キス
「…う~ん?」
全力で拒絶し続ける私を見て、
美咲さんは大きなため息を吐いてた。
「…はあ。仕方がないわね~。」
何故か本気で落ち込んでる様子に見えるんだけど。
それこそ気のせいだと思うことにしておくわ。
「それじゃあ、最低限の条件として…」
新たに語る妥協案は本当に最小限だったわ。
「乃絵瑠ちゃんのキスでどうかしら?」
…うぅ~。
今回の条件に心が揺らいでしまう。
…それくらいなら良いかも?
今までの条件に比べれば格段に楽勝に思えるんだけど。
その前に確認は必要よね?
「ホッペに…」
キスを…と問い掛ける前にね。
「お互いに子供じゃないのよ?そこまで妥協するつもりはないわ。」
笑顔で却下されてしまったわ。
…う~。
…唇同士で?
それも受け入れ難い条件なんだけど。
「それさえも嫌だって言うのなら他の所に行っても良いわよ。ただ、他の人で乃絵瑠ちゃんの役に立てるかどうかは知らないけどね〜。」
…はぅぅ。
「で、でも、捜せば一人くらいは…?」
「どうぞ〜、お好きに♪」
微かな抵抗を試みる私に、
美咲さんは微笑みを絶やさないのよ。
すでに私が折れるしかないっていうのを確信してる感じ?
「ああ、でもね?戦争がどうこうっていうこの状況で乃絵瑠ちゃんに協力してくれる優しい人がいるかしら?」
…うあぁぁ!?
…確かに厳しいかも。
知り合いでも何でもない私の面倒を見るために協力してくれる人なんて、
そんな簡単に見つかるとは思えないわ。
…もしかして、完全に追い詰められてる!?
すでに逃げ道なんてないってことを実感してしまったわ。
そもそも戦争がどうこう以前にね。
一学生に協力してくれる人なんてなかなかいないと思うのよ。
…って言うか?
無条件で協力してくれる人なんてまずいないはず。
お金にしても何にしても何かしらのお礼を用意するのが当然なのよ。
そういう意味で言えば美咲さんへの報酬はキスだけだから格安の条件とも言えるわ。
…むしろそれだけで済むのなら?
…って、だめだめっ!!
上手く美咲さんに誘導されてるような気がするわ。
…捜せばきっといるはず!
だから体を売るような条件を受ける必要なんてどこにもないのよ。
…でも。
…どこを捜せば良いの?
その方法を美咲さんが教えてくれるわけがないわよね?
研究所に戻って聞くわけにも行かないし。
学園には戻らないって決めたから、
それだけは出来ないわ。
…っていうことは?
このギルドで情報を集めるしかないわけよね?
…それなのに。
「ああ、そうそう。一応、言っておくけれど。今このギルドに優秀な魔術師なんていないわよ。優秀な人達はみんな戦争で出払ってるから一人も見つからないと思うわ。」
…え?
…うそぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?
「嘘だと思うのなら、気の済むまで調べても良いわよ?」
余裕の表情で答える美咲さんが嘘をついてるようには見えなかったわ。
どうも本気で言ってる気がするのよ。
…ギルドに指導者がいないの?
…じゃあ、どうすれば?
悩んでみるけれど。
すでに選択肢は一つしかなかったりするのよね。
この状況で協力を頼めるのは一人しかいないからよ。
「キ、キス…って、ちょこっとですよね?す、すぐに終わるから一瞬ですよねっ?」
「ええ、そうね。」
妥協案に服従しつつある私に美咲さんは笑顔で頷いてる。
「すぐに終わるわよ。」
…ホントに?
怪しい微笑みの美咲さんからは彩花以上の危険な雰囲気を感じてしまうわ。
「ま、まあ、ちょ、ちょっとくらいなら…。いい…のかな…?」
本当の気持ちを言うと嫌だけど。
他に方法が思い付かないのよ。
単に唇に触れるだけ。
ただそれだけのことだと思い込むことで屈しようとする私を美咲さんは楽しそうに眺めていたわ。




