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人助けをしたら美少女に惚れられて偉い人に褒められるんですけど!  作者: マノイ
第二章

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4. 美少女とパーティーに参加していたらチャラ男に絡まれたんですけど

「おいおい、なんだそいつは。俺の真夜に近づくんじゃねーよ」


 落ち着いた雰囲気のこの場には似合わない、両隣に女性を侍らせた若いホストのようなスーツ姿の男性だ。若いと言っても奏よりは年上で二十代前半くらい。品の無い金髪やピアスがとても目立つ。

 先ほどまで会場には居なかったので入って来たばかりなのだろう。周囲の権力者達の存在など意にも介さず、真夜の元へ一直線に歩いて来る。


「(何あの人)」


 奏はその人物を見て奇妙な不快感を覚えた。奏は見た目で人を判断しないタイプなのだが、何故かこの人物だけは受け入れられない。これは奏としては大変珍しいことである。


「奏様、お下がりください」


 真夜は奏に囁き、その男から奏を隠すかのように前に出る。そして更に真夜を守るように会長が前に出る。


「貴様、何故ここにいる!」

「(ぴええええええ!)」


 これまで会長の穏やかな姿しか見てこなかった奏は、怒りの姿を初めて見てあまりの迫力に恐ろしくて腰が砕けそうになった。

 しかしチャラ男は平気な顔をしてその怒りを受け止める。


「それはむしろ俺の方が聞きたいくらいっすよ。親父が呼ばれてるのになんで俺に招待が来てないんすか。ほら、あいつらも家族で来てるじゃないっすか」


 あいつら、などと顎で示した先に居るのは三峰重工の社長一家。このような無礼な行為をするなど考えられない重鎮だ。尤もそれは、この場に居る誰に対しても同じことなのだが。


「そんなことよりも会いたかったぜ真夜。久しぶりだが良い感じに成長してるじゃねーか」


 会長の後ろに立つ真夜の顔と体を舐めるように見つめ、下心満載の表情を隠そうともしない。


「ねぇねぇ朝鷹様ぁ。この子が愛しの真夜ちゃんなの?」

「美人だけど年下すぎなぁい?」

「今はまだな。これからぐっと良い女になるのは間違いないぜ」


 肌の露出が多い派手なドレスを着た女性達が、大量に身に着けたアクセサリーをジャラジャラと鳴らしながら朝鷹と呼んだ男にしなだれかかる。

 どうしてこのチャラ男に女が侍っているのか。それはイケメンであるからだ。イケメン、金、そして権力で朝鷹は強引に女を口説き落として侍らせていた。


「お爺様、大丈夫です」


 真夜は守ろうとしてくれた会長を押しのけて前に出る。


「朝鷹様、ご無沙汰しております。本日はどのような御用でしょうか」

「おいおいそんな他人行儀な事を言うなよ。俺と真夜の仲だろ?」

「他人ですので」

「(ぴええええええ!)」


 すまし顔の塩対応。

 奏は背後からでも真夜の怒りのオーラを視認出来た。真夜に守られ後ろに位置するのは幸運だったかも知れない。前方から見たならば般若の面が乗り移っている様を直視することになるのだから。

 真夜の怒りオーラの余波を受けた権力者の家族の中にはへなへなと崩れ落ちる者もいた。トラウマにならなければ良いが。


「本当にどうしたんだよ。しばらく会いに来なかったから拗ねてるのか?」

「いいえ」

「それとも彼女達に妬いてるのか?大丈夫、真夜なら直に彼女達以上の良い女になるぜ」

「いいえ」

「そうか、パーティーが退屈で飽き飽きしているんだな!」

「いいえ」


 朝鷹が口を開くたびに真夜から立ち昇る怒りのオーラが強くなり、空間に亀裂が走ったかのような幻聴がした者もいる。

 しかもあろうことか朝鷹は会長が開いたパーティーを退屈でつまらないと評し、そのあまりの暴言に会場の空気が完全に凍り付いた。


「(何が起きてるの!?)」


 朝鷹に対する呆れや怨嗟などの様々な負の感情が渦巻く状況に、奏の心は張り裂けそうであった。

 何故朝鷹がこれほどまでにヘイトを稼いでも平常心で居られるのか。それは朝鷹が他人の負の感情を理解出来ないからだ。どれだけ怒られても全く気にせずすぐに忘れてしまう特異な性格。その空気の読めなさが朝鷹の暴挙を後押しする。


 もう我慢ならんと会長が話に割って入り朝鷹を追い出そうと決める直前、朝鷹は更なる暴挙に出る。


「そうだ、俺がもっと楽しいところに連れて行ってやるよ。もう少し成長した方が好みなんだがまぁそろそろ良いだろ」


 朝鷹は真夜に手を伸ばす。このまま強引に会場から連れ出すつもりだ。真夜が拒否するなど微塵も思っていない。女はイケメンで金も権力もある自分に侍り言うことを聞くのが当然であると強く信じていた。

