試合の理由
《サイド:深海優奈》
最後の検定会場と呼ばれる第1検定試験会場。
何となくですが、
この会場に来るのは久しぶりな気がしますね。
実際に二日ほど来てませんでしたので、
そう思うのは当然なのかもしれませんけど。
こうしてここに来てみると少し緊張してしまいます。
一応、生徒番号的には私も所属しているのですが。
気持ち的には最初の会場のほうが私にはあっていると思うからです。
まだまだ自分に自信なんて持てません。
そんなふうに考えながら歩き続ける私の視線の先で、
翔子先輩と北条先輩のお二人は受付で試合の手続きを行っているようでした。
「はあ…。」
二人の後ろ姿を呆れ顔で見守る常盤先輩の表情には疲労感が漂っています。
「…大丈夫ですか?」
「ええ。私は大丈夫よ。」
心配して尋ねてみたのですが、
常盤先輩はため息を吐きながらも微笑んでくれました。
「こうなったらもう仕方がないから、大人しく見守ることにするわ。」
何かを諦めるような口調ですね。
ですが。
常磐先輩なりに思うことがある様子でした。
「…でも、ね。」
小さく呟く常磐先輩の声に、
私と悠理ちゃんは耳を傾けます。
「翔子は決して馬鹿じゃないわ。自分の実力と相手の実力を正確に計れるだけの冷静さは持っているはずなのよ。私はそう思っているの。」
相手の実力を測れるだけの冷静さ。
小さな声で紡がれた言葉には、
とても強い想いが込められているような。
そんな気がしました。
「そもそも学力だって悪くはないのよ?私と比較して落ち込んだりはしてるけれど、筆記試験の成績も常に100位圏内にいるから。」
…え?
…100!?
「そ、そうなんですか…っ!?」
ちょっとびっくりです。
…1万2千人の中の100人。
普通に凄い気がします。
翔子先輩は勉強が苦手だと聞いていたので私達と同じだと思っていたのですが、
実はそうじゃなかったみたいです。
「ふふっ。翔子はね。やればできる子なのよ。面倒臭がり屋さんだから逃げ出すことも多いけどね。」
…そうだったんですね。
全然知りませんでした。
「翔子は自分が努力してる姿を見せないから、みんな気づかないけれど。ちゃんとね。人一倍努力をしてるのよ。」
それは…何となく分かる気がします。
とても責任感が強い人だからです。
普段はだらけているように見えますが、
決して無責任なんかではありません。
私や悠理ちゃんに気を使って、
たった一人で姿を消した翔子先輩の後ろ姿を見たことがあるから分かります。
…翔子先輩はとても凄い人です。
誰にも頼らずに。
たった一人で成績を伸ばしてきた事実を。
私も総魔さんも知っています。
「…だからね。逃げないと決めた時の翔子はね。いつだって私達の予想を超えた結果を出してくれるのよ。」
常盤先輩の予想を超える結果。
その言葉には、常盤先輩の沢山の想いが込められているような…そんな気がしました。
…だからきっと。
きっと常盤先輩は本気で翔子先輩のことを信じているんだと思います。
「…たぶんだけどね。翔子は何かを確信してるのよ。北条君に勝てる何かをね。そうでなければ絶対に試合を受けなかったはずよ。」
…そう、ですね。
確かにそうかもしれません。
この試合は翔子先輩にとって不利な条件だと思うからです。
例え北条先輩に勝てたとしても何の意味もありません。
北条先輩が勝てば成績を上げることができますが、
翔子先輩が勝っても成績は変わらないからです。
勝っても何もないのに、
負ければ成績が下がるんです。
会場内で挑戦されるのなら仕方がないと思いますが、
会場の外にいた翔子先輩が挑戦を受ける意味なんてないんです。
…それなのに。
翔子先輩は試合を受けました。
「…きっとね。そのことを北条君も気付いているはずよ。だからこそ北条君は試合がしたいと考えたと思うの。」
…普段なら逃げるはずなのに。
負ければ降格する状況で逃げなかったから。
今まで一度も勝てなかった北条先輩との試合を受けてしまったから。
だから常盤先輩も北条先輩も何かを感じたということでしょうか。
「翔子がどれだけの力を手に入れたのか?そして自分の力はどこまで通じるのか?それを確認したいのかもしれないわね。」
北条先輩にとっても。
翔子先輩にとっても。
確認のための試合、ということです。
試合の理由を説明してくれた常盤先輩の表情からは不安と期待が混ざっているような、
そんな雰囲気を感じてしまいました。
「常盤先輩はどっちが勝つと思いますか?」
尋ねる悠理ちゃんに、
常盤先輩は微笑みを返していました。
「沙織で良いわよ。常盤って言いにくいでしょ?」
呼び方を訂正しただけで、
悠理ちゃんの質問には答えてくれなかったんです。
…ですが。
沙織先輩の視線は…翔子先輩に向いているような。
そんな気がしました。




