前哨戦として
《サイド:杞憂幻夜》
時刻はそろそろ正午になるだろうか。
首都イーファへ至る街道を進むアルバニアの陰陽師軍は、
目的地まで残り1キロ程度の距離まで進んでいた。
「まもなくイーファに到着します。準備はよろしいですか?」
「はい。覚悟は出来ています。」
唯様は真剣な表情で頷いている。
これから始まるのは命を懸けた戦いだからな。
傷付け合い、殺し合う戦場に向かうことになるのだ。
だからこそ。
唯様は狂気の世界に踏み込む覚悟があることを宣言してみせた。
「夢や希望を実現するために、私も一緒に戦います。」
唯様が目指しているのは陰陽師と魔術師の共存だ。
もしも理想が実現出来れば両者の争いに巻き込まれる一般人の被害も減少するだろう。
その結果として安定した世界に近づくことが出来るようになるはずだ。
「後悔はしません。例えこの手を血で染めることになるとしても、私は私の信じる想いのために最後まで戦い続けます。」
…最後まで戦い続ける、か。
例え血を浴びようとも。
例え罪を背負うことになろうとも。
理想を貫くことを誓われたのだ。
ならば俺から言うべきことは何もない。
「最後まで戦います。」
「…畏まりました。」
はっきりと宣言する唯様の意志の受け止めて、
それ以上の追及は行わないことにした。
…やはり良く似ているな。
俺と宗一郎が知る御神唯様と今ここにいる御神唯様が、だ。
二人の性格はほぼ同じであり、
容姿も本人の生まれ変わりとしか思えないほど良く似ている。
…本当に唯様の生まれ変わりなのだろうか?
真実は不明だが、
陰陽道には輪廻転生という言葉がある。
死者の魂が新たな体を得て生まれ変わるという意味なのだが、
もしもそれが実際にあるとすれば今ここにいる唯様は俺達が知る唯様の生まれ変わりということになるのだろう。
…まあ、こればかりは希望的観測でしかないがな。
そうであれば良いとは思うが、
そうでないとしても特に問題はない。
…どちらでも良いのだ。
どちらであっても守り抜くまで。
事実がどうであれ、
俺が唯様に捧げる忠誠に変わりはない。
…だからこそ汚させはしない。
唯様の身に罪は似つかわしくないからな。
唯様に罪は犯させない。
そのために出来うる限りの努力をするまでだ。
「ご無理はなさらないでください。唯様が戦わずとも、こちらには優秀な戦力がございますので。」
「あ…はい。大丈夫です。私は私に出来る範囲内で精一杯頑張りたいだけですから。」
…自分に出来る範囲内で、か。
おそらく唯様の身を案じる俺に心配をかけたくないのだろう。
無理はしないと控えめに答えてくれていた。
…ならば、ここから先は俺次第だな。
唯様の危険を減らしながら戦争で勝利を勝ち取る。
それが実現できるかどうかは俺の采配にかかっている。
…まずはイーファだ。
3ヵ国同盟を成立させるためにの前哨戦としてイーファに攻撃を開始する。
真の平和を勝ち取るために。
俺達は首都イーファに攻め込むことにした。




