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人助けをしたら美少女に惚れられて偉い人に褒められるんですけど!  作者: マノイ
第二章

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19. 美少女を助けようとしたら一緒に誘拐されちゃったんですけど

本日は二話更新します(二話目は夜です)

 奏は毎日お嬢様達と一緒に登校しているが、下校に関しては状況が異なる。

 それぞれ別の部活に入っており、下校タイミングがずれるためだ。


 この日は珍しく、奏は一人で下校していた。


「あれ、君は?」


 お嬢様達が住むマンションを通り過ぎ、軽やかに自転車のペダルを漕いでいたら目の前に見覚えのある女の子が立っていることに気が付いた。

 その女の子が一人で居ることを不審に思った奏は自転車を降りて近づいた。


「……」


 女の子は奏に対して感情を見せない眼で見つめている。

 あの瀧川女学院との交流会の日のように。


 不意に遭遇したその人物は、椿と言う名の女の子だった。




「椿ちゃん?」


 瀧川女学院との交流会が終わった後、奏は芹那達に椿のことを確認した。

 寡黙で不思議な雰囲気を纏う女の子。他のお嬢様とは違った異質な感じがどうにも気になっていたのだ。


「う~ん、椿ちゃんは良い子だよ」

「頼りになる」

「リーダーの資質がございますね」

「え?え?」


 芹那の良い子という評価は別として、頼りになるとかリーダーという単語は似合わないように奏には思えた。むしろ人と関わるのが苦手で孤独を好むタイプに感じたからだ。


「あまりお話しないから勘違いされやすいんだけどね。面倒見が凄く良いんだよ」

「困ってたら助けてくれるし、喧嘩の仲裁もする」

「クラスの委員長を立派に勤めております」

「委員長!?」


 奏の贔屓目を排除しても、お嬢様らしさであれば真夜が一番である。その真夜よりもリーダーとして相応しいとお嬢様達から信頼されている何かが彼女にはあるのだろう。

 そしてリーダーだからこそ、一番大事な奏の相手を任されたのかもしれない。


「でも奏様は、あまり椿ちゃんのこと気にしない方が良いと思う」

「確かに」

「椿さんには悪いですけれど、その通りですね」

「え?え?」


 芹那達が椿の事を嫉妬しているようには見えない。

 むしろ奏のことを心配しているように見えた。


 結局、芹那達は椿の事をそれ以上語ろうとはしなかった。

 奏としても、もう会うことは無いだろうと忘れかけていた。




 その椿が目の前にいる。


「こんなところで会うなんて奇遇だね。一人で大丈夫なの?」


 お嬢様がボディーガードもつけずに一人でいるのは危険ではないか。芹那達も襲われたのだから、奏がそう心配するのも当然だ。


「……」


 だが椿は交流会の時と同様に奏の質問に答えを返さず、何も言わずにその場を離れた。

 そして曲がり角まで移動すると立ち止まり、奏の方を振り返る。


「(着いて来てってこと?)」


 交流会の時の講堂での流れと全く同じだ。

 奏はこのまま彼女を放置するのは心配だと思い、自転車をひいて椿の後を着いて行く。


「(そうだ、お婆ちゃんに連絡しておこう)」


 スマホを取り出して念のため金城に椿と出会ったことを伝えようとしたが、その手は止められた。


「え?」

「……」


 いつの間にか前を歩く椿が奏の腕を強く握っていた。

 まるで金城への連絡を妨害するかのように。


「ええと、椿、さん?」

「……」


 掴まれたところがビクともしない。

 この小さな体の何処に男の力に拮抗出来るほどの力が秘められているだろうか。


「分かった。分かったよ、連絡しないから」

「……」


 奏が降参を告げると椿はようやく手を離して再度歩き始めた。

 どうやら椿にとって連絡はNGらしい。


「(巻き込まれちゃった感じがあるなぁ)」


 芹那達の時と同様に何かが始まろうとしている予感が奏には感じられた。

