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人助けをしたら美少女に惚れられて偉い人に褒められるんですけど!  作者: マノイ
第一章

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10/72

10. 美少女を助けたらまた何処かに呼び出されたんですけど

 芹那父娘との夕食会から二日後の日曜日。奏は疲弊した心を癒すために街へと繰り出していた。


 目的地は大きなゲームセンター。幼馴染ーずと一緒に遊びに行く時は真っ先にプリントシール機に向かうのだが、今日は残念ながら予定が合わずに一人きり。となると選択肢は一つしかない。


「新しいの入荷してるかなー」


 レースゲームやガンシューティング、リズムゲームや格闘ゲームなどには目もくれず、奏はクレーンゲームコーナーに足を運ぶ。狙いはもちろん可愛いグッズ。特にぬいぐるみは大注目だ。


「可愛いのがある!」


 運が良いことに、その日はこれまで見たことの無い新作の台が設置されていた。景品は車の形を模した愛らしい動物のぬいぐるみで、奏の好みにクリティカルヒットした。


「店長さーん」

「はい、何でしょうか。ああ、奏ちゃん。いつものかい?いいよいいよー」

「ありがとうございます」


 小さい頃から何度も来ているゲームセンターなので女性店長とも顔見知り。ちゃんづけで呼ばれることが気にならなくはないが、何度言っても直してもらえないためもう諦めている。

 奏が店長に声をかけたのは筐体の中の商品の写真を撮って良いか確認するためだ。許可なく勝手に写真を撮るようなマナー違反は絶対にしない。


「ふんふふーん」

「ふふふ、それ奏ちゃんが気に入ると思ったんだー」


 店長が見守る中、奏は様々な角度からたっぷりと写真を撮った。


「これで大丈夫です。店長さんありがとうございました」

「いいよいいよ。取れると良いねー」


 奏が重ねて店長に礼を言うと、店長は手をひらひらさせながらその場を離れる。

 ここからは勝負の時間だ。奏の軍資金は300円。上手い人でも筐体の設定によっては心許ない金額。そして奏は上手い人ではない。

 結果、あっさりと300円を溶かして撃沈する。獲れる可能性すら感じられなかった点、奏にクレーンゲームの才能は無いのだろう。


「一個だけでもあればなぁ」


 しょんぼりと肩を落として奏は筐体から離れる。すると、入れ替わりに一人の女の子がやってきて奏が断念したクレーンゲームに挑戦する。奏は次の機会に獲れるようにと、その子のプレイをこっそりと眺めて勉強する。すると、その子はたったの一度のプレイで商品をゲットした。しかも奏が一番欲しいと感じていたペンギンタイプのぬいぐるみだ。


「あ、あの、写真を撮らせてもらえませんか!」


 奏は慌ててその子に駆け寄り声をかけた。だが、この内容ではまるで女の子の写真を撮りたいと言っているようなものだ。


「嫌です」


 当然、相手からは気味悪がられて拒絶される。奏はすぐに自分の失敗に気が付いて肩を落とす。


「ごめんなさい!」


 改めて説明し直すことも考えたが、失礼して一度気を悪くした相手にしつこく話しかけることなど問題外であるため、女の子が手に持つぬいぐるみを切なげに見てからその場を後にしようとした。


「待って」

「え?」


 しかし、女の子は去ろうとする奏の後ろ姿に声をかけて引き留める。


「もしかして、写真ってこれのこと?」


 女の子は入手したぬいぐるみを掲げる。


「う、うん」

「私じゃなくて?」

「うん、そのぬいぐるみを撮りたかったの。勘違いさせるようなことを言って怖がらせてごめんなさい」

「いいよ」

「え?」

「写真撮るんでしょ。いいよ」


 女の子の声は抑揚が少なく感情が掴みづらい。表情は普通のすまし顔で眼鏡をかけていること以外が何故か奏の印象に残らない。服装に関しても特徴が無く、街で良く見かける年頃の女の子の服装といった感じだ。


