前半と後半
《サイド:鈴置美春》
「はぁ…。疲れた~。」
大きなため息を吐く千夏がベッドに倒れ込んでる。
…まあ、その気持ちは分かるけどね。
「さすがに西園寺さんの訓練はきつかったわね。」
苦笑いを浮かべながら訓練の内容を思い出してみたのよ。
訓練の前半は、
容赦なく攻撃を続ける西園寺さんの魔術を必死に堪えきる試練だったわ。
だけど完全な防御なんてなかなか成功しなくて、
少しずつ怪我を増やしながらも実験が終わるのをただひたすらに耐え続けたのよ。
…あの時点ですでに、結構本気で死にそうだったのに。
それでもまだそれは前半でしかなかったの。
魔術による攻撃が終わってようやく実験が終了したと思った直後に…言われてしまったの。
『それじゃあ魔術訓練はここまでよ。次は実戦訓練を始めるわよ』ってね。
西園寺さんの言葉を聞いた瞬間に、
私達は揃ってその場に崩れ落ちてしまったわ。
…すでにボロボロなのに。
そこから実戦訓練って無理があるわよね?
そう思いながらも必死に堪え凌いだの。
…文字通り死ぬ気でね。
きっちり行われた1時間の訓練によって、
精神的にも肉体的にも限界まで追い込まれてしまったのよ。
「さすがにもう立ってるだけでもキツイわね。」
千夏の隣のベッドに腰を下ろしてみる。
今この控室には私と千夏しかいないわ。
救命救急班用として医務室の隣に用意された部屋なんだけど。
他の救急班は隣室の医務室で勤務中だからここにはいないのよ。
「ねえねえ、美春。隣の医務室が騒がしくない?」
…ん?
ぼそっと呟く千夏の言葉を聞いて、
隣へと意識を向けてみる。
…あ~、確かに。
すぐ隣の医務室からは慌ただしい声が聞こえてくるわね。
正確な内容までは聞きとれないけど、
おおよその検討はつくわ。
「多分、船酔い続出で看病に追われてるのかもね。」
「あ~、そうかも。これだけ揺れが酷いと海軍の人でも船酔いくらいするわよね~。」
千夏は隣の状況を予想しながら、
ベッドの上でゴロゴロとだらけていたわ。
…うぅ~ん。
だらしないと言うか、
無頓着と言うか、
少しくらいは気にするべきじゃないかしら?
「制服がシワだらけになるわよ?」
千夏の様子を眺めながら声をかけてみたんだけどね。
「どうせもうボロボロだし…。今更シワが増えたところで何も変わらないわよ。」
…確かに。
さらっと答えた千夏の言葉を聞いて苦笑するしかなかったわ。
千夏はもう色々と諦めてるようね。
…実際、私でも思うのよ。
この制服はもうダメかも…ってね。
繕ったところで直るような状態じゃないから。
…新しい制服を貰えないかな?
なんて思うけれど。
たぶん、無理でしょうね。
学園に帰ったら貰えるかもしれないけれど。
海軍の船に学園の制服があるとは思えないから聞くだけ時間の無駄だと思うわ。
…制服の請求は学園に帰ってからかな?
その頃にはもう忘れてるような気もするけれど。
…まあ、いいかな。
すでに2年以上使ってた制服だし。
諦めて鞄の中から予備の制服を取り出すことにしたの。
「…とりあえず、お風呂に入って体を綺麗にしたいんだけど。千夏はどうする?」
「うぅ~ん。」
千夏は少しだけ悩んでから、
ゆっくりと起き上がったわ。
「そうね~。お風呂にはちゃんと入りたいかも…」
一日の汗と汚れは洗い流したいようね。
「しんどいけど私も行くわ…。」
疲労感満載だけど、千夏も立ち上がったのよ。
そして鞄の中から着替えとタオルを取り出してから私に歩み寄ってきたわ。
「早く行って、早く休みましょう」
「ええ、そうね。」
切実に願う千夏に苦笑いを返してから歩きだす。
「さっさと行くわよ。」
親友の手をとって、
お風呂がある一番下の階層まで移動することにしたの。