 だが戦々恐々としていた奏が連れてこられたのは、予想外に普通の公園であった。


 子供達が遊んでいたが、夕方なので帰る子が多い。

 その子達とすれ違いで公園の中に入った二人はブランコへと向かう。


 椿はブランコに座った。


「……」

「えっと……椿、さん?」


 そのまま奏をじっと見たまま動かない。


「……」

「……」


 椿が何を求めているのかが分からず、奏も無言になってしまう。

 奇妙な緊張感が奏を包む。


 しばらくそうしていると、ようやく椿が一言漏らした。


「押して」


 椿の要望は実に単純なものだった。ブランコに座ったのだから背中を押せと。

 もしかしたら、そのくらいすぐに気が付け、などと感じていたかもしれない。


「は、はぁ……」


 良く分からないが、奏は椿の背を軽く押してブランコを前後に揺らす。

 スピードが弱まると椿はまた奏の方を見るため、一定のペースを保つように奏はひたすら椿の背を押した。


「(なぁに、これ)」


 夕暮れ時の公園で、大して仲が良いわけでも無い瀧川女学院のお嬢様がブランコに乗るのをサポートする。

 椿が満足するまで付き合えば少しは何か説明してくれるかもしれないと、僅かな期待を抱いて。


 その期待は裏切られた。

 椿が説明しなかったのではなく、第三者が現れて事態を動かしたからだ。


 太陽が沈み、公園内には奏達以外に人気ひとけはない。

 空には僅かにオレンジ色が残されているが、直に真っ暗になるだろう。

 奏もお腹が空いて来たためそろそろ帰りたい。

 そんな時間帯。


「瀧川女学院の生徒だな」


 黒い銃らしきものを持つ、一人の巨漢が奏達の前に現れた。


「(またぁああああ!?)」


 誘拐騒ぎを何度体験すれば良いのか。天丼にしてもやりすぎである。

 しかし今回の誘拐犯は少し雰囲気が違っていた。


「そっちのガキは要らねぇ。帰れ」


 目撃者である奏を始末するのかと思いきや、帰って良いと告げたのだ。

 男は覆面をしておらず顔が見えている。

 奏を逃がす道理はないはずだ。


 奏はそんな疑問を微かに抱いたが、何を言われようとも女性を見捨てて一人逃げ帰るわけがない。


「出来るわけが無いだろう!」


 奏はブランコを止め、椿の前に立ち男から椿を守ろうとする。


「勇ましいのは立派だが、命が惜しくないのか?」

「惜しいよ。でもだからと言ってこのままこの子を見捨てるなんて出来ない!」

「へぇ、お前の彼女か?それとも家族か?」

「ち、違うよ。ただの知り合いだよ」

「は?お前ただの知り合いのために命をかけるのか?馬鹿じゃねーの?」


 家族や恋人のような命を懸けたくなるほどの間柄でもなく、むしろ友達ですらない相手。そのような相手を命を懸けて守るのは愚かでないかと男は嗤う。


 だが奏は見ず知らずの金城のために命を懸けた男だ。


「馬鹿だろうが何だろうが知ったことじゃない!」


 ここで退くことなど出来やしないのだ。


「そうか、ならしょうがないな。お前も一緒に来てもらおうか」


 捕まる前に、椿の手をひいて逃げようと奏が決意した瞬間。


「え?」


 いつの間にか、囲まれていることに奏は気が付いた。




「おら、降りろ」


 奏達はバンに乗せられて山奥の廃工場に連れて来られた。

 常に銃らしきものを突き付けられてはいるが、手足を縛られて行動を制限されているようなことはない。


 椿は相変わらず無表情で、男達の指示に素直に従って動いていた。


「さて、どうすっかな」


 奏は椿の前に立ち、男と対峙する。

 どうにか逃げたいが、囲まれているためそれは難しい。


 それならば助けに来てもらうのを待つしかない。


「(お母さんがお婆ちゃんに連絡してくれるはず)」


 奏が瀧川女学院との関係を持つようになったため、今後奏が何らかの事件に遭遇する可能性があると奏の周囲は考えていた。そのため、少しでも不審なことがあれば家族がすぐに金城に連絡することになっている。帰ってこない奏を心配してすでに母親から金城に連絡が行ってるであろう。


