志し半ばで
《サイド:米倉宗一郎》
「ちぃっ!!」
…まさかここで遭遇するとはなっ!
町の西側で突然現れた襲撃者の攻撃を運よく堪え凌げたものの。
敵対者の圧倒的な実力を前にして、
生き残れる自信など一切持てなかった。
…もはやここまでか!?
目の前で竜の牙を率いている人物が誰なのかなど今更確認するまでもなく知っている。
これまでに幾度となく剣を交えていながらも、
一度として勝つことが出来なかった相手だからだ。
…この男は危険すぎるっ!
竜の牙の幹部であり、
俺が最も危険視していた三人の内の一人なのだ。
「まさかお前が直接乗り込んで来るとは…さすがにそこまでは予想していなかったぞ。」
必死にルーンを構えるものの。
男は何一つ気にしたそぶりを見せずに冷静に話しかけてくる。
「まだ生きているのか。さすがにしぶといな。」
「悪運だけは人一倍だからな。」
「…だろうな。秘宝を使用する前に殺すつもりで攻撃したのだが、上手く躱されてしまったようだ。」
…やはり秘宝か。
いい加減、諦めてもらいたいものだな。
「そんな物はないと何度も言っているだろう?心配しなくとも俺は秘宝を使わない。いや、使えないというべきか。存在しない物は使いようがないからな。」
反論しながら男の周囲にも視線を向けておく。
竜の牙を率いる男の周囲には、
ざっと数えて100人を越える魔術師達が控えている。
これほどの部隊に対して、
こちらは俺と慶一郎しかいない。
グランパレスを離れるにあたってそれなりの護衛を借りていたのだが、
男が放った先程の攻撃によって陸軍の部隊は全滅してしまったからだ。
目の前の男が起こした大爆発によって、
周囲にいた陸軍も治安維持部隊もことごとくが殺されてしまっている。
さらには唯一生存している慶一郎も、
爆発から逃れる為に離れた場所へとはぐれてしまっていた。
…なんとか慶一郎と合流したいところだが。
見逃してはくれないだろうな。
正面に立ち塞がる男は、
明らかに俺に狙いを定めているのだ。
そして周囲の竜の牙達は慶一郎に狙いを定めている。
…絶対絶命の状況だな。
目の前にいる人物さえいなければ。
あるいはこの男さえいなければまだ勝ち目があったと思えるのだが、
この場にこの男がいるだけで死を受け入れるしかない状況へと追い込まれていた。
…あの男がいる限り俺達に勝ち目はない。
そして、もはや逃亡さえも不可能だ。
対面してしまった以上、
男の追撃を振り切ることは不可能としか言いようがない。
…数年前までならまだ勝ち目はあっただろうが。
今の俺では時間稼ぎすら出来ないだろうな。
まともにぶつかれば即死は確実だ。
どう頑張っても俺に男は倒せない。
…病さえなければっ!
健康であれば男と互角に戦える自信があるものの。
どれほど悔やんでも現実は変えられない。
病は俺の体を蝕んでいて、
確実に実力を衰えさせているのだ。
…ここが最期とはな。
呆気ない最期だと思う。
戦争を終わらせることが出来ず。
竜の牙を壊滅させることも出来ず。
志し半ばで朽ちていくしかないのだ。
数秒先に訪れるであろう最期の瞬間は、
あっけないほど突然に訪れてしまっていた。
…すまない美由紀。
…俺はここまでだ。
共和国を守り抜いて倒れた娘に想いを馳せて、
最後まで戦う覚悟を決めることにした。
「例えここが最期だとしても!せめて一人でも多くの命を道連れにして死んでみせる!!」
竜の牙の数を減らすこと。
その一点に狙いを定めてルーンを構えることにしたのだ。