 当然、真夜はその手を避けるか弾くつもりであった。


 バシッ


 だが、その手は別の人物によって弾かれた。


「ああ?」


 朝鷹は弾かれた部分を見て、そして弾いた相手に目を向ける。


「真夜さんに手を出すな!」


 これまで後ろで守られていた奏が真夜を守るために朝鷹に立ち向かったのだ。


「てめぇ、何しやがる!」


 激昂する朝鷹だが、奏は一向に怯まない。


「真夜さんには絶対に触れさせない!」

「何が触れさせないだ。何処のどいつか知らねーが、俺に手を出してタダで済むと思うなよ。女みてぇな顔した気持ち悪いクソガキなんて真夜にはふさわしくねーんだよカスが、消えろ!」


 人が普通に生きていたら、これほどまでに全力の罵倒を受けることなど無いだろう。ましてや奏はまだ高校生。ケンカすらほとんどしたことのない奏には酷な状況だ。

 だが奏はそれでもまだ怯まない。悪意に満ちた視線を何事も無く受け止め、言葉の暴力を打ち返す。


「僕が真夜さんに相応しく無いなんて当たり前だ」


 奏は庶民である。お嬢様として社交界で過ごしていた真夜と釣り合うなどと考えたことすらない。だからこそそれを良しとせず、こうして真夜のことを知るために努力しているのだ。

 『今はまだ』相応しくない。

 それは当然の事であり罵倒にすらなっていなかった。


「でもお前は僕なんかよりも、ううん、世界で一番真夜さんに相応しくなんかない!」

「てめぇ!」

「真夜さんが自分らしく在れる場所をぶち壊しにするような奴は絶対に許さない!」


 奏が何故朝鷹に対して不快感を覚えたのか。その理由は紳士淑女が集まるパーティーを、真夜が生きて来た世界を、そして奏に見せたいと願った場をぶち壊しにしたからだった。

 まだ奏は真夜のお嬢様に対する想いを理解出来ていない。だが、お嬢様としての自分に誇りを抱き、大切に想っていることだけは伝わっていた。そうでなければ、大切な初デートでこの場に来て欲しい等と言い出すはずが無いからだ。


「お前は真夜さんに相応しくない。二度と真夜さんに近づくな!」

「こんのクソガキがああああ!俺に刃向かってこの先まともに生きられると」

「何やってやがる!」


 奏の啖呵に朝鷹が恫喝で返そうとしたが、それらを遥かに上回る爆音の怒声が会場に響き渡った。

 入ってきたのは強羅社長。朝鷹の父親だ。

 強羅朝鷹は三峰建設の社長の息子である。その金と権力とイケメンを利用して好き放題していたのだ。彼が強気であり続けるのは実家の権力を妄信しているから。例え三峰会長と言えども、三峰グループの中で重要な役割を果たしている三峰建設の関係者を決して蔑ろに出来ないだろうという目論見もあり、目上にもデカい態度を取っていたのだ。


「親父!このクソガキが俺に刃向かって来たんだ。三峰建設への敵対行為だぜ。潰さねーと!」


 朝鷹は味方が来たと思い勝ち誇った表情で奏を見下ろしながら父親に声をかける。


「馬鹿もんがああああああああ!」

「いでぇえ!何しやがんだよ!」


 社長は全力で走り、朝鷹の頭を思いっきりぶん殴った。


「なんてことをしてくれたんだ!」

「殴るのはこいつだろ!」

「うるさい!誰か、このクズをここから連れ出して何処かの空き部屋にでも閉じ込めておいてください」


 自分は悪くないと主張する朝鷹の言葉を完全に無視して、まずはこの場から馬鹿息子を退場させることを優先する。その合図により警備員が朝鷹を羽交い絞めにし、引き摺って行く。


「やめろ!はなせ!俺を誰だと思ってるんだ!てめぇらゴミ共が俺に触れて良いわけが無いだろう!」


 見苦しくジタバタと暴れる朝鷹が退場したことで、ようやく会場に静寂が戻る。なお、侍らせていた女達はとっくに逃げている。


「大変申し訳ございませんでした!」


 強羅社長の全力の土下座。


「馬鹿息子への教育が至らなかったばかりに、お三方に多大なご迷惑をおかけしてしまいました。特に真夜様に至っては取り返しのつかないことをっっっ!」


 会長と社長の仲が良いとはいえ、ここまでの無礼を仕出かして無罪放免というわけにはいかない。三峰グループの権力者が集まる中で、非礼に対してなぁなぁな態度で済ましてしまえば、身内には甘いと烙印を押されて求心力が落ちるだろう。また、是非とも身内になって甘い汁を吸いたいと願う者も出て来て面倒な事にもなるだろう。

