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人助けをしたら美少女に惚れられて偉い人に褒められるんですけど!  作者: マノイ
第一章

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9. 因果応報? その2 芹那を襲った二人組

「チッ、つまんねーな」

「そっすねー」


 街中を歩く柄の悪い二人組。誰が見ても裏家業の仕事をしていると思えるような風貌をしている彼らは見た目通りの存在だ。周囲を歩く人々も、関わり合いにならないようにと足早にその場を離れて行く。

 元々この街は治安が良い。それは近くにある瀧川女学院の影響だ。要人の娘が集う瀧川女学院は本来であれば犯罪組織に狙われやすく、生徒達を狙ったチンピラまがいの連中も集まりやすい。だが、瀧川女学院のせいで周辺の街に危険が及ぶのは申し訳ないと思った学院の関係者が、周辺地域を絶えず『掃除』しているため治安が抜群に良いのである。

 では何故その治安の良い街にこのようなチンピラが堂々と出歩いているかと言うと、単にこの二人がこの街に来たばかりでそのことを知らないからだ。彼らが所属する犯罪組織からは目立つ行動をするなときつく言われているが、それを無視して昼間の街を散策していた。もうしばらく歩いていれば『掃除』されていただろう。


「おい、あれ見て見ろよ」

「なんすかー。お、めっちゃ可愛い子じゃないっすか」


 二人の視線の先には、クレープを購入している美少女がいた。


「馬鹿、お前あいつ知らないのかよ。京極芹那だよ」

「京極芹那?アイドルか何かっすか?」

「そんなんだからお前はいつまで経っても上にいけねーんだよ。あいつは警視総監の娘だ」

「うひゃー!超大物じゃないっすか」


 男の片割れは迂闊に出歩いてはいるものの、犯罪者としては有能だ。残虐性と冷酷さと慎重さを併せ持ち、複雑な計画も着実に遂行できる頭脳と行動力がある。さらには『射撃』スキルを獲得したことで組織内での株が爆上げ。幹部候補とさえ言われている。


「あれやっちゃいますか?」

「当然だ」


 一方、相方の男は頭脳面で大きく劣っている。所謂、馬鹿というやつだ。自分で考えるのが苦手でいつも相方の男の腰ぎんちゃくとして動いている。馬鹿ではあるが指示したことは間違えずにやるため、使い勝手はそう悪くない。こちらの男は『人払い』という悪さをするにはもってこいなスキルを得たため、これまた組織内での株が爆上げ。ただしそれを使いこなす能力が無いため、体の良いパシリの扱いから抜け出せない。


「発動しました。ちょっと待っててくだせぇ」

「あいよ。呑気に食ってるからいつも通りなら間に合うだろ」


 人払いのスキルは、指定した範囲内に人が居なくなる効果がある。既にそこに居る人はその場を離れたくなり、そこが通り道であれば迂回したくなり、そこに住んでいる人は外での出来事に気付きにくくなる。男は芹那を攫うために、人払いのスキルを発動し、人が居なくなるのを待った。


「あの子、俺らが貰えるっすかね」

「流石に無理だろ。大物過ぎる」

「えーあんなに可愛い子を最初に好きに出来るチャンスなんてもうないっすよー」

「ボスに献上……いや、望めば『リセット』くらいはしてもらえるかもしれないな」

「それでも良いっす!いやぁスキルって素晴らしいですね!」

「はは、まったくだ」


 犯罪組織に攫われた可愛い女の子がどうなるかなど、誰が考えても悲惨なものだ。だが、今回の相手は警視総監の娘という超大物。彼女を上手く使えば警察をトップから掌握出来るかもしれないが、下手をすれば即壊滅だ。慎重な扱いが求められ、手籠めにしたいなどと口にしたらボスの手によって首が飛ばされてもおかしくない。

 だが、今はスキルがある。芹那を襲ったところで、体を回復させて元に戻し、記憶を弄れば何もしていないのと同じだ。記憶を弄ったことがバレたらアウトではあるが、その辺りはボスの匙加減。相手を誤魔化せる自信があるならば、部下のやる気を出すために大物を褒美としてくれる可能性も無くは無い。


 男達は芹那を自らの手で屈服させる下卑た考えを巡らせながら人が居なくなるのを待つ。彼らが単純に芹那に対して性的な欲望のみを抱いていたならば、芹那の人生は終わっていただろう。だが男達は別の性癖も持っていた。それは、弱い者を甚振いたぶることに喜びを感じるという嗜虐心。


 人を攫う際に、敢えて逃げさせて追い詰めることで恐怖を煽ることが趣味だったのだ。『人払い』と『射撃』というスキルはその趣味に大いに役立つものだった。


「よし、行くぞ」

「はいっす」


 そして男達は動き出す。芹那に対しても敢えて逃がし、つかず離れずの距離を着いて行き、時折サイレンサー付きの銃で足元を撃って恐怖を煽る。


「あーいーっすねー。ほらほら、逃げなきゃ追いつかれちゃうぞー」

「くくっ、おい見たか。さっきこっちを振り返った時の怯えた顔、最高だったよな」

「ぞくぞくするっす」


 最低の人狩りに興じる男達だが、それは予期せぬ闖入者によって中断させられてしまった。人払いによって誰も居ないはずのこの場所に、何故か男が一人紛れ込んでいたのだ。

 最高の獲物に対して気持ち良く狩りをしていたところで水を差されたことに、男達の気分は大きく害された。芹那をお姫様抱っこで抱えて逃げようとする男を処分するべく、射撃スキルを持つ男が狙いを定める。

