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人助けをしたら美少女に惚れられて偉い人に褒められるんですけど!  作者: マノイ
第三章

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5. 東雲 美月

 大川高校で美月が選んだ部活は演劇部だった。

 奏と同じ被服部でひたすらイチャイチャするのが理想ではあるが、美月は最初の怪盗事件で自分が出来ることを増やしたいと願い、得意である『演技』の技術を伸ばそうと考えたのだ。

 尤も、被服部との兼任でありイチャイチャタイムも逃してはいないのだが。


 大月高校の演劇部はやる気があまりないオタク達の集まりのような場所であったが、美月が入部したことで部員のやる気が激増。新入部員も多く入ってきたことで活発に活動するようになっていた。本格的な活動を率いることが可能な教師が居なかったが、美月も日常での演技が得意とはいえ演劇は初心者であるため特に不満は無く、むしろ一緒に新しいことを学んでいけることに青春感を得られて喜んでいた。


「あの、東雲さん。親戚からこのチケットを貰ったんだけど良かったら使って。佐野くんも東雲さんもぬいぐるみ好きだったよね」

「い、いいの?」

「うん、私の分もあるし余ってるから遠慮しないで貰ってくれると嬉しいな」

「ありがとう!」


 そしてある日、部員仲間からぬいぐるみ展のチケットを貰ったのだった。

 その時の笑顔を見た部員達は演劇部で良かったと心から神に感謝したという。




「奏様は私が絶対に守る!」


 金城からある話を聞いた美月は気合を入れていた。

 守ると言っても別に奏が危険に晒されそうという話では無い。ただ、近々起こるであろう出来事に奏が巻き込まれる可能性があるから注意するようにと言われただけなのだ。


 それでも美月達は今度は自分達が奏を助けるのだと宣言し金城を苦笑させていた。


 また、守るだけでは無く自分をアピールして奏に好きになってもらうことも忘れない。ライバルが次々と増えて行く現状、少しでも手を抜いたらあっという間に先に行かれてしまうからだ。


「奏様、あのぬいぐるみ素敵です!」


 そんな乙女心とぬいぐるみ好きの気持ちが混ざり合った結果、奏を全力で振り回すという暴走をしてしまったのだが。


「(おっと、誘惑も忘れないようにしないと)」


 照れ屋で一歩引いている芹那や真夜とは違い、美月は奏との体の接触に大きな抵抗はない。これはアドバンテージであり、多少はしたなくても奏を手に入れるためには胸に触れられるくらいはどうということはないのだ。むしろご褒美である。


『館内の全てのお客様にご連絡致します』


 だがそんな浮かれた雰囲気は館内放送で一気に霧散する。

 空気の読めない怪盗の出現により楽しいデートは終了となってしまったのだ。


「うわああああん!もっと見たいよおおおお!」


 館内では小さな子供達がまだ遊びたいと駄々をこねている。


「(わかる)」


 心の中で同意しながら、落ち着かせようと奮闘する両親を応援する美月のもとに、警備員がやってきた。


「佐野奏様と東雲美月様ですね」

「(あれ?)」


 美月が思わず奏を見ると、奏は小さく頷いてくれた。


「(やっぱり)」


 奏と美月が何かを通じ合ったがお互い何も言わず、博物館の事務室まで警備員に連れられて行く。


『今宵、貴博物館にて東雲美月嬢が最も好きなものを盗みに参上つかまつる』


 事務室で美月達は怪盗の予告状の内容について説明を受けた。


「(こんなのどう考えても偽者)」


 美月の脳裏に先ほどギャン泣きしていた子供の姿が浮かんだ。

 以前に相対した怪盗は犯罪者でありながら何処となく紳士なイメージを感じさせた。それに、力づくで強引に事を起こすことはせず、念入りに準備した上で狡猾に相手を騙しきるイメージがある。