「ほんと?ありがとう!」


 奏は差し出されたぬいぐるみを受け取り、上下左右回転させながら何枚も写真を撮る。


「なんで裏まで撮ってるの?」


 ぬいぐるみを可愛く撮るにしては、妙な角度からも撮っている。女の子はそれを不思議に思ったのだろう。


「これと同じぬいぐるみを作ろうと思って、近くで細かいところまで見たかったんだ。手触りとかも分かったし、すっごく助かったよ。ありがとう!」


 奏はお兄様お姉様方を虜にする魔性の笑みを浮かべて感謝を告げる。だが女の子はその笑顔よりも奏の台詞の方が気になったようだ。


「ぬいぐるみ作るの?あなたが?」

「うん、趣味で作ってるんだ。ほら、これも僕が作ったんだよ」


 ショルダーバッグにつけられている小さなもりっくまのぬいぐるみ。小さいながらも造形はしっかりしており、もりっくまの愛らしさが的確に表現されている。


「かわいい」


 女の子もそのミニもりっくまを見てうっとりしている。奏は自分が作ったものを褒められて喜び、ある提案をした。


「よければ僕が作ったぬいぐるみの写真見る?」

「うん」


 奏はスマホでぬいぐるみの写真を表示して女の子に見せた。


「わぁ、ピカもんにマッキーに、ペン子もいる。かわいい」

「えへへ、なんか嬉しいな」

「ぺんたろーは居ないの?」

「もちろんあるよ。君もぺんぐー好きなんだね」

「大好き」


 その後も奏は女の子に写真を見せながらぬいぐるみ談義を続ける。どうやらこの子と奏の趣味や感性が合うようで、話は全く尽きる気配が無い。男女が仲良く会話しているのに、女の子同士がキャッキャしているようにしか見えないのが男として悲しいはずだが、奏は楽しすぎて気が付かない。


「そろそろ行かなきゃ」


 そんな楽しい時間にも終わりは来る。女の子は時間を確認すると名残惜しそうにつぶやいた。


「そっか……結構話しこんじゃったもんね。引き留めちゃってごめんね」

「ううん、楽しかった」


 これでお別れ。奏はクレーンゲームの他の筐体に新作が入っているか確認してから、ぬいぐるみの材料を買うために手芸屋に向かう予定だ。


「それじゃあね。僕も楽しかったよ」


 奏がその場を離れると、女の子は入手したぬいぐるみを手にゲームセンターを後にした。


「他は今までと変わらないかな」


 一通りクレーンゲームの景品を確認し終えた奏はめぼしい物が無かったためゲームセンターを後にしようとするが、その前に店長が声をかけて来た。


「奏ちゃん、ちょっと待って」

「何ですか?」

「さっき女の子と話してたよね。あの子知り合い?」

「違いますよ。今日初めて会いました」

「あらそう。連絡先とか聞いてない?」

「聞いて無いですよ!?」


 ナンパしたのかと言われているようで思わず語気を強めて答えてしまう。


「う~ん、そっか。あの子、これを落としたみたいで」

「これって生徒てちょ……!?」


 生徒手帳は折りたたむタイプのもので、内容は見えなかったが表に学校名が記されていた。


 瀧川女学院。


「(またぁ!?なんで!?)」


 この街で暮らしていても一生出会うことは無いと言われている瀧川女学院の関係者にまたしても遭遇したことが分かり、奏はめまいのような感覚を覚えた。


「まさかあの子が瀧女の生徒さんだったなんてねぇ。取りに来るとは思うんだけど、奏ちゃんが知り合いなら渡してもらおうかなと思ったのよ」

「……分かりました。近くを探してみます」

「あらそう?無理しなくて良いのよ」

「はい、僕も用事があるので少しだけ探して見つからなかったら諦めます。これは店長さんが持っていて下さい」

「分かったわ。お願いね」


 正直なところ、偉い人に感謝される前例があるため関わりたくはない。だが、相手は自分と趣味が合って一緒に会話を楽しんだ女の子。その子が生徒手帳を紛失して焦るのは可哀想だと思う優しさが奏の背を押した。