 一方、朝鷹のダメ男っぷりは三峰グループの中でも有名であり、親である強羅社長が苦心して教育しているがそれが実っていないことも周知の事実であり同情もされている。ゆえに厳しすぎる沙汰を下せばそれはそれで会長に対する心証が悪くなる。


 この難しい状況での会長の判断は、実にシンプルなものであった。


「なぁに、トラブルを防げなかったのは主催者側の問題でもある。そこまで君が気に病む必要は無いよ」


 今回の事件はそもそも強羅社長の問題では無く、朝鷹の襲撃を防げなかった会長側の落ち度であると告げたのだ。確かに朝鷹が会場入りするのを力づくでも防ぐように指示をしておけばこのような問題は起こらなかったかもしれないため筋は通っていなくはない。


「だがそれはトラブルにより参加者の皆様を不快な気分にさせたことについての話じゃ。孫と奏くんへの被害については別の話じゃな」


 会長への不敬は自らの過失と合わせてトントンであるため追及はしない。だが、真夜と奏が負った心労については馬鹿息子を制御しきれなかった監督責任を負わなければならない。そしてそのことへの罰を決めるのは、会長では無く被害を受けた本人達がすべきである。


 一番の被害者である真夜はいつの間にか奏の背に顔を押し当てて黙っている。そのため会長は奏に話を振った。


「奏くんは何か言いたいことがあるかい?」

「ぼ、僕ですか!?」


 先程まで興奮していた奏だったが、強羅社長の土下座を見て冷静さを取り戻しかけていた。そして自分がとんでもないことを仕出かしてしまったのではないかと焦りかけていた。


「真夜さんに聞くべきだと思うのですが」


 軽やかに真夜に責任をスルーしようとしたが、真夜は奏の背中から動こうとしない。しかし、奏が話を振ったからか、か細い声で辛うじて答えがあった。


「奏、さま……に、お任せ、しま……す」

「ぴえぇ」


 まさかの完全反射であった。これで強羅社長を裁くのは奏の役目となる。

 会場中からの視線を受けて奏は緊張で固まる……ことは無かった。冷静さを取り戻してはいたが、まだ体の中に先ほどの怒りの熱が残っていたからだ。せっかく自分の意見を堂々と言えるチャンスなのだから、もう二度と真夜を悲しませないためにと言葉を紡ぐ。


「僕からのお願いは二つあります。一つはあの人を二度と絶対に真夜さんに近づけないようにしてください」 

「はい、必ず!」


 これだけは絶対に譲れない事だった。ここで話が出来なくとも、会長にお願いしてこのお願いを通してもらうつもりだったのだ。そのくらいに奏は強羅の馬鹿息子のことを毛嫌いしていた。

 これが真夜に対する恋心によるものなのか、それとも単なる優しさなのかはまだ分からない。


「もう一つのお願いは、社長さんがこれまでと同じように真夜さんに接することです」

「え?」


 罰では無く、むしろ救いとも言えるお願いに、額を床にこすりつけていた強羅社長は思わずおもてを上げてしまう。


「今日の件で社長さんが余所余所しくなったら真夜さん絶対悲しみますから」


 奏の背中を掴む真夜の手の力が強くなる。


「真夜さん社長さんのことが大好きですから、これまで通りに真夜さんを喜ばせてあげて下さい」


 罰になっておらず温情でしかないのだが、奏の言葉は真夜の事を心から願ったものであり、それを否定出来る者などこの会場には居なかった。


「うううう、ありがとう……ございます……」


 強羅社長は涙を流し、その顔を隠すかのように再度額を地面に擦りつけた。


「皆さん、お騒がせしてしまい大変申し訳ございません。この件に関するお詫びは後程と言うことで、今はひとまずご歓談ください」


 会長は謝罪の意を伝えに会場内を巡り各人に話しかけに行く。

 その姿を見ながら奏は背中の真夜に話しかけようとした。


「真夜さん、もう大丈夫だからね」


 そして振り向こうとしたのだが、強い力で押し留められた。


「あ……あう……あうう……後生ですから……振り向かないで……下さいまし」

「え?え?」


 真夜の顔は真っ赤どころでは無い。嬉しすぎて涙がこぼれ、それでいてどうしても笑みが抑えられず、ぐちゃぐちゃで人に見せられる表情では無くなってしまったのだ。また、もしここで奏の顔を見てしまったならば何をしでかすか分からない精神状態にもなっていた。


 権力者達はその真夜の姿を見て、奏が真夜にとってどのような人物なのかを理解した。そして勇気を出して朝鷹に立ち向かった若者を高く評価し、本気でコネクションを得られるように狙いを定めたのであった。

完堕ち

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