6. 因果応報? その5 強羅朝鷹
区切りのざまぁ回です。
これまでと違い本格的にざまぁ感が(多分)ありますので、苦手な方はスルー推奨です。
何故か長く、本筋にはほぼ影響ないためスルーしても(多分)大丈夫です。
強羅朝鷹の最大の不幸はイケメンだったことだろう。
幼いころから整った顔立ちの朝鷹には女子が自然と寄って来た。頭脳も運動も社交性も人並みだったが、ただそれだけの利点によりリア充街道をまっしぐらだった。
とはいえ、初等部を卒業した頃までは歪んだ性格では無く、ごく普通の男の子だった。
中等部に入って間もない頃、朝鷹の人生を大きく変える出来事が発生した。
「(お、あの子めっちゃ可愛い)」
上級階級の子供達が通う共学の学院。
朝鷹はそこで一際容姿の優れた一年上の先輩に一目惚れした。初等部の頃から多くの女性と付き合ってきた朝鷹だったが、いずれも相手からお願いされたもので、自分から進んで女性に興味を抱いたのはこれが初めての事だった。
「先輩、俺と付き合いませんか?」
「ごめんなさい、私付き合っている人が居るのよ」
朝鷹はその女性に声をかけたが玉砕した。
綺麗な人であれば彼氏が居ても何らおかしくはない。
「げっ、強羅!?」
しかし、その場にその女性の彼氏が来て口を滑らしたことで状況は一変。
「強羅ってあの三峰建設の?」
女性は自分に声をかけてきた男の子の正体を知り、態度をコロっと変えたのだ。
「別れましょう」
「え?」
「強羅くん、さっきの話受けるね。付き合おう」
この学院の中でも三峰建設という名は重い。その女生徒は権力に目がくらみ、いとも簡単に彼氏を捨てて朝鷹に靡いたのだ。この体験により朝鷹は三峰建設の息子という肩書が持つ力を覚えてしまった。そしてその力を振い、学院中の綺麗どころを落として行く。
だが中には権力には決して屈しない人もいた。
「止めて下さい。私は貴方に興味はございません」
「チッ、いいのかよ。俺は三峰建設の息子だぜ?」
「だから何だって言うんですか」
脅しだけで実際に何かされるはずが無いと思っているのか、朝鷹のアプローチを拒絶する。
手に入らないと思うと手に入れたくなるのもの。朝鷹はその女生徒の事を調べ、実家の家業が上手く行っていないことを突き止めた。
「お前の父親の企業に出資するように、親父に進言してやろうか?」
朝鷹は知ってしまった。女は金でも手に入ると言うことを。
金と権力とイケメン。それを使って朝鷹は女に溺れた。
勉強はとうに止め、ひたすら女遊びに興じる毎日。権力者の息子でありながら社交界の礼儀を全く身に着けず、パーティーに強引に参加しては女漁りをする。
だが、女に囲まれる朝鷹には一つだけ不満があった。
「チッ、またダメか。瀧女の女共ガード固すぎんだろ」
瀧川女学院の関係者だけは誰一人として落とすことが出来ていなかったのだ。
美人揃いと噂の瀧川女学院。在校生は元より卒業生に出会うことすら難しい。朝鷹が乱入した社交界の場にも彼女達は出てこない。金城理事長の手により、不穏な人物と生徒達が出会わないように卒業後も含めて保護されていたからである。
その例外が真夜であった。
「お、あいつ良い感じじゃん。あのまま成長すればかなりの上玉になるぞ」
朝鷹はあるパーティーで中等部の頃の真夜に目をつけて声をかけた。これまで何度か会ったことがあるのだが、朝鷹は覚えていない。
お世話になっている強羅社長の息子と言うこともあり、彼女は普通に話をしてくれた。
「え?瀧女に通ってるの?」
「はい」
これまで見かけることすら出来なかった瀧川女学院の生徒にいとも簡単に話しかけることが出来た。しかも相手は美人になることが約束されている相手だ。
朝鷹は真夜を手に入れると同時に、真夜を通じて瀧川女学院を攻略すると決めた。
「よー真夜。元気にしてっか」
パーティーで真夜を見つけては肩を組みどうでも良い話を続ける。自分に話しかけられるのは女として最上の喜びであり、しかも体を密着させてくれたことで歓喜に打ち震えているであろう。朝鷹は本気でそう考えており、粘着質なアプローチで既に真夜の心を掴んでいると思っていた。
朝鷹が真夜にそれ以上手を出さなかったのは、単に朝鷹がロリコンでは無かったというだけのこと。仮に真夜の発育が年相応以上のものであった場合、強引に食おうとしていた可能性がある。
「おふくろ、次のパーティーいつか知ってるか?」