 その怪盗が子供達を悲しませるなど、絶対にあり得ないと美月には断言出来た。


「(それに私達の予想が正しければ怪盗は……)」


 奏が金城に連絡している間に美月は色々と考えを巡らせる。

 分からないのは怪盗の狙いだ。怪盗が偽物であれば美月を狙う理由に全く心当たりがないのだ。


「(罠を張ろうかな)」


 そこで美月は怪盗の出方を伺うために罠を仕掛けることにした。

 敢えて二人っきりになることで怪盗が手出ししやすい状況を作り出したのだ。

 トイレの工事中の看板も奏と別れて一人になるための仕込みであり、一人になった後も物陰からボディーガードが二人を守っていた。


「(さて、何を仕掛けてくるのかな)」


 美月はまるで警戒していない風を装ってトイレに入る。そして出ようとした時にそれは起こった。


「大丈夫だよ。ボディーガード呼んだから危険は無いから」


 奏の声が聞こえたのだ。


「うん、うん、分かってる。埋め合わせはちゃんとするから」


 相手の声は聞こえない。どうやら電話をしている様子だ。


「しょうがないじゃん。あれだけ綺麗な子だから傍に居たら嬉しいさ。僕だって男だからね」


 美月は耳を澄まして奏の言葉を確認する。


「そろそろ戻らないと疑われちゃう。うん、うん、またね。後で連絡するよ」


 そろそろ電話は終わりそうだ。


「えー、分かったよ。僕が好きなのは芹那だけだよ。愛してる」


 電話を終えた奏はそのままどこかへ歩いて行った。


「(こんなのを聞かせてどうしようって言うの?)」


 今の奏が偽物であることは美月にとって当然であった。

 そもそも奏がトイレから離れた場所までやってくるわけが無いというのもあるが、そんな理屈では無く感情があり得ないと断じていた。

 内容も抑揚も雰囲気も何もかもが、奏の事を知らない人が奏を演じているようにしか見えなかった。


「(奏様も同じようなものを見せられているのかな……)」


 何故、このような景色を見せられたのかはまだ分からないが、奏との仲を揺さぶろうとしていることだけは感じられた。

 だが、相手を油断させるためには動揺しているフリをする方が効果的だ。奏とも事前にいくつかのパターンを想定して相談しており、今回のケースでは相手の罠にかかったフリをすることになっている。


「奏様……」

「美月さん……」


 奏と合流すると、奏も動揺するフリをしていた。


「(奏様、フリだよね?)」


 だが奏の雰囲気は鬼気迫るものがあり、実は本当に動揺しているのではと美月の目には映った。

 奏の豹変は不思議だが、自分も演技をしているため気を抜けない。


 そのまま怪盗が出現し、会話をし、マスコミが騒ぎ出すと美月は今回の騒ぎの目的を突き止めた。


「(これなら本物の怪盗相手の方がよっぽどやりがいがあったのに)」


 あっけなく犯人が分かり、しかもそいつらは本物の怪盗とは比べ物にならない程の小物だった。騙りの方法も内容も意図も、何から何まで三下であり面白味もへったくりも無い。

 自分を含め多くの人を混乱に陥れた愚かな人間に対する怒りしか湧いてこなかった。


 しかし美月の怒りなど、ある人物の怒りに比べれば些細なものだったとすぐに思い知らされることになる。


「僕は怒ってるんだ!」

「(え……奏様?)」


 これまで誰かを守るために勇ましく声を上げたことはあっても、怒りを抑え切れずに声を荒げる奏の姿など見たことが無かった。普段温厚な奏には似つかわしくない雰囲気に美月は驚いた。

 この三下が行ったことは確かに許しがたい行為ではあるが、奏をここまで激昂させるほどのものだとは思わなかったのだ。

 その怒りの理由はすぐに説明されることになる。


「よくもあんなくだらないものを見せてくれたね。美月さんがあんなことをするわけがないでしょう。貴方のあまりに卑劣な行為に腹が立ってしょうがないんだ!」


 くだらないもの、というのは恐らく美月が奏以外の誰かと恋仲関係にあると匂わす何かだろう。

 奏はそれを見せられたことを怒っていたのだ。


「(それってつまり!)」


 例え偽りだと分かっていてもその姿を見たくなかったということは、美月が他の男性と恋仲になることなど許しがたいと想ってくれているということだ。

 それは奏が初めて口にした美月への想い。

 美月達のことを褒めてくれることはあるものの、異性としてどう感じているのかを奏はこれまであまり口にしては来なかった。ここまでの強い想いを感じたのは初めての事である。


「(期待して、良いのかな?)」


 奏が自分を好いてくれているという期待。

 そうであれば良いなと願う願望が期待へとグレードアップした。


 そして奏はついに禁断の言葉を口にした。


「僕は彼女達が『好き』です」

「奏……様?」


 それは美月だけに向けた言葉では無かった。

 美月を含む奏ラバーズ全員に向けたメッセージ。


「(はぅ……奏様に好きって想って貰えてた)」


 それでも美月には十分であった。

 唐突な宣言に驚かされたと言うこともあるが、自分だけでなくとも『好き』だと言葉にして貰えただけで今は十分だった。


 だが今から始まるのは奏の決意の証だ。

 連続攻撃を仕掛けてくるのは奏の得意戦法である。


「例え世間から叩かれても、優柔不断だと罵られても、僕はこの気持ちに絶対に嘘はつかない。今はまだ選べないけれど、彼女達の想いを受け入れて、僕の気持ちも伝えながら、焦らず前に進むって決めたんだ」


 強い意思で美月達の気持ちを受け取ってくれるばかりか、自分の気持ちも伝えてくれると宣言した。先ほどの『好き』の言葉もこの考えゆえの行動だったのだろう。


「(奏様はどれだけ私達を虜にしたら満足なんだろう)」

 

 奏の言葉通り、複数の女性と関係を持とうとする態度は世間から非難されるだろう。しかも相手が美月達ほどの美少女ともなれば、単なる嫉妬心で叩いて来る人間が数多く出てくるはずだ。

