。
その一角で、舞が、優雅に紅茶を飲みながら、のんびりと、寛いでいた。
「おはよう、舞さん」
「あら、亜里沙さん。おはようございます」
亜里沙も、隣に腰を下ろして、ふと、辺りを見回した。
これだけ、立派な会場なのに。そして、こんなに、たくさんのテーブルがあるのに──他に、客の姿が、まったく、見当たらない。
「……ねえ、舞さん。なんだか、ここ、私たち以外、誰もいないね。やけに、静かっていうか」
「ああ、それは……このフロアは、貸し切りになっていますの」
舞が、おっとりと、答えた。
「ですから、私たちだけですわ。蓮司様が、手配してくださったんですって」
「えっ、貸し切り!? ……あ、そっか。だから、エレベーターに乗る時、カードキーが必要だったんだ」
昨夜、専用のカードキーがないと、このフロアに上がれなかったことを、亜里沙は思い出した。なるほど、そういうことだったのか。
そんな話をしていると。
「おはよー!」
元気な声と共に、千鶴、結衣、冴子、が、やってきた。
四人とも、まだ、寛いだ、寝起きの装いだった。
「おはようございます、皆さん」
しばらくして、小夜も、目を覚まして、おずおずと、会場にやってきた。
「お、おはよう、ございます……」
それから、小夜は、ウェイトレスの姿に気づいて、自分の格好を、気にするように、もじもじとした。
「あ、あの……こんな格好で、出歩いて、大丈夫でしょうか……」
「あー、大丈夫だよ」
結衣が、けらけらと笑った。
「ここのスタッフ、プライバシーは、ちゃんと守ってくれるから。それに、今回は、シェフも、女性だけで頼んだんだ。だから、安心して」
「そ、そうなんですね……」
小夜が、ほっと、胸を撫で下ろす。
改めて、亜里沙は、目の前の四人を、見た。
そして──ふと、気づいた。
(……あれ。みんな、なんだか……肌が、すごく、つやつや、してる)
千鶴も、結衣も、冴子も。昨日、あれだけ遊園地で、はしゃぎ回ったのに。疲れた様子が、まるで、ない。それどころか、肌が、しっとりと、輝いて見えた。
「ねえ、みんな……昨日、あんなに遊んだのに、疲れとか、残ってないの? すごく、元気そう」
亜里沙が尋ねると、結衣が、得意げに、胸を張った。
「全然! むしろ、元気いっぱい! ってか、この肌、見てよ。すごいでしょ?」
そう言って、結衣が、自分の頬を、ぷにっと、指した。
「実はね、私、疲れが取れるオイル、持ってきてたんだ。蓮司くんに、マッサージしてもらいながら、使おうと思って。──そしたら、これが、お肌にも、すっごくよくて。つやつやになるんだから」
「へえ……マッサージ用のオイル、なんだ」
「うん。……まあ、でも、昨日は、蓮司くんが、やたら元気でさあ」
結衣が、ふふっと、思い出し笑いをする。
「肌と肌が、触れても、オイルで、つるつる滑っちゃって。もう、大変だったんだから」
(……肌と肌が、滑るって。何して……いや、聞くまい)
亜里沙は、その先を想像しかけて、慌てて、思考を、打ち切った。
その隣で、小夜は、意味がわからず、きょとんと、首を傾げている。一方、千夏は、何かを察したのか、ぽっと頬を染めて、そっと、視線を伏せていた。
「香りはよかったし、効果も、認めるけど」
すると、冴子が、やれやれ、と、ため息をついた。
「……でも、さすがに、使いすぎよ。ボトルを、二本も、ばらまくなんて。──滑って、怪我でもしたら、どうするの」
「えー、何言ってんの。確かに、ベッド一個、ダメにしちゃったけど。楽しかったじゃーん」
「楽しかったですけど……。蓮司くんが、私たちを支えるのに、結構、苦労してらしたわよ」
「ぶっ……!?」
その瞬間、紅茶を飲んでいた舞が、思いきり、噴き出した。
「げほっ、げほっ……!」
「お、お嬢様……!? 大丈夫ですか……!」
千夏が、慌てて、舞の背中をさする。その千夏も、耳まで、真っ赤だった。
「皆さん……っ、は、はしたない、ですわよ……!」
千鶴が、顔を赤らめて、慌てて、たしなめる。
その隣で、小夜は、話の意味を、半分も理解できないまま、それでも、ただならぬ空気だけは感じ取って、おろおろと、視線を泳がせていた。
亜里沙は、その一連のやり取りを聞きながら、なんとも言えない気持ちで、頬を引きつらせた。
(……みんなも。私たちの前だからって、すっかり、遠慮しなくなってきたなあ……)
