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人助けをしたら美少女に惚れられて偉い人に褒められるんですけど!  作者: マノイ
第二章

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18. 美少女達との日常で困っている人に会いすぎだと思うんですけど



「僕コンビニ寄りたいんだけど」

「は~い」

「行きます」

「ご一緒致します」


 瀧川女学院との交流会が終わってから数日後。

 学校帰りの帰宅中、奏は飲み物を買うためにコンビニに立ち寄った。

 もちろん芹那達も着いて来る。奏と離れるなどあり得ないのだ。


「わぁ、新作のチョコがある!」


 お嬢様達にとってはコンビニでさえも社会勉強になるようで、興味深そうに商品を見て回る。

 奏は彼女達が少しでも長く楽しめるようにと、すぐにはお目当ての商品を買わずに店内を散策する。このさりげない気遣いの積み重ねで、彼女達の奏に対する印象が着実に良くなっているのである。


「このプリン好き。奏様も好き」

「ぴえ!」


 堂々とイチャラブするので店員や客からの嫉妬の目線が凄まじいことになってはいるが。


 程良く時間が経ってから奏は商品をレジに持って行く。


「こちらのクジを引いて下さい」

「え?僕これしか買って無いですよ?」


 コンビニクジ。

 クジそのものを直接購入するタイプのものや、ある程度の金額分の商品を購入するとクジが引けるタイプのものなど、いくつか種類がある。

 この店は購入金額五百円ごとにクジが引けるサービスを時々実施しているため、今回もそのタイプのクジでありソフトドリンク一本しか購入していない奏はクジが引けないと思ったのだ。


「現在、商店街の企画で、各店舗で特定の商品をご購入されたお客様に対してクジを引いて頂くキャンペーンを実施中です。ここでの対象商品はお客様がご購入した商品になります」

「へぇ~そんな企画やってたんだ」


 それならばと、差し出されたクジ箱から奏は一枚を引き、中身を確認する。


「ぴええええええ!」


 そこにはなんと『一等:10万円分の商品券』と書かれていた。


「こちらのクジですが、高額賞品の引き換え場所は倉橋酒店になります。交換期限は本日の17時までになっておりますのでご注意ください」

「はい!?」


 例えクジの実施期間が今日までだとしても、賞品の交換期限までも同じなのはどう考えてもおかしい。それでは終了ギリギリのタイミングでクジを引いた人が交換出来ないからだ。

 また、クジの締め切りが17時という中途半端な時間なのもこれまたおかしい。


 明らかに異常なのだが、奏はまだ若くて社会の事をあまり知らないため、不思議に思いながらもそういうこともあるのかなと考えるのを止めた。また、お嬢様達は世間のクジの常識など知らないため不思議にすら思わない。


 17時まで30分近くあるため、まだ間に合いそうだという時間の余裕も、疑問に思うことを止めた理由の一つかもしれない。


「奏様、急ごう」

「10万円は大金」

「今からならまだ間に合いそうです」


 お嬢様にとって10万円など端金だろう。だがそれは瀧川女学院に居た頃までだ。

 現在は庶民の金銭感覚を学ぶために、彼女達はお小遣い制になっている。


 これまでは欲しいと言えばどんなものでも周囲の人が用意してくれた。しかし今は自分で何もかも用意しなければならない上、これまでと同じ質のものなど何一つとして買うことが出来ないのだ。