真夜が高校生になってから、強羅社長へのパーティーのお誘いがぱたりと無くなった。そのため朝鷹は真夜に会う機会を得られていなかった。
高校生はギリギリ朝鷹のストライクゾーン範囲内であるため、そろそろ真夜を完全に落として瀧川女学院の攻略に臨もうと考えていたのだが、出鼻をくじかれた形になる。
だが朝鷹は焦っていなかった。三峰建設百周年記念パーティーに社長と仲の良い真夜が必ず参加すると分かっていたからだ。朝鷹はそこで真夜をお持ち帰りする予定だった。
しかし、予期せぬ襲撃事件によりその機会は喪失し、未だに真夜と会えない日々が続いていた。
「来週末に三峰会長のところに御呼ばれしているって言ってたわよ」
「チッ、また親父の奴隠してやがったな」
朝鷹が学校にも行かずに好き勝手出来ている理由は母親によるものだ。朝鷹を溺愛している母親は朝鷹の希望を何でも叶えていた。父親がパーティーのことを朝鷹に言わないように厳命してあっても軽く口にしてしまう。
母親からパーティーの情報を入手した朝鷹は、招待状を持たずに会場へ特攻する。女性達を侍らせて向かったのは何か意味があるわけでは無く、24時間ずっと誰かしらの女性を侍らせているのが朝鷹にとって普通の事であるだけだった。
「俺を誰だと思ってるんだ。三峰建設の社長の息子だぞ。呼ばれているに決まってるじゃないか。そこを退け!」
例え警備員に止められようとも強引に突破し会場内に侵入する。いつもであれば、めぼしい若い女性がいるかをチェックするのだが、今回の目当ては真夜だ。一早く真夜を己の女にし、瀧川女学院の関係者を支配したい欲が彼を急かしている。
「おいおい、なんだそいつは。俺の真夜に近づくんじゃねーよ」
真夜は見知らぬ男と間近で話をしていた。すでに真夜は自分のものだと思い込んでいる朝鷹は、真夜の傍に自分以外の若い男がいることに怒りを覚えた。
だがその怒りはすぐに消える。基本的に男には興味が無い朝鷹だ。真夜が後ろにその男を避難させて視界から消えた時点で記憶から消し飛ばした。
「ねぇねぇ朝鷹様ぁ。この子が愛しの真夜ちゃんなの?」
「美人だけど年下すぎなぁい?」
「今はまだな。これからぐっと良い女になるのは間違いないぜ」
同伴した女性達が実に失礼なことを言うが、朝鷹はそれすらも自分が女性に好かれている人物であることをアピール出来たのだと勘違いする。
すぐにでも真夜を連れ出せるだろうと思い言葉をかけるが、真夜は塩対応を繰り返して全く靡く気配が無い。
「本当にどうしたんだよ。しばらく会いに来なかったから拗ねてるのか?」
「いいえ」
「それとも彼女達に妬いてるのか?大丈夫、真夜なら直に彼女達以上の良い女になるぜ」
「いいえ」
「そうか、パーティーが退屈で飽き飽きしているんだな!」
「いいえ」
朝鷹はあろうことか、真夜の塩対応はこのつまらないパーティーから連れ出して欲しいという朝鷹へのメッセージだと曲解し、真夜の肩を抱き連れ出そうとする。
「そうだ、俺がもっと楽しいところに連れて行ってやるよ。もう少し成長した方が好みなんだがまぁそろそろ良いだろ」
朝鷹の頭の中では拒絶される可能性など微塵たりとも考えていない。この場で真夜が激しく拒絶した場合の朝鷹の反応が気になるところであるが、実際に払いのけたのは先ほど記憶から消去した謎の男であった。
「真夜さんに手を出すな!」
「てめぇ、何しやがる!」
花ヶ前一家と同じく和装であり、彼らと共に居る時点で花ヶ前一族と深いつながりのある人物だと想像がつきそうなものだが、頭のゆるい朝鷹はそのことに全く気が付かない。権力的には自分よりも上の人物である可能性が高いというのに、真夜を手に入れることに夢中で邪魔する奴を排除することしか考えられない。
ゆえに障害となる男を罵倒してどかそうとするが、気弱そうに見えるその男は気丈に振る舞い朝鷹に強く反抗する。
「僕が真夜さんに相応しく無いなんて当たり前だ。でもお前は僕なんかよりも、ううん、世界で一番真夜さんに相応しくなんかない!」
「てめぇ!」
しかも世界中の女が自分に靡くのが当然であり、それが自分に相応しい立場なのだと考えていた朝鷹を否定する。
「お前は真夜さんに相応しくない。二度と真夜さんに近づくな!」
「こんのクソガキがああああ!俺に歯向かってこの先まともに生きられると」
