隠れる必要はない
《サイド:ウィッチクイーン》
時刻は午前0時頃。
日付が変わったちょうどその頃に、
反乱軍と合流した私達はミッドガルムと共和国を分ける国境にまで接近したの。
「…なんだかんだで、またここに戻ってきたわね〜。」
つい数時間ほど前に国境を突破したばかりなのよ?
それなのにまた国境を越えなければいけないなんて…二度手間もいいところよね?
まあ、立ち位置が共和国側からミッドガルム側に変わってはいるけれど。
結局やるべきことは同じなのよ。
再び国境の突破を目指すことに変わりはないの。
せっかく共和国軍の包囲網をくぐり抜けて。
ミッドガルム軍の監視も回避して。
必死の思いでミッドガルムに移動したのに。
再びこの地に戻ってくることになってしまったのよ。
「そもそも予定通りに進んでいればミッドガルムに移動する必要はなかったけれど…ね。」
雪の精霊が消失していなければ、
慶太との連絡は十分に取れていたはずなのよ。
だけど雪が危機的状況に陥ってしまって、
精霊を解除してしまったために連絡手段が失われたことで、
私達はミッドガルムへの移動を余儀なくされてしまったの。
「苦労して突破した包囲網を、また突破するのね〜。」
一度ならまだしも二度目ともなれば、
精神的疲労はかなり大きいわ。
「何度も成功するほど共和国軍も馬鹿じゃないとは思うけれど…。だけど、ここで実力を発揮されて私達を発見されても困るわよね?」
先程とは違って今回は大部隊を率いているから突破はかなり至難の技になるわ。
よほど運が良くない限り、
気付かれずに突破するなんて不可能よ。
国境から撤退して小規模になったミッドガルム軍の監視を回避しながらここまで来るのはそれほど困難ではなかったけれど。
共和国軍は守りを固めて監視の目を光らせているから国境の突破は難しいはず。
それでもここを突破しなければ共和国には入れないんだけどね。
「どうする?部隊を小分けにして強行突破してみる?」
指揮官である慶太に問い掛けてみたんだけどね。
「いや…こそこそと隠れる必要はあるまい。」
慶太が答える前に雪のそばにいた北条辰雄が歩み出てきたのよ。
「俺が楠木博文と話をつける。だから安心して堂々と進め。」
…って言われてもね〜?
どういうつもりかは知らないけれど。
今回は北条辰雄が交渉役を務めてくれるみたい。
「本当に大丈夫なの?」
「心配するな。楠木とは戦友だからな。話し合いの場を用意するくらいは出来るだろう。」
…話し合いね〜。
ミッドガルム方面の国境警備隊司令官である楠木博文とセルビナ方面の北条辰雄は所属する地域が違うけれど、
立場は同じ司令官で友人と呼べる関係らしいわ。
「俺がいるんだ。隠れる必要はない。」
自信をもって宣言する北条辰雄が反乱軍の先頭を歩き出す。
「俺に任せておけ。」
…って言われても。
どうするべきかしら?
笑顔で堂々と歩みを進める北条辰雄の後ろ姿を眺めながら慶太に問い掛けてみることにしたの。
「どうする?信じてみる?」
私はまだ北条辰雄を信用しきれないでいるんだけど。
「良いんじゃないかな?彼は信じるに価する人物だと思うよ。」
どうやら慶太は信じる気でいるようね。
「本当に?」
「ああ。」
…どうかしら?
もちろん私だって悪意はないと思っているけれど。
それでも完全に信用するには立場が違い過ぎると思うのよ。
「大丈夫だよ。彼は一度宣言したことは絶対に裏切らない。きっとそういう人だよ。」
…だと良いけれど。
「私は信じてます♪」
自信をもって答える慶太に続いて、
雪も笑顔を浮かべながら頷いていたわ。
…はぁ。
雪の無邪気な笑顔を見てしまった以上、
説得は諦めるしかないわね。
…こうなったら仕方がないわ。
今は大人しく二人の意見に賛同することにしたの。




