EX.グラサージュ家の日常〜お父様の黒歴史?〜
最終話です!
これがホントのホントに最後の更新です
「あの……お母様? この、お父様の寄せた文って……」
騒動から数ヶ月。わたくしは屋敷の資料室で一冊の古い学園文集を見つけて固まっていました。
そこには、今では想像もつかないほど鋭い目つきをした若き日のお父様と、その横に殴り書きされた一言。
『世界を甘さで支配する』
「まぁ……懐かしいわ……! あの頃のギルバートは本当に……ヤンチャというか、今じゃ考えられないくらい酷かったのよ? 陛下やハミルトン先生も巻き込んでね……」
背後から覗き込んだお母様が、頬に手を当てて楽しそうに目を細めます。
「そ、そうなのですか……!?確かにあの時のお父様たちのやり取りを見たらそんな気はしていましたが……。だって生徒のことを丁寧に呼ぶハミルトン先生が気兼ねなくお父様のことを呼ぶのですよ!?」
「そうなのよ〜。ギルバートも居ないことだし教えちゃおうかしら?」
お母様は悪戯っぽく微笑むと、わたくしの隣に腰を下ろしました。
お父様が聞いたら、きっと泡を吹いて倒れてしまいそうなほど、お母様の瞳はキラキラと輝いています。
「陛下……当時はまだエドマンド殿下だったけれど、あの方はとにかく『卒業したら自由がなくなる』と言っては、毎日お父様を連れ出していたの。お父様も文句を言いながら、結局一番張り切って……。そうね、あれはパティスリー『ラ・フォンテーヌ』で起きた事件だったわ……」
―――
数十年前の王都。
まだ夜が明けたばかりの並木道を3人の少年が全力で駆け抜けていた。
「おい、エド! まだ開店まで一時間はあるぞ! 誰も並んでいないと言っただろう!」
叫んだのは若き日のギルバートだ。今よりもさらに険しい、獲物を狩るような形相で手にした財布を握りしめている。
「何を言う、ギル。一番乗りでなければ意味がないんだ! 私はショーケースの端から端までを、朝一番の、誰の指紋もついていないガラス越しに眺めたいんだ!」
笑いながら先頭を走るのは、後の国王・エドマンド。
そしてその少し後ろを、バイオリンケースを背負ったリオネル・ハミルトンが、余裕の笑みを浮かべて並走していた。
「……ギル、諦めなよ。エドの『糖分への執着』は君の『エミリーヌ嬢への執着』と同じくらい底が知れないんだから」
「だ、誰が執着していると言った! リオ、お前……っ!!」
3人はパティスリーに到着するなり、まだ準備中の店主を主にギルバートの威圧感で圧倒し、店内へなだれ込んだ。
ギルバートは文句を言いながらも、エドマンドが注文する山盛りのケーキを運ぶ「給仕役」を甲斐甲斐しくこなし、リオネルはそれを見て「お人好しだねぇ」と毒を吐く。
それが、後の国王陛下、グラサージュ家侯爵、学園随一の教師の「クソガキ」だったころの思い出だった。
―――
「そ……そんなことが……。今のお父様からは想像できませんわ……」
わたくしは遠い目をして、文集の『世界を甘さで支配する』という文字をなぞりました。
お父様のあの強面は、当時からお母様への想いや、友人への甘さを隠すための「防波堤」だったのかもしれません。
「ウフフ……。そうでしょう?でもね、あの3人の中で誰よりも悪いのはハミルトン先生よ?彼は生徒会を欺く天才だったわ……。本当、どうして教師の道に行ったのかわからないくらいよ」
その頃。
学園の研究室で資料を整理していたリオネル・ハミルトンは、突如として盛大にくしゃみをした。
「……くしゅん! ……おや、風邪かな……それとも……?」
リオネルは眼鏡を指先で押し上げ、何食わぬ顔で窓の外を眺める。
「……誰かが、私の『噂』を語っているのかな? ……いや、ギルが娘の前で泣いているだけかもしれないね」
「そ、そんなことが……。それで、お父様たちはどうされましたの?」