 それに、ちょっと小腹が空いたからと買い食いでもしていたらあっという間に尽きてしまう。

 高校生にとっての10万円がどれほどの大金なのか、すでに痛い程理解していた。


 ゆえに、奏に賞品の交換を急がせているのだ。


「あはは、慌てなくても大丈夫だよ」


 ここのコンビニと賞品交換場所である棚橋酒店は商店街の端と端。真逆の位置にある。

 とはいえ歩いて10分程度で着く程の距離。まだまだ余裕はある。

 奏は内心では小躍りする程嬉しがってはいるものの、それを彼女達の前で露骨に表に出すのは格好悪いという男心ゆえ、冷静さを装っていた。


 そんな四人が豪華賞品を受け取りに商店街を歩いていると、目の前に一人の老爺が倒れ込んで来た。

 すかさず奏が声をかける。


「お爺ちゃん、大丈夫ですか?」

「ううう、お腹、お腹が……」


 顔を青褪めて、お腹を押さえている。

 どうやら酷い腹痛に襲われているようだ。


「落ち着いて下さい。歩けますか?」

「うう、痛い、痛い」

「救急車を呼びますね」


 奏はスマホを取り出して119番にかける準備をする。

 そして動揺せずに冷静に芹那達に指示を出す。


「お爺ちゃんを楽な姿勢にしてあげて。後、人が集まってきたらその対応もお願いね」


 芹那達が動くのを見てから、奏は電話をかけて救急車を呼んだ。

 そして電話が終わると、芹那達の手によって地面に座らせられた老爺に声をかける。


「お爺ちゃん、もうすぐ救急車が来ますからね」

「いてて、すまんのう。急いでたんだろう?」

「いえ、特に用事は無かったですので、気にしないでください」


 そんなことはない。

 10万円の交換期限が迫っているのだ。

 このまま救急車を待って対応をしていたら、間違いなく時間切れになってしまう。


 芹那が奏の肩をつついた。


「(私達に任せて奏様は賞品を交換しに行って)」


 そう、目で伝えてくる。


「(気にしないで)」


 奏は優しげな表情を浮かべ、小さく首を振る。


 確かにこの場は彼女達だけで十分だろう。

 だが、ここで奏が席を外せば、やはり何か急ぎの用事があったのかとこの老爺が気に病むことになる。ゆえに奏はこの場を離れる気は全く無かったのだ。


 結局、救急車が来て老爺が奏達にお礼を言いながら搬送された頃には、交換期限が過ぎていた。


「さ、みんな帰ろう」


 お金と人の命を比較して、人の命を選ぶのは当然かもしれない。

 だが、人の心はそんなに綺麗なものではない。


 他の誰かが助けてくれるだろう。

 腹痛くらいなら放置しても大丈夫かも。

 友達に任せれば良い。


 本当に大事なのは金の方であり、その判断を正当化する自分勝手な理由を創り出す。

 その良し悪しは別として、そう考えてしまうのは人間として自然なことなのかもしれない。


 だが奏はそのそぶりすら見せなかった。

 本心から人の命の方が大事だと思っている。


『かなでさまぁ』


 そのことがお嬢様達の琴線に触れ、奏に対する恋心を更に爆発させるのである。


 なお、奏は完全に何も感じていないわけでは無く少しばかりは悲しい想いを抱いているのだが、男心ゆえそんな情けないところを芹那達に見せたくないと虚勢を張っていたりもする。