「(なんとか時間を稼がないと!)」


 この場所は瀧川女学院からそれほど離れた場所では無い。すぐに助けは来るはずだが、問題は椿だ。

 無表情であるが椿も美少女である。

 助けが来る前に男達が欲望のままに椿に群がり出したら奏には防ぎようがない。

 そうならないように会話で相手の気を引いて時間稼ぎをしなければならない。


 その奏の意思が伝わったわけでは無いとは思うが、男の興味は奏に向けられていた。


「なぁ、お前。俺達の仲間にならねーか?」

「え?」


 興味といっても性的な意味では無い。

 犯罪者の仲間になれとスカウトしてきたのだ。


「これだけの状況でも物怖じしない勇気はすげぇよ。俺達の仲間になる素質があるぜ」

「ば、馬鹿なこと言うな!」

「そうか?お前にとっても良い事尽くめだと思うぜ」

「え?」


 真っ当に生きて来た奏が、犯罪行為をするメリットなどあるはずがない。


「そこの女は瀧川女学院の生徒だ。そいつを利用して金城理事長を俺達の言いなりにする。そうすれば瀧川女学院は俺達のもんだ」

「何を……言って……」

「そうなりゃ金も権力も思いのまま。女だって選び放題だぜ」

「ふざけるな!」


 あろうことか、奏にとって大切な金城を脅して瀧川女学院を好き放題しようぜと誘って来た。

 そのような卑劣な行為を口にされるだけでも奏は許せなかった。


「おいおい、正義感ぶるのは止めようぜ。お前も俺達と同じ男だ。金も女も権力も興味あるだろう」

「お前達と一緒にするな!」

「そうか?お前だってクラスの女の裸を想像したことくらいあるだろう」

「それは……」


 健全な男ならば、むしろ想像しない方がおかしい。

 クラスの女でなくとも、好みの女性の裸を妄想するのは年頃の男子として当たり前だ。


「そいつを抱く妄想をしたことだってあるだろう。大金持ちになって好き放題遊ぶ夢を描いたことがあるだろう。理解してくれない相手をねじ伏せたいと思ったこともあるだろう。全部、男として当然の欲望さ」


 そう言われれば心当たりがないわけではない。

 だがその事と、犯罪者の仲間になることは全く別の事だ。


「どんな欲があったとしても、そのために誰かを傷つけて良いはずがない!」

「だったら傷つけなきゃ良いのさ」

「え?」

「気に入った女達を調教するのさ。俺達に従順になることを当然だと思わせれば傷つかないだろう?むしろ幸せに思ってくれるだろうさ。はっはっはっはっ」

「なんて人だ!」


 あまりの非道を口にする男に、怒りでどうにかなりそうだった。

 だが男は、唯一奏が反応しかけた『女』を使って奏を懐柔にかかる。


「怒るなって。想像してみろよ。お前にも好きな女の一人や二人いるだろう。そいつらが素っ裸でお前のことを心から求めてくるんだぜ。滾るよな!」

「……!」


 男の言葉を必死に否定しようとするあまりしっかりと聞いてしまい、思わず芹那達のことが脳裏に浮かんでしまう。奏のことを恋する目で見つめる三人が全裸で奏にしな垂れかかっている姿を。


「(馬鹿野郎!僕はこんな時に何を考えているんだ!)」


 男の本能が刺激されそうになったが、奏は気合で吹き飛ばす。

 そんな奏に男は追撃をかける。


「自分の気持ちを否定するなよ。男にはな、征服欲ってのがあるんだ。お前のことを心から認めてくれる女達が、お前に全てを捧げてくれるんだぜ。しかも全員が美女達ときたもんだ。どうだ、本心では興味があるだろう?」