最初の頃の、よそよそしさは、もう、どこにもない。それだけ、打ち解けた、ということなのだろうけれど。なんだか、いろいろと、刺激が強い。
そんな時だった。
「やあ、みんな。おはよう」
会場の入り口から、蓮司の声がした。
振り返って──舞が、ひっ、と、息をのんだ。
蓮司は、シャワーを浴びたばかりなのか、バスローブ姿だった。緩く合わせた胸元から、引き締まった鎖骨が、覗いている。濡れた髪を、無造作にかきあげる仕草が、やけに、色っぽかった。
そして、その腰には──シエラが、いつの間にか、ぴったりと、抱きついていた。
「お、おはよう、ございます……っ」
舞が、真っ赤になって、慌てて、目をそらす。小夜も、まともに見られず、両手で顔を覆って、指の隙間から、ちらちらと、覗いていた。
亜里沙も、思わず、視線を泳がせた。
(……っ、な、なんか……朝から、目に毒だ……)
「ほら、シエラ。朝ごはん、食べるよ」
蓮司が、腰にしがみつくシエラに、優しく言う。
けれど、シエラは、ぷっくりと、頬を膨らませて、首を振った。
「やだ。……わたし、昨日、二回しか、してもらってないもん。まだ、足りないの」
「ちょっ……シエラちゃん……!」
亜里沙が、ぎょっとする。
「シエラちゃん、仕方ないわよ」
冴子が、くすりと笑って、シエラの頭を撫でた。
「あなた、途中で、気絶しちゃったんだから」
「……むぅ」
シエラが、不満そうに、唇を尖らせる。
その会話を聞いて、亜里沙は、思わず、遠い目になった。
(……き、気絶って。昨日、いったい、どれだけ……激しかったの……?)
舞と小夜は、もう、何も言えずに、ゆでだこのように、真っ赤になっている。
「あはは、ほら、シエラちゃん、朝ごはん食べよ? ね?」
結衣が、明るく、場を仕切り直す。
そうして、みんなで、豪華な朝食を、囲んだのだった。
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朝食を終えると、一行は、二日目の遊園地へと、繰り出した。
今日は、昨日ほど、激しくは遊ばない。ゆったりとした、ショーを見たりして、早めに帰る予定だった。明日は、また、学校があるのだから。
「昨日と、また違って、楽しいね」
「ええ。今日も、いいお天気で、よかったですわ」
のんびりと、園内を歩いていた、その時だった。
「──やあ、白鳥さん。奇遇だね」
一人の青年が、にやけた顔で、千鶴に、声をかけてきた。
仕立ての良いスーツを着た、いかにも、金持ちそうな男だった。千鶴も、顔だけは、知っているらしい。どこかのパーティーで、見かけた相手なのだろう。
「……どなたかと、思えば」
千鶴が、にこやかに、けれど、どこか冷ややかに、応じた。
「こんなところで、奇遇ですわね」
「ねえ、白鳥さん。よかったら、僕と、お茶でもどう? 君みたいな、素敵な女性と、ぜひ、お近づきになりたくてね」
馴れ馴れしく、距離を詰めてくる男に、千鶴は、すっと、一歩、引いた。
そして、毅然と、言い放った。
「申し訳ありませんが。──私、今、彼氏と、デートの最中ですの。ですので、失礼しますわ」
きっぱりとした拒絶に、男の顔が、ぴくりと、引きつった。
「……へえ。彼氏ねえ」
男の目が、すっと、細くなる。
「ねえ、白鳥さん。悪いことは言わないよ。そんな男とは、別れて、僕と付き合いなよ。──そうすれば、君のお父上の会社とも、今後、いい取引が、できると思うんだけどなあ?」
あからさまな、脅しだった。
その下卑た物言いに、結衣が、むっと、眉をひそめた。
「……なに、この人」
冴子も、汚いものでも見るように、すっと、目を細める。舞と千夏は、不快そうに、眉をひそめ、小夜は、怯えたように、亜里沙の後ろに、半分隠れた。
その、冷ややかな視線に、男は、かえって、増長した。
「……なんだよ、その目は。君たち、僕を、誰だと思ってるんだ? うちの父の資産は、数十億を、超えてるんだぞ。──今すぐ、謝るなら、君たちみたいなのも、まとめて、僕の女にして、あげてもいいぜ?」
「は……? 何言ってんの、この人」
結衣が、思わず、呆れた声をあげた、その時。
「──ちょっと、いいかな」
男の後ろから、すっと、伸びてきた手が、その頭を、がしっと、掴んだ。
蓮司だった。
「な……っ」
「女性に対して、失礼じゃないかな。──君」
