不思議な距離感で
《サイド:文塚乃絵瑠》
…はあ。
やっと帰って来れたわ。
ちょっぴり懐かしさを感じる校門から、
いつもと変わらない校庭を眺めてみる。
ただそれだけのことで、
学園に戻ってきたっていう実感がわいてくる。
…もう何ヶ月も帰ってなかったような気がするわね〜。
実際には数日なんだけど。
それぐらい懐かしく思えたのよ。
…たった数日のはずなのに。
久しぶりに歩みを進める校庭。
見慣れた景色や通いなれた道でさえも全てが懐かしく思える。
…何だかものすごく長い間、離れていた気がするわ。
そんなふうに感じてしまうのはきっと、
美咲さんとの日々が充実してたからかもしれないわね。
…って言うか、内容が濃すぎたのかも?
思い返してみるだけでも顔が赤くなってしまうくらい色々とあったのよ。
…まあ、それはそれとして。
こうして学園を歩いていると、
嫌でもあの日のことを思い出してしまうわね。
…自分の限界を感じて学園から逃げ出してしまったあの日のことを。
「う~ん。美咲さんが制服を綺麗に洗濯してくれてたから、まっすぐ学園に来れたけど…。この制服を着るのも久しぶりよね〜。」
雨に濡れてずぶ濡れだったからよ。
自分で言うのもどうかと思うけれど。
あれはかなり情けない姿だったと思う。
…まあ、そのおかげで美咲さんと出逢えたわけだけどね。
私にとっては運命的な出逢いだったと思っているわ。
美咲さんのおかげで無事に成長出来たわけだしね。
…はふぅ。
何だかんだで美咲さんにはお世話になりっぱなしだったわね~。
今になって気付くことが沢山あるのよ。
…美咲さんはずっと私のことを考えてくれてたんじゃないかな?
暗黒迷宮の挑戦に挫折して。
彩花との実力の差を感じて。
自信をなくして学園から逃げてしまったのに。
そんな惨めな私を美咲さんは温かく出迎えて優しく接してくれていたからよ。
…とても優しくて。
…とても淋しがり屋で。
とても素敵な人だったわね。
姉のようでいて。
母のようでいて。
親友のようでいて。
恋人のようでもある。
そんな不思議な距離感で私を見守ってくれていたの。
それが分かってしまったから、
今では美咲さんの優しさに心から感謝していたわ。
…ありがとうございます。
この想いが美咲さんに届くかどうかは分からないけれど。
それでも感謝の想いを忘れないように心掛けているの。
…また会いに行きますから。
想いを込めながら歩みを進めていく。
校庭を越えて。
校舎を横切り。
研究所に向かって歩き続ける。
…もうすぐみんなに会えるわ。
ただそれだけのことが何よりも嬉しく思いながら、
大急ぎで研究所に向かうことにしたのよ。