「ウフフ、聞きたい? あのパティスリーのあとね、私と王妃……アゼリア様がね、血眼になって探し回って……やっと見つけたのは、下町の賑やかな音楽パブだったわ」
お母様は懐かしそうに、けれど少しだけ悪戯っぽく瞳を輝かせました。
―――
熱気と手拍子が渦巻く音楽パブ。
その中心で、エドマンドがピアノを叩き、リオネルがバイオリンを情熱的に奏でていた。
そしてギルバートはといえば、入り口で用心棒のように仁王立ちしながら、酒樽をリズム良く叩いて打楽器代わりにしている。
「「あなたたち、いい加減にしなさい――ッ!!」」
エミリーヌとアゼリアが肩で息をしながら踏み込むと、エドマンドは待ってましたと言わんばかりに不敵に笑った。
「おっと、ようやく主役のお出ましだ! アゼリア、君を待っていたんだ。1曲、私と踊ってくれないか?」
「はぁ!? 何を言って……」
呆気にとられるアゼリアをエドマンドが強引にダンスの輪へと引き入れる。そして、入り口で固まっていたギルバートも、真っ赤な顔をしてエミリーヌの前に立った。
「……エミリーヌ。その、1曲だけだ。エドが、お前が来たら誘えとうるさくてな」
「ギルバート、あなた……。反省文を増やすつもり?」
エミリーヌは怒っていた。けれど、不器用ながらも必死に差し出されたその大きな手を見て、ついため息と共にその手を取ってしまったのだ。
汗と熱気の中、彼らが奏でる無茶苦茶で自由な旋律に乗せて、二組の男女はステップを踏む。
そして曲の終わり。興奮が最高潮に達した時――。
―――
「……あんなに激しくて、素敵なダンスは後にも先にもあれっきりね。そうしたらね、ギルバートったら、曲が終わった瞬間に、私の唇をね……」
「ま、まあ……っ! お父様が、そんな大胆なことを……!?」
わたくしは思わず身を乗り出しました。
あのお堅いお父様が、公衆の面前でお母様に口づけ!?
お母様がさらに詳しい状況を話そうと口を開きかけた、その時です。
「エ、エミリーヌッ!! マリアンヌに変な……変なことを吹き込むのはやめなさいッ!!」
バァァァン!! と資料室の扉が勢いよく開きました。
そこに立っていたのは、顔を茹で上がった蛸のように真っ赤にし、肩を上下させて息を切らしたお父様でした。
「お、お父様!? いつからそこに……」
「最初から……いや、途中からだ! ……とにかく! エミリーヌ、その話は禁止だ! 今すぐ禁止だ!!」
お父様はアセアセと視線を泳がせながら、わたくしの手から文集をひったくろうと大股で詰め寄ってきます。
「あら、ギルバート。いいじゃない。若き日のあなたの情熱、マリアンヌも感銘を受けていたわよ? 特にあの『世界を甘さで支配する』という……」
「やめろぉぉぉ!! それを……それを言うなぁぁ!!」
お父様は頭を抱えて、その場にうなだれました。
お母様はそんなお父様を「あらあら」と優しく、そして存分に楽しみながら見つめています。
わたくしは必死に黒歴史を隠そうとするお父様の姿を見て、ようやく確信しました。
この温かくて、ちょっとお騒がせな「お人好したち」の血が、間違いなくわたくしの中にも流れているのだと。
「お父様、安心してくださいませ。わたくし、お父様のあの……『情熱的なリズム』。今度、夜会でじっくり見せていただきますわね?」
「……っ!! マ、マリアンヌ……お前まで……っ!!」
お父様のアセアセとした絶叫が、春の陽だまりが差し込む資料室にいつまでも響き渡るのでした。
これにて終了です!
最後、思いっきり遅刻したのは内緒。
まぁでも本編はちゃんと定時投稿したから許して!
処女作でした。
最初50PVしかなくて、それでも毎日投稿を続けていくうちにPV数がどんどんと伸びていって……。
マジで嬉しかったです。
この作品がきっかけでいろいろなジャンルや設定に挑んでいこうと思いました。
暫くは「万物の聴手」の更新をがんばります!
それでは皆さん、また次の作品でお会いしましょう!




