大荒れの海
《サイド:黒柳大悟》
…ふむ。
…予想以上の荒波だな。
激しい雨と強烈な波の影響によって、
船はとめどなく大きく揺れ続けている。
暴風というほどではないが、
さすがに海の上では遮るものが何もないからだ。
風の影響も無視はできない。
…これではセルビナに着く前に船酔いで倒れる者が続出するかもしれないな。
その可能性も考慮しつつ、
外の景色に視線を向けてみる。
…ふぅ。
見上げる空は暗く。
月も星も一切見えない。
「今は何時だ?」
何気なく時計に視線を向けてみると。
すでに午後7時になろうとしていた。
…ちっ。
この荒れではセルビナへの到着が遅れるかもしれないな。
仕方がないことだが自然には逆らえない。
…とは言え。
船が転覆しないだけまだましか。
今後も安全とは言い切れないが、
現時点では進むことが出来ているのだ。
「どうだ?セルビナへは向かえそうか?」
「え、ええ。なんとか」
操舵士に問いかけてみると、
緊張した面持ちで答えてくれた。
「船が転覆しないように必死に波に堪えるのが精一杯ですが、ひとまずはなんとか…。ですが視界の悪さが問題です。出来る限り安全な航路を選んでいますが、座礁した瞬間に全員あの世行き確定だと思います。」
…だろうな。
黙々と舵をとり続ける操舵士の必死な様子を見て、
話し掛けるのは控えることにする。
船や乗組員の命運が操舵士の腕にかかっているのだからな。
通常の海であればここまで切迫することはないが、
大荒れの海を進むとなればこの緊張感も当然と言えるだろう。
…最後まで無事に進めればいいが。
その保証はどこにもない。
とは言え。
今は考えるだけ無駄だろう。
…それよりも現状の把握が優先だな。
船は操舵士に任せるとして、
ひとまず現在の戦力を考えてみる。
ジェノスが襲撃を受けたことによって乗組員が減少したのが頭の痛い問題だが、
現時点での船の乗組員は総勢800名といったところだろうか。
医師や船大工などの非戦闘員も数多く乗船しているため全員が戦闘員というわけではないのだが。
実際の戦力は600を超える程度か。
1000名規模の巨大軍船なのだが、
海軍の一部をマールグリナの防衛戦力に回してしまったからな。
今はそれだけの乗組員がいない。
…まあ、数だけを揃えても意味がないのだが。
現時点での戦力で主力として数えられるのは両手の指で数えられる程度しかいないだろう。
今回は指揮官として俺がいるが、
補佐として西園寺つばめ君と藤沢瑠美君が乗船してくれている。
そして今回の戦いで最も頼りになるのは御堂龍馬君だ。
その御堂君と共に常盤成美君と栗原薫君の二人も乗船してくれている。
さらには期待の新人とも言うべき鈴置美春君もいるのだが、
森下千夏君に関しては何とも言えないな。
この船において主力と言えるのはその程度だろうか。
主力8人を含めた総勢800名。
セルビナ方面を警戒中の海軍と合流出来れば戦力は2万程度になるのだが、
それだけの人数でセルビナの港を落とせるかどうかは分からない。
…とは言え。
俺達の行動は陽動作戦も兼ねているからな。
国境へのセルビナ軍の援軍を阻止できればそれで良いとも言える。
こちらが戦力を分散させられたように、
セルビナ軍の戦力も分散させるのが目的なのだ。
陸と海から攻め込んで、
セルビナ軍を分裂させることが最大の目的になる。
…実際に上手く行くかどうかは御堂君次第だがな。
常盤成美君と鈴置美春君の成長にも期待したいところだが、
今はまだ戦力としては数えられそうにない。
…あくまでも今後に期待だな。
二人の成長は後回しとして、
御堂君を主軸とした作戦を考えることにしている。
…さて。
問題は御堂君の実力だが、
どこまで成長したのか…だな。
…どうだろうか?
学園にいた頃の実力とは明らかに違うはずだ。
…少し実験をしてから作戦を考えるべきか?
だとすれば藤沢君に協力して貰うのが最善だろう。
…一度、御堂君の実力を測定するべきだな。
そのために操舵室を離れることにした。




