赤髪に連なる作戦
何ができるわけでもない。
それでも、〝民間人〟の盾にならなければ。
ジェーンが赤い髪をなびかせたのは、そんな職能からだ。
ニーナの強張った呼びかけを背中に受けるも、ジェーンはかえってわずかに胸が穏やかになるのを覚えた。ぬちゃり、と足がわずかに沈む。
「絶対に出てこないでよ!」
叫んで言い聞かせると、ニーナはキュッと息を呑んだ。
魔法エネルギーは迷うことなく、向かってくる。
出たとこ勝負もいいところ。
口の中だけで「来るなら来なさい」とつぶやいたのは、自分への鼓舞だろうか。
光の波動は、立ち込める雲の下で、ガラガラと音を立てて向かってくる。
数瞬のうちに、ジェーンの眼前の地面を割いた。
目が眩む。だけど閉じるなんて許されない。
体中の筋が痛いほどに浮き立つ。
相手は何者か。
なぜ、今ここで、自分たちを狙っているのか。
冷たい汗が背中を伝い、小刻みに胸の奥が跳ねる。
だがそれも――
「ジェーンお嬢様」
いつもの、自室で髪を梳いてくれる朴訥な声によって、
「へ……?」
拍子抜けしたのだった。
「……メ、メアリー?」
こてん、と首が傾く。
「外に出ないようにと、お伝えいたしましたよね」
「え、えぇ。いや、えっと、そうじゃなくて…‥」
「ひとまず、その人に殴りかかりそうな態勢を解いていただけますか?
ノーサム伯爵とレイヴン様にお伝えしてほしくなければ」
咄嗟に脳が現実に引き戻される。
警戒態勢を取りっぱなしだったジェーンは、ハッと両手を上げた。
パタパタと振って言い訳を始める。
「ち、違うのよ、これは!
別に格闘をしようとか、そんなことではなくて。
すごい力を感じたから……」
チラリ、と視線を後ろに送る。
「ニーナさんを守らなくちゃって」
萎んでいく声に、メアリーは心の中でため息を噛み殺した。
「ジェーンお嬢様より、ニーナさんのほうが、よほど頼りになると思いますが」
「わ、わかってるわよ! けど、ほら……なんていうか……」
骨の髄までしみ付いた刑事魂とは言えない。
ごにょごにょと誤魔化しモードに入るも、メアリーの瞳は冷めたままだ。
「とにかく、なんでメアリーがここにいるのよ!」
「……橋の上でした話を繰り返しますか?」
「うっ」
「お嬢様に何かあって、ノーサム伯爵からお咎めを受けるのは私です。
私を思うなら、ご自覚なさってください」
「ごめんなさいってば!」
「ともかく――」
メアリーは一歩、二歩とジェーンに近づく。
「ご無事でよかったです」
変化の乏しい顔に、安堵の笑みが浮かんだように見えたのは、ジェーンの錯覚か。
「……心配かけて、ごめんなさい」
顔を伏せ、ローブのひだをきゅっと摘まんだ。
かすかにメアリーから吐息が漏れる。よかった。本当に。大切なジェーンに何かあったら、雇用主など関係なく、自身の気が持つかわからない。
早く、この島から安全な場所へ連れ出さなければ。
「ニーナさんも、お怪我は?」
「は、はい! 大丈夫です!」
「では、私について来てください。いつまでも長居するわけには――」
「待って」
素早く動こうとするメアリーを、ジェーンは固い声で捉えた。
「この島を、このままにはしておけない」
「お嬢様? 何を……?」
ジェーンは、雨に黒く染まった畑をぐるりと見渡した。
「この島は悲しみを生むだけよ。
そんなの捨て置けるわけないじゃない」
「だからといって――」
「メアリー、ニーナさん」
魔法の名手である二人がいれば、きっと状況を変えられる。
ジェーンは腹を括った。
「作戦を思いついたの」