 この姿をクラスメイトに見られたら全員から抱き締められて撫でられていたかもしれない。




「……」


 遠い何処かで、その四人の姿を見つめる存在がいた。


――――――――


 また別のある日、母親のお願いで学校帰りにスーパーに立ち寄った時の事。


「ぬいぐるみの会?」


 サッカー台で商品をトートバッグに入れていたところ、この地域で新たにぬいぐるみの会なるものを発足するから参加者を募集するという張り紙を目にしたのだ。


「ねぇ美月さん。これ一緒に参加しようよ」


 自分達と同じぬいぐるみ好きが集まる会ということで、どのような雰囲気なのか奏は興味が湧いた。

 次の日曜が初回で、最初は会の趣旨の説明と顔合わせが予定されている。


「ごめんなさい。その日は用事があるの」


 喜んで一緒するかと思われた美月だが、その日はどうしても外せない用事があり悔しそうに顔を歪める。


「それじゃあ、僕が行ってみて面白そうだったらその次から一緒に行こう」

「うん!」


 当日、奏はぬいぐるみの会が開催される場所へと足を運ぶ。

 会場はスーパーの三階にあるやや大き目な部屋。

 ここのスーパーが地域の人向けに、格安で貸し出しているのである。古い雑居ビルの怪しい貸し会議室等ではないところが、真っ当な会である安心感を与えてくれる。


「みなさん、ようこそ」


 会の主催者は優しそうな中年女性で、参加者は地域の主婦らしき人が多かった。

 ほぼ女性であるが、少しばかり男性も混じっていたので奏にとって居心地は悪くない。


「以上が、この会の趣旨になります。何か質問はございますか?」


 この会はぬいぐるみ好きな人へ様々な機会を提供することが目的であった。

 ぬいぐるみを一緒に作ったり、作れない人が教えて貰ったり、単にぬいぐるみを持ち寄ったり、ぬいぐるみに関する話をするだけでも良い。

 ぬいぐるみが好きな人同士の交流が重要であり、そのために色々な企画を考えているとのこと。

 初回はぬいぐるみの作り方講座をするそうだ。


「それでは少し時間を取りますのでお話ししましょうか」


 近くの人と自己紹介をしながら、自身のぬいぐるみ好きについてアピールする。好きなぬいぐるみがあれば、同志が反応して話が盛り上がる。作るのが好きだと言えば、私も私もと作り方に関する話に花が咲く。

 奏は作り手として話題に加わり、スマホを取り出し自作したぬいぐるみの写真を見せていた。


「わぁ、すごい上手」

「ほんとだね。この部分とか難しかったんじゃない?」

「分かる分かる。どうしても歪んじゃうんだよね」

「そこはちょっとしたテクニックがあって……」


 年上のお姉さまやおばさま方と楽しそうに話をする奏。

 芹那達が見ていたら嫉妬していただろう。美月が来なかったのは正解だったかもしれない。


 程良く盛り上がって、初回の集まりが無事終了となりそうな時。

 綺麗でグラマラスなお姉さんが奏に話しかけて来た。


「これ、あなたが作ったの?」

「う、うん」


 美しさでは美月達に敵わないが、豊満な肉体と妖艶な女の雰囲気が奏を圧倒する。

 ドギマギする奏にその女性は笑いかける。笑いと言っても嘲笑の部類であったが。


「うっそだー。こんなに綺麗なの作れるわけないでしょ」

「え?」

「どうせ何処かで買った商品か、フォトショで修正してるんでしょ」

「そんなことしてないよ!」

「いやいや、だってこれ綺麗すぎない?」


 奏は否定するものの、会場の雰囲気は何処となくその女性の味方であった。奏の腕が良すぎたため、真実味が感じられ無かったのだ。

 若い男の子だから見栄を張るのも仕方ないよね、とでも言いたげな視線が奏に集中していた。


「本当に僕が作ったのに……」


 自信作が嘘だと思われてがっかりする奏。


「それならさ、これ作れる?」

「え?」


 女性が差し出したのはクマとリスが合体したようなぬいぐるみのスケッチだった。


「私、ぬいぐるみのデザインを考えるのが好きで、こういうのいっぱい書いてるの。だからこれは私のオリジナル作品。もし君が本当にぬいぐるみを綺麗に作れるって言うなら、このデザインのぬいぐるみを作ってくれないかな。もちろん、材料費は出すからさ」


