食べちゃいたいくらい
《サイド:文塚乃絵瑠》
午前9時を過ぎたわ。
心が折れそうになる朝食のあとで歯磨きや髪の手入れを整えてから、
今日も美咲さんに連れられてギルドの地下にある訓練施設にたどり着いたところなのよ。
「さて…と。それじゃあ、そろそろ本格的に訓練を始めましょうか。」
明るい笑顔を見せる美咲の笑顔は完璧な表の顔ね。
多くの人々が行き交う人前だからかな?
美咲さんの表情は汚れを感じさせない完璧な微笑みを見せているのよ。
…うっわぁ~。
さっきまでと、すごい差よね?
つい先ほどまで二人きりの室内で見せていた笑顔とは全く異なる微笑みなのよ。
まるで天使のような完璧な笑顔を見て、
思わずため息を吐いてしまったわ。
…はぁ~。
…いつもこうなら良いのに。
なんて思った直後に、
美咲さんが顔を近付けて耳元で囁いてくる。
「そろそろ慣れた方が良いわよっ♪」
…うわっ!?
あっさりと心を見抜かれて動揺してしまったのよ。
そんな私を眺めながら、
美咲さんは囁き続けてくる。
「一応忠告しておくけど、もしも余計なことを喋ったら、その時は『とっっっても』大変なことになるから十分に気を付けてね♪」
…えぇ〜〜〜?
脅しとしか思えない発言だったわ。
…怖すぎっ。
美咲さんの脅迫が怖すぎて、
無言のままで何度もコクコクと頷いてしまったのよ。
…どうなるのかは知らないけれど。
そんな危険なことは絶対にしないわっ!!
全力で誓ってしまうくらいに本当に怖かったのよ。
美咲さんが言う大変なことがどんな事態なのかは分からないけれど。
その内容を確認する勇気なんてないし。
…余計なことには関わらないのが一番よね?
安全第一と考えて、
美咲さんのことは誰にも話さないことにしたの。
…今は我慢の時よっ!!
ただただ耐えることだけを考える私の表情を眺めていた美咲さんは、
すごく楽しそうな表情で再び囁いてきたわ。
「とても可愛いわね。乃絵瑠ちゃんの表情は♪」
…うわぁぁっ。
背筋のゾクゾクが止まらない。
妖しくてなまめかしい声で囁いてくるから。
その声がまた恐怖を呼び起こして激しい悪寒を感じさせるのよ。
…こっ、怖いぃぃぃぃぃっ!!
美咲さんの視線。
美咲さんの言葉。
美咲さんの表情。
それら全てに恐怖を感じてしまったの。
それなのに。
美咲さんはとても楽しそうに囁き続けてくるのよ。
「本当に、食べちゃいたいくらいに可愛いわねっ♪」
…ぬああああああああああぁぁぁぁぁぁっっっっ!!
絶望的な気持ち悪さを感じてしまう発言だったわ。
美咲さんに見つめられているだけで、
身動きが取れなくなってしまうほどだったのよ。
「ふふっ♪」
怯える私を見て満足したのか、
美咲さんは少しだけ距離をとってから再び表の顔で話し掛けてきたの。