 そのために、犯罪者の仲間になれと。

 しかし奏はその誘惑を意図も簡単に振り切った。


「断る!」

「……ほう、何故だ」

「金も女も権力もいらない。僕は大切な人達が幸せであれば、それで良い!」


 家族が、幼馴染ーずが、クラスメイト達が、金城理事長が、そして芹那、美月、真夜が、幸せであることが奏の一番の望みである。

 お金が欲しい気持ちも、女性を抱きたい気持ちも、誰かに認められたい気持ちも、もちろんある。だが、そんなものは二の次なのだと奏は断言する。


「椿さんにも、絶対に手出しさせない!」


 そしてその中には、ほんの少し交流しただけの椿も含まれている。


「そうか……残念だな」


 男はこれ以上奏を懐柔するのを諦め、奏に銃らしきものを向ける。


「(間に合わなかったの!?)」


 まだ助けが来る気配が無い。

 なんとかしようと、男が興味を引きそうな話題は無いかを必死になって考える。




「ホント、残念ね」




 その声は後ろから聞こえて来た。

 目の前の男は構えていたはずの銃らしきものを下ろし、代わりに奏の背中に何か硬いものが当たっている。


「え?」


 奏が首だけを後ろに振り向かせた。

 男の仲間達は相変わらず奏達から距離をとって囲んでいる。

 となると、考えられる人物は一人しか居ない。


「椿……さん……?」


 椿が奏の背中に銃口らしきものを押し付けていたのだ。


「え?え?」


 混乱する奏に向かって、これまで全く口を開こうとしなかった椿が流暢に言葉を紡ぐ。


「ホント、あなたの博愛主義には反吐が出るわ」


 芹那達からは絶対に出てこない、罵倒の言葉。

 まるで奏に憎しみを抱いているかのように、椿は悪意を叩きつけてくる。


「(何々!?何がどうなってるの!?)」


 男から椿を守るために必死で立ち向かっていたのに、何故か守るべき椿が奏に攻撃を仕掛けている。不可解な状況に奏の頭は大混乱していた。


「そいつ、まだ状況が理解出来てないみたいですぜ」

「しかも大馬鹿。本当、腹が立つったらありゃしない」


 男は椿に話しかけ、椿は自然に言葉を返す。

 この状況はもう、一つしか考えられない。


「大馬鹿な貴方にも分かるように説明してあげるわ。私が誘拐犯のリーダーよ。誘拐されたのは私じゃない。貴方なのよ」

「…………え?」


 椿は男達の仲間であった。

 そして、誘拐の本当のターゲットは奏であった。

 最初に男が奏に逃げても良いと告げたのは、逃げないと分かっていてブラフを仕掛けたのだ。


「そ、そんな……」

「ふふふ、絶望したかしら」


 奏は芹那、美月、真夜というお嬢様に想いを寄せられている。ゆえに、奏を誘拐することで三人に要求を突き付けることが可能になるのだ。狙われやすさと言う点では、すでにお嬢様達と同レベルの価値がある人物になっていた。