「(瀧川女学院って言っても沢山生徒がいるだろうし、あの子も理事長や警視総監みたいなとてつもなく偉い人の関係者ってことは流石に無いよね)」


 嫌な予感を適当な理屈で押しこめて、奏は女の子を探しにゲームセンターを後にした。


「(そんなに時間経ってないし、まだ近くにいるかもしれない)」


 大通りを歩きながら奏は女の子の姿を思い出す。


「(あれ?顔がはっきりと思い出せない)」


 眼鏡をかけていたことは覚えている。全体的にパーツは整っていたような気もするし、肌も手入れはしっかりとされていて綺麗だった。よくよく思い出すと知的美人風であったが、不思議と印象に残らなかった。服装にも特徴は無く、巷で女子に人気のコートを無難に着こなしていた。


「(おっかしいなぁ。あんなに長く話したのにこんなにも印象が薄いなんて)」


 奏は女の子の姿を思い出すことに夢中になり、気が付いたら人気ひとけのない裏通りを歩いていた。飲み屋の裏口通りで通りにはゴミが積まれており、若い女の子が来るような場所ではない。


「おっと、あの子がこんな場所に来るわけないよね。大通りに戻らなくっちゃ」


 なんとか思い出した女の子の姿を忘れないようにと考えながら表通りへと移動する奏の耳に、微かに声が聞こえて来た。


「きゃ」

「?」


 その声は一瞬で続きは無く、声と言うより何かの音を声と勘違いしたのかもしれないと奏は感じた。しかし、奏はその声が無性に気になり、近くの車一台通れる程度の細い路地を何気なく覗いた。


「!?」


 驚くことに、そこに探し人がいた。しかもその子は男に腕を掴まれて、ワゴン車に今にも連れ込まれようとしていた。口を大きく開けて何かを叫んでいるようだが、何故かその言葉が奏には聞こえない。


「何してるの!」


 男が奏の存在に気が付いた。


「やべぇ、気付かれた。こいつ、早く来い!」


 慌てた男は乱暴に女の子を車に引き入れようとするが、女の子も全力で抵抗しており中々上手く行かない。


「その子を離せええええ!」


 奏は女の子を助けたい一心で、男に体当たりをする。結果、女の子を掴んでいた腕は離れ、女の子と男の間に距離を取ることが出来た。


「チッ、逃げるぞ!」


 男は女の子を攫うことを諦め、ワゴン車に乗ってドアを閉めた。攫おうとしていた男とは別に運転手が居たようで、ワゴン車はすぐに発車してその場から消えて行く。


 男から解放された女の子は地面に座り込んでいる。奏は彼女の元に近寄り声をかける。


「大丈夫?」


 女の子は美しかった。奏が知的美人と評したのは間違いでは無く、芹那が可愛さ全振りであるならば、この女の子は美しさ全振りと言えるだろう。何故かゲームセンターではそれほど印象に残らなかったその顔が、今は尋常ではない美しさを表に出していた。


「(すごい綺麗な人……)」


 思わず奏は見惚れてしまい、声をかけたまま固まってしまった。女の子は見上げるように奏を見つめ、しばらくして顔をくしゃりとゆがめる。


「うわああああああああん!怖かったよおおおおおおおお!」


 女の子は奏に抱き着いて子供のように泣き出した。

 ゲームセンターで出会った趣味の合う女の子が実は超絶美人で自分の胸に泣きついている。

 奏は硬直し、それは女の子が泣き止むまで解けることは無かった。




 女の子が落ち着いた後、二人は路地裏から出てゲームセンターに向かい、生徒手帳を店長から返してもらった。その後、奏が警察を呼ぼうとするが、瀧川女学院に自分が伝えれば対処してくれるから必要無いと女の子から説明を受け、犯罪には警察という常識を信じている奏は釈然としないながらも納得させられた。

