父と母の名
「幾つか聞きたいことがあるのだが、俺の質問に答える気はあるか?」
「…ええ、俺が知る範囲内で良ければ、ですが。」
…ふむ。
まあ、今はそれでもいいだろう。
言いたくないことに関しては知らないフリが出来てしまうことにもなるが、
そもそも聞きだした話を信用できるかどうかも分からないのだからな。
話せることと話せないことの違いが明確になるだけでも多少なりとも聞いてみる意味はあるはずだ。
「では聞くが…先程も聞いた話だが、ウィッチクイーンときみは姉弟で間違いないのだな?」
「はい。確かに姉弟です。ですが、正確に言うと俺達は長野家の人間ではありません。その名を借りていますが、本来の名前は別にあります。」
…本来の名前だと?
まさか長野の名前すらも偽名だというのか?
「長野の名は本名ではなかったのか?」
「ええ、そうです。長野の名前は母方の名前になります。なので、本来名乗るべき父の名は別にあります。」
…ふむ。
父の名か。
あまり良い予感はしないな。
「本名は何だ?」
「竜谷淳弥です。そして父の名は竜谷元成です。」
…なっ!?
竜谷元成の子だとっ!?
さすがにこれは予想していなかった言葉だった。
…まさか、竜谷と長野の間に子供がいたとはな。
そこまでの親子関係や一族の繋がりまでは把握できていなかったのだ。
俺が分かっているのは竜の名を冠する3つの一族が竜の牙の幹部であることと、
魔女の王とも呼ぶべきウィッチクイーンが率いる長野の一族がいるということだけでしかない。
だからこそ組織内の家族関係までは把握していなかった。
…現在のウィッチクイーンと長野淳弥は竜谷家と長野家の子だったのか。
そしてそれはつまり。
長野君の父はこの国境において、
自らの娘の手によって殺害されたということだ。
…親子で殺し合う関係とはな。
その事実によって反乱軍が信用できる組織だと判断できなくもないように思えてきた。
…長野君は知っているのか?
竜谷元成を殺害したのが実の姉であることを。
「長野君。先程も言ったことだが竜の牙はすでに全滅している。どうやら竜谷元成も反乱軍の手によって死亡したようだ。そして、その殺害を実行したのが…」
「…姉貴ですね。」
俺が事実を告げる前に長野君は真実を見抜いていた。
「他の誰でもなく、きっと姉貴が自分の手を汚したはずです。竜谷元成に復讐することが姉貴の目的でしたから。」
「…復讐だと?」
「そうです。俺達の母は…かつてのウィッチクイーンは父に殺されましたから。」
…なんだと!?
長野君の告白を聞いて戸惑いを感じてしまったのだが。
それは俺だけではなく、
少し離れた場所にいる芹澤君達も同じように驚いている様子だった。