 指定されたデザインのぬいぐるみを作るのは奏にとってそれほど難しいものではない。

 むしろ奏も気に入る程可愛らしかったため、それを作れるのは嬉しい事だった。


「あの、大きさは?」

「じゃあ次回に間に合う程度の大きさで」

「分かりました」


 次回は二週間後の日曜日だ。

 ミニサイズのものなら間に合うだろう。


「本当にやるの?」

「もちろんです」


 女性はまだ疑いの表情で奏を見つめている。


「それじゃあズルしないように作ってる時の動画も撮ってよ」

「動画ですか?」

「うん。その代わり、もし君がこの写真みたいな綺麗なぬいぐるみを本当に作って来れたら、疑ったお詫びに何でもしてあげるわ」

「な、なんでも……」

「そう、どんなことでも、ね」


 その女性は意図的に両腕で胸を挟み強調させる。

 その言葉が本気なのかどうか分からないが、純朴な少年を照れさせるには十分だった。


「(考えるな考えるな考えるな考えるな!)」


 見知らぬ女性に邪なことを考えたら、芹那達に幻滅されてしまうかもしれない。

 だが、このタイミングで芹那達のことを考えてしまったのは失敗だった。

 考えまいとしていたあられもない姿が、芹那達の顔に置き換わってしまったからだ。


「(ぴええええええ!)」




 奏は渾身の作品を作り上げた。

 渡されたスケッチを完璧に再現出来た自信がある。

 これまで作った作品の中でも上位に入る出来だ。


 奏は自身のぬいぐるみ作りの腕を疑われてムキになっていたのだ。この辺り、少年らしい微笑ましい部分であり、クラスメイトに事情を知られたら愛でられていただろう。


「奏様、これ欲しい」

「あはは、交渉してみるよ」


 今日は美月も一緒であり、奏の腕に抱き着いて歩いている。

 前回のやりとりは説明済みであるが、奏の渾身の作品と聞けば欲しくなるのも当然だ。


「楽しみ」


 美月はぬいぐるみに関する話し相手をずっと探していた。

 今日はその相手が大量にいる場に向かうのだ、楽しみに決まっている。


 だが同時に気合を入れていた。

 奏を誘惑しようとした醜悪な女が待っているのだ。その女から奏を守ると。

 お詫びに何でもしてくれることについて奏は一切美月に伝えていないのに、何故か気付いている。

 金と権力を駆使して調べたわけでは無い。女の勘は鋭いのである。


「うわああああああああん!」


 二人で会場に向かっていると、泣いている幼女が道端に立っていた。


「こんにちは」


 迷子かと思った奏がすかさず声をかける。

 若くて見た目が温和であるため子供に話しかけても通報されないのだ。いずれ奏も通報を恐れて声をかけるのを躊躇する日が来るのだろうか。


「うわああああああああん!」


 幼女は奏に見向きもせずに泣き続けている。

 どれだけ奏と美月があやそうとも泣き止む気配を見せない。

 泣き止ませて状況を把握出来なければ、どう対処して良いか分からない。


 奏は手に持っていた物を思い出した。


「コンニチハ、オジョウチャン」


 今日のために作って来たクマリスのぬいぐるみを幼女の目の前に差し出したのだ。

 手のひらサイズの小さなぬいぐるみが幼女に話しかけているという体で、奏は幼女の気を引こうとする。


「…………」


 すると幼女は泣き止み、そのクマリスのぬいぐるみをガン見するではないか。

 ここがチャンスだと思った奏は一気に畳みかける。


「ボクハ、クマリス、オジョウチャンハ?」

「…………みちる」

「ミチルチャン。カワイイナマエダネ」


 ぬいぐるみを通して幼女と話をする。

 どうやら幼女は母親とはぐれてしまったようだ。


 迷子の場合、その場から移動しないのが定石だ。

 奏はそのままクマリス効果で幼女と話を続け、その間に美月が母親を探しに行く。


「おにいちゃん、おねえちゃん、ありがとう!」


 母親はすぐに見つかり、女の子と母親は奏達にお礼を言って去って行く。

 女の子の手にはクマリスのぬいぐるみがしっかりと握りしめられていた。


「奏様、良いの?」

「うん」

「でもそれじゃあ奏様が」

「あはは、動画もあるし大丈夫だよ」


 奏がぬいぐるみを本当に作れるのだと証明出来なくなってしまう。

 動画があったとしても実物が無ければ、逆に動画が怪しいと不信感を抱かれる可能性がある。


 実際に奏が目の前で作って見せれば疑いは晴れるだろうが、それまでの間、奏が見栄張りの嘘つきだと思われるのが、美月には悔しかった。


 だがその美月の悔しさは、予期せぬ展開で霧散することになる。


『ぬいぐるみの会、解散のお知らせ』

「は?」


 会場に向かった奏と美月が見た物は、諸事情で会が解散になった旨が記された張り紙と、誰もいないがらんどうの会場であった。


「どうなってるのおおおおおおおお!?」




「……」


 叫ぶ奏の姿を、何処かから覗いている人物がいることに、二人は気付いていない。


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