 その後、女の子が迎えを呼んだので、奏は傍で一緒に待っていた。襲われた女の子を放置することなど出来るはずがない。せめて知り合いに引き渡すまでは彼女の傍に居て安心させてあげようと考えていたのだ。


 ちなみに、彼女の顔は最初に会った時のような印象に残らない雰囲気に戻っていた。


「(スキルでも使ってるのかな?)」


 否。奏は『因果応報?』の力でスキルの影響を受けない。スキル以外の秘密があるのだ。


「迎えが来ました」


 話し方も抑揚が乏しい感じに戻っている。


「え゛!?」


 奏はその『迎え』を見て驚いた。嫌な予感が復活した、と言った方が正しいかもしれない。そこにはまたしても黒塗りの高級車が居たからだ。


「お嬢様、お待たせ致しました」

「(瀧川女学院なんだから高級車もお嬢様呼びも普通だよね)」


 奏は嫌な予感を強引に振り払う。

 女の子は車に乗る前にくるりと奏の方を振り返る。その顔には『生きた表情』が浮かんでおり、絶世の美少女に切り替わっていた。


「今日は本当にありがとうございました。あなたのおかげで助かりました。心から感謝致します」


 話し方にも感情がこめられており、感謝しているという想いが素直に伝わってくる。


「正式なお礼はまた後程」

「気にしないでください!」


 これまでの経験がフラッシュバックし、反射的に断ってしまう奏。だが女の子はそれを許してはくれなかった。


「そういうわけには参りません。恩を受けたからには礼を尽くす。それは当然のことでございます」


 奏は『ちなみにご両親のご職業は?』と口にする一歩手前の状況であった。しかしこの流れでそれを聞いて良いものかどうか分からず、ギリギリで踏みとどまっていた。

 そんな奏相手に、女の子は頬を赤らめ、次の言葉を紡いだ。


「それにあなたは私の命の恩人…………………………ナイト様、ですから」

「へ?」


 この女の子は今何を言ったのだろうか。

 難聴系ではない男の子の奏は、はっきりと聞き取れていた。だが、あまりにも想定外の言葉だったため、聞き間違いだと思い込んで頓珍漢なことを口走る。


「僕は内藤さんじゃないよ?」

「え?」


 あろうことか、ナイト様を内藤様と聞き間違えたのだと思い込んだのだ。女の子は奏の言葉を聞いて唖然とする。そして口元に手をやって笑い出した。


「ふふ、あはははは!」


 女の子は笑いが止まらないと言った感じで、口とお腹を押さえて長い間笑い続ける。そして笑いが治まり息が整ってから背を伸ばして奏に告げる。


「私は東雲しののめ美月みつきと申します。貴方様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか」

「あ……僕は佐野奏です」

「奏様ですね。今日は本当にありがとうございました。それではまた後日、お礼の際にお会い出来ると嬉しいです」


 最後の最後で自己紹介をして、美月は高級車に乗り込み奏の元から去って行く。


――――――――


「おーっし、みんな来てるかー。なんだよ武田また遅刻かよ。あいつも度胸あんな」


 翌朝、ホームルームにて、担任が出席をとる。いつもであればこの後に連絡事項を告げるのであるが、今日は流れが違った。


「度胸あるなと言えば、もう一人そういうやつが居たな」


 担任はそう言うと奏の方をじっと見つめるが、目を逸らして気付かないフリをする。もうこの時点で嫌な予感がしているのだが、どうしても悪あがきしたいのだ。


「さーのー。お前はどうしてこうも私の仕事を増やすかなぁ」

「その仕事は、やらなくても良いかなーなんて」

「それが出来ないことは、お前が良ーく知ってるだろ」

「……はい」

「放課後、前と同じ、以上」

「ぴええええええ!」


 またしても、奏に試練が待ち構えていた。


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