これまで真っ向から朝鷹に立ち向かって来た若い男は居なかった。年下ならなおさらだ。
だが目の前の小さな男はまったく怯むことなく朝鷹に怒りをぶつけてきた。心底腹が立ち、親の権力を使ってその男の人生を絶対に潰すと誓った。
しかしその狙いを意図した恫喝は、強羅社長が会場に戻ってきたことで遮られてしまう。最後まで発言出来たとしても花ヶ前会長や金城理事長に愛されている奏をどうにかすることなど出来やしないのだが。
「やめろ!はなせ!俺を誰だと思ってるんだ!てめぇらクズ共が俺に触れて良いわけが無いだろう!」
警備員に羽交い絞めをされた朝鷹は、会場近くの倉庫部屋に押し込められて外から鍵をかけられてしまう。
「出せ!出しやがれ!俺を誰だと思ってやがる!」
どれだけ叫び扉を叩いても、彼を出してくれる人は居なかった。
「お前の結婚相手が決まった」
「はぁ?」
騒ぎの翌日、朝鷹は実家の屋敷に軟禁されていた。どうにかして抜け出そうとしたが、その前に父親の執務室に連れてこられた。開口一番、強羅社長は朝鷹の結婚について口にする。
「先方がお前のことをいたく気に入ってな。これまでは私の所で話を止めておいたのだが、そろそろお前も身を固める時期だろう。この話を受けると連絡しておいた」
「ちょっと待てよ親父!俺は結婚なんかするつもりはねーぜ!」
これまでと同様に女遊びをして楽しく過ごす予定だ。結婚なんて面倒臭いことはやってられない。しかも今は瀧川女学院の関係者を落とす『遊び』の最中だ。
「そう言うな。相手の家格は我が家と同等であり、強羅家としてもこの結婚によるコネクションの強化は大きな利益になるのだ」
「そんなの知ったこっちゃねーよ!俺は絶対結婚なんかしないからな!」
これまで散々家の権力を利用して好き勝手やっていたくせに、その権力を守り強羅家を発展させることなど微塵も考えていない。
「お前が何を言おうとこれは決まったことだ」
「はぁ?」
いくら朝鷹でもこれが異常だと言うことは分かる。本人の希望を無視して結婚が決まったなど、いつの時代の出来事だ。
「これからお前は先方の家に行き、一生そこで過ごしてもらう」
「ふっざけんな!絶対逃げ出してやる!」
「いいとも」
「あ?」
力づくで相手先の家に押し込まれようとも、逃げ出してしまえば良いと考えていたが、強羅社長はその言葉を鼻で笑い飛ばした。
「それが出来るのならば、な」
「??」
この時、執務室の扉がノックされ、外から執事の声が聞こえて来る。
「旦那様、お客様がお見えになりました」
「分かった、通せ。いや、先に八神女史のみ来て頂こうか。もう一方は丁重におもてなしするように」
「かしこまりました」
執事が去ると朝鷹の無駄な抗議が再開し、それを強羅社長が聞き流しているとまたしても執務室の扉がノックされる。
「旦那様、お連れ致しました」
扉が開いて入ってきたのは、朝鷹にとって見知らぬ女性。美人よりの顔立ちではあるが、初老より少し若いかどうかというくらいの年齢で朝鷹のストライクゾーン外だ。顔からはみ出るくらいに左右に尖った眼鏡が特徴的なのだが、朝鷹はそんなところは見ていない。朝鷹が思わず見てしまったのはその女性が手に持っている物だ。
「(なんで鞭?)」
何故かその女性は地面に垂れるくらい長い鞭を右手に持っていたのだ。
「ごきげんよう、八神女史。わざわざお呼び建てしてしまい申し訳ございません」
「そちらの事情は把握しております。この度はご愁傷さまでした」
「いやはや、これもすべては私の不徳の致すところです。そちらにご迷惑をおかけすることになってしまい大変申し訳ございません」
「こちらとしては大助かりなのでお気になさらずに」
今は自分の話だったはずだが、それを無視して話を進める二人に朝鷹はイラつき、つい暴言を吐いてしまう。
「親父、誰だよこの女」
とたん、朝鷹の背中が鞭で打たれる。
「ぎゃああああああああ!痛い痛い痛いいいいいいいいい!」
あまりの痛みに床をゴロゴロと転げまわる。
「何しやがるんだこの女ぁ!」
涙目で地面に横たわりながらも罵倒する朝鷹に再度鞭が振るわれる。
「ぎゃああああああああ!痛い痛い痛いいいいいいいいい!」
あまりにも痛すぎて、今度は転がることすら出来ずそのままその場で苦痛に耐えて横たわるだけ。
「なるほど、噂通り礼儀を知らないようですね」
「お恥ずかしい限りです」
「ダメな方がやりがいがございますからお気になさらずに」
