思い出の品
《サイド:常磐成美》
…えっと。
…これで良いのでしょうか?
「どこか変な所はないですか?」
「ん~。それで良いんじゃない?」
ぐるっと私の周りを回りながら、
栗原さんは私の服装を確認してくれました。
「大丈夫だと思うわよ。」
「ありがとうございます。」
「いえいえ。…あっ、でもここをもう少し…」
何か気になることがあるのでしょうか?
私の背後に回った栗原さんが、
スカートの後ろのリボンに手を伸ばしています。
「こうしたほうが…リボンが綺麗に見えるかも?」
…ああ、なるほど。
リボンを結び直してくれたみたいですね。
たぶんこのリボンはベルトの代わりではないでしょうか?
水色の薄くて広い紐をスカートの腰の部分に通して後ろでリボンの形にくくるみたいなのですが、
自分でも情けないと思うくらい不器用な私は上手くリボンの形に出来ていなかったようです。
「おっけ~!これで良いわよ!」
「あ、はい。」
お部屋に置いてある鏡に視線を向けてスカートの後ろを確認してみると。
大きくて綺麗な形のリボンが見えました。
赤色のスカートの後ろでヒラヒラと揺れる青いリボンがとっても可愛く思えます。
「ありがとうございます♪」
「どう致しまして」
振り返ってお礼を言ってみると、
栗原さんが優しく微笑んでくれました。
…えへへへ。
微笑んでくれる栗原さんの笑顔がとても素敵で、
私も自然と笑顔が込み上げてしまいます。
「栗原さんって、すっごく優しいですねっ♪」
「ん?そう?」
「はいっ!私はそう思います♪」
甘えるような仕草で栗原さんに抱き着いてみると、
栗原さんは温かい手で私の体を優しく抱きしめてくれました。
「成美ちゃんに良く似合ってるわね。沙織の服。」
「えへへへ~。嬉しいです♪」
「ふふっ」
甘える私の頭を栗原さんが優しく撫でてくれました。
「ホントに良い子ね~。」
頭を撫でてくれる栗原さんの優しさが嬉しく思えます。
ちょっぴりくすぐったくて、
少しだけ恥ずかしかったんですけど。
すごく安心できるんです。
栗原さんに抱きしめてもらえるだけで、
すごく居心地良く思えました。
「とっても幸せです♪」
「あはははっ」
楽しそうに笑いながら、
栗原さんは私から離れました。
「まあまあ、それはともかく。夜は冷えるから上着がいるわね〜。」
…上着?
そう言えば?
上着になるような服は持ってきていなかったような気がします。
「これを貸してあげるから着てみる?」
栗原さんが鞄の中から上着を取り出してくれました。
「…良いんですか?」
「ええ、良いわよ。」
差し出してくれのは薄いピンク色の服です。
「友達に貰ったカーディガンなんだけど。私にピンクは似合わないから成美ちゃんが着てみて。」
「あ、はい。」
言われるまま袖に腕を通してみると、
栗原さんはとても幸せそうに微笑んでいました。
「うんうん。やっぱり着るべき人が着ると、全然違うわね~。」
満足そうに呟く栗原さんですけど。
その言葉は私ではなくて誰か別の人に向けているような…そんな気がします。
「私が借りていて良いんですか?」
「ああ、うん。良いの良いのっ!そのほうがきっと愛里も喜んでくれると思うから。」
…愛里?
ピンクの服に視線を向ける栗原さんの笑顔は何故か嬉しそうに見えました。
「少し前の愛里を見てるみたい…かな。」
…えっと。
…どう答えるべきなのでしょうか?
愛里という方がどんな人なのか私は知りません。
…だけど。
…だけどきっと。
…その人はもう。
どこにもいないんだと思います。
何となく栗原さんの笑顔は私と同じように見えました。
私がお姉ちゃんと翔子さんを失ったように、
栗原さんは愛里という方を失ったのかもしれません。
だからもしかしたらこの服は、
栗原さんの大切な人の想い出の品だったのではないでしょうか?
栗原さんがピンクの服に向ける視線に込めた想いは、
私がお姉ちゃんの服に感じる想いと同じような気がします。
「大事に着ますね♪」
「うん。ありがとう。」
栗原さんは小さく頷いてから微笑んでくれました。
そのあとでもう一度鞄に手を伸ばして、
別の上着を取り出しているのが見えました。
今度は汚れ一つない真っ白な服です。
「これは愛里とお揃いで買った服なんだけどね。」
着替えた制服の上から白いセーターを着るようでした。
「薄手だから、丁度良いかな?」
…どうなのでしょうか?
私にはよくわかりませんけれど。
栗原さんが着ていた制服は、
少し大きめのセーターでほとんど見えなくなりました。
スカートの下の方が10センチほど見えているだけで、
あとは暖かそうなセーターしか分かりません。
「昼間に見たら暑苦しいかも?」
…う~ん?
それもどうなのか分かりませんけれど。
今は夜ですし、
雨のせいで普段よりも寒く感じます。
「そんなことないですよ♪すっごく可愛いです♪」
「あ、あははは…。」
栗原さんは照れ臭そうに笑っていました。
「愛里は似合ってたけどね。私はちょっと自信がないかな~?」
恥ずかしそうな表情の栗原さんですけど。
全然そんなことはないと思います。
「とっても似合ってますよ♪」
「そう?ありがとう、成美ちゃん」
私に微笑んでから、
栗原さんは入口に向かって歩き出しました。
…そして。
「待たせてごめんね〜。もう入って良いわよ。」
栗原さんが扉を開けたことで、
扉の向こうで待っていた御堂さんの姿が見えました。