蓮司の声は、穏やかだった。けれど、その奥に、ぞっとするような、冷たさが、滲んでいた。
「な、なんだよ、お前……っ。関係ないだろ、部外者は引っ込んでろ!」
「関係あるよ」
蓮司が、静かに、言った。
「彼女たちは、俺の女だ。──勝手に手を出されて、黙ってると思うか?」
その圧に、男は、一瞬、怯んだ。けれど、すぐに、虚勢を張るように、声を荒げた。
「ふ、ふざけるな……っ! 白鳥さんに、ふさわしいのは、この僕だ! お前みたいな、どこの馬の骨とも知れないやつが……! いいか、僕に逆らったら、どうなるか……っ。将来、お前が働ける場所なんて、トイレ掃除くらいしか、なくなるぞ! それが嫌なら、さっさと、失せろ!」
「……そうか」
蓮司は、ふっと、息をついた。
「だったら、もう、いいよ」
その、あまりに静かな言葉と、同時だった。
「──お客様。少々、よろしいでしょうか」
いつの間にか、屈強な警備員が、数人、男を取り囲んでいた。
「な……っ、な、なんだ、お前ら……!? は、離せ……っ!」
「他のお客様の、ご迷惑になりますので。どうぞ、こちらへ」
「ふざけるな……っ! て、てめえら、僕を、誰だと思ってるんだ!? うちの父は……っ、放せ、放せえ……!」
男は、わめき散らしながら、警備員に、ずるずると、引きずられていった。
「……お騒がせ、いたしましたわね」
千鶴が、やれやれ、と、ため息をつく。
「まったく。せっかくの、いい気分が、台無しですわ」
「ほんと、感じ悪い人だったね」
結衣が、ぷんぷんと、頬を膨らませた。
「蓮司様。ありがとうございます」
「いや。──不快な思いを、させたね」
蓮司が、優しく、千鶴の頭を、撫でた。
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ところが──その時だった。
「……お、お兄様ぁ……!?」
慌てた様子で、一人の少女が、ぱたぱたと、駆けてきた。
その姿に、みんなが、思わず、目を奪われた。
金髪の、美しい縦ロール。お人形のように、可憐で、上品な少女だった。仕立ての良いワンピースを着た、その立ち居振る舞いには、育ちの良さが、にじみ出ている。
少女は、連行されていく男と、蓮司たちを、おろおろと、見比べた。
「あ、あの……っ、すみません……! お兄様が、何か、ご迷惑を……!?」
ぺこぺこと、頭を下げる。
「お兄様は、その……ちょっと、乱暴で、頭が、お悪いだけ、なんです……! 私が、代わりに、お詫びしますから……! どうか、許して、あげてください……っ」
その、いじらしい様子に、亜里沙たちは、思わず、毒気を抜かれてしまった。
「まあ……。あんな方の妹さんが、こんなに、可愛らしいなんて」
舞が、思わず、呟く。
「許すも何も。──ただ、追い出すだけよ」
冴子が、苦笑して、言った。
「あなたが、気にすることは、ないわ」
その時。
「……あ。華恋ちゃん、だよね」
ぽつりと、シエラが、言った。
その言葉に、少女が、はっと、顔を上げる。そして、シエラの姿を認めた途端、ぱあっと、瞳を、輝かせた。
「……っ、シエラ様……!? ま、まさか、こんなところで、お会いできるなんて……!」
少女は、感激したように、両手を、組み合わせた。それから、はっと、我に返って、慌てて、ぺこりとお辞儀をする。
「あ……っ、も、申し遅れました。私、九十九華恋と、申します……! シエラ様と、同じ学校に、通っているんです……!」
それから、華恋は、ふと、シエラの隣にいる、蓮司に、視線を移した。
その瞬間。
「……っ!?」
華恋の顔が、かああっと、真っ赤に、染まった。
「あ……っ、あ、あなたが……シエラ様の……っ」
わなわなと、口元を、震わせる。
「シ、シエラ様が……いつも、学校で、お話しされている……っ、その……ご、ご主人様、の……っ」
何やら、思い当たることがあるらしい。華恋は、ちらちらと、蓮司の姿を──特に、その、すらりとした体つきを、盗み見ては、ますます、湯気が出そうなほど、赤面している。
(……あれ? この反応、なんか……)
亜里沙は、その様子に、首を傾げた。
「ふふ。やあ、はじめまして」
蓮司が、その視線に気づいてか、苦笑しながら、軽く、会釈する。
「ひゃ、ひゃいっ……! は、はじめ、まして……っ!」
華恋は、消え入りそうな声で、ぺこぺこと、何度も、お辞儀をした。その動揺ぶりは、明らかに、ただごとではなかった。
