10. 因果応報? その10 権力者達
「何!今度のパーティーに佐野奏が来るだと!?」
その男はとある大企業の社長であり常盤会長の腰巾着とも言える男だった。
常盤会長からメッセージが届き、次のパーティーに話題の佐野奏が参加することが判明したのだ。
「くっくっくっ!これは大チャンスだぞ。ここで彼に信頼されれば俺の人生は安泰だ!」
奏の因果応報?スキルの効果は、地位のある人達には知られている。
奏との絆が深まればスキルの効果で守ってもらえることを知っているため、特に悪事を厭わない者達は奏とのつなぎを欲しがっていたのだ。
悪しき行為への復讐から身を守るために。
「金か、女か、地位か、立場か……何が良さそうか」
奇しくも、先日椿が奏の本性を曝け出そうとして失敗した案を男は考える。
いや、この男だけでは無い。
奏と仲良くなりたい者達は揃って、似たようなアイデアで奏を懐柔しようと考えていたのだ。
「仮に失敗しても『報い』があるわけじゃないしな。むしろ来てくれた方が嬉しいわ」
仮に奏と仲良くなるために金を差し出すとして、それが断られて『報い』を与えられるにしても、誰かから金を差し出されるだけだ。むしろそれは喜ばしい事であり『報い』により接触を躊躇する必要は無い。
奏の家族を人質に取るような悪質な行為はせずに正攻法で奏を落とそうとすれば、失敗しても自分に利益が齎されるかも知れない。
「出来れば我が社に入社して貰って要職につかせて……いや、いきなりそれをやると反発を受けるか。待遇はやや良しくらいにしてやりたいことをやらせた方が好感度は上がりそうだな」
まだ相手は高校二年生だということを分かっているのだろうか。
「あれだけの啖呵を切れるんだ、営業に向いてるかもな。後は裁縫が得意だったか。うちは紡績やって無いからなぁ。よし、どこか買うか」
残念、奏が興味を持ちそうな業種は、すでに花ヶ前会長が手を付けているのである。
一介の高校生である奏を求めて企業の買収騒ぎにまで発展していると奏が知ったら卒倒するかもしれない。
「あーダメだったかー」
男はパーティーで奏の懐柔に失敗した。
その最大の理由は、やはり真夜の存在だろう。
「まさかあのガキがあそこまでやりあえるとは。見誤ってたわ」
単にこの男の交渉能力が低いだけなのだが、それを指摘する者はこの場に居なかった。
「まぁでも話を出来ただけでも良しとするか。常盤会長の招待なら応じることが分かったし、今度は母親も呼び出して出資を持ち掛ければ……」
奏はあまりにも美味しい存在であり、簡単には諦めることが出来ない。
策を練って今後も奏にアプローチする予定だ。
「さて、どうすっか……ん?このメールは……」
数日後。
『××製薬の取締役社長の××が贈収賄の容疑で逮捕されました』
大企業の役員が次々と逮捕される異常事態となり世間は大騒ぎとなっていた。
贈収賄、いわゆる賄賂は公務員や政治家の罪だと思う人が多いかもしれないが、企業の取締役もこの罪が適用される。
だが、後ろ暗いことをやっていたとはいえ、曲がりなりにも大企業の役員。
普段は逮捕されないように気を使って根回しなどをしているのだが、不思議と雑な犯行が多く、しかも何者かが警察にリークしてきたのだった。
もちろん、この現象は因果応報?スキルによるものである。
悪事に対する警戒心が薄れ、何ら対策することなく金銭などを受け取り見返りを与えてしまったのだ。
悪意を持って奏に接した者は、そのまま無罪放免にはならないのである。
だがその『報い』を受けなかった重要人物がいる。
「あっはっはっは、これが『報い』の力か。すさまじいねぇ」
経団連会長の常盤である。
常盤会長は奏をパーティーに呼んだが、特に失礼はせずにむしろ楽しく会話をしていたのだ。報いを受ける『直接の』理由は見当たらない。
「いや、以前はここまでじゃ無かった。成長したのかな。めんどくせぇ」
「ほっほー成長ね。それだけ悪い人に狙われてるってことかね。可哀想に」
「それをここで言うのかよ」
「別に俺は関係ないしー」
常盤会長は今、窓の無い殺風景な部屋で、とある人物と会話をしている。
相手は奏のスキルについて知っている人物のようだ。
「関係なくは無いだろうが。ターゲットにするぞ」
「うひゃー!怖い怖い。ごめんって、ちゃんとお願い通りにしたでしょ」
「ふん!」