 男に射撃スキルが付与されたことを知った組織は、金をつぎ込んで男に射撃訓練を受けさせた。スキルレベルを上げさせるためだ。その結果、男のスキルは四まで上昇し、動いている相手であっても狙った場所に精密射撃が出来るようになった。ポケットから取り出したスマホや走って左右にぶれる頭部を撃ち抜くなど余裕である。

 芹那には一切怪我を負わせずに、助けに来た男を殺して芹那を回収することが可能であった。


「余計なことに首を突っ込んだ己の愚かさを恨むんだな」


 その言葉の直後、男は引き金を引いた。いや、引くつもりだった。しかしそれは出来なかった。

 何故ならば男はすでに死んでいたからだ。


「……え?」


 男を殺したのは、相方の男だった。何故か体が勝手に動いて仲間の男の頭部を至近距離からぶち抜いた。


「お、お、俺、なんで、え、なんで?」


 目の前の凄惨な死体と、自分の体に降り注ぐ真っ赤な血。そして不可解な自分の行動に、男は慌てふためく。逃げる芹那達のことなど頭から抜け落ちている。


「や、やばい、殺される!」


 組織で次期幹部と言われるほどに有望な男を撃ち殺した。馬鹿な男であっても、それが何を意味するのかは理解出来た。間違いなく組織に『粛清』されるだろう。


「ひいいいい!」


 男はその場から逃げ出した。幸いにも男には人払いのスキルがある。このスキルを発動させたまま街を出れば、この街に潜んでいる組織にすぐに始末されることは無いだろう。

 なんとか逃げ切って海外にでも逃亡しなければ。

 足りない頭を必死に動かして自分が生き残る道を考え、男はひたすら逃げた。


「(こっちは危ないっす。こっちもダメ。こっちに行くっす)」


 途中で自転車を盗み、直感に身を委ね、郊外へ向かってひた走る。

 服に血がついているため、いずれどこかで着替えなければならないのだが、そのことにも気づかないくらい焦って逃げる。

 そして郊外の公園に辿り着き、ベンチに腰を下ろして休憩する。すでに時間は夜遅く、人払いのスキルを解いても人は来ないだろうが、念のため解除はしない。


「とりあえずここまで来れば大丈夫っすかね」


 息を整えて落ち着いたら、猛烈に喉が渇いていることに気が付いた。近くの自販機でも探そうかと男がベンチを立った時、突如四方八方から光に照らされる。


「どこに行くのかい」

「なにっすか!」


 突然の光だけではなく、人払いで居ないはずの人の声が聞こえて男はパニックになりかける。


「なぁに、ちょっとあんたに話があってね」


 その声は年老いた女性のものであった。男は後ろ暗いことがあったため、すぐに逃げようとする。


「あれ、こっちも人が!こっちも!あれ、あれ、なんで?どうして?」


 逃げようとした先には人が立っていて、それならばと別方向へと逃げようとするが、そこにも人がいる。照らされた光に段々と目が慣れて来て、周囲を見回すと男は多くの人に囲まれていた。


「ひ、ひひ、人払いしているはずなのに!」


 何度確認しても人払いのスキルはまだ発動中であり、絶対に人がいるはずがない。


「くっくっくっ、あんたはスキルに頼りすぎなのさ。これだけ長時間人払いを続けていたら、不自然に人が寄り付かない場所が丸わかりさ。大体の場所さえ分かれば、後は『行きたくない』って思った方に敢えて進めばスキル使用者を見つけることなど簡単なこと」

「あ、あああ……」


 スキルは絶対ではない。過信してはならず、知恵などのスキル以外の武器を鍛えることも重要である。それを怠っていた男が、人々を守るために日夜努力している者達に勝てるわけが無い。


「しかしまぁ、いくらなんでもこんなにも捕まえてくれと言わんばかりの場所に逃げるなんて、あんた馬鹿かい?それともこれもあの子の力かねぇ」


 人気のない公園であれば、多少派手に立ち回っても周囲の住人に迷惑をかけることは無い。捕まえる側としてあまりにも都合の良い場所に逃げてきたことを老婆は不思議に思い、奏の『報い』が関係していると考えた。


 この考えは正しかった。『人払い』は『その場所に行きたくなくなる』影響を人々に及ぼす。そしてその効果は無効化されたとはいえ奏にも降りかかっていた。それが『報い』として跳ね返り、男は逃走中に逃げ切れそうな『場所に行きたくなくなる』ように感じていた。


「さて、大事な娘に手を出したあんたに報いを、と言いたいところだが、それはこいつに任せるとしようかね」

「感謝する」


 老婆の横から、眼光鋭い巨漢が出現する。その男性の本気の睨みに晒されただけで、男はその場にへたり込んでしまった。


「連れて行け」

『はっ!』


 その男への決して表には出ない『尋問』により、この日、街に潜んでいた巨大な犯罪組織は壊滅させられた。


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