朝鷹は痛みで罵倒することが出来ず、どういうことだと目線だけで父親に訴える。
「この方はお前の結婚相手の調きょ……指導役の八神女史だ。これからお前は先方のお嬢様に見合う人物になるために、このお方に指導して頂くんだ。良かったな、彼女は躾スキルが付与されるくらいに指導が得意な人物なんだ。立派な男になれるぞ」
朝鷹は耳を疑う。鞭で人を叩くなど、どう考えても正気とは思えない。
このような狂った人物の元に送られたら、一日と経たず壊されてしまう。
だが鞭で叩かれた痛みがひかず、文句の一つも言うことが出来ない。
そばにいる母親に目線を移動して、助けてくれと懇願する。
「良かったね、朝鷹。あなたの結婚相手はあなたをとても愛してくれる素敵な子なの。幸せにね」
純度100%の笑顔だった。母親は本気で朝鷹の結婚を祝福してくれていた。この結婚により朝鷹が幸せになるのだと心の底から信じているのだ。
朝鷹の顔に絶望の影が宿る。だが絶望するのはまだ早い。八神女史のことなどおまけでしかないのだ。
「そういえばまだ結婚相手について説明してなかったな。喜べ、なんと相手は衣友保険のご令嬢だ」
「!?!?!?!?」
衣友保険のご令嬢は『化け物』であり、決して関わってはならない。
それは社交界では決して口にしてはならない事実であり、朝鷹もその意味を知っている。
「よし、それではご令嬢にもこちらにいらしてもらおうか」
『化け物』とは比喩では無い。言葉通りの存在なのだ。
まだ姿を現していないにも関わらず、部屋が振動で小刻みに揺れ出した。まるで小規模な地震が絶えず発生し続けているかのような感じだ。
「(逃げっ!痛っ!)」
一刻も早くこの場から逃げなければと命の危機を覚える朝鷹だったが、鞭で叩かれた痛みが体をその場に押し留める。その場から一歩も動けぬうちに、執務室の扉が再度開かれた。
「こぉんにぃちわぁ」
「(ひぃいいいいいいいい!)」
その女性は本当に人間なのかと疑ってしまうほどの巨体であった。背の高さは20代女性の平均身長程度なのだが、水平軸の幅が人外レベルであり巨体として見えてしまう。
よりざっくりと言うならば脂肪の塊だ。
他家に出向いているにも関わらず右手に持つ巨大な揚げフランスパンに豪快に噛みつき、くっちゃくっちゃと音を立てて食べ続けている。手入れがなされていないのか、それとも手入れが意味をなさないのか、肌は荒れ果てており耐えがたい腐臭のようなものも漂ってくる。
思わず化け物と評してしまいたくなるほどの人物だった。
「あぁさたぁかぁさぁんはどぉこかぁしらぁ」
口の中に食べ物が入っているからか、独特の気持ち悪いイントネーションで化け物は言葉らしきものを口にする。
「そちらの男性になります」
強羅社長が示した床を彼女が覗き込むと、真夜中に視たらトラウマ物の醜い笑いを浮かべた。
「あぁらぁんまぁ!」
化け物は朝鷹に向かって地響きを鳴らしてゆっくりと近づき、倒れていた朝鷹にダイブする。
「ぐげっ!」
100キロを軽く超える体重がのしかかり、蛙が潰れたような声を上げてしまう。
「やぁっとお会ーい出ぇ来まぁしたぁわぁ」
そこから動くことが出来ず、身動きが取れない状態で化け物に体中を撫でまわされる。生理的な嫌悪感で吐き気を催す。
「やぁっと私の想ぃを受ぅけ入ぃれてぇくぅれたぁのねぇ」
体が巨体に押し潰されそうになっていることで言葉が出せず、どうにか首を振り否定の意を示す。
「そぉれとぉもぉ、さぁいしょぉからぁ好ぅきだぁったぁのかぁしらぁ」
何度も何度も強く大きく首を振る。
「わぁたしぃのたぁめにぃ格好良ぉくなぁってくぅれたぁのねぇ」
だがどれだけ否定しようとも化け物は素直に受け取ってくれない。それはまるで、朝鷹が真夜の拒絶の意思に気付かなかったように。
鞭で相手を叩いて指導する八神女史の厳しい躾すら効果が無かったほどの人物なのだ。朝鷹の否定など無いようなものである。
「うふふぅ、照ぇれちゃってぇ」
そして真夜が触れたくもない相手にお持ち帰りされそうになったように、朝鷹もまた化け物にお持ち帰りされることになる。
「(嫌だああああああああ!誰か助けてええええええええ!)」
繰り返しになるが、強羅朝鷹の最大の不幸はイケメンだったことだろう。
そうでなければ化け物に一目惚れされることは無く、もう少しマシな報いを受けたのだろうから。