相手を小馬鹿にするような常盤会長の態度に相手は不貞腐れたような態度を取るが、これが常盤会長のやり方であることを分かっているからか、これ以上特に追及しては来なかった。
「でもさ。あんな適当な感じで良かったの?ほとんど捕まっちゃったし失敗では?」
「いや、あれで良い。むしろ捕まったことで佐野奏の権力者に対するイメージは大きく落ちた筈さ」
「だから使えなくて野心のある奴らを集めてって話だったのかー」
奏が参加したパーティーは、常盤会長がこの人物に依頼されて開催したものだった。
そして参加者は悪人寄りでかつ相手の懐柔が下手な人物。
奏に対し、彼らに悪意をぶつけさせるのが目的だったのだ。
「これで佐野奏は権力の犬共を守ろうなんて気が失せただろうさ」
「それは困る。俺は守ってもらいたいよ。ワンワン、なんてね」
「クソが」
権力の代表犬とでも言える常盤会長は、自らを犬と貶められたことに何も文句は言わず、むしろふざけておどけて見せた。それが相手を苛つかせて自分のペースに持ち込むための作戦であることを話相手は気付いていたので悪態をつくだけにとどめた。
「とまぁ冗談はさておき、本当に俺は除いてくれよ?」
「分かってる。てめぇは心底ムカつくが、使える人間だ。余計なことをしなければずっと扱き使ってやるよ」
「わーい」
常盤会長は何を言われようとも、あくまでも相手を小馬鹿にするスタンスを崩さない。
「そうだ。一つやってもらいたいことがあるんだった」
「ゲッ、またですか。結構働いてると思うんだけどねぇ」
「安心しろ。これでひとまず最後だ。次に呼ぶとしたら事が終わった後さ」
「そうなると良いですが……んで、何ですかい?」
「とある集団の潜伏先を用意して欲しい」
「とある集団、ですかい?」
「ああ、詳しくはそいつに聞け」
常盤会長が男の目線を辿って自身の隣を見ると、そこにはいつの間にかスーツを着た男性が立っていた。
以前、暴漢を雇って奏を襲わせた男だ。
ということは、常盤会長が話をしている相手はスーツ男の雇い主なのだろう。
常盤会長は奏を狙う犯罪者と繋がっていたのだ。
「ご無沙汰しております。常盤会長」
「おー君か。おひさー」
「早速ですが本題に入ります」
「挨拶もまだまともにしてないじゃないか。せっかちな男は嫌われるよ?」
「嫌われても結構ですので」
取り付く島もない。
というよりかは、常盤会長の扱い方を心得ているだけかもしれないが。
「繰り返しになりますが、常盤会長にはとある集団の潜伏先を用意して頂きます」
「とある集団?俺が聞いて良いやつ?」
「米国大統領を狙ったテロリストです」
「ワオ、聞かなきゃ良かったやつだ。まさかもう日本入りしてんの?良く入国出来たね」
日本は平和ボケしているなどと言われているが、水際対策はしっかりと行っている。国際手配されているテロリストやそれらとの関係が疑われている人物は間違いなく追い返されるようになっているのだ。
しかも現在はスキルを活用することで彼らを特定しやすくなっている。
大統領の来日が決まってピリピリしている中での入国は難易度が相当に高い。
「まぁやりようはあります。ですが問題は彼らの適切な待機場所がないことです。彼らの雰囲気は日本ではどうしても浮いてしまいますので、ちょっとした外出ですらも身バレする危険性がありまして」
「それで大統領が来るまで外に出なくて引きこもれて準備や相談や訓練も出来る場所が欲しいってことね」
「お話が早くて助かります」
「りょーかい。でも宗教的なこととかあるだろうし、ひとまず細かい要望をくれると助かるわ。それが来たら直ぐに斡旋しとく。提供したら後は放置で良いんでしょ?」
「もちろんです。むしろ常盤会長と彼らの関係が疑われたらまずいですので、なるべく接触しないでください」
「おけ、だったら勝手に住みつかれた体に出来る場所にしとくわ」
「お願いします」
平然とテロリストの受け入れについて話をする常盤会長。
まるでこれまでも似たような経験が何度もあるかのようだ。
「しっかしテロリストねぇ。こりゃあ世界中が大騒ぎになりそうだわ。株でも売っとくか」
話は終わり、常盤会長は軽口を叩きながら部屋から出ようとする。
だがその前に、最初に話をしていた相手に別れの言葉を告げた。
「それじゃあ幸運を祈ってますわ。たつみクン」
「さっさと行け」
「バイバーイ!」




