相応の対価
《サイド:桐島亮平》
…ふう。
何とか準備が整ったな。
戦時中と言うことで港にある船を強制的に借り受けることにしたのだが、
都合の良いことにほとんど抵抗らしい抵抗を受けることはなかった。
…まあ、軍隊が乗り込んできたんだ。
普通なら諦めるしかないだろうけどな。
共和国とアルバニアの連合軍によって、
すでにイーファは滅亡したことになっている。
ここまではまあ当然の反応だろう。
イーファの王族は一人も生存していないからだ。
王家の断絶と他国の軍による占拠。
この状況で国が存続できるはずがない。
そのため。
現時点でイーファの各町は無法地帯となってしまっている。
国を守る軍がいないうえに、
治安を維持してくれる戦力も失っているわけだからな。
このまま何もしなければ犯罪が増加して町は壊滅してしまうだろう。
そうなればもはや商売も何もない。
船を持っていても役に立たなくなるのは目に見えているからな。
死に物狂いで取り返そうなどと思わないのも当然だ。
…まあ、もちろん相応の対価は払うつもりだ。
この町の代表に話をつけて、
町の防衛と治安維持を条件として船を借りることにしたのだ。
もちろん船が使い物にならなくなった場合には後ほど補填するという約束までしている。
これは戦後の話であって戦時中に補填することは出来ないが、
カーウェンの制圧が終わって戦争が終われば戦争を仕掛けてきたカーウェンに責任を押し付けて賠償請求を行ったうえで船の修理費用として町に払うという約束になる。
だから逆に言えば俺達がカーウェンに敗北した場合は支払うことが出来なくなるのだが、
もしもそうなってしまった場合は共和国とアルバニアが支払うことになるだろう。
…まあ、共和国にそれほどの資金力はないだろうけどな。
そもそもカーウェンに敗北した時点で共和国の存続さえ怪しくなる。
あとのことを今からあれこれと考える必要はないだろう。
…ひとまずカーウェンに勝てば済む話だ。
そのための戦力はすでにある。
アルバニアの軍事力を考えれば負ける確率はかなり低いはずだ。
それに俺達には澤木君もいる。
実力がどうこうよりも士気を高める英雄としての資質は十分だからな。
イーファの協力を得られたのも澤木君の存在が大きいのは間違いない。
総合的な戦力として考えれば共和国軍にアルバニア軍に、
そしてイーファ軍まで参加しているんだ。
敵が最強の海軍艦隊を率いるカーウェンであっても、
そうそう負けることはないはず。
そういった打算もあったうえでの交渉だ。
元々が貿易で成り立つ商人の国ということもあって、
互いの利益を考慮したうえで交渉が成立したのは間違いない。
…順当に進めば十中八九は勝てる戦いだからな。
船が無事に戻ってくればそれでよし。
仮に戻ってこなくても補填された金で新たな船が手に入るとなれば断る理由はないだろう。
そういった交渉を終えたことでイーファ西部にある港町ブリッツに到着した俺達は、
早々に船をかき集めてデニムの港に向かうことが出来るようになった。
「全商船、出港しろ!!!」
港から動き出す武装商船の数は50隻を越えている。
数だけで見れば大艦隊だが、
それでも軍船と比べれば規模は小さく耐久値も低いだろう。
それでもイーファで用意できる最強の船が武装商船なのだからな。
これ以上の贅沢はいえない。
「デニムの港に寄港するぞ!!全船、南東へ舵をとれっ!!」
イーファの海岸に沿ってデニムの港を目指す。
すぐ傍に控える絵里香とシェリルを引き連れながら、
風の動きを読んで船の帆を操る屈強な海の男達を従えてブリッツの港から出港した。