亜里沙は、その光景を見て、ようやく、ぴんときた。
(……ああ、なるほど。お嬢様学校って言っても、やっぱり、女の子が集まれば、そういう、恋バナ的な話題は、出るんだ)
そして、シエラが、学校で、どんなふうに「マスター」のことを、語っているのか。なんとなく──いや、はっきりと、想像がついて。
亜里沙は、思わず、遠い目になった。
(……シエラちゃん。学校で、いったい、どんな自慢を、してるの……)
そんな、ませた少女たちの、内緒話を思って、亜里沙は、苦笑するしかなかった。
「華恋ちゃんって、シエラちゃんと、同じ学校なんだね」
亜里沙が、話を振ると、華恋は、こくこくと、頷いた。
「は、はい……! シエラ様は……私たちの、憧れ、なんです。お美しくて、成績も、ずっとトップで……。みんな、シエラ様に、憧れているんです……!」
「へえ、すごいんだね、シエラちゃん」
亜里沙が、感心して、シエラを見ると、シエラは、ふい、と、視線をそらした。少しだけ、照れているらしい。
「私、ずっと……シエラ様と、お友達に、なりたくて。でも、いつも、お声をかける勇気が、なくて……」
華恋が、もじもじと、俯く。
その、いじらしい様子に、結衣が、にっこりと笑った。
「じゃあさ、華恋ちゃん。よかったら、今日、私たちと一緒に、遊ばない? お兄さんのことは、もう気にしなくていいから」
「えっ……!? い、いいんですか……!?」
「もちろん! ねえ、シエラちゃんとも、お近づきになる、チャンスだよ?」
「……っ」
華恋が、ぱっと、顔を輝かせて、それから、おずおずと、シエラを見た。
「あ、あの……シエラ様。ご一緒、しても……?」
「……うん。いいよ」
シエラが、こくりと、頷く。
「……っ、あ、ありがとうございます……!」
華恋は、感激のあまり、目を潤ませて、何度も、頭を下げた。
「よかったですわね、華恋さん」
千鶴も、にっこりと、微笑む。
そうして、新たに加わった華恋と共に、一行は、賑やかに、園内を、巡り始めた。
華恋は、すっかり、舞い上がっていた。憧れのシエラと、手をつなぎ、優しいお姉様たちに囲まれて。夢のような時間に、頬を、紅潮させている。
その様子は、もう、連行されていった兄のことなど、すっかり、忘れてしまっているようだった。
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その後も、一行は、夕方まで、たっぷりと、遊園地を、満喫した。
華やかなショーを見て、最後に、もう一度、お気に入りの乗り物に乗って。華恋も、心ゆくまで、楽しんだようだった。
「今日は、本当に、本当に、ありがとうございました……!」
帰り際、華恋は、何度も、頭を下げた。
「私、今日のこと、一生、忘れません……! あの、また、お会いできますか……?」
「ええ、もちろん。学校で、シエラちゃんに、話しかけてあげてね」
「は、はい……!」
華恋は、名残惜しそうに、けれど、満面の笑みで、去っていった。
その後ろ姿を、見送りながら──亜里沙の心に、ふと、ある考えが、よぎった。
ちらりと、冴子を見る。やけに、華恋を、気に入っているようだった。シエラの隣に並べて、うっとりしていた、あの様子。
(……まさか、とは思うけど)
(……この子も、いつか、蓮司くんの……お仲間に、なったり……しないよね?)
そこまで考えて、亜里沙は、慌てて、首を振った。
(……まさか、ね。さすがに、考えすぎか)
けれど──この面々と、過ごしてきた、ここ最近のことを思うと。あながち、ありえない話でもない気がして。亜里沙は、なんとも言えない気持ちで、苦笑するのだった。
「……可愛い子、でしたわね」
「ええ。シエラちゃんの、お友達が、増えて、よかったわ」
そうして、楽しかった、一泊二日の遊園地旅行も、終わりを迎えた。
帰りの車の中。
窓の外を、流れていく、夕暮れの景色を、眺めながら。亜里沙は、この二日間のことを、振り返っていた。
たくさん、笑って。たくさん、はしゃいで。胸が、いっぱいになるような、温かい時間だった。
(……楽しかったな)
一周目では、決して、手に入らなかった、宝物のような、日々。
それを、噛みしめながら──亜里沙は、そっと、胸元の、赤い宝石に、触れた。
その温もりが、今は、なんだか、とても、愛おしかった。
第44話 了