 心無い言葉を投げかけられるかもしれないが、それでも奏は自分の想いを貫き通すと誓いを立てた。その強い心こそが、美月達が惚れた奏なのである。


「深く考えずに誰か一人を選ぶのが不誠実なら、考えずに答えを出さないのも不誠実。どっちも不誠実なら、僕は彼女達の事をしっかりと見て知った上で答えを出したい。その結果待ち受けているのが悲しい結末だったとしても、その責任も受け止めるのが男ってものでしょう」


 最終的に誰かを選び、選ばれなかった人は深い悲しみに暮れるだろう。あそこまで仲良くなったのにどうしてと怒りの気持ちを抱く人も出てくるかもしれない。もしくは、嫉妬心に駆られて友達のはずの芹那達と傷つけあうことすらありえる。

 だが、その結末を受け止める覚悟を抱き、美月達との仲を深める決意をしたのだ。


「(私も覚悟しなきゃ)」


 そこまで言われて、奏だけに覚悟を強いるなど美月には出来なかった。

 男らしく責任を被ろうとする奏は格好良いけれど、自分も奏と横に並んで歩くと決めたのだ。それなら責任も一緒に背負うのがパートナーの役目である。


 美月は奏の言葉にただ惚れるだけでは無く、奏を本気で愛するのだと改めて決意した。


「(私は奏様と一緒に居たい)」


 奏が美月の方を向いた。

 出会ってから何度も見つめた愛しい顔が美月の目の前にある。

 先ほどまでの激昂した雰囲気は消え、いつもの穏やかで優し気な眼差しが美月の心を射抜く。


「(奏様……)」


 何も考えず、ただ無心になって美月は奏の想いを受け取る。

 周囲のことなどどうでも良く、ただひたすらに愛しい人と無言のコミュニケーションを続ける。


 永遠に続くかと思えるくらいの幸せな時間。

 それを崩したのは奏の方だった。


「美月さん、好きです」

「うん。私も大好き」


 これまで何度も照れさせられて慌てさせられた美月だったが、不思議と即答出来た。

 胸の高鳴りはあるものの激しくは無く、穏やかでとても心地良い感覚が身を包んでいる。


 奏に好きと言って貰えたことの喜び。

 想いを受け取って貰えたことの喜び。

 両想いだったことの喜び。


 歓喜すれども爆発はせず、まるでそうなるのが当たり前であるかのようなゆったりとした多幸感が美月を包む。


 だからだろうか。

 奏の言葉に自然に返事が出来たように、体も自然と動いた。


 美月のファーストキスは、この上ない最高の体験となったのである。




 犯人が逮捕され、マスコミの追及を躱して博物館の中に入った奏と美月はそれはもう人目を憚らずイチャイチャ……はしていなかった。


 『今日は帰りが遅くなって良いわよ』


 奏が母親からのメッセージを見て『ぴええええええ!』と叫んでいる時に、とある人物を見つけたからだ。


「奏様、ちょっと待ってて」

「うん?」


 美月はボディーガードを連れて、その人物の元へと歩み寄った。


「すいません」

「はい、何でしょうか」


 その人物は、奏と美月を博物館の事務室に案内した女性警備員だった。


「お願いがあります」

「え?私にですか?警備隊長にお願いした方が良いですよ。案内しましょうか?」


 単なる警備員の自分にお願いされても、すぐには答えられないかもしれない。それならば最初から決定権のある人物に声をかけた方が良いのではとその人物は言う。


「いいえ、貴方でなければダメなんです」

「え?」

「私が用があるのは『怪盗ルパン救世』なので」

「……」


 美月の言葉を受けても女性事務員の表情は崩れなかった。

 しかし雰囲気は一変した。


「やれやれ、どうしてこうも簡単に見破るかね」

「余裕」

「今回はスキルも使ってるんだよ。見ず知らずの警備員が本物かどうかなんて分かるわけないだろう」

「奏様も分かってたみたいだよ」

「だからなんでさ!」


 最初に警備員に声をかけられたときに美月と奏が不思議な反応をしたのは、その人物が怪盗であると見破っていたからだ。


「なんとなく?」

「はぁ……もういいや。君達相手に変装は通じないことが良ーく分かったよ。それで何の用だい。自首しろとかだったら丁重にお断りするけど」

「協力して欲しいの」

「は?」


 捕まえるならこのように声などかけずに不意を突いて捕らえれば良い。そうしなかったのは、当初の声かけ通りお願いがあるからだ。


「いやいや、私は怪盗だよ?なんで君に協力しなきゃならないのさ」

「イメージアップしてあげたでしょ」

「うぐ、やはり狙ってたのか!」


 怪盗は誰かを悲しませることなど絶対にしない。

 これは犯人が偽物の怪盗であることを証明すると同時に、本物があくどい人間では無いことのアピールにもつながっているのだ。テレビで放送されることにより、多くの偽怪盗の出現により傷つけられた怪盗のイメージが、大きく改善されただろう。

 そういえば最初の怪盗は義賊的な存在だったな、と。


「それに貴方にも悪くない話」

「……」

「世の中を悪意から守りたいんでしょう?」


 奏を守るためならば、美月は怪盗だって利用すると決めたのだ。


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