「本当に椿さんは……」

「しつこいわね。そうよ、あなたの敵よ」


 信じられないと衝撃を受けた奏に、椿は敵対宣言をして止めを刺した。

 あなたは騙されたのだと理解させた。

 助けようと思って必死に守ろうとしていた女の子が実は敵だったと、絶望させた。


 奏は椿の言葉をようやく認め、今の率直な気持ちを口にする。




「良かったぁ」




 裏切られたことによる怒りや憎しみでは無い。

 自分の行為が無駄だったことに関する落胆でも無い。

 唯一の仲間が敵だったことによる絶望でも無い。


 安堵の気持ちを口にしたのだ。


「は?」


 それを聞いた椿の口から、間の抜けた声が漏れる。

 そしてすぐに怒気が膨れ上がり厳しい口調で奏に詰問する。


「何で怒らないの!?」

「怒る必要ないよね?」


 奏は本気でそう言っているように見える。

 その姿が椿の怒りを更に増長させた。


「怖く無いの!?助からないかもしれないのよ!?あなたのせいで大事な人が傷つくかもしれないのよ!?」


 大切な人達が幸せであれば、それで良い。

 先ほど奏はそう宣言した。

 それならば、安堵などせずに大切な人の危機を心配するのが普通では無いのか。


 確かに奏ならばそう考えてもおかしくない。

 だが、それよりも真っ先に浮かんだ強い感情があったのだ。


「確かに怖いけど、それよりも椿さんが危なくないって分かったのが嬉しくて」

「は?」


 自分以上に危ない状況にあると思っていた椿が、実は何も危険では無かった。

 奏はそのことが嬉しかったのだ。

 椿が傷つかずに済むのだと知り、安堵したのだ。


「嘘だ!騙されてショックを受けているはず!私が憎いはず!」

「憎い?何で?」

「本気で言ってるの?」


 奏は首だけ後ろを向いているため、椿の表情ははっきりとは見えない。

 もし奏が正面から椿と向かい合っていれば、椿の心情が手に取るように分かっただろう。


 信じられないものを見て驚愕し、何かに怯えている心情が。


「なんで……なんで平気なのよ!」

「椿さん?」

「全部あんたを騙すためにやったのよ。普通はショックを受けるでしょう。騙した相手を憎むでしょう。恨むでしょう。怒るでしょう。そうでなくても怖くて震えるでしょう。なのになんであんたは安心してるのよ!」


 背中に触れている銃口らしきものを通して、椿の震えが奏に伝わって来る。

 それは恐らく怒りによるものではないだろう。

 奏にはそのことが理解出来ていた。


「う~ん、僕しか狙わなかったからかな。芹那さん達を直接狙っていたら怒ったと思う」


 結局、奏は他人を心配することが一番なのだ。

 自分が襲われたことによる恐怖はあっても、怒りは二の次なのだ。


「それに泣いている子に怒れないよ」

「え?」


 奏は気付いていた。

 椿の声が、だいぶ前から涙声になっていることに。


 当の本人は奏に指摘されてその事実に気が付いた。

 そして動揺したからか、奏の背に突きつけていた物体を地面に落としてしまう。


「なん……で……わた……し……」


 零れ落ちる涙を、椿は両手でぬぐい止めようとするけれども、止まる気配が無い。

 そのまま力なく崩れ落ち、膝立ちになる。


「椿さんが無事で本当に良かった」


 突き付けられていた物が無くなったことで、奏は体ごと振り返り、椿に温かな笑顔を向けた。


「うわああああああああん!」


 奏の想いを受け取ってしまった椿は、子供のように泣きじゃくった。






「奏様!大丈夫!?」

「奏様!」

「奏様!ご無事ですか!」


 事のとりあえずの顛末。


 椿が泣きじゃくり出した直後、まるでタイミングを見計らっていたかのように、救助部隊が突入して来た。

 しかし救助部隊はまったく武装をしていなかった。それどころか芹那達や金城が先陣を切って入ってくる始末。


「え?え?みんなどうして、危ないよ!」


 思わず芹那達を守ろうと周囲の男達の動向を確認したが、男達はリラックスした姿でその場に座り込んでいた。

 しかも最初に奏と会話をしていた男は金城と談笑しているではないか。


「まったく、面倒な事してくれちゃって」

「申し訳ございません」

「しゃーないさ、あんた達は断れる立場じゃないからね」

「そう言って頂けると助かります」


 男達は椿が雇った怪しい人物では無く、椿の家の関係者だったのだろう。

 金城と普通に会話しているところから、瀧川女学院とも近しい人物なのかもしれない。


「何がどうなってるの?」

「それが私達も良く分からないんだよねー」

「とっくに着いてたけど、鈴江お……さんが入るの止めてた」

「実に不思議です」


 奏の疑問に対する答えを芹那達は持っていないようだ。


 ふと、奏は重要なことに気が付いた。気が付いてしまった。


「とっくに着いてたって……いつ頃?」

「ほぼ最初からだよ。奏様格好良かった!」

「流石奏様」

「素敵でした」


 普段ならば褒められて照れて終了となるところだ。

 だが、今回はそういうわけにはいかない。

 奏は彼女達には決して聞かれたくないやりとりもしていたからだ。


「それで、あの、もう少しだけ待ってて……ね」

「頑張る」

「は、恥ずかしいですけど奏様がお望みなら」

「ぴええええええ!」


 クラスの女の子の裸を妄想するというくだりを即断で否定しなかったことを後悔することになる奏であった。


 金城がやれやれと肩をすくめ、芹那達が真っ赤になって奏に恥じらい、奏が青ざめているカオスな状況の中、一人の少女が延々と泣き続けていた。


「うわああああああああん!」


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