使いにくくなった
《サイド:栗原薫》
海軍の船の中。
『コンコン』と扉をノックしてから、
通いなれたと思えるようになった部屋の扉を開けてみる。
そうして成美と二人で手を繋ぎながら室内に入ってみたんだけどね。
「ただいま~!…って、あれ?」
笑顔で部屋に入ってからすぐに足を止めてしまったのよ。
室内には御堂君しかいないはずって思いながら戻ってきたのにね。
何故か御堂君だけじゃなくて、
もう一人の人物が大きな荷物を抱えながら部屋の角のソファーにちょこんと座っていたから驚いたの。
「えっと…どうかしたんですか?」
「あれ…?」
私が問いかけた直後に、
成美ももう一人の存在に気づいて話し掛けたのよ。
「鈴置さんもここに泊まるんですか?」
「あ~、うん。まあ…多分そうなるのかしら?」
荷物を抱える姿を見て疑問を感じる私達に、
鈴置さんは苦笑いを浮かべながら答えてくれたの。
「何て言うか…昨日まで使ってた部屋が使いにくくなったせいで、どうしようか迷ってるところなんだけどね…。」
…使いにくくなった?
それってまだ使えないっていう意味じゃないわよね?
よく分からない理由だけど。
困ったように微笑む鈴置さんの複雑な表情を見て、
もう一度話を聞いてみることにしたの。
「もしかして…追い出されたんですか?」
部屋が使えない理由なんて、
それ以外考えられないわよね?
だけど鈴置さんは首を左右に振って私の質問を否定してしまったのよ。
「別に追い出されたわけじゃないんだけど…。居づらくなったっていう感じ?」
…居ずらい?
余計に意味が分からないわね。
「喧嘩でもしたんですか?」
森下さんと?って思ったんだけど。
「それも違うわ。」
どうやらそういうわけでもないみたい。
…どういうこと?
全然、理由が分からないんだけど。
「えっと。僕が説明しようか?」
ため息混じりに答える鈴置さんの落ち込みぶりが気になったのかな?
今まで様子を見ていた御堂君が代わりに説明をしてくれたのよ。
「鈴置さんは昨日まで医務室の隣にある控室に泊まっていたみたいなんだけどね。だけど今回の海戦後に治療班から戦闘部門に回されたらしくて、急に所属が変わったらしいんだ。」
…ああ、なるほど。
鈴置さん的にどう思うかは別として、
扱いが変わったことで医務室に居ずらくなったっていう理由なのね。
「…まあ、あのまま控室にいても特に問題はなかったんだけどね。だけど何となく場違いな気がして…それでどうしようか困りながら船内をうろうろしてたら御堂先輩と出会って、良ければどうぞって言われて今に至るっていう感じなの。あ…でも、もちろん迷惑ならすぐに出ていくわ。」
…いやいや。
私と成美の返事を待つ鈴置さんだけど。
この状況で文句なんて言えるはずないわよね?
…って言うか。
そもそも部屋の使用許可とか、
そういう決定権は誰にあるの?
…御堂君?
…黒柳さん?
よく分からないけれど。
私としてはどっちでも良い感じ?
「迷惑なんて思わないですし、自由に使えば良いと思いますよ。そもそも私も部屋を借りてる立場ですし、どうせベッドも沢山余ってるんですから、もっと増えても良いんじゃないですか?」
「私も薫と同じ意見です〜♪お友達は多いほうが楽しいですからっ♪鈴置さんがここにいてくれたほうが嬉しいですっ♪」
鈴置さんの同室を心から歓迎したことで、
鈴置さんはほっと安堵の息を吐いていたわ。
「ありがとう。そう言ってもらえると正直助かるわ。他に行く当てもないし、ここならみんな知り合いだから、そんなに気を遣わなくても良いしね。」
…ああ、うん。
まあ、ね。
…その気持ちは分かるかも。
私は特にそうだけど。
鈴置さんだって治療班の仲間や医師を除けば、
基本的に知り合いなんて呼べるような人は誰もいないでしょうし。
せいぜい研究所の黒柳さんや西園寺さんとか藤沢さん程度じゃないかな?
海軍に知り合いがいるとは思えないわ。
…ん?
でも?
…あれ?
「そう言えば森下さんはどうしたんですか?」
「あ~、うん。私も詳しいことは知らないんだけど。どうも他の船に移ったっぽいのよ。」
「何かあったんですか?」
それこそ喧嘩とか?
「いいえ。特に何もないけれど…。修行して強くなるような発言をしてたから、どこかで魔術の訓練でもしてるんだと思うわ。」
「一人で…ですか?」
「他の船にいる知り合いのところに行ったらしいの。それが誰なのか…どの船なのかまでは知らないけどね。」
ふ~ん。
…と言うことは?
つまり鈴置さんには説明せずに行っちゃったってことかな?
私も森下さんがどこに行ったのかは知らないけれど。
ひとまず現在は失踪中という扱いみたい。
だからこそ余計に医務室の控室に居づらくなって、
私達が使用してるこの部屋くらいにしか行く当てがなかったのかもしれないわね。
「…とまあ、そういう事情だから。しばらくお世話になります。」
………。
丁寧に頭を下げて一礼する鈴置さんの礼儀正しい姿を見て、
密かに苦笑いを浮かべてしまったのよ。




